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第15話 ゴスロリJC試験官は卵プリンがお好き


 異界の中でも、神々のみが入場を許される『神域』……その神域において、『神がかっている』と話題のスウィーツがあった。

 その旨さは、神域でも群を抜いており、虜にならない女子はいないとされている。普段は甘党ではない男子でさえ、そのまろやかな食べやすさにリピーターになる者も……。


 かの、ハイランクギルドで試験官を務める白蛇系一族のゴスロリ女子中学生『通称ゴスロリJC』もそのプリンが大好物だとか。むしろ、彼女に御目通りを叶えたいのなら、上質卵のプリンは必須と言っても過言ではないだろう。


 白蛇様は、お供え物の『卵』が大好物なのだから。



 * * *



「41番の番号札でお待ちのお客様、本店限定の『卵たっぷり異界プリンまろやか仕立てご贈答セット』です。ありがとうございました!」


 散々並んでようやく受け取った淡い黄色の袋には、ニワトリとヒヨコの絵が仲良く並んでいる。質の良い神域の餌のみで育てた卵は、体力・霊力ともに上がること間違いなしの上等な品質。

 こだわりの卵をふんだんに使用したプリンを求めて、神域中から神がこの店に訪れるのだ。しかも、本店限定の特別ご贈答セット……並ぶのも無理ないだろう。


「ふぅ……それにしてもこのプリン、すごい人気だ、ようやく買えたよ。だいたい45分くらいか、並んだの」

「にゃあ、でも手土産……いわゆるお供え物で試験官役の神様のご機嫌やご利益が変わるなら、好物の調達が最重要だと思いますにゃ」

「うむ、特に白蛇様にご挨拶する際には卵は必須。おそらく、その試験官のゴスロリJCどのは流行の上質卵にメロメロなのじゃな」


 まさか、ハイランクギルドの入会試験を受けるために、お供え用のスウィーツを調達することになるとは。だが『お供え』を主食にしている神様もいるくらいらしいし、神々の世界は奥が深いことをさらに身をもって実感した。


「白蛇様には卵、お稲荷様にはいなり寿司か……オレも神社仏閣に参拝するときには、今後お供えに気をつけるよ。しかし、気がつけばそろそろ12時台か」


 卵スウィーツ専門店の屋根部分に設置された時計で時間を確認。午前中は、ギルド連盟本部に名前を登録、入会候補のギルドを決める作業、そしてゴスロリ女子中学生試験官の好みに合ったお供えものの調達で時間を使ってしまった。


「まぁどっちにしろこの時間では、もうすぐギルドもお昼休み。私たちもお昼にして13時になったら、入会試験ルームへ行ってテスト開始じゃなっ」

「ああ、そうしよう! さてと……どこかに入りやすそうな飲食店はあるかな? バトル試験のミーティングも出来そうなところがいいけど……」


 おそらく広い神域の中でも都会の部類であろうこの区域。表通りのお店は観光に来ている神様も多く、外の椅子で順番待ちしているところも。


「混んでおるのぉ……私もこんな都会には滅多に来ない生活をしていたから……」

「ちょっとだけ、路地裏に入ってみようか? もしかしたら、すぐに入れる良いお店が見つかるかも……。あの店にしよう」


 なんとなく、呼ばれた気がしてふっと目に飛び込んで来たお蕎麦屋さんへ。

 店の名前は蕎麦屋『宵月よいづき蕎麦』というらしい。数百年の伝統を伝える名店と書かれたのぼりがはためく。


「蕎麦屋【宵月蕎麦】か。なかなか綺麗な店じゃのう……。スグルどの、こんな隠れた名店よく知っておるな」

「にゃあ、本当ですにゃ。ミミの猫耳忍法の地図ナビゲーションにも登録されてませんでしたにゃ。きっと、隠れ家的なお店ですにゃ」

「えっ? ああ、まぁ何となくだよ。引き寄せられたっていうか……そんな感じ」


 ガラガラと店の引き戸を開けると、和風の店内にはガラス細工の置物や紙風船などが飾られている。


「やぁいらっしゃい、3名様ですね。奥の席が空いてますよ……どうぞ。おや、もしかして……あんた家神さんかっ? あぁ、ご無事で良かった……突然来なくなっちゃって。150年ぶりくらいか? 明治維新の後あたりから、見かけなくなっちゃって……」

「ちょっと、あなた……この方、多分別の方だわ。まだ年頃も若いし……ごめんなさいねぇ」

「えっと……確かにオレは、家神一族ですけど……まだ最近神になったばかりで……。これ、ギルド連盟本部の会員カードです」


 店主さんに、ギルド連盟本部で発行してもらった会員カードを見せる。顔写真付きで、異界における身分証明書としての機能を果たしている。今日発行してもらったのは、まだ仮のカードだが所属ギルドが本決まりになれば正式なカードが手に入るだろう。


「! 家神スグル君、今日付けで仮登録の異界術師兼、家神か。……家神一族は、もうひとり人間から神に転身したのか。いや、今の血統はレンゲ族の血を引いているはずだから神族に戻ったってことだな……そっか。そちらのお嬢さんたちも新しい世代の仲間だな……所属ギルドは決まりそうか?」

「はい、これからギルドの入会試験なんです。こっちはオレの婚約者のスイレンとお供の御庭番ミミです」


「初めまして、レンゲ族のスイレンと申します」

「にゃあ、御庭番を務めるミミですにゃ」

 2人とも恭しく、店主さんに挨拶……。しかしまさか、ご先祖様のことを知っているお店だったとは……。


「ほう……スイレンさんね。スグル君とスイレンさんはまだ若いが、なかなかお似合いの美男美女夫婦だな。レンゲ族の血をもう一度、家神一族に入れるのか……それにお付きの御庭番も復活して……こりゃめでたい。しかもこれからギルド試験か? よし、今日は何頼んでもいいから好きに食いなっ」

「えっ? いいんですかっ」


「ああ、過去の常連さんと同じ家神一族とはいえ、人違いしちまったし……。血統の者が来たらよろしくって頼まれてたんだ! お代は先にもらっているから、遠慮しなくていいぞ」


「はっはい。ありがとうございます。それにしても、うちのご先祖様の誰かが……誰だろう、オレの前に家神になった人って天の声かな?」

 潜在意識の奥深くにいるはずの天の声に問いかけても、いつもの元気な返事はなかった。或いは……天の声はこの神域では活動できない事情があるのか。


「はーい、このせいろ蕎麦は家神家のご先祖様も大好きだったやつでねぇ。きっと気にいると思うよ」

「うわぁ……美味しいそう……頂きます」

「ふふっお蕎麦は美容にも良いし、健康食じゃ……安心してたくさん食べれるな」

「天ぷらや海鮮丼もありますにゃ」


 店主さんの粋な計らいで、名物のせいろ蕎麦や天ぷら、海鮮丼などをはじめ、ミニサラダ、さらに団子入りソフトクリームなどのスウィーツも幅広く堪能。身体に良い蕎麦茶を味わい、気力も体力も補充出来た。


「また、来ておくれっ。もし、ご先祖様に会ったらよろしくな。家神一族の宿命に負けるんじゃないぞっ」

「はい、ごちそうさまでした!」



 店主さんに見送られて、再びギルド連盟本部へ。



 * * *



 入会試験ルームは1階奥の専用道場。緊張なんて滅多にしないはずだが、扉の向こうから圧迫感が迫ってきてただならぬ実力の持ち主であることがうかがえる。


「……失礼します」


 ノックと挨拶をしてから扉を開くと、すでに大蛇の眷属を呼び出し、バトルのスタンバイモードに入ったゴスロリファッションの女子中学生の姿……あれが白蛇様一族の試験官か。

 金髪のツインテールヘアをサラリと揺らして、大蛇の上からオレたちを見下ろす姿は若いながらも只者ではないオーラを纏っている。果たして勝てるのだろうか、まだ神になりたてのオレに……。


「待っていたわよ、若年最強の異界術師さん。あなたが本当にお兄ちゃんのお眼鏡にかかる神かどうか……試験してあげるわっ。……って、そ、その手に下げたプリンは……まさか、まさか……!」

「きゅいきゅいっ。きしゃー!」


「初めまして、わたし……家神スグルの婚約者、レンゲ族の女神スイレンと申します。この【卵たっぷり異界プリンまろやか仕立てご贈答セット】は試験官さんへお近づきの印にと……」

「くれるの? お供え物? 私たちに……ありがとーじゃあさっそく」


 やる気全開でバトルが始まるかと思いきや、お供えものの『卵たっぷり異界プリン』を素早く受け取り実食し始めるゴスロリJCと大蛇……。しかも大蛇は変身が解けたのか、小さなサイズの白蛇になっている。

「んんーーっこの新鮮卵がたまらないー」

「きゅいきゅいきゅいーーっ」


「あ、あの……試験は……?」

「ああ、ちょっと待ってね。あとでさっくりやるから。んーーっプリン、プリンッ卵」

「きゅーきゅいーん」


 あとでさっくりと……もしかして、お供えをしたらだいぶ試験の難易度が下がっちゃった? 大蛇もミニサイズの白蛇に戻っているし……これなら勝てそうかも。


 唖然とするオレの隣で、スイレンが優しく微笑みながら『買収完了……』と呟く。



 教訓、神様に会うときは絶対に好物をお供えするべしッ!


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