異世界にもモテ期はありませんでした
人生には、モテ期というものがあるそうです。
で、異世界にトリップしたりすると、人生初のモテ期に突入して困っちゃう!な物語は、リアル世界ではもてない女、つまり喪女の夢物語としてもてはやさているようです。
ええ、私も「彼氏いない歴=年齢」の喪女幹部候補生の端くれとして、そういう話を少々たしなみました。
でもね、リアル世界にモテ期なんて存在しないのは常識ですが、異世界にトリップしてもどこにも転がっていませんでしたよ。
まあ、人生ってそんなもんです。
……でも、やっぱりこれはちょっとひどいと思います。
久山美紗子二十五歳、彼氏いない歴=年齢な私が異世界に行ったら、その世界の適齢期は二十歳まででした。二十五歳なんて年増扱いです。ということで、私はいとも簡単に後妻市場に分類されていました。
よくある、日本人は若く見られる!なんて特典もありませんでした。
いくつに見える?なんて浮かれて問いかけても、この国の人は少し若めに言ったり、逆に年上に言ったりという慣習はないんです。わかりやすくて嫌いではありませんがね。
その状況で、誰に聞いてもスパッと実年齢に近い数字をだしてくるってことは、もうダメですよね。誰に聞いてもだいたい二十五歳とストレートな答えが返ってきて、正解率が九十パーセントでした。残り十パーセントも一歳の差です。
全然若く見てもらえませんね、がっかりです。
当然のように、顔立ちが変わるという特典もありませんでした。
二十五年間、いつも見ていた顔と体型です。
黒髪黒目が珍しい、ということもないようです。人の集まる王都では、金髪から黒髪まで幅広く見ることができます。
肌の色は、まあ珍しいかもしれませんね。
だいたいが浅黒くて、その中に白に近い人もいれば褐色に近い人もいる感じ。
まわりをぐるっと見回すと、南米ってこんな感じかなぁって思います。
人種的には、白人と黒人とアジア系が混じった感じで、純日本人な私は多少珍しめな顔立ちかもしれないけど、閉鎖的な地方に行ったら、こんな人いるかもねってくらい。人類の多様性、バンザイです。
こういう世界ですから、浮きもせず沈みもせず、平凡に生きたい大和撫子にとっては最高の環境です。いろいろ苦労のある異世界トリップなんてしているのに、この平凡さですからね。平凡を愛する私でも、ちょっと涙が出てきます。
でも私の顔立ちは、この世界ではあまり平凡ではありません。他の人々の顔立ちは何と言うか……南米の混血美男美女って感じなのですよ。
真面目な顔で立っていても、エロさだだ漏れです。
十代後半の皆さんは、弾けるような色気が爽やかに漂っています。女の子たちは、ボンキュッボンで服が弾けそうです。
そういう若者たちが言葉をかわし、ダンスをし、恋を語るのを私は見ているわけです。
いいですか?
ただ見ているんですよ?
初々しく頬を染めながら手を握ったり。
お互いしか見えていない状態で腕を絡ませていたり。
これがドラマチックな展開なら、砂を吐きつつ映画鑑賞の気分にもなるでしょうが、とってもリアルな普通の青春です。この世界では完全におばさんな私の存在なんて、彼らにとっては空気です。誰も私を見ません。若い女の子と話しながら、私をチラチラ見るような青少年は一人もいません。
日本にいた頃、職場のお局さまがつぶやいていた言葉をしみじみと思い出します。日本にいれば私だってまだ二十五歳のピチピチですから、おじさんたちにお酌をしたりアラフォーなお局さまに妬まれる側だったんですが。
ああ、頭の中で彼女がつぶやいていた言葉が渦巻きます。
リア充爆発しろリア充爆発しろリア充爆発しろリア充爆発しろ……。
「……リア充爆発しろ」
あ、心の声が口からもれてしまったようです。
意外に大きな声だったようで、すぐそばで不動の姿勢で立っていた騎士様が私を振り返ってしまいました。
青い騎士服に、黒に鮮やかな緑色の太い縞が一本斜めに入った派手なマントをつけていますから、王国騎士団の騎士で、西の国境を担当している第四師団に属している方のようですね。
騎士らしい長身と鍛えた体型です。
肌は褐色と黒を合わせて白くしたような感じ、髪は黒の中に金色が混じっています。日本にいた頃なら、メッシュいれているんだなと思うところですが、この世界だから多分地毛でしょう。
一言で言うなら、セクシーな色気だだ漏れ男ですね。
この世界的には、適齢期から外れた立派なおっさんに見えます。でも、大人の色気ってこういうものなんだなと納得してしまいました。
目尻のシワとか、やや荒れた肌がこんなにエロく見えるなんて初めて見ました。きっと朝きちんとヒゲを剃ったのでしょうが、夕方のこの時間ですからね。ぽつぽつざらりとヒゲが伸びているんですが、それが無駄に色っぽいんです。
私はふと、ハリウッドスターの無精髭に鼻息を荒くしていた大学の先輩を思い出しました。
亜弓先輩、あの時冷たい目で見てしまってごめんなさい。ヒゲこそ命!と断言するあなたをかわいそうな目で見てしまった私が間違っていました。殴ってください。異世界にいるから無理だけど。
この国の人は、日本人の私から見れば、エロい雰囲気の人ばかりです。
振り返った騎士様は、その中でもひときわケシカラン色気でした。命のやり取りをしている男特有の危険な雰囲気が、またハシタナイほどエロいです。
そんな色気男ですが、私に向いた目はひやりとするほど冷たい青色なんです。唐突に、落差萌えを熱く語っていた高校の友人のことも思い出しました。
梨々香。理解するのが遅すぎたけど、あんたは正しかったよ。
あんな冷たい目なのに、かえってエロく見えるってすごいよね。これが落差萌えの神秘なんでしょうか。
しかも、あの顔に浮かんだ表情から察するに、完全に呆れているようです。ほっといてくれ。
「異世界の魔女殿。今のは何かの魔法ですか?」
けしからん色気男は、声までエロいです。
本人はそんなつもりはないでしょうが、低くて艶があって、なんか甘く聞こえます。耳元で囁かれたら腰砕けしますね。経験値低い処女には刺激が強すぎます。
でもそんなことは表に出さず、私は社会人生活で鍛えた鉄壁の愛想笑いを浮かべました。
だって、私のことを「異世界の魔女」と呼んだのです。
見た目では異形ではない私の素性を知っているということは、騎士の中でもかなりの上層部ということですから。
あぶないあぶない。
印象が悪くなって査定に響いたら最悪です。異世界で頑張っている甲斐がありません。まずは笑顔。その次に笑顔です。
「ただのおまじないですよ。騎士様」
「私のことは、パスズールとお呼びください。魔女クヤマ殿」
うわぁ、やっぱり私の名前まで知っていましたよ……。
一瞬だけ顔が強張りましたが、仕方がありませんよね。ちょっと胸がドキドキしてきますが、動揺を顔に出さないように気をつけます。
騎士様はそんな私に向き直って、丁寧な礼をしてくれました。日本のお辞儀とは違いますが、わりと頭を下げるのがこの国での礼ですから、あまり背の高くない私も騎士様の頭のてっぺんを見ることができました。
黒髪の中のナチュラル金髪メッシュがまぶしいです。
年齢は三十歳過ぎに見えましたが、薄毛の心配はなさそうですね。ちっ。
しかし、第四師団のパスズール様ですか? これはびっくりしました。あの有名なパスズール・アシュガ様でしたか。
あ、こちらの世界では日本と同じく姓が先です。名乗りやすいし呼びやすいからいいですね。
それにしても、このけしからん男が「あの」パスズールさんとは。
私は魔法使いで、同僚も全て魔法使い。そんなに人付き合いはありません。ですが、お世話をしてくれるお女中さんなんかは、非常に噂話が得意です。そういうお姐さん方から、パスズール様についてもいろいろ伺っていました。若い頃からイケメン騎士様として有名だったはずです。
同時に、前線の鬼神と恐れられる騎士様のはずですが、なぜこんな若人たちのイチャラブ舞踏会の会場にいるのでしょうか。警護と言っても、実戦に出まくりな騎士様にはゆるすぎると思うのですが。
「師団長のお供で都に戻ってきたのですが、人手が足りないからと動員されてしまいました」
「あー、なるほど、そうでしたか」
よくあることだと、ようやく納得しました。
普通はこんなことはないのでしょうが、この国ではよくあります。だってこの青春イチャラブ舞踏会には、王子様と王女様も参加していらっしゃいますからね。警護の人手はいくらあっても困りません。
しかし、第四師団のパスズール様には、少々役が不足していると思います。人材の無駄遣いですね。
実は、私も同じように動員された口でして。
異世界トリップで手にした唯一の特典で魔法が使えるようになった私は、異世界の魔女として一部では結構有名です。でもこういう警備なんかには向いていないと思うんですよね。私の魔法ってちょっと独特ですから。
「では、魔女殿も強引に動員されたのですか」
「ええ、まあ」
私は曖昧に笑いました。
上司ににらまれたくありませんからね。壁に耳あり障子に目ありってやつです。その気になれば盗聴を阻止する魔法を使えますが、若くはないけれど女性に人気のある騎士様と密室状態で密談なんてしたくはありません。
ただでさえ後妻市場に放り込まれているのに、ますます非モテ道まっしぐらですよ。
だから万が一に備えて、私はフォローの言葉を付け加えて見ました。
「普段はご年配な方々ばかり目にしているせいか、こういう舞踏会はとても華やかに見えます」
「普段は魔道研究所にいらっしゃるのでしたか?」
「半分くらいは」
残り半分は、各地を回って魔法を使いまくっているわけですが、世間話的にはこのくらいでいいでしょう。たぶん、騎士様も世間話というか、礼儀的に聞いてきただけでしょうから。
ここで、一旦会話が途切れました。
目の前で繰り広げられている若者たちのダンスも、ちょうど曲が終わったようです。
私と騎士様の間には沈黙が落ち、若者たちのところではきゃっきゃウフフな会話が繰り広げられています。
ああ、やっぱりこれは罰ゲームですか?
研究所長のいきつけの酒場で、キープしていた酒を飲んだのがばれたのでしょうか。それとも副所長に依頼された毛生え薬を作る時に手抜きしていたのがばれたのでしょうか。「頭髪が生える薬」と書かなかったから、体の毛だけがふさふさになってしまったようですからね。悪気はなかったんですよ。ちょっとしたうっかりミスです。
あ、私の魔法はちょっと特殊です。
日本語で文字を書きこむだけなんです。
そうすると、書いたものが文字通りのものに変わるんです。これはなかなか便利でして、私がこの異世界で言葉を通じさせることができるのもこの魔法のおかげです。
はじめは全然意思疎通ができなくて、イラついたあまりにマフラーっぽいものに「言葉がわかるようになる」とペンで書いてやったんです。そうすると、そのマフラーを身につけると相手の言葉ができたんです。
でも、私の言葉が通じない。ではでは、と「私の話す言葉を通じさせる」と書いたらバッチリでした。
問題は、文字を書く時に正確に書かなければならないので、毛生え薬のように中途半端な効果だけになってしまうこともよくあります。
まあ、命に別条はありませんけれどね。
「それで魔女殿。先ほどの、リアジュ……なんとかいう呪文は、どういう効果があるのですか?」
……色気だだ漏れ男様、結構しつこいご性格のようで。
世間話の域をこえてますよ?
あ、それとも私の魂の叫びだけは通じたのでしょうか。
第四師団のパスズール様って、確かまだ独身だと聞いています。モテ度はわたしとは比較にもなりませんが。
「本当に効果のないおまじないですよ。こちらの言葉に直すと……いちゃつく若者たちへの独身女の妬みの気持ちですね。ちょっと爆発しろっていう意味です」
「……妬み、ですか?」
「はい、妬みです。軽く爆発しろと思うくらいの、可愛らしい妬みですが」
ちょっと正直すぎたでしょうか。
でもいいですよね。日本ではまだ余裕があったはずなのに、いきなり年増とか行かず後家とかお褥辞退とか、そんな年代に分類されてしまった私の衝撃を愚痴ったって、バチは当たりませんよね。
どうせ、こんな色気だだ漏れ男様なんて、二度と会うことはないでしょうから。
しかし。
呆れて黙ってくれると思ったのに、けしからん色気男様は非凡でした。平凡な日本人女子である私の予想は完全に外れてしまいました。
なぜか、すごく面白そうに笑っています。何がそんなにツボにはまったのでしょうか。
「失礼。それで先ほどの言葉……リアジュバ……」
「『リア充爆発しろ』です」
「そのリアジュウバクハツシロという呪文は、本当に危険はないのですか?」
笑いを消して、少し声を潜めて聞いてくる顔は、非常に忠実で優秀そうな騎士様の顔です。でもエロいです。この騎士様も、外見は完全にリア充さんですね。ちっ。
「何を爆発させるかが指定されていませんし、何をリア充というのかも指定していません。まあ、何がどう作用するかわかりませんから、文字にはしませんよ。絶対はありませんから」
「それを聞いて安心しました」
色気騎士様は、にっこりと笑いました。
浅黒い肌がエロいです。
手袋をはめた手が無駄にエロいです。
少し乱れた金髪メッシュ入り黒髪がはしたないです。
きっちりとした制服姿が、逆に禁欲的すぎて目の毒です。ラテン風なエロ男様なのだから、いっそのこと上半身は全部前をはだけましょうよ。きっと筋肉がエロいと思いますよ。
すっかり喪女思考が染み付いた私が、八つ当たり的に不謹慎なことを考えていたというのに、パスズール様は実に爽やかな笑顔を向けてくれました。
「今は勤務中ですが、明日でも飲みに行きませんか?」
「は?」
「あなたとなら、リア充とやらを呪い妬みながら、楽しく飲めそうな気がするんです」
……おや?
喪女毒が脳に回ったのでしょうか。なんだか変な言葉が聞こえてしまいましたよ?
「あの、でも、あなたはどう見てもリア充でしょう?」
「まさか、顔だけを見ておっしゃっていないでしょうね?」
エロ騎士様は、ちょっと不機嫌なご様子。
まさに、顔しか見ていませんが何か?
偶然居合わせただけの色気騎士様の外見を無視できる聖人聖女なんて、本当にいるのですか?
私の顔は、きっと正直者なのでしょう。何も言っていないのに、パスズール様は少し機嫌を直してため息をつきました。
「私の職場は男だらけです。半径十キロ以内にいる女性は、孫が山ほどいる老婦人だけですよ」
「ああ、そういえば前線にいらっしゃるのでしたね。……いやいや、でも、そういうところにはそういうご商売のご婦人がいるものでは?」
「辺境の前線すぎて、全くいません。必要な男は休暇の時に十キロほど馬を飛ばします」
「あー……それはそれは……」
さすがにちょっと、同情したくなる職場環境です。
前線の軍人さんだから仕方がないのでしょうが、見渡す限り野郎ばかりと言うのは、きっと壮観というか壮絶なものだと思います。絶海の孤島にある男子校って感じなら、泣いていいと思いますもの。
喪女の分際で、私はエロ騎士様に親近感を抱いてしまいました。毒親に貯金全部持って行かれたり、酔った勢いで辞表を郵送してしまったり、とにかく日本に帰りたくない私に同情されるなんて屈辱だろうとは思いますが、ついつい慰めるような口調になってしまいます。
「あ、でも、都市部には時々でも戻っていらっしゃったのでしょう?」
「前線を離れたのは五年ぶりです」
「うわぁ……っと、でも、第四師団のパスズール様といえば、エロ……じゃなくてイケメン騎士として有名だと噂は散々伺っていましたよ」
「どんな噂か知りませんが、五年前のイメージでしょう。軍人の五年は長い。歳をとった上に容色が衰えた私に、本気で声をかけてくる女性はいませんよ」
「そ、そんなことは……あるかなー……」
「女性の多い都に戻っても、もはや昔ほど声をかけてもらえない。なのに、こんな目の毒な場に立たされているんですよ。ここまで婚期が遅れて焦っているのに、上司も全く配慮してくれない。まさに、リア充爆発しろな気分でした」
吐き捨てるように言い放ち、舌打ちまでするパスズール様は、爽やかイケメン王子様のような清涼さはないけれど、荒んだ色気が漂っていて十分にエロいです。やっぱり服の前ははだけましょう。退廃的な男の魅力に酔えると思いますよ。
……しかしですよ。こんな素敵な騎士様でも、リア充爆発しろと唱えたくなるなんて。この世界は、実に恐ろしいところです。しみじみとそう思いました。
広間に、また音楽が鳴り響き始めました。
集う男女が若さ全開で笑いあい、手を握り合い、腕を組んで飛び跳ねます。みなさんお若いから、ゆったりした曲より、こういう軽やかで楽しくてアップテンポなダンスが楽しそうですね。
ドレスの裾を踏んでしまって、きゃっとか言いながら相手にすがりつくなんて、何ですかその高度なテクニックは。
他のカップルにぶつからないようにとか言いながら、男性が細い腰をぐいっと引き寄せたりするのも、急にワイルドに見えてときめくでしょうね。
…………。
何でしょう。今すごくイラっときましたよ?
「……リア充爆発しろ……」
「…………ちっ」
私の低いつぶやきは、苛立たしそうな舌打ちとぴったりあってしまいました。
驚いて目を上げると、黒髪に金髪メッシュな色気だだ漏れ騎士様と目が合いました。
視線が合うと、お互いの心の叫びを読み取ってしまいます。
ああ、彼は同志ですね。
リア充っぽいお姿ではありますが、魂のレベルでは同志です。間違いありません。外見に騙されていましたが、パスズール様は魂の双子、非モテ道の同志です。
私たちは、ごく自然に微笑みあっていました。
言葉なんて必要ありません。
つまらない呪詛も必要ありません。
私はぐいっと右手を差し出しました。差し出してから、この世界の騎士様に握手の風習はあっただろうかと心の中で首を傾げました。
しかし、魂の双子である騎士様は戸惑う様子もなく、満面の笑みのまま私の右手を握りました。同志の握手を実現し、私はいつになく高揚していました。今なら、目の前でキスする若者を見ても穏やかに見守れる。そのくらいには高揚していました。
だからたぶん、反応が遅れたのだと思います。
パスズール様は、同志の握手の後に……私の手の甲に口付けをしました。
こ、これはどういう意味なのでしょう。
「あの、パスズール様?」
「明日絶対に飲みましょう。約束ですよ」
「あー、えーっと、では他にもそこそこ若い女性を何人か呼びましょうか」
いわゆる合コンのセッティングですね。
虚をつかれたのか、騎士様は一瞬だけ目を見開きましたが、すぐにまた面白そうにエロく笑いました。
「ではこちらも、活きのいい男を呼んでおきましょう。でも、あなたは私の隣に座ってください。あなたと一緒でなければ楽しく妬めない」
「何ですかそれは」
「飲む場所は、若い男女が多い場所にしましょう。同行者たちも気合が入るでしょうし、我々も心ゆくまでリア充を呪い妬むことができますから」
「なるほど。自虐的な観察会も兼ねるわけですか。悪趣味ですね。でも了解しました」
私がうなずくと、パスズール様はふっと微笑みました。
何ですか、そのけしからん笑みは。
一瞬、膝から力が抜けそうになったではありませんか。エロさは暴力ですね。
何とか立ち続ける私に、騎士様はもう一度手への口付けを強行し、姿勢と視線を元に戻しました。
直立不動の第四師団の騎士様の横顔は、それはそれは凛々しく官能的でありました。
読んでいただき、ありがとうございました。
この短編を元にした連載版も書きました。
続きに興味がある方は、そちらも目を通していただけると幸いです。