表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/55

第18話 初陣、ギルドクエストへ


 朝もやが立ち込める九月の早朝。1巡目の世界線で、落石事故に見舞われたあの朝が再びやってきた。

 山の中腹部に鎮座する家神荘は、ふもとに比べるとさらに霧が深く、視界がやや不安定である。

 気合いを入れて自室で今日のクエスト準備をしていると、何かの霊的な気配が上空から迫ってくる……だが、悪意はなく友好的な優しいオーラだ。


 チリン、チリーン! お知らせの鈴の音とコツコツコツ、と窓をクチバシが叩く音。オーラの主は、ギルドの使いであるヤタガラスだった。窓を開けて、伝書カラスから資料を受け取る。


「おはようございます、家神スグル様。ギルド連盟本部より本日のクエストに関する詳細資料が届きました」

「おはよう、伝書カラス。ギルドからの資料か……助かるよ。あれっもしかして昨日も来てくれたカラスか?」


 前回に引き続き、勤勉な雰囲気のこのカラス……クリッとした目元が特徴である。オレ自身、カラスの判別がつくわけではないが、おそらく昨日のカラスと同一のカラスだろう。


「はっはい、お顔を覚えていただけて……光栄です! 実は、本日よりギルドアプリが使用できます。クエストメンバーのステータスデータやアドバイスなどが確認出来ますので、クエスト前に参考になさって下さい。初クエストのご武運をお祈りしております……おっと。認め印でしたね! では、これにて失礼します。カァアア!」

「お疲れ様、ありがとう!」


 またもや、忙しそうに颯爽と飛び去る伝書カラス。資料の他にもギルドアプリについて語っていたな。あとで、試してみよう。


 コン、コン、コン……。

「スグルどの、準備は終わった?」

「ああ、スイレン……入っていいよ」


 スイレンの声がドアの向こうから聞こえてきて、思わずドキッとする。昨晩、お互いの気持ちをきちんと確認しあったばかり……。スイレンは一旦クエスト準備のために自室に戻っていたが。ふと冷静になり……一晩明けると恥ずかしさが一気に襲ってくる。


「スグルどの……おはよう……」

「スイレン、おっおはよう」

 どちらともなく、お互いに目を合わせておはようの口づけを交わす。柔らかく甘いスイレンの唇はずっとずっと、オレだけのものだ。

 絶対に今日のクエスト……失敗するわけにはいかない。


「……いよいよじゃな。スグルどの、ところでその手紙は?」

「伝書カラスが持って来てくれた今回のクエストに関する資料だよ。あと、ギルドのアプリが使えるようになったって言ってたっけ」

「ほう、アプリとはずいぶんと神々のギルドもハイカラなものを使っておるのう。一体、どんな機能なのか……」

「ミミちゃんの準備が終わったら、試してみよう」


「にゃっお呼びですかにゃ? 猫耳御庭番メイドのミミ参上ですにゃ」

「うわっびっくりした!」

 会話をすべて聞いていたのか……潜んでいたミミちゃんが突然部屋に現れた。

「さすが、御庭番メイド。これなら家神荘のセキュリティは安心じゃろう。スグルどの……ではさっそく資料とアプリを……」

「じゃあ、作戦会議も兼ねて資料から……」



【落石の呪いを解除せよ!:Sランククエスト】

(ギルド提供資料)

 落石事故の呪いがかけられた現場は、元々は凛堂家が所有していた山である。数年前に、地元の開発業者に売却されたものの工事の度に事故が多発。現在は開発中止となっており、お祓いの依頼がギルド本部にまで届いていた。

 呪いをかけたと推測されるのは、現在の跡取りである凛堂ルリより七世代前に遡るいずれかの血族がかけたものと推定される。

 なお、今回のクエストは開発業者からの正式依頼扱いだ。あらかじめ、敷地内への侵入は許可されているため、安心してクエストに励んでいただきたい。



「……この資料って。凛堂家が所有していた土地ってことはなんとなく推測出来ていたけど……」

「うむ、まさか凛堂家の誰かがかけた呪いが子孫に及ぶとは……。まるでルリどのは、最初から人身供犠になるために用意されていたかのような……」

「恐ろしいですにゃ。でも、呪いや祟りは、基本的に七代までしか効果が持続しないのにゃ。猫を殺すと七代先まで祟られるのも、その理屈なのにゃ」


「最悪、凛堂ルリ子本人が、自分の子孫を殺してでも依り代にするための呪いってことか……」

「ふむ……ただ、運の良いことに凛堂一族は山を手放しておる。呪いの効果は半分ほど消えておるじゃろう。土地の継承を放棄した時点で、呪いの効果は半減するはずじゃ」

「半減した呪い……それでも、一度はオレたちまで死に戻る羽目になったんだ。ともかく、術の拠点になっていそうな異物を発見したら破壊か除去を行おう」


 大まかな、クエスト現場の状況が理解できたところでギルドアプリを立ち上げてみる。

「一体、どんなアプリ機能なんだろう? ステータスって言っていたけど」

 ぴ、ぴ、ぴ……。電子音とともにダウンロードが素早く始まりステータス画面が表示される。ステータス……まるで、ゲームかなにかのキャラクター画面のようなものがアップされた。


『ギルドアプリ、ステータス機能を発動します。メンバー構成の調整や作戦会議時に参考になさって下さい。オープン!』


【ギルドアプリステータスオープン】


メンバー1:家神スグル

職業:異界術師・家神

神レベル:18

体力:1990

霊力:1300

使用可能スキル:式神術師、対魔術、術式陣

サブスキル:滅裂術(パートナーの霊力に依存)

使用可能武器:錫杖、弓矢、お札、短刀、水晶玉

装備武器:異界の錫杖、破魔のお札

装備防具:陰陽師服(紺)、アクティブ用シューズ、守りの数珠

所持アイテム:洞察力アップのお札、呪い解き呪術セット一式


メンバー2:スイレン

職業:レンゲ族(睡蓮)の女神

神レベル:23

体力:1700

霊力:1600

使用可能術:レンゲ流滅裂術、防御術、治癒術、補助術

使用可能武器:短刀、お札、水晶玉

装備武器:蓮華の護身用短刀、お札

装備防具:レンゲ族の巫女服、術用シューズ、聖なる数珠

所持アイテム:聖なる水、神の方位磁針


メンバー3:ミミ

職業:猫耳御庭番メイド

神レベル20

体力:1500

霊力:890

使用可能術:猫耳忍法各種(攻撃、ナビゲート、目くらましなど)

使用可能武器:クナイ、手裏剣、煙玉

装備武器:御庭番のクナイ、猫耳手裏剣、煙玉

装備防具:御庭番のメイド服セット、隠密シューズ

所持アイテム:携帯食(猫耳印の兵糧丸)


【ギルド連盟本部からのアドバイス】

 術師、巫女、御庭番とそれぞれが攻撃・防御・サポートと役割分担可能な組み合わせ。構成的に物理攻撃にやや弱い面があるので、出来れば各メンバーが武器スキルを取得して物理攻撃のみでも立ち回れるようにしたいところ。

 特に、リーチの長い武器相手でも立ち回れる錫杖の攻撃スキルを1つでも会得するのがオススメ。ギルドに攻撃武器種の訓練道場があるので、クエストの合間に通いましょう。

 異界術師としては、若年最強と謳われていた家神スグルさんですが、神様としてはまだ新人。クエストを地道にこなしてレベルをもっとあげると安定すると思われます。頑張って!



「ふぁっ? なんだこれ……自分たちのステータスが数値化されている? オレってまだ新人だから、メンバーの中じゃ一番、『神様レベル』が低いな。これから追い上げていかないと」

「物理攻撃が我々の弱点と……。確かに、甦った凛堂ルリ子の薙刀技にかなわなかったのは物理的攻撃力が欠けていたせいかもしれぬ。それに、警戒心も……」


 霊力を封じ込められて、全滅に追い込まれたあの晩のことを思い出す。スイレンの言う通り、警戒心が欠けていたし武器も常に所持していた方が安全だっただろう。なんせ向こうは攻撃力の高い薙刀を、常に所有しているのだ。丸腰の時に襲われたら、ひとたまりもない。


「みゃあ、装備品も全部データ化されていますにゃ。スグル様が滅多に使わない錫杖しゃくじょうまで登録されていますにゃ」

「私の護身用短刀も一応登録されておるな……。実際に使う機会は殆どないのじゃが……スグルどのは、今回から錫杖をメイン武器に?」

「まだメインにするか分からないけど、今回は万が一の薙刀対策で、リーチの長い錫杖も使わせてもらうよ。これからは直接攻撃技も鍛えなきゃいけないけど。まずは今日のクエストから……そろそろ出ようか? 今日がオレたちの初陣だ!」

「みゃあ、お役に立てるように全力を尽くしますにゃ」

「うむ……3人でチカラを合わせて……」


 ふと、窓の向こうを見ると深い深い霧……。そして、いくつか隔てた山の向こうには、何代も前から続く呪いの地が見える。オレが生まれるずっと昔から、ひっそりとあの土地は呪いを継承してきたのか。


 まってろよ、何代昔の呪いだろうと絶対に祓ってやるから!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ