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The Searcher  作者: 深水晶
第二章 転入初日
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第二十九節 訪問者 (SIDE: 友香)

 友香は一人で、サカキ・エージェンシーの事務所にいた。こういう事は良くある。友香はただ一人の事務員で通常は留守を預かり、所長のシュウが不在の時はアポなしの客の応対もする。

 報告書類は基本的には、探し屋達が作成するが、それ以外の書類作成、各書類の定形を作るのは友香である。

 探し屋達の出勤時間はまばらである。通常事務所に出勤する場合は、百々加は9時、隆司は学生なので放課後、シュウは早い時は早朝から、時折泊まり込む事もあるが、昼過ぎに出勤する事もある。

 だが、これまで連絡なしに遅れる事はなかった。ちなみに友香は8時半に出勤している。しかし、決算期でも、給料や確定申告前でも、支払日でも入金予定日でもアポイントもなく、ほとんど電話の応対だった。

 しかも間違い電話やからかい・興味本位のものが多く、仕事に関係のある電話はほとんどなかった。友香は思わず溜息をついてしまった。こういう時はセクハラ発言と下品なギャグの連発であろうと、シュウがいてくれた方が有難い。

 少なくとも気晴らしにはなる。しかもこういう時に限って、恭一郎の熱烈なラブコールもない。この時、シュウと恭一郎は一緒にいたのだが、友香は知らない。

(いつもはうっとうしいと思うくらいですのに。1日この調子では、退屈してしまいそうですわ)

 何かをしたくても、する事がないというのは苦痛だ。それならまだ、忙しくて暇がない方がマシだ。休む事もサボる事もできない。なのに暇。

 友香が溜息をつきながら、珈琲を入れようと立ち上がった時だった。事務所のドアをノックする音が聞こえた。

「はい、少々お待ちくださいませ」

 友香は良く通る美声で言い、事務所の続き間のドアを開けた。応接セットのある続き間に入り、ドアを閉める。それから外に通じるドアを開けた。

「お待たせしました」

 そこには身長173cmくらいの、穏やかな微笑を浮かべた男が立っていた。純和風の貴族的で、全体的に小さな作りの顔のパーツは、男を上品に見せていた。人目を引く色男ではないが、初対面で好印象を与えそうな風貌、雰囲気だった。

「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか」

 友香が尋ねると、

「捜して欲しい人がいるんだ」

 男は優しげな笑みを浮かべて笑った。

「ご依頼ですか? では、こちらにお掛けください」

 ソファを勧める友香に、男はゆっくり首を左右に振る。

「残念ながら、依頼じゃないよ」

 男はニッコリ笑った。その顔を見て、友香は何故かゾクリとした。

「所長に言ってくれないかな。おかしな小細工したり、後をつけて、かぎ回るのはよして欲しい。あと頼んでいた花火は、他で都合がついていらなくなったから、キャンセルしたい。君は用済みだ。だから今後は連絡を絶ち、痕跡を消す。文句があるなら、The Searcherを捕まえてみろ、と」

「あなたは……?」

 怪訝な顔になる友香に、男はクスクスと笑った。

「あなたは、詳しい事情を聞かされてないらしい。それは実に好都合だ。伝言役としてはうってつけだ。神の采配に感謝すると同時に、非常に残念だ」

「どういう意味ですか?」

「いつもは強引でわがままな、シュウの想い人の顔を是非僕も拝見したかったが、仕方ない」

 男は笑みを浮かべたまま、友香のみぞおちを不意に殴りつけた。

「Auf Wiedersehen !」

 友香は気を失って、その場に崩れ落ちた。男は両手に革製の手袋をはめていた。髪の毛は落ちないようにきちんとセットされており、一見サラリーマンのようなスーツと革靴を身につけている。

「では、少々家探しさせていただきます」

 男は優しげなおっとり口調で囁き、微笑んだ。

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