よる の くに
お姉ちゃんが言った。
『よるのくにって、知ってる? そこに連れていかれたこどもは、捕まってむしゃむしゃ食べられちゃうのよ。こどもの骨は柔らかいから、パキパキ食べられて、しゃれこうべしか残らない。
よるのくにの人たちはみんな、自分の家の周りにこどものしゃれこうべを置いて、自慢するの。どれだけたくさんのこどもを食べたかって、ね!』
わたしはこわくなって、公園をぐるっと見回した。風が吹いて落ち葉がカサカサ音を立てた。影法師が細く細く形を変えてわたしを見た。
わたしは一人でおるすばんだった。ベッドにもぐって毛布をかぶっても、まったく寝られない。時計の針がカッチコッチ、カッチコッチ。わたしを追いかけてくるみたい。風が窓をガタガタ揺すった。
よるのくに。
よるのくに。
よるのくにから誰かがきたらどうしよう。そうだ、クローゼットに隠れよう。あそこならママの毛皮のコートがあるし、寒くない。毛皮にくるまってじっとしていたら、怖い音も聞こえなくなった。ここなら大丈夫。
気がつくと真っ暗な中に一人だった。見回しても、呼んでも、誰もいない。そっと歩いてみる。裸足に濡れた落ち葉がくっついて、気持ちが悪い。
森を抜けると、可愛らしい家があった。ピンクとオレンジ色のレンガでできている。曇って薄暗い空。家の花壇をふちどっている白い貝殻だけが光って見えるようだった。
白い貝殻……?
ちがう、しゃれこうべだ!!
わたしは元きたほうへ走ってにげた。
誰かが追いかけてくる。
よるのくに。
よるのくに。
早くにげないと、捕まったら食べられちゃう。
よるのくに。
よるのくに。
追い付かれちゃう!
足がもつれて……
あっ!!
ガクッと落ちたと思ったら、元のクローゼットだった。
ママが心配そうにわたしをのぞきこむ。もう朝だった。
ゆめだったんだろうか?
それとも、わたしは本当はよるのくにで食べられてしまったんだろうか?
あの家の花壇には、わたしのしゃれこうべもあるのかもしれない。