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The Searcher  作者: 深水晶
第二章 転入初日
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第七節 最悪 (Side:隆司)

 結局、神楽坂学園高校正門前に辿り着いたのは、午前8時42分。12分の遅刻だ。それでもかなり飛ばしたので、隆司に必死にしがみついていた愛は、グッタリしていた。

「大丈夫か?」

「……あんまり、大丈夫じゃない」

 青ざめた顔で、愛は小さく呻くように言った。まずい、と隆司は全身ビッショリ冷たい汗をかく。フェミニストの恭一郎に知られれば、殺されかねないと怯える。

「……保健室まで送ろうか?」

 本来の隆司は、女性には弱いが、頼まれていない事を率先してやるほど親切ではない。ただ、恭一郎ならばそうするだろうと思ったからだ。

「……え?」

 驚いたように、愛は隆司を見上げた。こうして間近で見ると、随分小柄で華奢だと感じた。

「大丈夫よ」

 そう言って、自力で降りようするが、ふらついている。見ていられなくなって、隆司はよろめきかけた愛の腰に手を伸ばし、支えた。

「きゃっ……!」

 愛が軽い悲鳴を上げた。

「ご、ごめん!!」

 慌てて隆司は腕を離そうとしたが、愛の身体がぐらりと揺れて倒れそうになったので、慌てて支え直す。

「えっと……その、ごめん!」

 思い切って、隆司は愛を抱え上げた。

「っ!?」

 愛は驚いたが、今度はかろうじて声は上げなかった。代わりに赤面する。

「その、適当に掴まっててくれるか?」

 隆司も初めての体験に、頬を赤らめている。いわゆる『お姫様抱っこ』というやつだ。しかし、手の回し方が、お姫様抱っこというよりは、赤ん坊の抱き方になっている。

 本来膝裏に回すべき腕が、膝下辺りの表側から、裏へと回っており、ちょうど指がふくらはぎ辺りに当たるような格好になっている。

「……あれ、これで良いんだっけ……?」

 隆司は首を傾げている。

「そ、そんなのどうだって良いわよ!」

 愛は恥ずかしくて、隆司の顔が見られない。だから首筋に顔を埋めるように伏せた。

「っ!!」

 首筋に息が吹きかかって、隆司の全身にゾクリと緊張が走った。幸い落としたりはしなかったが、動きが固くなる。

「だ、大丈夫?」

 不安になった愛が隆司に声をかける。

「……大丈夫。君が軽くて良かった」

(これが百々加さんだったら絶対無理だ)

 勿論そんな事面と向かっては言えない。隆司は小さくため息をついた。




 隆司は保健室のドアをノックした。しかし、返事がないので、ドアを開けると、人の姿は見えなかった。

 だが、一番奥のベッドに誰か寝ている人がいるらしく、カーテンが閉められていた。どうしたものか、と隆司は嘆息する。

「名簿にクラスと名前を書くの」

 愛が言った。

「名簿?」

「そうよ」

 愛は頷き、床に降りようとする。

「大丈夫か?」

「……大丈夫よ。ちょっと貧血起こしたかしら。自分で名前を書くわ」

「これか?」

 利用名簿と書かれた黒い表紙の名簿が、テーブル脇のフックにかかっている。

「そうよ」

 隆司は名簿とボールペンを手渡した。

「ジュースか何か買ってくる」

「え?」

 愛は驚いた。

「……なんでそんなに親切にしてくれるの?」

「なんでって半分は俺のせいだから」

 隆司がそう言うと、愛は困ったような苦笑を浮かべる。

「最初は自力で行けとか言ってたくせに。変な人」

 愛の言葉に、隆司は赤面した。

「……買ってくる」

 そう告げて、保健室を出た。出たは良いが、隆司は校内の構造について熟知していない。渡された資料の中には見取り図があった。

 それを思い出して、かついでいたスポーツバックの中から取り出して見た。

「保健室、保健室……と」

 見つかった。胸ポケットに放り込んであるシャープペンで保健室に丸をつける。それから購買部と食堂を探す。この二つのどちらかでジュースが購入できる筈だ。

 幸い、購買部と食堂は、廊下を挟んで向かいにあった。順路を確認してから歩き出したのだが……。

(随分長い廊下だ。途中で左に曲がらなくちゃいけないはずなんだけど……)

 辺りをきょろきょろと見回すと、近くに用務員室があった。が、用務員室に人のいる気配はない。

 校舎マップを覗き込み、用務員室を覗き込んだ。

「え? ここ別棟?」

 思わずポカンと口を開いてしまった。地面を歩いた覚えはない。

 体育館や保健室のある施設と、用務員室や特別教室などがある施設の間に、渡り廊下があると記載されている。

 背後を振り向いたが、そこには普通の廊下が見えた。しかし、僅かに斜め方向をむいており、途中で角度が変わっているために、一番奥まで見通す事ができない。

(何だこれ、全体で六角形、いや八角形になっているのか?)

 学校潜入はこれが初めてではないが、こんな変な作りの校舎を見たのは初めてだ。

 校舎の外縁部をたどると、渡り廊下を含めて、全体で歪な八角形に見えるように、繋がっている。

「何だよ、これ」

 昨夜目を通した時は、部分的に見て全体を見ていなかったので、まるで気付かなかった。嫌な感じがして、ゾクリと震えた。

「……何だ、これ。まるで……」

 八角形の外縁の中央部に、他の施設と等間隔のように見える位置に、六角形の建物が建っている。

 その建物の名前は『中央公共学生合同交流会館』とあり、注釈で『セントラルホール』とあった。

 そのセントラルホールの1階に、食堂と購買がある。用務員室の位置と地図の位置をつき合わせて見たところ、この位置からではセントラルホールは左手に見える筈だった。

 左側の窓を覗くと、そこには果たして六角形の建物が見える。それと同時に、何故、曲がり損ねたのか、その理由も判明した。

 特別教室などがある特別棟と、体育館などがあるスポーツ施設棟からは、一度中庭に面した扉を開けなければ渡り廊下へ行けないのだ。

 普通教室のある教室棟と、部室などがある部室棟からは扉を開けなくても内廊下で繋がっている。

「……なんでこんなややこしい造りになってるんだよ」

 隆司は思わず呟いた。ゾッと身震いしたその時、スポーツバック越しに、振動を覚えた。

「え? あ、マナーモード!!」

 慌てて電話を取り出すと、振動は止まった。メール着信だった。慌てて着歴を見て、隆司は蒼白になった。恭一郎が17件、百々加が4件……。

「うわぁ……最悪……」

 慌てて時計を見た。いつの間にか9時を回っていた。

「ヤバい! 早く理事長室行かなくちゃ!!」

 理事長室は現在位置から近かった。隆司は慌てて走る。その途中の女子トイレから、目が覚めるような、ライトブラウンの髪の美女が現れた。

「っ!?」

 美女と一瞬目が合った。

「え?」

 隆司は一瞬きょとんとした。

(何処かで会った事があるような……いや、でも、あんな美人、一度会ったら忘れない……)

「隆司!!」

 ドスの利いた凄味のあるアルトの声が、廊下に響いた。

「……えっ……まさか……!!」

 隆司は思わずその場に立ちつくし、呆然と目の前の女性を見つめた。

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