第二節 保護者 (Side:百々加)
百々加はいつも通り、6時に起床した。軽くストレッチして、15分ほどランニング。帰り道にコンビニで朝食を購入。部屋に戻って直ぐにシャワーを浴び、タンクトップとホットパンツという姿で、頭をタオルで拭いながら、朝食を取る。
そこへ携帯電話が鳴り響く。
「……はい」
口の中の物を飲み込んでから電話に出た。
『朝早くにすまない』
その声は、新見恭一郎。サカキ・エージェンシーのオーナーである。
『一時間後に迎えに行くから』
「は?」
唐突な恭一郎の言葉に、百々加は眉をひそめて、怪訝な声を上げてしまう。
『おそらく用意していないだろうから、女性物のスーツと化粧品を持参する。友香も一緒だ。メイクと着替えを終えたら、神楽坂学園高校へ一緒に行こう』
「……どういう事ですか?」
『詳しくは後で話すよ。ところで念のため確認するが、シュウはそこにいないよな?』
「いません」
むしろいたら問題だと百々加は思う。
『そうか。実は昨日の午後から連絡が取れない』
「……え?」
百々加は驚いた。
「しかし、昨日の夕方……」
『ああ、君の報告にあったから知っている。それに全く心当たりがないわけじゃない』
百々加は、それは良かった、と安堵する。
『それと、今の仕事優先だが、余裕があれば君に少し協力して欲しい事がある』
「了解しました」
百々加は返事をしながら頷いた。シュウにも恭一郎にも、恩義がある。頼みを断われるはずがない。
『……それで、隆司はどんな感じかな?』
隆司と同い年なのに、保護者のような恭一郎の言い方に、百々加は苦笑する。
「いつも通りです」
しかし平坦な口調で答える。
『つまり役立たず?』
危うく吹き出しそうになった。
「ご心配ですか?」
『別に。迷惑なら即刻クビにするだけだ』
そっけなく言うが、
(オーナーは本当に隆司に甘いな)
と百々加は思う。
「今のところクビにしなくてはいけない程ひどくはありませんし、隆司の代わりもいませんから、暫くは現状のままの方がよろしいのでは」
『迷惑じゃないか? いつもお守りばかりさせて』
「隆司自身は全く自覚ありませんが、時折面白いネタ引っ張ってくる事がありますから。適材適所です」
『そうか。しかし、問題があった時はすぐ報告をくれ』
ふと百々加は思い出した。
「ところでオーナー、今日は月曜日ですが、学校へ行かなくてよろしいんですか」
『問題ない』
全く問題がない筈はないが、恭一郎はそう言った。
「つまりそれほど重要だという事ですか」
『いや』
「え?」
『当初からそうする予定で、そのためにスケジュールを調整済みだ。気になる事もあったから』
「高村和豊ですか?」
『それもある。だが、それとは別に妙な噂を聞いたせいもある』
「妙な噂?」
『会ってから話す』
「了解しました」
『あと、もう一つ気になる事がある』
「なんでしょうか」
『それを君に言っても仕方ないんだが、隆司を一人で行かせて、無事に学校に辿り着けるだろうか』
まるきり保護者な台詞に、百々加は苦笑した。
「大丈夫ですよ、オーナー。アパートから学校まで一本道ですから、余程のバカじゃない限り、間違えません。昨日もちゃんと自力でアパートに行けましたし」
『そうか。なら、安心した。嫌な予感がしたのでね』
「本当に隆司が心配なんですね」
『別にそういうわけじゃない』
恭一郎は否定する。
『ただ、あいつのバカさ加減と方向音痴は、とんでもないからだ』
百々加は否定できなかった。




