第三節 モーニングセット (Side:シュウ)
シュウは目の下に隈を作り、喫茶店の片隅で、イライラと煙草を吸っていた。
「やぁ、お待たせ」
ニッコリ穏和に品良く笑って現れた黒髪の小柄な男に、シュウは舌打ちした。
「テメェから呼び出しといて、遅刻してんじゃねぇよ、ナリ」
「ふふ、ごめん、シュウイチくん」
シュウはギロリと男を睨んだ。
「テメェにその名で呼ばれたかねぇんだよ」
ナリと呼ばれた男はクスクスと笑った。
「荒れてるね、シュウ。ナツが来なかったから?」
「別にそんなんじゃねぇよ。クソ忙しいのに、急ぎの仕事ブチ込みやがって」
「で? 手に入ったの?」
ニッコリ微笑むナリに、シュウは無言で小脇に抱えていたバッグから小箱を取り出す。それは一見、アクセサリでも入っているかのようなサイズと包装。クルクルとカールしたリボンが、デイジーを型どっていて愛らしい。
「偽装はシュウがしてくれたの? 相変わらずマメだね」
「お望みなら、簡易包装もナシに持ってきてやっても良かったぞ」
「別にどっちだって良いよ。どうせ素人には何か判らないし。バレて困るのは僕よりシュウだと思うけど?」
あくまで穏和なおっとりとした口調のナリに、シュウは舌打ちした。
「テメェ、本当に性格悪ぃな」
ナリはふふふ、と笑う。
「報酬は?」
「はい」
コインロッカーの鍵を渡す。
「……今度は一体何をするつもりだ?」
眉をひそめ、シュウは言った。
「近々花火を打ち上げようと思って」
のんびりとした口調で言うナリに、シュウは嫌そうな顔になる。
「花火? オイオイ、随分物騒な花火だな」
「作った本人に言われたくないけどね」
笑いながら言われて、シュウは苦虫を噛みつぶした顔になる。
「用途を決めるのは俺じゃない」
「そうやって逃げるんだよね、シュウは」
「俺が?」
不服そうに睨む。
「案外ナイーブだよね、天才シュウくんは。そういうところは嫌いじゃないけど」
「俺にケンカ売ってるのか?」
剣呑なシュウを見て、ナリはクスクス笑う。
「ナツからの伝言。『近い内にまた頼むよ』って」
その言葉にシュウは呪咀のような唸り声を上げた。
「テメェ、一回死ね!」
「何故僕に言うの? ナツが君に頼んでるんだよ?」
「……俺はテメェが大嫌いなんだよ」
「知っているよ」
唸るように言ったシュウに、ナリはニッコリ穏やかに微笑む。
「だから僕は君が好きなんだ」
「……クソ気味悪ィ、このムッツリ自虐ナルシスト」
「じゃあ、用事は済んだから行くね」
「待てよ」
立ち去ろうとするナリを呼び止める。
「何? デートのお誘いかな」
「朝から気色悪ィこと言うな! ここの支払いはテメェがしろ」
シュウの言葉にナリはテーブルに目を落とす。そこにはモーニングセットの空の器があった。
「可哀想に」
「あ?」
「余程薄給なんだね」
シュウはムッとした顔になるが、抗弁する代わりに、
「なら材料費だけでなく、人件費やサービス料も上乗せさせろ」
と言った。
「それは別。仕事紹介してるからチャラでしょう?」
ナリの言葉にシュウはケッとばかりに吐き捨てる。
「それも人に言えない非合法のばっかりな。しかもチャッカリ仲介料取ってるだろう、この守銭奴」
「それくらいのメリットがないとね」
ニコニコ笑いながらあっさり認められ、シュウは歯噛みした。
「クソ、やっぱ殺す」
「君がそうしたければそうすれば良いけど、ナツは悲しむだろうね」
その言葉にシュウは鼻白み痛そうな顔になる。
「……キタねぇんだよ、いちいち」
「それが僕のスタイルだから」
「テメェのそれこそ逃げじゃねぇの?」
すると、ずっと笑みを浮かべていたナリが急に真顔になる。
「本気の僕と遣り合いたいの?」
瞬時に辺りの空気が凍った。
「お望みなら、今すぐでも構わないけど」
どうする、と言いたげに冷笑するナリに、シュウは一瞬息を呑んだ。
「ま、君にはまだ無理だろうけど」
悔しいが言い返せない自分に気付いて、シュウは舌打ちする。またナリは元の穏やかな微笑を浮かべ、財布から千円札を一枚取り出し、テーブルに置く。
「じゃあ、また」
そう言って立ち去る背中を見送り、シュウはボソリと呟いた。
「微妙に足りてねぇんだよ、クソ野郎」




