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The Searcher  作者: 深水晶
第二章 転入初日
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第二十五節 七色の舌の魔術師 (SIDE: 隆司)

 次の休み時間、不承々々ながら隆司は生徒会室へ向かった。ちなみに生徒会室は、セントラルホールの3階にある。つまり、食堂・購買等のすぐ上の階だ。

 1階には入ってすぐのところに、エントランスホール、右手に食堂、左手に購買、自販機、談話交歓室がある。

 談話交歓室は、事前に予約をする事で貸出しされる防音の個室である。部室を与えられていない少人数の団体や個人が利用する。

 例としてはバンドの練習、勉強会、部室のない同好会のミーティングや活動などである。事前に申請用紙に、使用目的と参加人数と代表責任者を記入して受理される必要がある。鍵は生徒会執行部が管理しているらしい。

「勉強になるだろ?」

 隆司は得意げに言う樹龍を無言で見つめた。

「食事は弁当持参なら、エントランスホールか中庭のベンチ、食堂や教室、人によっては部室かな。ちなみに屋上はダメだ。立入禁止」

「行きたいのは、3階の生徒会室なんだが……」

 樹龍は気にしない。

「ちなみにセントラルホールには、2階という表示はないが、実は放課後、ある時間にある行き方をすると、幻の2階に行く事ができるという噂がある。ただし、幻の2階に行ったヤツは、帰って来られなくなるらしいぜ」

「じゃあ、どうやって噂を伝えたって言うんだ。良くある学校怪談か、都市伝説のパクリだろう、それは。それよりも俺は3階に……」

「まだ続きがある。幻の2階に行ったヤツの声を、無人の生徒会室で、壁越しに聞く事ができるって話だ」

「どうせ隣の部屋から聞こえてるんだろう」

「それがどっこい、3階には生徒会室以外の部屋がない」

「え? なんでだ」

 思わず聞き返した隆司に、樹龍はニヤリと笑った。

「食堂が3階までぶち抜いて吹き抜けになっているからだ。だから、3階には生徒会室とトイレしか存在しない」

「じゃあ、トイレの声が……」

「トイレは南階段の1つきりで、生徒会室の近辺ではない」

 樹龍はキッパリ言った。隆司は無言で樹龍を見た。

「ちなみに神楽坂学園高校の七不思議は、他にもあって、例えば南階段を日が落ちて暗くなってから、1人で上ると、時折足音が2つ聞こえる事があるとか、音楽室のピアノが鳴るとか、色々ある。聞きたいか?」

 隆司は溜息をつく。

「……もういい。それより生徒会室……」

「そんなに生徒会室へ行きたいのかよ!」

「最初からそう言っている」

 隆司の言葉に、樹龍は肩をすくめた。

「お前……ノリ悪いな」

「君が軽すぎるんだ」

 隆司は真顔で言う。

「少しは付き合えよ」

「早く用事を済ませたい」

「実は俺が本当は生徒会室に行きたくないって、知ってて言ってるだろう」

 樹龍は恨めしげに隆司を見た。隆司は呆れた顔をする。

「休み時間に生徒会室へ行くと言ったら、案内すると言い出したのは、誰だ」

 暫し顔を見合わせた。

「やりにくい……」

 樹龍はガックリ肩を落とした。隆司は撫然とする。

(絶対気が合わない)

 隆司は思った。

(絶対に無理)

 暫く沈黙した。黙々と階段を上る。この階段は南階段である。隆司が沈黙に安堵していると、樹龍が口を開いた。

「幻の2階には南階段からしか、行けないらしいぞ」

(まだ終わってなかったのかよ)

 そう思ったが、何も言わない事にする。

「あと夜中に悲鳴が聞こえるとか?」

 隆司の眉間に皺が寄る。

「……いい加減にしろ」

「実は、セントラルホールだけで、6つ以上の怪談が集中している。俺が思うに……」

「……うるさい」

「怪談とか噂って、本当に全部嘘だと思うか?」

「そんなの当たり前……」

「だけどな、実際、ここ半年くらいで、異常なくらい転校するヤツとか、失踪するヤツとか、自殺するヤツが増えてるんだ」

「……え?」

 隆司は目を見開いた。

「結構ヤバイぜ、この学校。見た目通りだとは思わない方が良い」

「何故、俺にそんな事を……?」

「騙されやすそうだからさ」

「な……っ!」

「あと、疑ったり、考えたりしなさそうだし」

「なんでそんな事が言えるんだよ」

「メディア・ライブラリのPCだけど、アレはIDとパスワードの入力が必要だろう?」

「ああ」

「休み時間ならともかく、授業中に使用すれば、PCの履歴は勿論、監視カメラも調べられる。面倒事はゴメンだからな。だから、あの時は逃げた」

「……え?」

 隆司はポカンとした。

「俺達はIDカードで管理され監視された、羊なんだよ」

 樹龍の言葉に戦慄が走った。

「……な……っ!」

「まぁ、私見だけどな。俺の考え過ぎかも。だけど、便利だからって、多用するのはどうかと思うぜ。なにせ監視する側が、中立でも外部でもない、俺達と同じ生徒なんだから。ただ、連中が生徒会執行部に所属しているってだけの違いでね」

「……何故そんな事になってるんだ?」

「運営資金が貯まったら、いずれ生徒会執行部を自治会にするんだとよ。いつになるか判らないけど」

「その代表が君の幼なじみなのか?」

「渚はただの代表、カリスマだよ。俺は執行部の御堂(みどう)辺りが怪しいと思ってる」

「根拠は?」

「ヤツを何度か夜の繁華街や公園で見かけてる。校内でも札付きの連中と一緒にいるところをだ」

「その御堂ってヤツの写真を持っているか?」

「ブロマイドなら非公式ファンクラブから買えると思うぜ」

「ファンクラブまであるのか」

 隆司は頭が痛くなった。

「渚のが一番大きくてうるさいぜ。ちょっとでも公衆の面前で会話したら、呼び出される」

「君も?」

「まぁな。でも、俺一人なら問題ない」

「腕っぷしに自信があるのか?」

「暴力に頼るのは野蛮だろう。七色の舌の魔術師と呼んでくれ」

(つまり言いくるめるって事か)

 隆司は溜息をついた。

「個人に絞らないなら、新聞部の方が良いと思うぜ。隠し撮り以外のブロマイドの大半は、新聞部からの流出品だから。それにしても……」

「え?」

 隆司はキョトンとした。目を丸くして見つめる隆司に、樹龍は苦笑した。

「いや、お前、面白いヤツだよ。嘘がつけなくてさ。まるきり自覚なさそうだけど」

「どういう意味だ」

 隆司は気色ばむ。樹龍はニヤリと笑った。

「まぁ、俺は楽しくて良いよ。暇潰しにはなりそうだし」

「暇潰しがしたいなら、真面目に勉強でもしたらどうだ? 授業にあまり出ない上に、学業成績も悪いって聞いたぞ」

「そりゃ正論だろうけど、一応俺だってただ遊んでるわけじゃない」

「じゃあ、何をしてるんだよ」

「この学校を調べてるんだよ。女の子との会話もその一貫」

「……え?」

 隆司は息を呑んだ。

「正直、彼女達の持つコミュニケーション・ネットワークはすごいと思うよ。女の子のコミュニティに、男は入れないけど、一対一で会話すると、思ってもみないような色々な話が出てくる。真偽は調べてみなくちゃ判らないけどな」

「そんな事を考えて会話するのか?」

「相手が気分良く、自由に話せるような環境を、整えてあげれば良いんだよ。お陰で俺は、校内のめぼしい女の子の3サイズだって熟知しているぜ」

 3サイズ、という言葉に隆司はピクリとした。

「五島愛も?」

「ああ。本人と話した事はまだないが、公称ではない最近のサイズも知ってる」

 隆司はマジマジと樹龍を見た。

「なんでそんな事を知ってるんだよ」

「あと、慣れると見ただけで判るようになる。たまに外れる事もあるが、詰め物と本物の区別とかも」

「ちょっと待て。それって学校には関係ないだろ?」

「当たり前だろ?」

 樹龍は言った。

「趣味も兼ねている」

 隆司はゲッソリした。

(恭一郎と同じ人種だ)

 樹龍はニヤニヤ笑いながら、隆司に言った。

「なんだよ、その疲れた顔は」

「疲れたからに決まってるだろう」

「高村」

「何だ?」

「気張ってばかりじゃ余計に疲れるぞ」

 隆司は樹龍を睨みつけた。

「誰のせいだと思ってるんだ」

「このくらいで疲れてちゃ、世話ないだろ。何が目的なのか知らないけど、そんな風じゃ空回りするだけだと思うぜ」

「え?」

 隆司は硬直した。樹龍はニッと歯を見せて笑った。

「生徒会室はすぐそこだ。じゃ、俺は教室に戻るから」

 樹龍が言って、立ち去ろうとすると、隆司はその手を引いて、引き留めた。

「中まで付き合ってくれ」

 樹龍は嫌そうな顔になった。

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