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The Searcher  作者: 深水晶
第二章 転入初日
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第二十八節 生徒会室 (SIDE: 隆司)

「ようこそ、神楽坂学園高校生徒会室へ」

 来島渚がニッコリ微笑んだ。部屋の中には、渚、隆司、樹龍を除き3名がいる。隆司は無言で頭を下げた。樹龍は不機嫌そうにイライラと室内を落ち着かなげに見回している。

「先程も自己紹介しましたが、私が生徒会会長の来島です」

 渚がそう名乗ると、渚の右側にいた、ぽっちゃり体型の目の細い男が、

「執行部の大川尊夫(おおかわ たかお)です。生徒会副会長を務めています。初めまして」

 と、笑っているのかいないのか、判らない顔で言う。次に、渚の左側にいる眼鏡をかけた、神経質そうな鋭い目の男が口を開く。

「僕は執行部総括の御堂武文(みどう たけふみ)です」

「総括、ですか?」

 隆司が聞くと、御堂は淡々と説明する。

「役員以外の平の執行部員の取りまとめを担当しています。雑用係みたいなものです」

 それに渚が補助して言う。

「御堂君は、システム管理者や相談・クレーム処理チームの責任者でもあるのよ。判らない事や困った事があって、私が不在の時は、彼に聞くと良いわ」

 最後の1名がペコリと頭を下げた。

「執行部庶務担当の市ヶ谷好夫(いちがやよしお)です。書類について説明させていただきます」

 そう言って市ヶ谷は隆司の目の前のテーブルに、3枚の書類とボールペンを置いた。隆司は無言で頷いた。

「こちらの書類は、神楽坂学園高校親睦推進委員会の新規入会申込書です。難しく考えないでください。これは単に、システムにあなたを登録するために、必要なだけですから。この太枠の各欄に名前、ふりがな、住所、連絡先、所属クラスと署名を記入してください」

「何故、住所と連絡先まで必要なんだ?」

「何かあった時のトラブル対応や、緊急連絡時に必要です。ですから、常時連絡の取れる電話番号を記入してください」

 隆司はポケットから、携帯電話を取り出した。が、画面は真っ黒になっていた。

「充電器をお貸ししましょうか?」

 市ヶ谷の言葉に、隆司は頭を下げた。

「有り難うございます。助かります」

「いえ。では、ご記入お願いします」

 携帯を充電器に差し、隆司は書類に必要事項を記入した。樹龍はそれを無言で見ている。連絡先を除いた項目を書き終えると、次の書類が提示された。

「IDカードの新規申請書です。ID名はランダムでコンピュータが発行するので、この欄は空白にしておいてください。名前と所属、希望するパスワードを記入してください。パスワードは後で、何度でも変更可能ですが、生年月日や電話番号など、他人に判りやすいものは避けてください。最近、悪用による被害が問題となっています。ご自由になさって結構ですが、セキュリティ上、アルファベットや数字などを混ぜる事をオススメします」

 隆司はサラサラと記入した。

「最後の書類です」

 書類には、『神楽坂学園高校親睦推進委員会寄付金受取書』とある。思わず隆司は顔を上げ、相手の顔を見つめてしまった。

「寄付金……?」

「学園に対するものとは、別口です。任意であり、強制ではありません。より良い学生生活と親睦推進のために、我々の活動に賛同いただけたら、後日こちらの口座にお振込いただき、こちらの書類を提出していただきたく思います」

「…………」

 隆司は嫌な感じがした。だが、無言で書類を受け取った。その時だった。小さく名前を呼ばれたような気がして、ギクリと振り返った。

 だが、そこにいるのは樹龍だけ。その樹龍は蒼白な顔で、唇を噛み締めていた。

「東条?」

 隆司が呼びかけると、樹龍は無言で生徒会室を出て行った。隆司はそれをぼんやり見送った。

(どうしたんだ?)

 判らない。首を傾げながら、前を向いた。

「これで終了ですか」

「あとは連絡先の記入をしていただければ」

 市ヶ谷は答えた。隆司は充電器を見た。まだ、途中だった。だがそれを引き抜き、電源を入れ、電話番号を表示させて、連絡先の欄を埋めると、書類を差し出した。

「IDカードは、後で取りに来ますので、失礼します」

 そう言って隆司は生徒会室を後にした。

「東条!」

 樹龍の姿は通路に見る当たらなかった。隆司は先程の南階段に向かいかけて、途中でトイレに行き先を変更した。

 樹龍が鏡と洗面台の前で立ち尽くしていた。

「東条」

 隆司が声をかけると、樹龍はゆっくりと振り返りこちらを見た。まだ青ざめている。

「大丈夫か?」

「……ああ」

 樹龍は頷いた。

「どうしたんだ?」

 隆司が尋ねると、樹龍は苦笑した。

「寝不足だからな。たいした事はない。少し寝てくる」

「……保健室へ行こうか?」

「いや」

 樹龍は首を左右に振った。

「人がいるとかえって落ち着かない」

「意外とデリケートなんだな」

「意外と、は余計だ」

 樹龍は微かに顔をしかめた。緊張しているように見えた。隆司は首を傾げた。

「本当に大丈夫なのか」

「ああ」

 樹龍は頷き、顔を伏せかけ、それから不意に顔を上げて隆司を見た。

「聞こえなかったんだよな?」

 かすれた声で樹龍は言った。

「何が」

 隆司はキョトンとした。

「いや、何でもない。やっぱり生徒会室は苦手だ。今後は一人で行ってくれ」

 樹龍は硬い口調で言った。

「……何を聞いた?」

 隆司の問いに、樹龍は力なく笑った。

「何も聞いてないって」

「名前を呼ばれた気がした」

 隆司が言うと、樹龍はギクリとした表情になった。

「もしかして東条じゃなかったのか?」

「……俺はお前を、隆司なんて呼ばない」


『隆司』


 隆司を名前で呼ぶのは、百々加や恭一郎、シュウ、くん付けで友香、それと。

「……和豊」

 隆司はポツリと呟いた。

「東条は、どうして生徒会室へ行きたくないんだ?」

 隆司は真顔で尋ねた。

「まさか、来島がいるからって理由じゃないだろう?」

 隆司の言葉に樹龍は肩をすくめた。

「何故そう思う?」

「勘」

 隆司の返事に、樹龍は苦笑した。

「そうだな。強いていうなら、執行部の連中が嫌いだ。あとシステムも。それからあの部屋、入ると何故か嫌な気分になるんだよ」

「嫌な気分?」

「幽霊とか、怪談話が恐いわけじゃないぜ。だけど、あそこには得体のしれないものがいるような、そういう圧迫感や妙な気配があるんだ」

「何だよ、それ」

 隆司は顔をしかめた。

「得体のしれないものって、化物とか宇宙人とか言うのか」

「判らねぇよ。判らねーけど、ゾッとする。まるで壁の向こう側から、睨みつけられてるみたいなそういう感じ」

「ホラー映画とかの見すぎじゃないか」

「違う。なんていうか……たぶんあそこは他より壁が薄いんだよ。だから変な雑音が聞こえたり、おかしな反響の仕方をして、おかしな具合に聞こえたりするんだと思う」

 樹龍は、少々怯えた自分に言い聞かせるような口調で言った。

「壁が薄い? おかしな反響? 何でだよ。3階は生徒会室しかないんだろう。だったら壁を薄くする必要なんかない。空洞でもあれば、話は別だけど……」

 隆司は言って、ギクリとした。

「そうか!」

 樹龍は納得したと言わんばかりの、明るい嬉しそうな顔になっていた。

「そっか……そうだよな。考えもしなかった。そう考えれば説明がつく」

 隆司は嫌な予感がした。

「待てよ、東条」

「幻の2階や、生徒会室の壁越しの声のカラクリは、隠し部屋があるせいかもしれないよな」

「憶測だろう」

 即座に否定する。

「憶測だよ。確かめりゃ良いんだ。それで判る」

 満足そうに頷く樹龍に隆司は呆れた。

「だから有り得ないだろう、ライトノベルじゃあるまいし」

「人がいる時は調べられないよな。じゃ、何時頃にする?」

「は? 何を言って……」

「お前が気付いたんだから、当然お前も知りたいよな、生徒会室の秘密。裏帳簿とかあるかも。反響音で空洞の位置を調べるなら、木槌か金槌が必要だな」

 明るく軽い口調で樹龍は言った。

「ちょっと待てよ」

 隆司は焦った。

「なんで勝手に決めてるんだよ」

「お前の発案だろ。付き合えよ」

 樹龍は当然のように言う。

「俺は隠し部屋だなんて、そんな事は言ってない!」

 隆司はブルブルと首を左右に激しく振った。

「謙遜するなよ」

 樹龍は楽しそうに言う。

「するか! なんて身勝手なんだ、君は!!」

 隆司が怒鳴ると、樹龍はニヤリと笑って言った。

「でも、調べてるんだろ?」

「……え?」

「何か知らねぇけど、調べてるんだろ?」

「ちが……っ!」

「バレバレなんだよ。つぅかさ、メディア・ライブラリで遭遇した時からずっとアヤシイと思ってたんだけどな」

「なんでそんな……っ」

「基本はハッタリ、山勘、当てずっぽうだ」

 樹龍は笑った。

「人間にはだいたいパターンがあるんだよ。ところがお前は、たぶんこうだろうなって思う予想と、違う反応するわけ。人が定石通りに言動しない理由を、いくつか推測してみて、考えられる可能性を、一つずつ潰していく。最後の最後、判らなかったら、賭けに出る。ま、偶然当たった、みたいな感じだな」

「……さっきまで蒼白だったくせに」

「幻聴だと思ってたんだよ」

 樹龍は言った。

「他のやつらは聞こえないって言うしさ。俺、耳が良いんだよ。日常生活や勉強には、役に立たねーけど」

「前にも何かを聞いたのか?」

 隆司は尋ねた。

「半年くらい前かな」

 樹龍は答えた。

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