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「だいすき」

作者: 日向栞

『君にこの想いは届くのだろうか』

 大嫌いな英語にも、感謝する日が一度だけあった。











「英語教えてー」

「……また?」


 授業終了のチャイムが鳴り終わる。途端に騒がしくなる教室の中、次の時間の準備もそこそこに私は言った。

 しっかりと次の準備をしてから、君は私を一瞥すると「呆れた」と言わんばかりに目を細める。

 ……おぉ露骨だぞ、露骨にメンドそうだよ、特に今日は一段と。


 手元を見ると、そこには教科書と一緒に取り出したであろう初めて見る本があった。新刊なのだろう、が、そこで空気を読んで引き下がるほど私は物分りがよくない。

 むしろ、引き下がりたくなくなった。新刊ごときに私の英語の勉強時間を取られてたまるか。


 机に頭を打たないギリギリまで下げ、その上でパンッと手を打つ。


「この通り!! 一生のお願いです教えて下さい英語の神様」

「お前の一生は何度あるんだよ」


 頭上でため息と、パタンと本を閉じる音が聞えた。よし、新刊に勝った。

 ガッツポーズをすると、たぶん本の表紙で勢いよく頭を叩かれた。


「今度、奢って」

「らじゃー、500円以内なら」


 教えてもらう身で値段制限なんかつけるなよ、そうぼやきながら君は指で机を叩く。怒っているわけでもなく、焦っているわけでもなく、ただ単にくせになっている動作だ。


「どこを?」

「英単語の訳を」

「辞書使いなさい」

「忘れました」


 次の瞬間、口がピクッと痙攣した。これはイラッときた証拠。

 普通なら、ここで「辞書貸して」と言えばいいのだろう。だけど、それじゃ意味が無い。

 なら「辞書貸してやる」と言われないのか? ……何故だか言われない。変なところで鈍感っていうか、アホなのかな。


「英語は読める?」

「きっと読めてるはずー」


 そう言うと「大丈夫かこいつ」そんな哀れみの目を向けてきた。口数が少ないぶん、よく目でしゃべる。なら、せめて嬉しいとか、楽しいとか、そういうプラスな気持ちをもっと表してくれないだろうか。


「えっと、important」

「大事」

「say」

「言う。……これぐらい分かれ」

「すみませんねー馬鹿で。gentle」

「素直な」

「……feelings?」

「気持ち」


 私の下手な発音でも、ちゃんと訳が返ってくる。たまに分かんなくてしかめっ面になるけど。それでも頭の中の辞書を探って、私の質問に答えてくれる。

 頭上から降ってくる君の声を聞きながら、私はだんだん鼓動が早くなるのを感じた。


「あれ」


 不意に、不思議そうな声を君が上げる。……でも、顔は上げない。


「こんな単語出てくる箇所あったっけ?」

「……っ」


 気づかれた。流石に、いくら鈍感だろうが、アホだろうが、範囲ぐらいは把握していたらしい。

 全て書き終えて、それでも顔を上げないで、なんて言おうか考えた。どうしよう、教えてもらった先を考えてなかった。なんて言い訳しよう。


 変な沈黙が、数秒。

 もう一度聞こうとしたのか、息を吸う音が聞えた。そのとき、私の名前が遠くから聞えた……気がした。


「なにー!!?」


 ガタッ、と音を立ててイスが動く、驚いた君の顔が一瞬見えた。わざとらしくなっていないだろうか。


「待ってー今行くー」


 ありがと、そう呟いて私は廊下へ走り出した。……逃げる理由が出来てよかった。

 特に呼び止める理由もない君は、そのまま私を無言で見送る。


 さて、次のチャイムが鳴る前に、君は気づいてくれるだろうか。君の机にわざと開いておいてきた、私のノートに書かれた言葉に。

 私の精一杯の――――告白に。


 























[英単語]

・important……だいじ

・say ……………いう

・gentle ………すなおな

・feeling ………きもち
























 素直な気持ちを言うことは大事ですよね?



 

『この想いは届いても伝わらない』

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