もしも生まれる世界を間違えたら(短編)
「ずっと好きだった。俺と付き合ってほしい」
目の前に立っている制服姿の男――幼なじみのトオルが真剣な顔で私の顔を見つめている。
私はトオルのことが好きだ。この告白は泣くほど嬉しい。だけど思考が追いついていない。
いや告白された実感がわかないとかじゃなくて、見てほしいのは周りの状況だ。
床には覆面を被った人が5人倒れていて、壁は穴だらけで、その壁際ではさっきまで人質だった人達が興味津々といった様子で眺めてくる。なんで壁が穴だらけかって?
銃弾の後だよ、全部。
ここは家の近くのコンビニ。数分前までは強盗に占拠されてました。そしてその強盗達を倒したのが目の前にいるトオル。
一応言っておくけど、トオルの性格といえば物静かで消極的、私が居ないと何も出来ないような男の子ですよ?
それが今、ここにいるトオルはどうよ。身長は伸びてるし、強盗をまとめて倒しちゃうぐらい強いし、一人称が僕から俺に変わってるし。全体的に男らしくなったみたい。
何よりも……
「それ、どういうこと?」
「それって? ……あ、忘れてた」
トオルはすぐ横で止まっている弾丸に指先を当てた。
力無く落ちた弾は、カランっと軽い音をたてて床を転がる。
「それで、返事は?」
いや「返事は?」じゃないわ。何今の? 銃の弾が空中で完全に止まってたよね?
「おーい、紗希さん?」
「は、はい! 何でしょうか!?」
混乱して思わず他人行儀になってしまった……トオルが少し心配そうな顔をしている。
「もしかして怪我してるのか?」
「いや怪我は無いけど……一応確認なんだけどさ、トオルなんだよね?」
「そんなに変わって見える? まぁ色々あったし仕方がないか。俺は正真正銘、紗希の幼なじみの八神トオルだよ」
トオルは困ったように笑みを浮かべる。
私は、小さい頃から手のかかる弟みたいなトオルが好きだった。その気持ちは中学生になっても、高校生になっても変わらなかった。
そのトオルが今、男らしくなって目の前にいる。身長は抜かされ、髪も少し短くなって、自分のことを俺なんて言って、これじゃただのイケメン男子高校生じゃないか。
……うん、ありだな。
「トオル?」
「うん?」
「付き合おう、私達」
そう言った直後、視界が真っ暗になった。続いて唇に柔らかい感触が……
「っ!? 今のは!?」
「目隠さないでやったら紗希が照れ死ぬだろうなって思って」
「やるって何を!? 何をしたの!?」
「何、言って欲しいの?」
「ダメ!」
顔が熱くなるのを感じながら、トオルの胸を叩く。他の人の視線を感じて、恥ずかしさは更に増していく。
こうして、私とトオルは付き合うことになった。しかしこの時の私はまだ知らない。
私が撃たれる間際、その一瞬で彼がどれだけの体験をしてきたのかを。
どうだったでしょうか?
もうすぐトオル視点で長編を載せていくので、「書き方は下手だけど設定はまあまあかな」という方はこの短編にブックマークして少々お待ちくださいな!




