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 ……朝。太陽が東から昇り、新しい一日が始まります。


「んんん……」


 まだ寝ぼけ眼な「彼女」を、優しく起こす人影がありました。


「おはよう♪」


 爽やかな声が聞こえてくるのは、一方だけではありません。「彼女」のベッドを中心に、四方八方から何度でも聞こえてくるのです。


「おはよう♪」「おはよう♪」「おはよう♪」「おはよう♪」「おはよう♪」「おはよう♪」「おはよう♪」「おはよう♪」「おはよう♪」「おはよう♪」


 そして、その声が聞こえるのは、「彼女」の寝室に留まりませんでした。声の主たちと共に一階へと降りていった彼女を向かえたのは……


「おは「おはよう♪」よう♪「おは「おは「おはよう♪」よう♪「おはよ「おはよう「おは「お「おは「おはよう♪」よう♪「おはよ「おはよう♪」う♪」」「お「おはよう♪」は「おはよう♪」よう「おはよう♪」♪」はよう♪」よう♪「おはよ「おはよ「おは「おはよう♪」よう♪「おはよ「おはよう♪」う♪」」「お「おはよう♪」は「おはよう♪」よう「おはよう♪」♪」う♪」う♪」」「お「おはよう♪」は「おはよう♪」よう「おはよう♪」♪」♪」う♪」」「お「お「おは「おはよう♪」よう♪「おはよ「おはよう♪」う♪」」「お「おはよう♪」は「おはよう♪」よう「おはよう♪」♪」はよう♪」は「おはよう♪」よう「おはよう♪」♪」よ「おはよ「おは「おはよう♪」よう♪「おはよ「おはよう「おは「お「おは「おはよう♪」よう♪「おはよ「おはよう♪」う♪」」「お「おはよう♪」は「おはよう♪」よう「おはよう♪」♪」はよう♪」よう♪「おはよ「おはよ「おは「おはよう♪」よう♪「おはよ「おはよう♪」う♪」」「お「おはよう♪」は「おはよう♪」よう「おはよう♪」♪」う♪」う♪」」「お「おはよう♪」は「おはよう♪」よう「おはよう♪」♪」♪」う♪」」「お「お「おは「おはよう♪」よう♪「おはよ「おはよう♪」う♪」」「お「おはよう♪」は「おはよう♪」よう「おはよう♪」♪」はよう♪」は「おはよう♪」よう「おはよう♪」♪」う「おは「お「おは「おはよう♪」よう♪「おはよ「おはよう♪」う♪」」「お「おはよう♪」は「おはよう♪」よう「おはよう♪」♪」はよう♪」よう♪「おはよ「おはよ「おは「おは「おは「おはよう♪」よう♪「おはよ「おはよう「おは「お「おは「おはよう♪」よう♪「おはよ「おはよう♪」う♪」」……

 

 家の中の空間を延々と埋め尽くす、何十、何百、いや何千もの『彼』の大群です。


====================================


「いってきまーす!」「いってき「いってき「いってき「いってき「いってき「いってきます♪」ます♪」ま「いってき「いって「いって「いってきます♪」きます♪」きま「いってきます♪」す♪」ます♪」す♪「いってきます♪」」ます♪」ます♪」ま「いってき「いって「いって「いってき「いってき「いってき「いってきます♪」ます♪」ま「いってき「いって「いって「いってきます♪」きます♪」きま「いってき「いってき「いってき「いってきます♪」ます♪」ま「いってき「いって「いって「いってきます♪」きます♪」きま「いってきます♪」す♪」ます♪」す♪「いってきます♪」」ます♪」す♪」ます♪」す♪「いってきます♪」」ます♪」きます♪」きま「いってきます♪」す♪」ます♪」す♪「いってきます♪」」……

「いってらっし「いってらっし「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃ「いってらっし「いってらっし「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」ゃい♪」ゃい♪「いってらっしゃ「いって「いってらっし「いってらっし「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」ゃい♪」ゃい♪「いってらっしゃ「いってらっしゃい♪」い♪」」らっしゃい♪」い♪」」い♪」ゃい♪」ゃい♪「いってらっしゃ「いって「いって「いってらっし「いってらっし「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」ゃい♪」ゃい♪「いってらっしゃ「いって「いってらっし「いってらっし「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」ゃい♪」ゃい♪「いってらっしゃ「いってらっしゃい♪」い♪」」らっしゃい♪」い♪」」らっし「いってらっし「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」ゃい♪」ゃい♪「いってらっしゃ「いってらっしゃい♪」い♪」」らっしゃい♪」い♪」」……


 学校の体育館よりも広いようにも見えるリビングから無数の『彼』に見送られ、朝の準備を終えた何千何万もの『彼』とそれに囲まれる「彼女」は、高校へ向けて出発します。半袖のワイシャツに濃い紺色のズボン、その『彼』もどの『彼』も、全員寸分違わぬ同じ姿、同じ髪型、そして同じ笑顔の大群の中で、「彼女」も毎日嬉しさを感じ取っています。しかも、この黒と白の大群は道を進めば進むほどますます大きく、濃くなっていきます。他の家やマンションの扉の向こうから次々に湧き続ける新しい『彼』……つい最近まで「彼女」や「妹」と共に住んでいた人々だったものの成れの果てが、学校に登校するべく次々に合流していくのです。


「おはよう!」「おは「おはよ「おは「おはよう♪」よう♪」「お「おはよう♪」はよ「おはよう♪」う♪」う♪」よう♪」「お「おはよ「おは「おはよ「おは「おはよう♪」よう♪」「お「おはよう♪」はよ「おはよう♪」う♪」う♪」よう♪」「お「おはよ「おは「おはよう♪」よう♪」「お「おはよう♪」はよ「おはよう♪」う♪」う♪」はよ「おは「おは「おはよう♪」よう♪」「お「おはよう♪」はよ「おはよう♪」う♪」よう♪」う♪」う♪」はよ「おはよ「おは「おはよう♪」よう♪」「お「おはよう♪」はよ「おはよう♪」う♪」う♪」う「おは「おはよう♪」よう♪」「お「おはよう♪」はよ「おはよう♪」う♪」♪」……


 この町……いや、正確にはこの世界のあらゆる道を埋め尽くし、朝の学校へと向かう何万何億もの『彼』の服装は2種類に分けられます。「彼女」と同じ高校の制服と、『彼』の「妹」が通う中学校の制服……白の校章付きのワイシャツに黒いズボンの格好です。今、『彼』の濁流は高校とは反対側、その中学校へ向かう道を進んでいます。しかし、「彼女」は特に彼に注意……いえ、高校へ向かうように指示をしたりはしません。こちらの方向に、今一番会いたい人がいるからです。

 既に目的地は、二種類の『彼』によって何重にも囲まれ、上手く読みこめていないCDのように延々と朝の挨拶を続けています。そんな白と黒の大群を掻き分け、「彼女」はその家のドアを開けました。ここは「妹」の家、外に暮らす『彼』はむやみに開けることが出来ないようになっているのです。


「おはよう、「妹」ちゃん!」

「あ、「彼女」さん、おはよう!」


 中学校の夏服も涼しそうに、「妹」が嬉しそうに家から出て「彼女」の方に駆け寄ります。そして、その後ろからは彼女のお兄ちゃん……何千何万もの『彼』が一斉にドアから飛び出し続けています。一体この小さな家のどこに収納出来ているのか、その波は収まるところを知りません。


「おはよう「おはよ「おはよう、俺♪」う、俺♪」「お「おはよう、俺♪」はよ「おは「おはよう、俺♪」よう、俺♪」う、俺♪」「おはよう「おはよう、俺♪」、俺♪」「おはよう、俺♪」、俺♪「おはよ「おはよう、「おはよ「おはよう、俺♪」う、俺♪」「お「おはよう、俺♪」はよ「おは「おはよう、俺♪」よう、俺♪」う、俺♪」「おはよう「おはよう、俺♪」、俺♪」「おはよう、俺♪」俺♪」う、俺♪」「お「おはよう、俺♪」はよ「おは「おはよう、俺♪」よう、俺♪」う、俺♪」「おはよう「おはよう、俺♪」、俺♪」「おはよう、俺♪」」「おはよ「おはよう、俺♪」う、俺♪」「お「おはよう、俺♪」はよ「おは「おはよう、俺♪」よう、俺♪」う、俺♪」「おはよう「おはよう、俺♪」、俺♪」「おは「おはよ「おはよう、俺♪」う、俺♪」「お「おはよう、俺♪」はよ「おは「おはよう、俺♪」よう、俺♪」う、俺♪」「おはよう「おはよう、俺♪」、俺♪」「おはよう、俺♪」よう、俺♪」……


 幾多もの『彼』が笑顔を崩さないまま他の『彼』と朝の挨拶を交わす一方、それらとまるで壁で仕切ったかのように、「彼女」と「妹」の目線は互いの顔の方を向いていました。二人の周りで響き続ける爽やかな声の大合唱が、まるで耳に入らないかのように。


「昨日はよく眠れた?」

「うーん……やっぱり駄目。「彼女」さんがいないと、なんだか落ち着かないなぁ……」


 『宝石』を用いて最期の願いを叶えてから、いつの間にか「妹」は次第に「彼女」に対して敬語を再び使わなくなっていました。しかしそれは過去に経験した修羅場のときとは違い、そのような言葉遣いで相手を見下したり、逆に相手にへりくだったりする事が無く、歳の差関係なく二人が対等の仲である事を示しているのかもしれません。そして、言われる側の「彼女」のほうも、心の底ではそういう日が来るのを待っていたように感じていました。

 しかし、本質的にはまだ「彼女」のほうが年齢も感情も一回り上。甘えん坊さん、とからかわれて頬を膨らませる妹の頭を優しく撫で、たまには自分の家に泊まりに来ないか、と誘いました。ベッドも『彼』もしっかり用意している、と。そういえば、今まではどうしても自分のほうも壁を作ってしまい、「妹」を家に招待したことがありませんでした。初めて泊まることの出来る場所に、「妹」の顔は非常に嬉しそうでした。


「それじゃ、学校が終わったら例の場所で、ね♪」

「了解、「妹」ちゃん!」


 『彼』はこの世界に無尽蔵に存在し、爽やかな笑顔や声を振りまき続けています。どこへ行ってもどの時間でも「妹」と「彼女」の周りには同じ存在が居続けることが当たり前になっているこの世界を、二人はずっと望んでいました。しかし、この世界で時を刻む中で、次第に「妹」と「彼女」……無数の『彼』に愛でられ続ける存在同士の関係はさらに密な物へと変わっていきました。今、二人が見せる笑顔は『彼』に向けるものよりもさらに嬉しそうな顔……まるで()()に向けるような笑みになっています。

 これから先、永遠に続くであろう時間の中で、二人をより知ることの出来る時間はたっぷりあります。何千何万、何億もの「彼」が待っている……いや、常に彼によって埋め尽くされている中学校や高校の方へ、二人は視線を合わせました。世界を覆い、もはや概念と化している「彼」に包まれ、自分たちだけの幸せを掴み取った「妹」と「彼女」に見えるのは明るい未来だけ。今日も空に昇る太陽と共に、幸せな日々が始まるのです……。


「いって「いってきます♪」きま「いってきま「いってき「いって「いってきます♪」きま「いってきま「いってきます♪」す♪」す「いって「いっ「いってきます♪」てきます♪」きます♪」♪」「いって「いっ「いって「いってきます♪」きま「いってきま「いってき「いって「いってきます♪」きま「いってきま「いってきます♪」す♪」す「いって「いっ「いってきます♪」てきます♪」きます♪」♪」「いって「いってきます♪」き「いってきます♪」ま「いってきます♪」す♪」ます♪」す♪」す「いって「いっ「いってきます♪」てきます♪」きます♪」♪」「いって「いってきます♪」き「いってきます♪」ま「いってきます♪」す♪」「いって「いってきます♪」きま「いってきま「いってきます♪」す♪」す「いって「いっ「いってきます♪」てきます♪」きます♪」♪」「いって「いってきます♪」き「いってきます♪」ま「いってきます♪」す♪」てきます♪」き「いってきます♪」ま「いってきます♪」す♪」ます♪」す♪」す「いって「いっ「いってきます♪」てきます♪」きます♪」♪」「いって「いって「いって「いってきます♪」きま「いってきま「いってき「いって「いってきます♪」きま「いってきま「いってきます♪」す♪」す「いって「いっ「いってきます♪」てきます♪」きます♪」♪」「いって「いってきます♪」き「いってきます♪」ま「いってきます♪」す♪」ます♪」す♪」す「いって「いっ「いってきます♪」てきます♪」きます♪」♪」「いって「いってきます♪」き「いってきます♪」ま「いってきます♪」す♪」「いって「いってきます♪」きま「いってきま「いってきます♪」す♪」す「いって「いっ「いってきます♪」てきます♪」きます♪」♪」「いって「いってきます♪」き「いってきます♪」ま「いってきます♪」す♪」きます♪」き「いってきます♪」ま「いってきます♪」す♪」「いって「いってきます♪」きま「いってきま「いってきます♪」す♪」す「いって「いっ「いってきます♪」てきます♪」きます♪」♪」「いって「いってきます♪」き「いってきます♪」ま「いってきます♪」す♪」……


 「いってきまーす!」「いってきます!」


「いって「いってらっ「いってらっしゃい♪」しゃい♪」「いっ「いって「いってらっ「いってらっしゃい♪」しゃい♪」「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」「いってらっしゃい♪」らっ「いってら「いってらっ「いってらっしゃい♪」しゃい♪」「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」「いってらっしゃい♪」っしゃい♪」「いってらっ「いってらっしゃい♪」しゃい♪」「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」「いってらっしゃい♪」しゃい♪」「いって「いって「いってらっ「いってらっしゃい♪」しゃい♪」「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」らっしゃ「いってらっ「いってらっしゃい♪」しゃい♪」「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」「いってらっしゃい♪」い♪」「いってらっしゃい♪」て「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」「いってらっしゃい♪」らっ「いってら「いってらっ「いってらっしゃい♪」しゃい♪」「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」「いってらっしゃい♪」っしゃい♪」「いってらっ「いってらっしゃい♪」しゃい♪」「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」「いって「いって「いってらっ「いってらっしゃい♪」しゃい♪」「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」「いってらっしゃい♪」らっ「いってら「いってらっ「いってらっしゃい♪」しゃい♪」「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」「いってらっしゃい♪」っしゃい♪」「いってらっ「いってらっしゃい♪」しゃい♪」「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」「いってらっしゃい♪」しゃい♪」「いって「いって「いってらっ「いってらっしゃい♪」しゃい♪」「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」らっしゃ「いってらっ「いってらっしゃい♪」しゃい♪」「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」「いってらっしゃい♪」い♪」「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」しゃい♪」「いって「いって「いってらっ「いってらっしゃい♪」しゃい♪」「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」らっしゃ「いってらっ「いってらっしゃい♪」しゃい♪」「いって「いってらっしゃい♪」らっしゃい♪」「いってらっしゃい♪」い♪」「いってらっしゃい♪」……

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