井の中の蛙、大海を知る
日本時間午前10時27分:南樺太海岸線以南 約2マイル地点
沖縄に存在する米軍基地から派遣された、いわゆる「在日米軍」の揚陸艦から発艦したヘリコプター部隊が、
偵察機のパイロットを救出する為に樺太に向かっていた。
その部隊の中に、一人女性がいた。
軍規により切ったショートの金髪、グレーの瞳孔の白人女性。
その女性はベノム汎用ヘリのドアガンに着いており、
辺りを警戒するでもなくただ周りの僚機を眺めながら煙草を吸って暇をもて余していた。
レフトガンナー『おい、レメディ!すまんがもう一本あるか?これで最後だ!』
背中合わせの兵士がその女性、レメディにタバコをねだる。
レメディ『残念ねスコット、もう切らしてるわ』
そう言い彼女はヘリの外へ煙草の箱を放り捨てる。
工兵『スコット、お前はビビって吸いすぎなんだよ!もう10本は吸ってるぜ!?
彼女を見習えよな!』
スコット『てめぇこそ、さっきからマガジン抜き差ししてんじゃねぇよ!
落ち着かねぇのかぁ!?』
工兵『へっ!俺ぁいつでもお前みてぇなマスかきをぶっ殺せるように準備してんだよ!
やる気がお前とはまるで違ぇぜ!!』
兵士の、いや、男のこういうやり取りは面倒だ。
気合いを入れる為だろうが、自分には無駄に感じる。
...そうこうしている内にもう見えてきた。偵察戦闘機の墜落した島、樺太。
パイロット《『11時32分、これより作戦領土上を飛行する。警戒を厳に』》
バイパーパイロット《『ロケットポッド、ミサイル共に異常無し。』》
工兵『よしゃあ!レメディ!やってやろうぜ!!フォー!!』
レメディ『敵が出たらね!!出たら撃ちまくるのよ!!』
M134ミニガンの電源を入れ、最後の一服を肺に叩き込む。
吸殻を投げ捨てた時点で、完全に戦闘態勢に入った。
と、その時、後ろのガンナー、スコットが何かに気付いた。
スコット『んん?おい...あれ見ろ!!町があるぞ!!』
スコットが指差す向こう、遠くに小さな町が見えた。
確かに建物が密集している。
工兵『はぁ!?まだ市街地なんてこっから200kmは先だぜ!?』
スコット『でもあれよォ...確かに町だろ!?』
レメディ『ええ...これ、報告した方が良くないかしら?』
そう言うと、スコットは即座に無線機を抜き、連絡を取り始めた。
スコット『ハイドラ1-4、ハイドラ1-4!!至急画像を撮影しろ!
8時の方向に市街地らしきものを目視で確認!!』
バイパーガンナー《『こちらハイドラ1-4、了解した。IR、及びズームカメラで撮影する。』》
工兵『ありゃマジだぜ...どうなってやがんだ...?』
バイパーガンナー《『座標データをAWACSへ送信した。衛星画像の撮影を現在行っている。』》
...
白狼1「...何だあれ?」
白狼2「分からない。群れで飛んでるぞ。」
森の中で警羅を行っていたらしい、白い尻尾のついた少女二人は、
2km程先で低空飛行するヘリコプター部隊を発見していた。
白狼1「もしかして、あれ?椛が言ってた妖は」
白狼2「でも、あれは落ちたって言ってたぞ」
白狼1「死骸の臭いに気付いて来た、ってとこかなぁ」
白狼2「...何にせよ、追いかけた方が良さそうね」
二人の少女は木から降りたと思うと、森の上へと飛んで行った。
その内の一人が指をくわえ、犬笛を吹いて仲間を呼ぶ。
同日同時刻:魔法の森
アダムは昨日の夜から動物とばかり闘っていた。
野犬、熊、狼、恐ろしい顔の猿、そして謎の民族。
何だったんだあれは?白い髪、それに乗る大きな耳、そして大きい尻尾...
長大な剣を持って、数人掛かりで襲いかかってきた。
シートにあった救命物資の中にM4があるのは助かったが、弾薬はもう1マガジンしか無い。
救命シグナルのバッテリーはまだ十分あるが...
ストッ!!
アダム『うおっ...!糞がぁまた奴らか!!』
後から長い弓が頬を掠め、向かいの木に突き刺さった。
アダムは反射的に隠れられる窪みへと避難する。
アダム『何処だ何処だ何処だ糞が何処だ.....!!!!!』
頭を僅かに出して敵を探す。しかし、アダムは既に狙われていた。
白狼「ほらぁ...がら空きだぞぉ...!?死に晒せ...!!」
弓を目標に向けて強く引き絞る。心を落ち着かせて、狙いを定め...
アダム『クソ共があああああああ!!!』
アダムが突然小銃を数発、空へ発射して威嚇する。
それに白狼は驚き、指がすっぽ抜けた。
白狼「うわっ!!...ふっざけるなぁ!!」
アダム『こっから声が声が...そこかぁ!!』
白狼の容姿は森ではよく目立つ。
アダムはその局所的に白い部分に向かって小銃を発砲する。
白狼「ぎっ..!!?」
が、ギリギリで盾に弾かれてしまう。
白狼「正体が分かれば後はこっちのも...ん?」
アダム『...もしかして、来たかぁ?』
バラバラと大きな音が遠くから聞こえる。
白狼には分からないが、アダムには馴染みのあるあの音。
みるみるうちにこの場へと近づいていき、やがて姿を現す。
バイパーガンナー《『IRストロボ確認!!レーザーペイント照射!』》
ベノムパイロット《『こちらミスフィット3-2、目標を捕捉した。高度を下げるぞ。』》
白狼「な...何よこれは...!!」
アダム『はっはぁ!!ママが帰って来たぜぇ!!悪ガキは帰りなぁ!!』
声を震わせ、驚愕する。白狼は反射的に逃げ始めた。
それに照準を合わせ、ガンナーは容赦なく引き金を引く。
レメディ『敵兵、確認ー!!』
ブワアアアアアアッと凄まじい音を出して暴れるミニガンから
飛び出した銃弾を白狼は真後ろから受け、文字どうり身体が弾けて即死した。
レメディ『うっわ...エネミーダウン、エネミーダウン!!』
スコット『レフトサイド、敵無し!!』
工兵『オッケェーイ、目標回収開始!!』
アダム『ご苦労さーん!!あんたら最高だぜ!!』
工兵が回収用のワイヤーを下ろし、アダムが受け取りに向かう。
と、その時。
バイパーパイロット《『レーダー検知!!多数の航空機!ミスフィット3-2、5時の方向!!』》
レメディ『了解したハイドラ1-4、これより迎撃する!!
...お願いだからパイロットさん、急いでよね..!!』
工兵がレメディの横に来て航空機を探す。
が、肝心の航空機は全く見つからない。
工兵『レメディ、航空機が見えるか!?俺にはさっぱりだ!!』
レメディ『私にも見えないわ!!ハイドラ1-4、敵は何処に居るの!?』
バイパーガンナー《『ミスフィット3-2、先ほどWHOT(熱探知白強調画像)にて確認した!!
目標は極めて小型だ!!』》
スコット『あぁ居たぞ!!森の稜線!!ありゃあ...人だ!!!』
スコットが指差す先に、先ほど撃った敵と同じ色の人間らしきものが、
空中を飛んでこちらへ向かって来ていた。
あり得ない光景に判断が遅れ先手を取られる。
凄い数の光弾が一斉にこちらへと放たれ、一気に制圧を掛けられた。
レメディ『何なのよコイツら!!撃て撃て撃てぇ!!』
ブワアアァァァァァァァァァァァン!!!!!!
「うおがっ!!」「ギャッ!!!」「一体何よあれは!?」
弾丸をばら撒きながらも的確に命中させ、数を減らしてゆく。
工兵『うおおおお!!?何だこいつら!?空飛んでやがるキメェ!!!』
白狼「くすくす...背中は何もないなんてねぇ...」
その群れの中に、ベノムの後ろに回りこんだ白狼が居た。
ベノムのローター軸へ光弾を撃ち込もうとした時。
バイパーパイロット《『後ろで止まってるぞ!そいつを殺れ!!』》
バイパーガンナー《『もう狙ってる!!API発射!!』》
ドココココッ!!
白狼「ぶがっ!!!!!」
背後へと滑り込んできた戦闘ヘリのM197機関砲から徹甲焼夷弾が発射され、
その内の一発が白狼の腰から腹部まで貫通する。
貫通した衝撃で飛ばされ向かった先は、
ベノム汎用ヘリのメインローターだった。
白狼「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
バギャギャギャギャギャギャッと砕ける音が響いた直後、
ベノムはバランスを崩し始めた。
スコット『うお?うおおお!?傾いてるぞ!!』
ベノムパイロット『ダメだ、出力軸が乱れてる!!回転するぞ!!』
ゆっくり回転しながら高度がどんどん下がって行く。
レメディ『出ろー!!全員脱出!! .........うあっ!!』
レメディが飛び降り、地面に強く叩きつけられた後に、
ベノムのローターか複数の大木に触れ、いきなり逆方向へ回転し始めた。
自分以外はまだ誰も脱出出来ていない。
ローターの破片から身を守るために、レメディは急いで近くの岩の陰へと避難する。
バイパーは白狼達にまとわり付かれもう墜落寸前だ。
機関砲の流れ弾が地面に着弾し、勢いよく森を燃やしている。
この様子だとまた増援が来るのも時間の問題だろう。
ベノムが墜落し、横倒れになって停止した。
黒煙を吹き出しているようだが、
あの衝撃の中でもスコット達は生きて居たらしく這い出てこようとしていた。
レメディ『スコット!!生きてたのね!!あの様子だと死んでたかと思ってたわ!!』
スコット『アホが!!俺があの程度で死ぬわきゃねぇだろ!?』
と、元気な様子をアピールしていた時。
白狼に攻め立てられていたバイパーが大木へ衝突し、それが倒れかかってきた。
レメディ『あ...!!スコット!!木が!!』
スコット『はぁっ...!!?』
這いずって出てきたスコットの太股の上へ大木が倒れ、
そのままズドンと両足とも引き潰してしまった。
スコット『おぐああぁぁぁぁあぁぁあぁああ!!!!!』
レメディ『スコ...スコット!!』
一心不乱に駆け寄っていく。見ればもう完全に潰れており、
回復は不可能な上挟まれて出られなくなっていた。
ヘリからは燃料が漏れ出し、引火は時間の問題だ。
白狼「やったぁ!!全滅だ!!」
白狼「叫び声が聴こえる?向こうだ!」
白狼達が声を聞いて近づいて来る。まだ完全には見つけていないらしい。
『よぉねえちゃん、こいつぁもうダメだ。出られなくなってる。こいつには悪いが、
今すぐ逃げなきゃ全員死ぬぜ』
後ろから男の声。振り向くとそこには対Gスーツを着た、回収目標のパイロット、アダムだった。
レメディ『...はあ? 駄目よ...行けない...』
アダム『...分かんねぇ奴だな、もうどう見ても助からねぇだろ!!』
レメディ『嫌よ!!スコット、今すぐ出すわよ、それまで耐えて!!』
レメディは横たわる大木を一人で持ち上げようと試みる。
無論、持ち上がる事は無い。
アダムが引き剥がし、連れていこうとする。
アダム『無駄だと言ってんだろ!!その内奴らがやって来て、全員オシャカだぞ!!』
レメディ『だからアンタが決める事じゃ...』
スコット『...うるっせぇよレメディ...俺を今どうこうして、後はどうすんだぁ...?
早く行け、あいつらが来る...!!』
レメディ『スコット?え?何でよ、何で一緒に行こうとしないの...?』
アダム『お前を心配しての事だろ、急いで行くぞ!!』
アダムが強引に腕を引っ張る。
レメディ『スコット...スコット...!!!』
アダム『姿勢を低くしろ!!もう見るな!!!』
レメディ『...っぐ....クソ...!』
アダム『......................。』
白狼「そこに居た!!足挟まれてる!!」
白狼「よーし、全員で捕らえろ!!」
11時56分:ヘリコプター部隊との通信が途絶