第四節 女装 (Side:恭一郎)
恭一郎は友香と共に百々加のいるアパートへ、運転手付きの車で向かった。
「朝早くから悪いね」
眼鏡を外しニッコリ微笑む恭一郎に、友香は絶品の笑顔を返す。
「いいえ、結構ですわ。私、楽しんでますもの」
「それは良かった」
「それよりオーナー、所長の事ですが」
「たぶん今日の昼過ぎには『寝過ごした』とか言って現れると思うよ」
「……そうでしょうか」
「バレてると知っても言わないさ、シュウは。元々無理矢理脅して引き込んだしね。大事な幼なじみのためじゃなければ、絶対僕に協力してくれなかったよ」
「今は楽しんでいるように見えますわ」
「どうかな」
恭一郎は苦笑する。
「そうだとしても、アイツを飼いならすのは無理だ」
「ならそうなんて思ってらっしゃらないくせに」
友香はクスクスと笑う。
「野生の猫に首輪なんて付けられないよ」
恭一郎は首を左右に振りながら言った。
「引っかかれるだけならマシだが、噛み殺されかねないしね。ま、仕事をサボっても、戻ってくる内は問題ない」
「では、お咎めなしで?」
「咎めるとかそういう関係じゃないから。むしろ僕が彼に無理を言ってお願いしているしね」
「オーナーは所長が大切なんですね」
「そうじゃないんだ。これは最初から僕の我儘で、粋狂でしかないのさ。協力してくれる人が欠ければ、あっという間に壊れてしまう」
恭一郎は独り言のように呟いた。
(まあ、元はたった一人を救うためだったけど。今となっては、動機なんてどうだって良いってのが、本音だな)
「元々、僕の発案じゃないんだよ」
「そうなんですか」
「ああ、オリジナルはシュウが作った」
「所長が?」
「そのシステムには負けるけど、似たような事がやりたかったんだ。幻ではなくリアルに」
「リアル、ですか」
「現実的な窓口というか、実体があるものの方が、普通一般には利用しやすいからね。クチコミや紹介制よりは、手遅れになりにくいんじゃないかと思った」
恭一郎は苦笑を浮かべる。
「それはともかく、友香、百々加を綺麗にしてやってくれないか」
「こういう機会は滅多にありませんもの。張り切ってますわ」
友香の言葉に恭一郎は思わず笑った。
「百々加が嫌がりそうだ」
「あの子はもっとオシャレするべきなんです」
友香は言う。
「本当にうちは、不器用な子達ばかりで心配ですわ」
「全くだ」
恭一郎が言うと、友香は艶やかに笑う。
「オーナーもですよ」
「え?」
「それに所長も。全員です」
「……それは世話をかけて申し訳ない」
恭一郎は苦笑した。
「もっと甘えて良いんですよ」
「友香が恋人だったら考えても良いかな」
恭一郎が微笑すると、
「そういう冗談はやめてくださいね」
とやんわり拒絶される。
「やっぱり本当は恋人いるでしょう、友香」
「いません。仕事が恋人です」
「そういう事言ってると、いき遅れるよ」
「そういうのもセクハラですよ、オーナー」
たしなめるように言われ、恭一郎は肩をすくめる。
(全くかなわないな)
そう思って苦笑する。百々加がいるアパートに到着した。
「時間がかかると思うが、このまま待っていてくれ」
そう運転手に声をかけると、荷物を持って恭一郎と友香は、百々加の部屋へ向かった。
恭一郎がスーツを見せた途端、百々加は固まった。
「……それ……」
胸元が大きくあいた上衣と、大きなスリット入りのタイトスカート。
「百々加が嫌がるだろうと思って、ミニはやめておいたよ」
「絶対嫌です」
「メイクもして綺麗にしようね」
「だから嫌です」
「ヒールとセミロングのカツラも用意したよ」
「だから絶対嫌……」
「オーナー命令だ。僕の知り合いに、見苦しいところは見せないでくれないか、頼むから」
恭一郎の言葉に、百々加は絶句した。
「神楽坂学園高校の理事長は、古めかしい考え方をする人でね。普段の君の姿では驚かせてしまう」
「…………」
「というわけだから、頼む」
「……女装、ですか」
百々加はがっくりしたように呟いた。
「女装じゃない」
恭一郎は言った。
「君は女性なんだから。むしろ盛装というべきでは?」
「……あまりフォローになっていません」
百々加がぼやくように言う。
「じゃあ、僕のためにお願いする。君の美しい姿を見せて欲しい」
真顔で言った恭一郎に、
「……私に言わないでください」
百々加は言った。すると、友香が、
「私、百々加ちゃんをドレスアップさせたいな。ダメかな?」
とニッコリ笑って言った。
「……仕方ありませんね」
百々加がため息つきながら、そう言った。恭一郎は撫然とした。
「……何が違うというんだ」
すると友香が言った。
「人徳です」
恭一郎は納得いかない顔をした。




