第二節 学園潜入 (Side:隆司)
隆司はまず暫く自分の拠点となるアパートへ向かった。
「意外といい感じだな。風呂はユニットだけど、家のより広いし、使いやすそう」
そんなに長居するつもりはないのだが。その時、連絡用の携帯電話のコール音が鳴る。知らない番号だが、すぐに出る。
「はい」
『私だ』
「百々加さん」
『一応確認だ。アパートへは無事辿り着けたか』
「ええ。判りやすいところでしたから」
『当然だ。方向音痴のお前のために考慮した』
「容赦ないですね」
『本当のことだ。落ち着いたら、周辺を探索がてら散歩しろ。一夕一朝に、土地勘は身につかないだろうが、仕事なのだから、アパートにはこもらず、なるべく外出しろ。
あと友人知人は可能な限り作れ。ナンパも良い。ハーレムを作れ。だが、秘密厳守で、こちらの意図は気付かれない言動しろ』
「ナンパ推奨されるとは思いませんでしたよ、百々加さん」
『言っておくが、付き合いはしても遊ぶなよ。あくまで仕事だ。ただ漫然と付き合うな。情報収集しろ。それが、目的だ』
「はぁい」
『金が足りなかったら、連絡しろ。だが、無駄遣いはするな』
「了解」
「それにしても、百々加さん」
『何だ?』
「本当に現役の高校生が、それも私立の名門の生徒が、援交だの恐喝だのやりますかね?」
『それを調べるのが仕事だ』
それは全くその通りだ。しかし、隆司は納得できないし、理解したくない。
「俺、この仕事、何か嫌です」
ぽつりと言った。
「何か嫌な予感がします」
それは予兆というほど、はっきりしたものではなかった。漠然とした不安。得体の知れない恐怖。
『なら、今すぐ辞めろ』
百々加は容赦なかった。
『足手まといは必要ない』
そう言われることなど、隆司は最初から判っていたはずなのだが、それでも、慰めまたは激励の言葉を期待していた。
「……本当に、容赦ないですね」
ちょっと泣きそうになりながら言うと、
『終わったら慰めてやる』
という答えが返ってきた。一瞬、聞き違いかと思った。
「……え?」
『大サービスだ。終わったら慰めてやる。何か食事でも奢ってやろう』
「ほ……本当に?」
隆司は驚いた。
『ああ。お前が失敗したら、私も面倒だからな。くれぐれも気を付けろ。私がお前の代わりに潜入するわけにはいかないからな。まあ、頑張れ』
百々加とのつきあいはもう二年くらいになるが、その間一度も褒められたり、慰められたりした事がない。隆司は驚き息を呑んだ。
『今回は連帯責任だからな。失敗されたり、無闇矢鱈に凹まれても困る』
「…………」
どうせそういうことか、と隆司は脱力した。
「や、もう頑張りますよ。ナンパでもなんでもして」
『そうしてくれ』
淡々とした口調で、百々加が言った。
(たぶん化粧して女装してかつらかぶれば美人だと思うけどなぁ)
そんなことを言えば、殺されかねないので、とてもいえない。
「可能な限り頑張ります」
『死ぬ気でやれ』
隆司はとほほな気分で頷いた。
「死なない程度に頑張ります」
百々加はそれ以上は言わなかった。




