流布
2022年11月23日正午12時03分:紅魔館
湖畔の中に浮かぶ大きな洋館の主、レミリア・スカーレットは、
メイドの咲夜を横に仕えて射命丸の新聞を読んでいた。
普段は読まないが、少し周りから噂を聞くので情報を集めようとしたばかりだ。
"文々。新聞
またもや異変か!?
紅霧異変、春雪異変に次ぐ大異変前兆の可能性"
大きく"号外"の印が押された新聞には、3日前の出来事が記されていた。
新聞としては失格である。
レミリア「私達、大異変の首謀者だったのね。」
咲夜「喜ばないでくださいよ。お嬢様の悪人としての印象が広まるのは
避けなくてはなりませんから...」
レミリア「私としては格好がついて良いと思うのよね...」
-謎の人工落下物、河童も生産困難な素材を使用-
ここは私も驚きました。何せ、この幻想郷の河童でさえ製造困難な素材を使用した落下物、
異変じゃない訳がない。
河童らは人間製造元説を真っ向から否定していますが、じゃあ一体誰がといった心境。
同落下物を鑑定して頂いた森近霖之助さんによると、これは"燃料を運ぶ容器"なんだとか。
私を襲った大きな鳥も同時期に出現し、
あの暗く雪で視界の悪い中的確に私の位置を当ててきた所をみると、やはり関係が深そうです。
他のページもぎっしり異変について記述されている。
"人間の里の像、目の色が赤色に近くなる"
"多数の死者発生-御用天狗、警務の強化を発表"
咲夜「本当に大変な事になってますね...」
レミリア「咲夜、美鈴に今週だけは本気で居眠りしないよう伝えておいて」
咲夜「はい、気を付けるようには言っておきます。」
咲夜はそう言い、部屋を後にした。レミリアは新聞を畳み、窓から遠くを眺めながら呟く。
レミリア「面白くなりそうね...」
...
「神奈子様ぁー!!!」
緑の髪をした少女は、縁側をドタドタと走りながら捜している人物の名前を叫ぶ。
文々。新聞の号外刊を手に持って。
神奈子「なんだい早苗、そんなに叫び回って。」
早苗「あっ、神奈子様!!天狗新聞見ましたか!?」
神奈子「文々。新聞ねぇ、読んだよ。
また此処が外の世界と繋がったんだってねぇ」
早苗「現代の人間の兵器が観られるんですよ!!?戦車、レーザーに巨大ロボット!!
一度でいいから見てみたかったんですよ!!」
早苗は目を輝かせながら飛び跳ねる。
「潰されそうだから巨大ロボットは嫌だなぁ」
何処からか、大きな目の着いた帽子を被った子供が現れた。
早苗「あ、諏訪子様!!何処に居らしたのですか」
諏訪子「ちょいとそこにね...」
.........
その一時間後:魔法の森上空
魔理沙「霊夢、三日前のあれ、本当だったんだな!!」
霊夢「ええ...今回の異変は今迄で一番の規模かもしれないわ...!!!」
霊夢と魔理沙は人間の里へ向かって飛んでいた。
人間に警告するためだ。
妖怪は自分の身をある程度守れても、人間はそうはいかない。
霊夢「何でよりにもよってこの時期なのよ...!!!」
霊夢は3日前の出来事を反芻して、どうにもならない苦情を漏らす。
そう、香霖堂でのやり取りの後の事であった...
〈3日前〉
人間が外から入ってきてる。
そう言ったのは、いつの間にか室内に入ってきていた九尾の狐、八雲藍だった。最も、本人は極めて落ち着いているようだが。
魔理沙「うわ、いつの間に」
霊夢「...結界は壊れて無いのに、どうして入って来てるの?」
藍「壊れているから入って来ているんですよ。
今も紫様もお眠りなさっているところを見ると、
壊れているのに誰も気付かなかったようですが」
霊夢「..........!?」
魔理沙「な、何で壊れてるんだぜ...?」
藍「理由は分かりません。ですが、外の世界と繋がっている事は容易にご想像出来ます」
座って水煙草を吸っていた霖之助が横から九尾の狐を呼びかける。
霖之助「九尾君、ちょっといいかな」
藍「...何でしょう?」
霖之助「君は、この事態は人間が起こした、と聞いたら、信じるかい?」
藍「...不毛な質問ですね。人間がこの様な事、出来る筈が有りませんから。
...霊夢さんは近日中にでも人間へ警告しておいて下さい。それと、そこの鴉天狗」
名前を知らないのか眠っているからなのか、文を不躾に呼びつける。
文「ん...ん〜...はぃ?」
藍「あなたは直ぐに警報書を作って山や森に警告を発して下さい。
私は紫様の御身を護る事に専念致しますので、宜しくお願いしますよ」
文「うあ、あーはい...」
...
そう、今人間の里に向かっているのは、正にハルマゲドンと言えよう今起こっている事、
これから起きうる事を警告として伝えに行くためだ。
刻一刻と危機が近付いているという事を考え、ぐんぐんと速度を増して行く。
魔理沙「今回のこの異変で、また変なのが来るって事か?」
霊夢「ええ、きっとね。でも、問題はそこじゃないわ。
...結界を掻い潜る程の考えられない力を持ってるやつが相手って事が..
一番の脅威だわ....!!!」
そう。本来、幻想郷は人間の勢力が増し、
肩身の狭くなった妖怪達が自分の身を守るために結界を張り、
平和に過ごしてきた謂わば桃源郷の様な場所だ。
そこをこじ開け侵入したという事があり得ないのであった。
そして、かつての覇権を握っていた妖怪を駆逐するかの如く、
人間が幻想郷を蹂躙する。
憶測の域を出ないものの、霊夢はこれから起こる事を予見していた。
特殊な素材の落下物。
謎の怪鳥。
人間が外から入って来ている。
同時刻:永遠亭
果てしなく広い竹林の中に、一つの小さな屋敷があった。
永遠亭。
ここにも、異変を伝える風の報せが吹いていた。
あり得ない傷の負いかたをした白狼と共に。
この屋敷に住んでいる者の一人はこの幻想郷では一番、
そして唯一の医者である。その医者の名は八意永琳。
「師匠!!大変です!!!」
いつもの様に薬を調合していると、少女が紙切れを掴んで入ってきた。
この大きな兎の耳のついた少女、優曇華院もまた、この屋敷に住んでいる者の一人である。
永琳「あらあら、うどんげ、何処へ行ってたの?」
優曇華院「竹林をちょっと散歩しに...そしたら射命丸さんに会いまして、これを渡されたんです」
手に持っていた紙を広げ、永琳に分かるように示す。
"[緊急警報]個人の人命・財産に拘る重要な通知書"
現在幻想郷外部から人間が流入し、一部地域で攻撃を受けており
非常に危険な状況下にあります。
文々。新聞関係者共々、全力で原因究明に当たっております。
今は人妖共に協力すべき時です。正しい情報を共有し、お互いを助け合いましょう。
永琳「...この前の患者、これに関係がありそうねぇ...」
優曇華院「ちょっとまえの白狼の集団ですね?」
永琳「ええ...あれは本当に酷かったわ...」
たった少し前の出来事だった。
血に塗れた白狼が、次々に此処へ来た。
四肢が吹き飛んでいた者。
両目玉が破裂していた者。
顎を削がれた者。
精神をやられ、叫び続ける者。
もはやこの世の物とは思えない惨たらしい姿を前に、
医者として慣れていた自分でさえ、言葉も出なかった。
あれが本当に人間の仕業なら、妖怪退治としては完全に度を超えている。
優曇華「.........早くに収まればいいのですが」
永琳「ええ...本当に...」
同日午後6時30分
女子アナ《こんばんは。》
男子アナ《こんばんは。午後6時半、エブリィニュースの時間です》
女子アナ《国家間の緊張が高まりつつあります。
アメリカとロシアの緊急会談が今日、ホワイトハウスにて行われました。》
女子アナがいつもどうりに喋り、VTRが流される。
これはもうごく一般的な形態となっていた。
ナレータ《今日午後3時ごろ、ロシアのプーチン首相がホワイトハウスへ訪問、
オバマ大統領との緊急の会談が開かれた。》
"アメリカ軍の撤退を要求する"
ナレータ《プーチン首相はロシア領土への軍事行動はまっとうな"侵略行為"だと主張、強く非難した。
アメリカはそれに対して"北朝鮮に占拠された樺太を奪還するために協力している"
としたものの、ロシア側はこれを拒否し、撤退のみを要求。
場合によっては交戦の可能性もあると示唆した。
両国の間は依然緊張状態が続いており、一歩も油断できない状況に追い込まれている。》
男子アナ《...はい、この出来事、》
女子アナ《はい~。》
男子アナ《この出来事がですね、ボソッターなどのネット上で"樺太危機"と言われて》
女子アナ《はい、》
男子アナ《今かなり話題として上がってるんですね》
女子アナ《いや~、もう、ホントに恐いですよね》
男子アナ《ええ。》
女子アナ《もう、戦争が起きる可能性も考えられるんでしょうか》
男子アナ《はい、ではその事について、専門家の...
学生A「これほんまに戦争おこるんちゃう?」
学生B「おこらんやろ。絶対ちょっと騒いでおわりやん」
学生C「いや~でもわからんよ?もうアメリカが樺太おるって」
学生B「何でそんなん知っとん?」
学生A「6ちゃんのそくほう掲示板みたんやろ?」
学生C「うん。アメリカの戦艦が宗谷海峡におるって」
学生A「戦艦ちゃうわ!揚陸艦やで?」
学生B「そんなん知らへんわぁミリオタwww」
学生C「あ、餃子あと一個やん」
学生A「もいっこ頼もうや」
学生B「はぁ?嘘やろオメェー」
学生C「あのぅ、すいませーん」
店員「はい、御注文は?」