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The Searcher  作者: 深水晶
第一章 真夜中の放浪者
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第十節 真夜中の放浪者 ~ダンス~ (Side:隆司)

 隆司はぼうっとしながら歩いていた。気付くと辺りは真っ暗になっていた。いつの間にか裏道に入り込んでいたらしい。

 しまった、と思う。現在地が何処か判らない。飲み屋もあるが、まだ準備中のところばかり。

 人通りもなく、静かだ。何気なく見上げると、ラブホテル前だった。

(あー、何このネーミングセンス。ラブパラダイス? ふざけんな。こんな所にある愛なんかたかが知れてるってーの)

 彼女いない歴=年齢のひがみではない筈だと隆司は思っているが、微妙なところである。が、不意に人の気配を感じて慌てて隠れてしまった。

(あれ、なんで俺、隠れて……?)

 大学生くらいの男と、隆司が通う予定の神楽坂学園高校の制服を着た少女が、腕を組んで出て来る。

「満室なんて有り得ねぇ」

 男が言うと、少女が

「代わりと言ったらアレだけどぉ、イイトコ知ってるよ?」

「そうなの?」

「うん、屋外だけどね」

(オイオイ、乱れ過ぎだぞ、女子高校生。つか屋外って何! ちょっと勘弁してくれよ。そんなこと堂々と人前で言うなよ!)

 しかし、特に隠れている訳ではないのに、二人からは死角になっているらしく、全く気付かれていない。

「たまにはそういうのもイイかも。ってか、サキちゃんってそういうのアリ?」

「ってゆーか、逆にモエる?」

 ギャハハハ、といった笑い声が上がる。いたたまれなさに隆司はしゃがみこんだ。顔は真っ赤。

(さっさと行けよ、バカ。イタイどころかサムイんだよ!)

 半泣きである。

「で、どっち?」

「こっちー」

 声が近付いて来る。隆司は慌てた。

(ちょ、待、こっち来る!?)

 自販機の陰に隠れる。

 普通ならば直ぐに見つかりそうな隠れ方だったが、盛り上がっている二人には気付かれなかったのか、そのまま通り過ぎようとした。

 前を通り過ぎる一瞬、女に見られた気がしたが、必死に視線をそらし、携帯電話をポケットから取り出した。

 その時、タイミング良くメールの着信が鳴り響き、男がギョッとしたように振り向いたが、隆司は携帯を開き、電話しているフリをした。

「あ、オレオレ、何、今ヒマなの? じゃあすぐ出て来れる? 一緒に遊ぼうよ、ね……」

 二人の視線が外れても、必死に会話しているフリをする。そうしながら、メールを確認する。

 メールの差出人は百々加だった。写真が添付されている。殴られ顔を腫らした男の顔写真が、四人分。

(百々加さん一人で片付けたのかな。相変わらずすごいな。ってか、容赦ない)

 何があっても百々加だけは敵に回すまいと心に誓う。今いる場所に良く似た自販機のある狭い路地の写真。それに対する百々加のコメントが『援交相手の少女の自殺?現場』とある。

「……自殺?」

 ギクリとする。脈拍が速くなる。写真と現場を見比べる。見れば見る程そっくりだ。同じ場所だとしたら、隆司が今立っている場所が、少女が死んでいた場所だったが、メールにはそこまで詳しくは書かれていなかった。

 不意にツンと鉄サビの臭いをかいだ気がした。だが、それは直ぐに消えた。しかし嫌な気分になって、早々に立ち去る事にした。

「……じ」

 ふと、誰かに小声で呼ばれた気がして、隆司は振り返った。

「?」

 だが、誰もいない。とりあえず他に何処へ行けば良いか判らないため、携帯を閉じて、先程のカップルが去った方向へ向かった。

 再度メール着信音が鳴り響いたが、一刻も早くこの場を去りたかったので、歩調をゆるめずに歩いた。カップルは人気のない方に向かっている。

(恐喝の事知らないのかな)

 不思議に思う。二人は公園に入って行く。

(まぁ、俺には関係ないか)

 そう思って、踵を変えようとした時。小さな悲鳴を聞いた。

「今のところ有り金全部でイイよ。財布は返してやるからよ」

 そんな声が聞こえてきた。もみ合うような気配と、殴られ、倒れる音と悲鳴。

 隆司が駆け付けて見たのは、地面に転がりうめく男と、それを取り囲む学生服達、その一人に拘束される、半裸の少女。

 それを見た瞬間に、頭の中が沸騰する。

「何をやってんだ! お前ら!!」

 怒鳴りつけて、飛び込んでいた。

「お前ら、よってたかって何してやがる! 恐喝か!? 金目当てなのか!? 男はどうでも良いけど、女の子に暴力振るうなよ!」

 隆司の言葉に、学生服達は怪訝な顔になる。

「……は?」

 学生服達は、突然乱入してきた隆司をジロジロ眺める。隆司は無駄なまでに体格が良い。スポーツは基本的には嫌いではない。身長187cmで、男らしい顔立ち。髪は染めておらず、整髪料などで整えもしていない。今のように、相手を睨み付けている時は、なかなか迫力もある。

 リーダー格らしい男が、怯みかけた仲間に微かに舌打ちしながら凄む。

「オイオイ、ヒーロー気取りかよ?」

 それに対し、隆司は真顔でキッパリ宣言する。

「俺は暴力が嫌いなんだよ!」

 周りの男達が真意を窺う顔になるが、隆司は気付かない。

「自分で振るうのも、誰かが振るうのも!」

 リーダー格がにやついた。

「ハァ? なんじゃそりゃ。平和主義だとでも言いたいのか?」

「平和主義じゃない!」

 隆司は高らかに宣言する。

「暴力は何も生み出さない。それによって得られるものは、何もない! 非暴力主義だ!」

「…………」

 隆司は学生服達のシラケた目つきを見ても、表情を変えない。爛々とした目でリーダー格を睨み付けている。

 リーダー格は右手を振り上げた。だが、隆司は動じない。リーダー格の拳が唸りを上げて飛んで来るが、視線を全くそらさない。当たる寸前になって、ひょいと無造作に肩をすくめた。それだけで、拳は標的をそれて空振りした。

 リーダー格はかろうじてバランスを保った。学生服達の表情が変わる。

「当たらない攻撃は、ダンスを踊るのとさほど変わらない」

 隆司は断言した。発的な隆司の言葉に、学生服達は気色ばみ、隆司を取り囲んで、輪を狭める。

 隆司は微かに顔をしかめたが、

(まぁ、百々加さんに殴られる事に比べればマシか)

 と開き直る。

(死なない程度に避けときゃ、とりあえずなんとかなるだろ)

 隆司は気楽に構えた。それが周囲にはふてぶてしく見える。

 周囲の状況をさっと確認する。学生服達は合計八人。一人は少女を拘束していて両手が塞がっているが、他は全員素手だ。

 リーダー以外はほぼ全員逆上している。拳や目つきを見る限りでは、喧嘩慣れしていそうに見える。

 立木や茂み等の配置も頭に入れて、すっと左斜め後方に一歩下がる。その方角には木が生えており、学生服達の包囲網がちょうど切れている。だが、そちらに逃げれば、

「そっちに逃げれば袋小路だぞ。自ら退路を断つつもりか、オイ」

 学生服の一人が嘲るように言う。隆司は微笑を浮かべ、更に一歩下がる。学生服達は更に前進し、じわじわと距離を詰めて行く。その途中で隆司はグッと腰を落とし、スッと正拳突きに構えた。

「ッ!?」

 男達が一瞬怯みかけた時を狙って、ダッシュで駆け出す。素早く反応したのはリーダーだけだった。牽制のジャブが放たれる。

 隆司はそれを紙一重で避け、クロスステップで男をかわして更にダッシュする。六人が背後に追いすがって来るのを、ジグザグに駆けて、次々茂みや外灯、立木やベンチに引っかけ、四人に減らす。だが、気を抜けば他の四人にも直ぐに追い付かれてしまう距離だ。

「逃げるな!」

 リーダーが叫んだ。

「女の顔に傷がついても良いのか?」

 その言葉に隆司は舌打ちして立ち止まり、振り向いた。少女の頬に折り畳みナイフが突き付けられていた。

(それだけはやって欲しくなかったんだが……仕方ないか)

 隆司は嘆息した。両手を上げて、頭の後ろで組んだ。

「お前らさ、警察恐くないわけ?」

 隆司が言うと、リーダーは鼻で笑った。

「今更、命乞いか?」

 隆司はため息をついた。

(正直あんまり殴られたくないんだけど)

 隆司は全員の息の切れ具合を目で確認して、一番疲れさせておきたかったリーダーが一番元気だったので、再度大きなため息をついた。

「やっと観念したか?」

 リーダーが嬉しそうに笑った。隆司は苦虫を噛み潰したような顔になる。それを見て他の連中もニヤニヤ笑い出す。

(あー、もう面倒臭ぇ。って俺、明日無事に学校行けるかな。百々加さんに知られたらぶん殴られそう……)

 そう考えた時だった。学生服達の背後から、フルフェイスのヘルメットをかぶった、着古したトレーナーと破れかけのジーンズに、重そうな厚い革底ブーツをはいた、足の長い179cmの人物が現れ、問答無用で蹴り倒した。

「ぎゃあっ!!」

「てめ、何だっ!!」

「一体何しやがる!」

 男達が慌てふためき、殴り倒される中、

「……げっ!」

 隆司は蒼白になって思わずうめいた。その側頭部に、フルフェイスの見事な蹴りが炸裂し、隆司は悲鳴を上げる間もなく、気絶した。

「……な……っ!?」

 ますます相手を凝視する男達に、頓着することなく、容赦ない蹴りを食らわせる。

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