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樹から落ちたカラス

書いてる小説がちょっと内容的に重たくなってきたので息抜きと勢いで書きました。


誤字や間違い等あればご指摘いただければ幸いです。


短く纏める予定なのでよければ最後までお付き合いください。

遮るものが1つとしてない青空から、燦々と降り注ぐ陽光。


その光を浴びながら今も成長を続ける大きな樹があった。


ある時を境に、その樹の側に勝るとも劣らない大きな家が建つ。


そこを中心に、少しずつ家々が建ち並んでいき、いつしか小さな町が築きあがっていた。


その頃には樹も随分大きなものへと成長し、いつしか大樹と呼ぶに相応しい大きさまで成長した。


そんな樹の上で一つの命が産まれる。いや、正確には三匹。


黒い羽に黒い瞳、そして黒い嘴とやはり黒い足を持つ鳥。


そう、カラスである。


だが、そんな三匹の中に、一匹だけ異質な存在が居た。


嘴や身体は白く、烏のイメージカラーたる黒は瞳のみ。


本来は逆であるその色はまさに異質と言う他ない。


これは後にキュウと呼ばれるカラスの物語。







生まれて間もない子供たちは、当然自分で狩りをすることが出来ない。


そんな彼等の為にせっせとご飯を狩ってきてくれる両親。


三匹は今か今かとご飯を待ちわびていた。


「あー…お腹減った。」


三匹の中でも最も体躯の大きいカラス、ダイは巣の端を嘴で軽くつつきながらそう愚痴をこぼす。


「おとちゃん、おかちゃん、がんば、てる。さわぐ、よくない。」


たどたどしい口調で喋るのは、三匹の中で一番小さなカラスのチュウ。




三匹は親の庇護のもと順調に育っていくが、狭い巣の中で三匹が大きくなるにつれ、それは更に狭くなっていく。


そして、一際体の小さな一匹は高い木上にある巣の中から餌を貰うときに不意に押されて落ちてしまった。


まだ飛ぶことが出来ないそれは、必死に翼を羽ばたかせるが、減速こそすれど、やはり空を飛ぶことは叶わず地面へと叩きつけられる。


小さな小さな命にとってそれはまさに致命的な出来事で、それはゆっくりと自分の命が薄れていくのを感じていた。


もはや痙攣するように身体が勝手に動くのみで、自分の意思では動かない。


徐々に体を満たしていく死の気配の中で、それは確かに声を聞いた。


「あらやだ、大変。大丈夫?」


優しい優しいその人の声を……。





暖かい光の中、僅かに意識が覚醒するが、身体中が妙に怠いため再び瞼が降り始め、閉じることなく止まった。


「よかった…。意識が戻ったのね。」


『……っ!?』


その黒い瞳に映ったのは髪が真っ白に染まった老婦人。


親兄弟以外の姿をこんなに間近で見たことは初めてで、思わず目の前の人を暫く凝視していた。


逃げなくてはと思い至り、体を動かそうとして声ならぬ声を漏らした。


「あらあら、駄目よ。まだ身体は完治してないんだから。私の力じゃあ一息で治すとはいかないの。ごめんなさい…家族が恋しいとは思うけど、もう暫くは我慢してね。」


優しい声にほだされた訳ではない。


ただ、体が動かないだけ。


今は無理でも、身体が動くようになったら逃げなくちゃ。


白い烏は、諦めたように目を閉じ身体を縮こまらせるようにしながら眠りについた。





烏は夢を見た。


日溜まりの中でお昼寝をしている夢。


それは暖かく、優しい夢。


ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ


その夢が、不粋な音で壊された。


だが、心地良い光は、夢と変わらず白い烏に降り注いでいた。


「ごめん、なさいね。」


ゴホッゴホッ


「起こすつもりはなかったんだけど。」


カラスと同じく、白い髪をした先程の女が右手から優しい光を烏に注ぎながらも、苦しそうに何度も咳をする。


何でこの人は、僕に優しい光をくれるんだろう?


…こんなにも辛そうなのに。


白い烏は烏の本能ともいえる能力で、死の気配を女から嗅ぎとり、そっと嘴で手のひらをくわえる。


止めて。


ダメ、ダメだよ。


死んじゃうよ。


いまだ痛みから声を発することが出来ない烏は、精一杯力を振り絞って女の手を降ろさせようと力を加える。


「優しいのね。ありがとう。」


女は優しく微笑むと、小さく息をつき、烏にされるがままゆっくりと手を降ろす。


よかった。


キラキラで、優しい人。


まだ死なない。


ほんとに、よかった。


烏は、再びやって来た眠気に抗う事が出来ず、ゆっくりとその瞳を閉じた。




どの位い時間がたったのか。


烏は空腹を覚え眼を覚ます。


と言うのも、母や父がせっせと運んできてくれた魚の臭いが香ってきたからだ。


魚。


魚の臭い。


ご飯。おかあさん、おとうさん持ってきてくれた?


眼を開けば、小さな山を作っている小魚が目に入り、本能のままそれらを呑み込んでいく。


お腹が満たされ、不意に自分が何処に居るのかを思い出す。


おとうさん。おかあさん。


…会いたい。会いたいよ。


喉の奥から漏れ出るような声が部屋に響く。


「…起きたのね。ご飯は、食べれたみたい。よかった。」


蔦で編まれた椅子の上で眠っていたのだろう。


蒼い瞳が少し赤くなっている。


もしかしたら眠ったばかりだったのかもしれない。


その眼をじっと見つめていると、烏はあるものに気付く。


知ってしまう前であれば、なんとも思わなかっただろう。


でも、知ってしまった。


女の優しさを


暖かさを


変わらず其処に佇む…死の気配を





樹から落ちて三日経ち、カラスの傷は随分良くなった。


暇さえあれば優しい光をカラスに注ぐ女のお陰だ。


光を浴びることで、傷が癒されていく事に烏は直ぐに気付いた。


だからこそ、その度にどんどん濃くなる女の死の気配に烏は心を痛める。


なんで?


どうして?


あなたは僕に命を分けてくれるの?


僕は…





何も返せない。





ほとんど傷が癒えた烏を、女は巣に戻そうと考える。


しかし、日に日に弱っていく自分では高く高く聳え立つ大樹の上まで登れる自信がなかったため、女の家に仕える執事に烏の事を頼もうとしたのだが


誰?


こわい!


こわい!!


来ないで!


今まで見た事がなかった女以外の人に、烏は恐怖に暴れまわる。


どれ程捕まえようとしても、跳んでは逃げ、跳んでは逃げと、男にはなかなか烏を捕まえることが出来なかった。


それでも、病み上がりという事と、まだ空を自由に舞うことが出来ない烏は徐々に追い詰められていく。


こわい!!こわい!!


だれか!助けて!!


烏は思わず女の懐へと飛び上がり、女に身体を擦り付ける。


助けて、助けて。


「あらあら…これではダメねえ。」


優しく烏を抱き留めると、男から隠すように身体を反転させる。


「奥様…それではまるで私がその烏を苛めているみたいではないですか。」


「あらあら、違ったの?」


フフフッ、と優しい声で笑いながら、測らずも甘えてきた烏の頭をそっと撫でる。


「もう大丈夫よ。こわいおじさんからは私が守ってあげるわ。」


「………はぁ。どうか、お年を考え行動してくださいませ。」


思わず口から漏れるため息は深く、しかし、嫌みは感じられない。


男には、この後女がどんな事を言い出すのか容易に想像がついたのだ。


「あら?私が何をしようとしてるかわかるの?」


「誠に遺憾ながら…わかります。」


「じゃあ、せーっので一緒に言ってみましょうか?せーっのっ「私がこの子を巣に返してこようと思うの。」」


女は瞳を何度か瞬かせた後、フッ、と顔を和らげる。


「御体に障ります…と言っても、聞いていただけないのでしょうね。」


「だって、カンムルではこの子に近付けないじゃない?」


うふふっ、と楽しそうに笑う女とは対照的に、カンムルと呼ばれた男は悲しげに顔を伏せた。

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