第十三節 メディア・ライブラリ (Side:隆司)
セントラルホール4階にあるメディア・ライブラリの室内は、殺風景一歩手前の、簡素なネットカフェのように見えた。
授業中なので室内に人はいない。PCの電源は全て切られていたが、空調だけは機能していた。
静かな部屋に、ファンの音がやけに響く。スチール製の棚に、分類毎にDVDやCDなどがズラリと並んでいる。
レーザーディスクやビデオテープ、レコード等の棚もあった。しかし、それらの再生機は何故か見当たらない。
隆司は注意深く歩を進めた。ほとんど無音だ。しかし、隆司は何かに脅えるように慎重だった。
「何やってんだ?」
不意に聞こえた、揶愉するような男の声に、隆司はビクリと硬直した。
「見かけない顔だな」
振り向くとアッシュブロンドがかった茶髪の男が、棚に右肘をついて、半分寄りかかるように立っている。やけに絵になる嫌味なくらい長身の色男だ。
ニヤニヤ笑って隆司を見ている。多少日焼けしているが色が白い。目の色も薄い。良く見ると眉毛や睫毛も、髪の色とほぼ同じだった。
(……東条樹龍)
昨日、吉良が教えてくれた男の名だ。
「もしかして転入生?」
男は肘を外して真っ直ぐ立った。そうすると隆司より頭半分ほど背が高い。
「ふぅん」
男は笑った。
「ま、どうでも良いけど、ここにはエロいやつや娯楽になるような物はねぇぞ。どっちかって言うと、文学とか、オカタイつまんないやつばっかりだ。アニメも○タルの墓とかだな」
「……PCで調べ物がしたくて来たんだ」
「学園のアイドルの3サイズとか? ま、冗談はさておき、今は授業中だぜ。判ってるか」
隆司は無言で男を見つめた。
「俺はサボリだけど」
堂々と言う。
「あんたは何故ここにいる?」
隆司は困惑した。相手の意図が理解できない。
「だから調べ物を……」
隆司が困惑しながら言いかけると、男はそれを遮るように、アッサリ言った。
「なら、いいや」
そう言って男はスタスタと立ち去った。暫く隆司はその場に、立ち尽くした。
(な、何なんだ?)
隆司は理解できなかった。判らなかったが、調べる内容が内容なので、人がいない方が都合が良かった。
隆司はPCの前に座り、電源スイッチを入れた。OSの起動画面が表示される。HDDの情報を読み込み始め、それが終わって表示されたのは簡素な認証画面。
「え……っ」
隆司は驚いた。慌てて周囲を見回した。当然ながら誰もいない。もう一度画面を見直した。IDとパスワードの認証をしないと、起動できないらしい。
隆司は呆然とした。判らなかった。どうしたら良いのかも判らない。PCは人並みには操作できるが、知らないものはどうにもならない。
IDとパスワードは何を入力すべきか判らない。隆司は挫折した。
(シュウならこういうの得意なんだろうけど)
隆司がPCの扱い方を教わったのは、シュウである。事務所のシステム管理やサイト運営、サーバ管理などは、全てシュウが担当している。
小中学生時代はハッキングとチャットにハマっていたらしい。隆司はシュウの正確な年齢を知らない。
おそらく20歳は過ぎているだろうと思う。30歳は超えていない。中学以降の話をしないため、シュウが中卒なのか高卒なのか、はたまた大卒なのかも判らない。
たぶん今でもシュウは、ハッキングをやっているのではないかと隆司は思う。時折シュウが、通常ならば知るはずのない情報をもたらす事があるからだ。
しかし、シュウは情報源を口にしない。隆司も疑いつつも、尋ねた事はなかった。暗黙の了解。
だが、本当にハッキングが必要なのだろうかと隆司は考えた。養護教諭の言い方では、誰でも自由に使える風だった。という事は、通常はそんなに難しい認証ではないという事だ。
隆司はカウンターへ歩み寄り、中に入った。カウンターの内側の机にはいくつかのファイルが立て並べられていた。中にマニュアルと書かれた背表紙のファイルを見つけて、引き抜いた。
インデックスにPCの起動についての説明があった。隆司は該当ページを開いた。そこにはこう書かれていた。
『PCを起動する際には、各自に支給される生徒IDカードのIDと、カード支給時に登録したパスワードを入力すること』
隆司は愕然とした。




