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第十五話 魔皇決戦・上



 鉄の騎士は動きが速いうえに硬い。

 しかし、俺はそれ以上のスピードで動き、鉄の騎士を手刀で切り裂いていった。

 一分としないうちに出現した鉄の騎士たちはガラクタとなり、ロデリックを守る騎士はいなくなった。


「ほう? 見事な体術だ。身体能力を強化する魔法かな?」

「どうだろうな」

「それなら楽なのだがね。そういう魔法は搦手に弱い」


 そう言ってロデリックが指を鳴らす。

 次の瞬間、鉄の騎士たちの残骸が槍へと変化し、俺を取り囲んだ。

 百を超える槍が俺を囲む。

 逃げ場はない。ロデリックが薄く笑う。その顔を見て、俺は瞬時に次の行動を決めた。

 槍に向かって自分から突っ込む。皮膚が裂けるが、肉と骨は裂けない。今の俺は竜に等しい体だからだ。いくら魔皇が作った鉄の槍でも致命傷にはなりはしない。

 猪突猛進と評されてもおかしくない行動で危地を脱すると、俺はロデリックに殴り掛かった。

 しかし、ロデリックは俺の攻撃を受ける瞬間、風となって消え去った。


「なに!?」

「芸がないのはいただけないな。魔皇の身体能力任せの攻撃では私には触れることもできないぞ?」


 いつの間にかロデリックは要塞の外にいた。

 幾体もの魔神を討伐したロデリックは何個も魔法を持っている。鉄を操る魔法に風となる魔法。ほかにも何枚カードを隠し持っていることやら。

 そのことごとくを破るとなると気が遠くなりそうだ。

 まぁやるしかないか。

 俺はロデリックが距離を取ったのをいいことに新たな薬を飲む。

 大陸西部、ボロミヤ地方に住む姿を消せる猫を素材とした〝ボロミヤ透化薬〟。

 飲めば一時的に姿を消せる。

 それを飲んで、俺は要塞から飛び降りてロデリックに突進した。


「ほう? 今度は姿を消したか。君は一つの魔法でいろいろなことができるようだな。しかし、だ」

 

 透明になってロデリックの後ろに回り込む。

 ロデリックは振り向かない。行けると思った瞬間、俺は大きく吹き飛ばされていた。

 ロデリックが自分の周囲を風で吹き飛ばしたからだ。


「私は幾度もの戦いで生き残り、今に至っている。その中で見えない敵などいくらでもいた。その程度の小細工で私に勝てると思わないでくれたまえ」


 透化薬の効果が切れて、俺の姿が現れる。

 まったく、二つ目の薬を使ったのに新たな魔法を見ることもできないとは。

 このペースで薬を使っていけば俺の薬が先に切れる。同時にとんでもない赤字をたたき出すことになる。


「近づけば風で逃げるかこちらを吹き飛ばし、遠距離から鉄を操って攻撃。どうみてもインファイトが苦手そうなんだが……」


 敵は自分のスタイルを確立している。

 まともに俺とインファイトをしてはくれないだろうな。

 そうなるとこっちも手段を変える必要がある。


「勝手も店が潰れかねないな」


 今回持ってきているのは一応、魔皇や魔神との戦いを想定して作ってはいるが、同時に大金持ちに売るはずだった売り物ばかりでもある。

 何事もなければこれで一儲けするはずだった。

 まったくもって嘆かわしい。


「どうした? 来ないのかね?」

「行くさ。度肝を抜かれないように気をつけろ、爺さん」

「はっ! 普通に老人扱いされるのはいつぶりのことかな?」


 楽し気にロデリックは笑う。

 俺はまだまだ効果が続いている竜血薬の力でまた要塞へと戻る。

 わざわざ要塞へと戻ったのは上を取ったほうが強いからだ。射撃戦の場合は。

 次に取り出したのは〝ヴァンパイア魔導薬〟。

 この大陸には人間以外に亜人と呼ばれる種族がいる。その中でも魔力に優れ、人間以上に魔術を使う種族が吸血鬼族ヴァンパイアだ。

 鬼族の王とも言われるこの種族は、人間とはほとんど関わらずにいる。

 その優れた魔力からその血は竜の血なみの効果を発揮し、重宝される。買えばどれほどの値段になるかわからないその血は、なんとドラゴーネの宝物庫に保管されていた。

 少しだけ分けてもらって、俺はこの薬を作ったわけだ。

 飲めば誰でも天才魔術師。そういう謳い文句で売る気だったが、売る前に実戦投入する羽目になったな。


「果たして魔術が魔皇に通じるのかって話だが……」


 そこはやってみてからのお楽しみか。

 薬を飲み干すと体から不思議な力が湧いてきた。それと同時に頭の中に知らないはずの魔術の使い方がよぎる。

 ヴァンパイアの血が魔術への理解を俺に授けてくれたのだ。


『雷魔の十・十字雷閃』


 掌からはじき出された雷は十字となってロデリックに襲いかかる。

 ヴァンパイアの血が教えてくれる。本来はこれほど強力な魔術ではないことを。

 魔皇は元々莫大な魔力を宿している。魔神から吸収したその魔力は魔法を使う際や身体能力を向上させるのに使われるが、それでもありあまっている。

 その有り余っている魔力を魔術で今は使っているわけで、そりゃあ威力も莫大なものへと変わるに決まっている。

 咄嗟にロデリックは風となって逃げる。そしてロデリックがいた場所には巨大な十字穴ができていた。


「いきなり魔術か……ガラリと戦闘スタイルを帰るとは不思議なやつだ」

「あんたの得意なフィールドで戦ってやるんだ。ありがたく思えよ」

「あまりほざくと後悔するぞ。小僧」


 そう言ってロデリックは戦場に放棄された無数の武器を集め、十数メートルの銛を作った。

 そして無造作ともいえる仕草で要塞に向かって投げつけてきた。


「ちっ! 理不尽な爺さんだ!」


 要塞の上を取れば射撃戦で有利かと思ったが、そんな一般的な常識が通じる相手じゃなかった。

 要塞にはまだエレナもいるし、その上にはマリルも竜となって様子を見ている。

 あんな銛を打ち込まれたら要塞が粉砕して、二人にも被害が出かねない。

 頭の中で最も銛を受け止めるのに有効な魔術を探し出し、瞬時に唱える。


「土魔の十二・巨神兵」


 要塞手前の大地が盛り上がり、土の巨人が生み出される。

 その大きさは竜となったマリルに匹敵する。その巨人が銛を両手で受け止める。勢いを殺しきれずに胴体は貫かれるが、要塞にぶつかることは阻止できた。

 そのまま巨人を操作し、俺は銛を投げ返す。

 しかし、元々ロデリックが作り出した物のため、銛はロデリックの手前で今度は無数の鉄の騎士に姿を変えた。


「物量作戦か」

「その土人形では防げまい」


 ロデリックは笑いながら鉄の騎士団を進ませる。

 要塞に軽々と登ってきた鉄の騎士は俺ににじり寄る。しかし、俺の目はその奥で動くロデリックに向いていた。

 どうやらどでかい一撃を放つつもりらしい。周囲の風を集め始めている。

 それに対抗するために魔術を使おうにも鉄の騎士が邪魔すぎる。

 そう思ったとき、俺の近くにいた鉄の騎士の前にエレナが立ちふさがった。


「エレナ!?」

「近くのは私が防ぐから。あの人に集中して」

「大丈夫なのか?」

「防ぐくらいなら大丈夫」


 そう言ってエレナは竜血薬を飲んだ。

 おそらく今日二本目だろう。それは体に多大な負荷をかける。どれだけ強かろうがエレナは生身の人間だからだ。

 しかし、今はその決意に甘えざるを得ない。

 俺は両手を前に出して集中を始めてた。


「マリルも手伝うであります!」


 マリルが羽を羽ばたかせ、突風を起こして鉄の騎士たちの動きを制限する。

 最初に乗り込んできた数体はエレナが相手をしている。

 その間に俺は詠唱を開始した。


「この身は断罪者なり。かの者に許されざる天罰を与えんと欲す。果てない暗黒、奈落の深淵。その光条は闇より出でて、闇へと還す」

「我が魔法の名は「千暴の狂風」。大陸中に嵐をまき散らした狂鳥から得た魔法だ! その力を一転に集めれば見渡す限りを荒地に変えることすら可能となる!」


 一瞬早くロデリックの攻撃が完成した。

 小さな台風とも呼べる巨大な風の球が周囲を削りながら要塞へと向かってくる。

 ここで止めなきゃ、それはまさしく台風のように同盟領を荒らしつくすだろう。そんな狂える風の球に対して俺は黒い閃光を打ち込んだ。


「闇魔の十三・黒獄崩天閃」


 真っ黒な閃光が風の球にぶつかり、両者は周囲の空間を歪ませながらせめぎ合う。

 威力はロデリックの風の球のほうが上。当たり前だ。向こうはオンリーワンの魔法。こっちは威力こそ上がっていても魔術という人間が使う技だ。

 どれだけ頑張っても限界がある。

 しかし、それでも風の球を食い止めるだけの力はあった。

 黒い閃光が消えると同時に風の球も消え去った。要塞の手前は隕石でも落下したかのうようなクレーターができているが、要塞自体は無事だ。


「ふざけた話だ。魔術で私の魔法を止めるとは」


 プライドに障ったんだろう。

 初めてロデリックの顔から余裕が消えた。

 そしてロデリックはステッキと帽子を投げ捨てると、俺を手招きする。

 同時にロデリックが作り出した鉄の騎士たちが動きを止めた。


「降りてこい。小僧。次はそちらの土俵で戦ってやろう」

「マジかよ……インファイトも余裕なのか」


 竜血薬を飲んだ俺の動きを見て、なおもインファイトでも倒せるとこいつは踏んでいるんだ。

 とんでもない爺さんだ。

 だが、ここで射撃戦を繰り返すよりは何倍も勝ち目がある。


「クロウ君……」

「大丈夫。負けはしないさ」

「うん、それは疑ってないよ。だってクロウ君だもん」


 そう言ってエレナが笑みを浮かべて送り出してくれた。

 そして俺はついさっき出来上がったクレーターへと降り立った。


「さて、第二ラウンドか」

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