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エピローグ




 ドラゴーネに帰ってきて一週間が過ぎた。

 続々と支援物資が届き、ドラゴーネの復興は急速に進んでいる。

 俺はといえば変わらずテンマ薬局で薬を売り続けている。簡単な薬の作り方も教えているため、常に赤字だがそこらへんは支援物資と共に太守たちが持ってくる献上品や金で賄っている。別に頼んだわけでも欲しいわけでもないが、保管していても仕方ないため半分くらいはドラゴーネ公爵家に寄贈し、半分は店の経営に使っている。


「クロウ殿! お勉強しにきたであります!」


 お昼を過ぎた頃、マリルが元気よく店に入ってきた。

 最近はお昼まで騎士としての勉強、午後は俺の店を手伝いつつ、薬の作り方を学んでいる。

 ドラゴーネの騎士たちは最近、マリルがメキメキと力をつけていることに驚いている。聡明で優秀な子ではあったが、身体能力的には並みだったため剣の稽古はあまり得意ではなかったのに、戦後に突然上達したためだ。

 それはおそらく竜化薬が関わっているんだろう。あの薬によってマリルの体質は若干ではあるが竜によってしまったのだ。身体能力はもちろん五感も少し鋭くなっているようだ。今くらいならデメリットはないが今後、竜化薬を飲み続ければどうなるかわからない。

 しばらくあの薬を作るのは控えておこう。


「よし、今はお客さんもいないし、裏の作業場で好きな薬を作ってもってきて」

「はいであります!」


 お客がいない場合はいつもとりあえず薬を一つ作ることから始まる。

 裏にある作業場にはあっちこっちから集めた素材が用意されており、そこから的確な素材を選んで作る必要がある。しかも必ず決まった素材があるわけじゃないから、毎回毎回素材の確認から始めることになる。

 一回、確認をせずにエルミール呪消し薬を作ろうとしたマリルはエルミール草がないことに気づかず失敗している。あのときのマリルの愕然とした顔は正直面白かった。もちろんわざと用意しなかったわけだが。


「わー!!?? 今日も変な素材しかないであります!?」

「さて、どう対処するかな」


 今日の素材を使ってマリルが作れるのは二つくらいだろうか。

 見事探し当てられるかどうか。見物だな。


「悪い顔してるよ」

「おっと、それはまずいな。店主は笑顔じゃなきゃな」


 自然な流れで店に入ってきたのはエレナだった。

 その手には何やら箱があった。


「それは?」

「うん、お昼まだかなと思って作ってきたの」


 そう言ってエレナは俺の前に箱を置いてパッと開いた。

 そこには色とりどりの具材が詰められていた。丁寧に箱へ納められたそれらは質素だが、どれも美味しく見えた。


「おお!」

「味はあんまり期待しないでね」

「エレナが作ったのか? 貴族のお嬢様なのに?」

「貴族でも料理くらいできるよ」


 苦笑しながらエレナが召し上がれと言ってきた。

 お言葉に甘えて卵焼きに似たモノを口にいれる。ほのかな甘みが口に広がり、思わず笑みがこぼれた。


「美味い……」

「よかった。じゃあまた作ってくるね」

「本当? 助かるよ。正直、自分で作ると上手くいかなくてさ」

「薬は作れるのに料理は駄目なんだね」


 俺の新たな一面を見つけてエレナは笑う。

 最近、エレナは前より笑うようになった気がする。ドラゴーネが急速に復興してきたというのもあるだろうな。

 良いことだ。エレナはたしかに無表情だし、笑っているといっても本当に微笑み程度だが笑わないよりはずっといい。普段笑わない分、微笑みでも価値は高いともいえる。


「薬は手順どおり作れば出来上がるからさ」

「料理も一緒だよ」

「いやいや、味を確認する作業なんて薬にはないよ」


 俺の言い分にまたエレナは笑う。

 そんなやり取りをしている間に裏でマリルが悲鳴をあげた。どうやら間違った素材をいれてしまったらしい。

 二人で顔を見合わせ、おかし気に笑う。しばらく待っているとどす黒い液体の入ったビンを持ってきたマリルが肩を落としてやってきた。


「失敗したであります……」

「みたいだね」

「あ、エレナ様。なにかあったでありますか?」

「ううん、クロウ君にご飯を差し入れしにきただけだよ」


 俺は食いかけの弁当箱をマリルに見せる。

 すると、マリルは落ち込んだ表情から一変して楽し気に笑う。


「愛妻弁当でありますね!」

「愛妻!? いや、マリルそれは……」

「でも、要塞で太守の方が言ってたであります。エレナ様はクロウ殿の妃だって」

「妃!?」


 衝撃的なワードにエレナが滅多に出さない調子の外れた声を出す。

 マジか、そんなこと言われたのか。騎士と言われるならわかるが、妃か。まぁ俺みたいに若い奴がエレナみたいな美少女を傍においてればそう思われるか。


「それはただの噂だよ」

「う、うん、噂だよ。私とクロウ君はそういうんじゃなくて……信頼しあえる仲間みたいな? 忠誠で結ばれた主君みたいな? えっとえっと」

「落ち着け。言いたいことはたぶん伝わってるから」

「そ、そう?」

「二人はそういう関係ではないでありますね。わかったであります」


 冷静につぶやくマリルを見て、エレナが微かに顔を赤くする。

 その様子に俺は苦笑する。平和な時期だからか、エレナの変わった表情が見られる。


「どうしたの? 変に笑ったりして?」


 やや恨めし気にエレナが見てくる。

 それに対して俺は笑いながら答えた。


「いや平和だなぁって思って」


 そんなことを思っているといきなり赤い髪の少女が店の中に入ってきた。

 見るからに疲弊しており、服も汚れているが目の輝きだけは曇ってない。


「竜殺し……エレナ・ドラゴーネ様はこちらにいらっしゃいますか……?」

「私だけど?」

「ああ、神よ、感謝します……。私は西の小国ギールの王女ミリーと申します! どうか、魔皇猊下にお取次ぎを! 我が国には猊下のお力が必要なのです!」


 そういきなり懇願が始まった。

 呆気にとられる俺とマリルに比べてエレナは冷静だった。

 素早く俺のほうを向いて、俺の意思を確認しにくる。俺は静かに頷くと椅子から立ち上がった。


「知らないならともかく、知ってしまった以上は見捨てられないよ」

「そうだね。ここで見捨てるなんて言ってたら幻滅だったよ」

「それは怖いね」

「クロウ殿、すぐに出発するでありますか?」


 今回もマリルはついてくる気らしい。

 俺は呆気にとられるミリーに視線を向ける。


「その前に彼女が休むほうが先かな」

「あなたは……?」

「君が探している人物だよ。とりあえず屋敷にいこうか。安心していいよ。俺にできることはやるからさ」


 そう言って俺はミリーは屋敷に促し、マリルとエレナを連れて屋敷に向かう。

 魔皇になった以上、こうして頼られるのも覚悟の上だ。

 ロデリックに大きく啖呵を切った以上、こうして助けを求められて見捨てるわけにはいかない。

 なにせ俺は薬師。人助けが仕事なのだから。

読んでくださりありがとうございました。一応、ここまでで頭の中で考えてた一巻分って感じです。

今回、初めてプロットを書かずに作品を書いてみたんですが、やっぱりプロットは書かないと駄目ですね。途中からグダグダで自分で書いていてもすごくつらかったですw

まだ読みたいと言う方もいるかもしれませんが、申し訳ありませんがここまでにさせていただきます。続きを書く場合はまず全面的な書き直しからでしょうね。正直、プロットを書かないだけでここまでグダグダになるとは思いませんでした。

駄文にお付き合いいただきありがとうございました。では、また違う作品でお会いしましょう。タンバでした。

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