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Ⅷ 転送機の試作

 3



 約束通り、駅の出口近く、目立たない場所に車が停まっていた。

 由紀の仲間が待つ、黒いワンボックスカーだった。

 スノーボードが積めるケースをルーフの上に載せ、後部に釣り具を突っ込み、貼られたステッカーなど、見るからにアウトドアな感じ。

 運転席にいるのは、カジュアルでオシャレだけれど、少しイカれた装いの若い男。

 髪はイチゴのような赤い色。

 バンドをやっているココアより、派手な赤さだ。

 

 日菜はくたびれて、スライドドアの乗り口から後部シートへ倒れ込んだ。

「由紀らしくないな。時間かかり過ぎだろ?」

 由紀の悪友の、クッキーが言った。

 クッキーの年は、由紀や日菜と同じぐらい。

「うるせぇー。とにかく、彼女奪回成功ー! 早く車出せよー」

 由紀がクッキーとハイタッチしたら、

「あれ? 由紀の彼女になったんだ? 日菜ちゃん」

 助手席から、サングラスをしたリンが振り向いた。

「なんでリンがいるんだよ、クッキー!?」

 由紀が悪友を睨んだ。

 リンはサングラスを下へずらし、その魅惑的な瞳を覗かせた。

「邪魔だった? 私に秘密の救出劇? ()けるなぁー」

 リンが馬鹿にしたように笑った。

 突然、日菜は居心地が悪くなった。

「ねぇ、日菜ちゃん。由紀ほしい? あげてもいいけど。別に」

 リンは意地悪な言い方で、日菜をからかった。

「由紀は私のお気に入り。それだけは、覚えといて」

「やめろよ、リン。話をややこしくすんなよ」

 由紀とリンが言い争う形になった。

 クッキーは無言で、車を発進させた。

 由紀はリンを黙らせ、日菜に向き直った。

「疲れたよな。明日はどこでも、連れてってあげるから」

 いつになく、優しい由紀。

 日菜は今朝の出来事を思い出した。

「朝、私が言ったこと、聞こえてたんだ?」

 由紀は開き直り、

「眠かったんだもん。わりィー」

 と、大欠伸した。

 日菜もつられて欠伸が出た。

 本当は、由紀に助けてもらった礼を言いたかった。

 しかし、その時の日菜はなんとなく照れ臭くて、言えなかった。


 彼女は帰りの車の中、由紀に|凭≪もた≫れて眠った。




 4



 明け方、営業が終わった店のVIPルームに、リンに連れられ、由紀が入ってきた。

 ソファーでは、オーナーが(くつろ)いでいる。

 オーナーは黒いジャケットを脱いで背凭れに掛け、楽な姿勢をしている。

 テーブルには、ロックグラスが一つ。

 オーナーの足元には、ハスキー犬が伏せていた。オーナーの命令しか聞かない犬だ。


 オーナーが重い口を開いた。

「由紀。リンから聞いたよ。もう少しで、大事な日菜を盗られるとこだったらしいな?」

 とても静かな口調だ。

 営業終了後のVIPルームに音楽はなく、冷たく静まり返っている。


 由紀はオーナーの前に膝を着き、床に正座した。

 オーナーは怒ったら怖い人、そう話していたのは由紀自身だ。

「コウの言う通りだよ。ヤバかった」

 由紀はオーナーのことを、コウと呼び捨てた。

 コウは目を細め、

「盗られるぐらいなら、殺せ。何の為にここまで来たのか。どうせ、ゆくゆくは日菜を殺すことになる。わかってるな、由紀?」

 と|囁≪ささや≫いた。

 コウは凍てつく湖の薄氷のような、暗く冷たい色の(ひとみ)で、由紀を見下ろした。

 由紀はためらわず、即座に、

「足手まといになったら、殺るよ」

 と普通の表情で返事した。

 コウは納得し、

「由紀。日菜に理論の完成を急がせろ。話はそれだけ。もう行っていい。それと、リン。妬くなよ。由紀はおまえのものじゃない」

 由紀の次に、妹のリンに向かって話しかけた。

 リンは唇を噛み、不満そうだった。


 話が終わり、由紀が立ち上がりながら、

「コウ、日菜の後ろで、紅島がうろうろしてるよ。また、あの女だ」

 と、コウに遅れていた報告をした。

「コウのお気に入りだからね、俺も関わらないようにしてるけど。紅島の連れてる、うるさいチョウチョが、俺に気付いちゃってるんだよ」

 由紀が面白そうに言う。

 チョウチョとは、モモカのことを言っている。

「紅島!? …会いたいな。あいつには、借りがある」

 リンが一歩前に出た。

「リン。おまえはモデルの仕事が忙しいだろう?」

 コウが血気に逸る妹を、引き留めた。

 コウは由紀に視線を戻した。

「由紀。紅島はおまえに、気付いてるのか?」

 由紀はにやにや笑い、首を振った。

「それが、全然。あのチョウチョは俺に気があるから、紅島には言わないよ。大丈夫。俺はうまくやる」

 由紀は何やら、自信たっぷりだ。

「紅島は何を企んでる?」

 コウが苛つき、指で小刻みにテーブルを叩いた。

「たぶん、狙いは俺達と同じ。紅島がきっと、トキオというカードを握ってる。でも、俺達も、日菜を完全に手中に置いてる…」

 由紀は楽しそうに話し、別人のような笑い声を立てた。

「由紀、日菜でトキオを釣れるか?」

 コウが尋ねた。

「近々、挑戦してみるつもりだよ…」

 由紀がガラス製のドアを開け、VIPルームから出て行った。

「兄さん、紅島は私の楽しみに残しといてね!」

 リンが兄にねだり、VIPルームを出た。


 コウは苦しそうに咳をして、ソファーに横になった。




 ⅩⅢ 転送機の試作


 1


 夏休みも終わる頃、転送機の試作が出来たという知らせが入った。

 日菜は何年もかかると思っていたので、驚いてしまった。

 未来から来たモモカが全面的にサポートしてくれた功績が大きいが、やはり小林教授がいなかったら試作は不可能だったろう。優秀な頭脳が揃っていたからこそ、未知の機械が作り上げられたのだ。

「やっと、みんなと会えるぜー。嬉しいかぁー?」

 由紀が日菜の額を、指で弾いた。

 数ヶ月ぶりに、日菜もY市へ帰ることになった。


 当日。

 日菜は警察の目から逃れる為に、女子高生の制服を着て、前髪の分け目を変え、黒縁の伊達眼鏡を掛けた。

 いつもの日菜とは、まるで雰囲気が違う。

 由紀の実家の前にタクシーが停まり、日菜と由紀が手を繋いで降りてきた時、

「あっ、そっかぁー。日菜ちゃん、去年はまだ、高校生だったんだよね…」

 と(つぶや)くケッズが、制服の魅力にやられ、萌え顔になっていた。

「よう、日菜ちゃん。久し振りっス。元気スか?」

 イリエが笑いながら出迎え、由紀を肘で小突いた。

「由紀くん、そういうことなの? 見せつけてくれるねぇー」

 イリエはちょっと悔しいような、羨ましいような、でも嬉しい気持ちで由紀と日菜を眺めた。


 日菜は久し振りにケッズとイリエに会い、長く離れていた友達に会えたみたいに嬉しかった。

 ケッズ達はトキオの友人で、日菜にとっては大学の先輩という感じだったが、トキオの捜索に協力してくれた二人に、自然に感謝と親しみを抱くようになった。

 お互いに安否を気遣いながら、今日まで言葉を直接交わせずにいた。

 実際に顔を見たら、言葉など必要なくなって、相手の元気そうな様子だけで嬉しかった。


 日菜は辺りを見回した。

 モモカはどこだろう?

 すると、門の内側から、

「日菜ちゃーん!」

 会いたかったモモカの、少し鼻に詰まった高い声がした。

 純和風建築の宮島家の、瓦が載った冠木(かぶき)門から、モモカが駆けてきた。

「モモカー!」

 日菜も石畳の坂を駆け上がり、モモカに走り寄ろうとした。

 二人の少女が再会し、抱き合うかと思われた瞬間、その一歩手前でモモカがコケた。

「あーあ、モモカちゃん。そんな走りなさんなぁー。…おう、日菜か。よう来た。はよ、入れ。まだまだ、これからなんじゃー」

 小林教授がモモカを立たせ、土を払ってやった。

「ドン臭ぇ。やっぱ、モモカちゃん、ダセェー」

 由紀がからかうように、モモカの横を通り過ぎ、自宅の門を潜った。

「モモカ、お疲れ様!」

 日菜がモモカの後ろから抱きつき、モモカの柔らかい髪を撫でた。


 由紀の工房では研究生達がクラッカーを鳴らし、除幕式のように掛けていた布を引き、転送機の試作を披露をした。

 このメンバーの中で、初めて試作機を見るのは日菜一人だ。

 試作ー01が日菜の前に、全貌を現わした。

「うわ…。これが…01……!?」

 日菜が歓声を上げた。

 設計図や透視図で見てきたカタチを実際のモノにしてみたら、言葉では表現できないほどの感動があった。

 未来のカタチは、滑らかな流線のサメのように、シャープで細長なライン。流体を抵抗なく後方に流していく為の、美しいラインと比率。

 邪魔な突起は何もなく、シンプルな美しさを追求したかのような印象だった。

 複雑な構造は白い外殻(シェル)に包まれ、翼も尾も一体となり、あたかも一つの生命を受けたかのように堂々とした存在感がある。

 映画などで、この惑星を侵略する、黒い大型宇宙船とは、イメージが大いに異なる。

 このUFOはUFOでありながら、光に満ちた紺碧の空こそが似合う。


 まず、全長だが、予想していたよりはるかに小さかった。

 転送部分は一人乗りだと言うし、この短期間で完成したんだから、こんなものかも知れなかった。

 色も、技術的に特に変わった塗装などされておらず、ただ白く塗られていた。

 カノンの転送機のように、周囲を映し込む鏡のような半透明感もない。

 ノグチの転送機のように、藍色に燃えてもいない。

 日菜は感想を表現できずに、ただ目を奪われ続けた。


 日菜は試作に近寄り、脚立を昇って、コクピットを覗いた。

 自動のタラップどころか、お粗末なアルミの脚立である。

 コクピットも、戦闘機なんてクールなイメージではなく、軽自動車などの、普通の量販品のシートとシートベルトが装備されていた。

 この内装には、日菜はちょっとがっかりした。

 コクピットは軽自動車の運転席一つ分ぐらいの狭さ。

 彼女がこれまでに見た中では、最小の転送機(トランスファー)。おもちゃのようだ。

 日菜は笑い出した。

「スゴいー。小さくて可愛いー」

 日菜はコクピットの外から、薄い合金のボディを愛しそうに撫でた。

「日菜、パンツ見えるぞー」

 由紀が脚立の下から、野次を飛ばす。

 ケッズが別の脚立で日菜に並び、早速、解説してくれた。

「キャノピーを開けるよ。この移動部分は一人乗り。操作部が別装置なんだ。搭乗するには、まず、このキャノピーを開いて、直接シートに乗り込む。…転送したら、シートベルトを外して、背凭れを後ろへ倒す。…で、シートをフラットにして、ここを通って、この後部右側が出口(イクジット)。OK?」

 ケッズが端末で屋根(キャノピー)を開閉して見せた。

 日菜はげらげら笑い出した。

「えー、シートの裏から出るんですか!?  こんな狭いとこから? 面白ーい! でも、キャノピーから出た方が速いですよ、ケッズさん」

 彼女は腹をよじって笑った。

「ダメ、日菜ちゃん。転送したら、こいつは雲の上だったりするんだよ。ちゃんと出口(イクジット)から降りて。出口(イクジット)は地上に開口するんだ」

 ケッズは説明の仕方に悩んだ。

 日菜は思い当たった。

「ああ、あの青い光のゲートのことですね」

 彼女は直感で理解した。

 

 由紀が日菜の足元で口笛を吹き、機体を見上げた。

「まぁ、上出来なんじゃねぇの?」

 彼は満足そう。

 資材の調達、設備の搬入から資金集めまで、由紀が苦労して奔走した。

「ねぇ。…それで、操作部があの、プレハブのトイレみたいなやつですか?」

 日菜が思ったまま口にしたので、研究生達も爆笑した。

管制塔(コントロールタワー)じゃ。馬鹿者がー!」

 操作部を作った小林教授が憤慨した。

 操作部の内部は、畳にして一畳ほどの、コンピューターで囲まれた箱型の空間だった。

 装置としては大型なのに、人が入る部分の面積がとても小さい。これが転送機の心臓だ。

 日菜は設計図を思い返し、

「コバ。移動する人が自分で操作できないなんて、不便じゃないの?」

 と質問した。

 答えたのは、小林教授ではなく、少女エンジニアのモモカ。

「トキオが発明した初期型転送機は、いわゆる独立型(マルチタイプ)で、移動部と操作部が一つになってたんだ。でもね、国際法で規制されて以来、コーディネーターは自分で行く先を操作できなくなった。犯罪を防ぐ目的と、時間中毒症候群を予防するという理由がある。統計によると、自由に転送できた場合、コーディネーターはいずれ、元の時点に帰って来なくなるらしい。死んだ家族のところとか、過去に執着してしまうの。私達の時代では一般に、移動部と操作部が分かれてて、管制室は厳重に管理され、記録が残されることになってるの」

 モモカが長々と未来を語った。

 日菜は由紀から、モモカが未来人だと聞いていた。

 けれど、こうして未来の話をモモカから聞くと、不思議に思えてしまうのだった。


 小林教授が日菜を呼んだ。

「日菜。おまえ、試乗やるとか言うとるらしいが、本気か!?」

 日菜はあっさり認めた。

「だって、コバ。みんなが苦労して試作作ってる間、私はずっと、物理の本読み漁ってただけなんだよ。最後ぐらい、私にも何かやらせてほしいの」

 日菜の言葉に、ケッズは感嘆するばかりだった。

「日菜ちゃん! 失敗したら、死ぬかも知れないんだよ!? 一応、ラットで起動テストはしたけど。こんな危険な命懸けのテストを志願するなんて!!」

 ケッズは自分達が作った転送機だというのに、自信が持てず、日菜が心配ではらはらした。

 機体全てをチェックしたのは、モモカ。

 モモカの見る限り、問題ない出来栄えだ。

 だが、もし仮に一つでも欠陥があれば、日菜が死ぬ。

 その事故はこの工房一つ吹き飛ばす程度では済まない。大惨事になるかも知れない。

 万に一つのミスも許されない。

 

 話を聞いていた由紀が、突然手を挙げて発言した。

「コバー。テストの件なんですけど、管制、俺にやらせて下さい。俺と日菜って、最近つき合ってるんですよ。だから、ね?」

 堂々と言う。

 日菜は焦って、真っ赤になった。

「ちょっと、由紀! あんた、何言ってんの!? 私、まだ、つき合うとは言ってないでしょ!?」

 誘拐された時、逃走途中の地下鉄で由紀に告白されたが、日菜は未だ、返事してなかった。

 勝手に話を進められては、日菜も困る。

 けれど、小林教授は二人を見て、いい雰囲気に発展したと判断したようだ。

 小林教授は何か心得たように、

「そういうことじゃったら、仕方ないのぅー。管制は由紀。昼からテストじゃ!」

 と、決定した。




 2



 工房に隣接した車庫に、木製のピクニックテーブルが置かれ、作業者達の休憩スペースになっている。

 そこで昼食を食べている日菜の向かい側の席に、由紀がやって来た。

 由紀の右手には、操作マニュアルがある。

「テストなんだけど、日菜はいつの時代に行きたい?」

 彼は日菜の希望を優先してくれる気だろう。

 日菜はちょっと考え、

「私、2012年7月6日の夜にダイブしたい。行方不明になる直前のトキオに会って、何から逃げようとしてたのか、事件の真相を聞いてくる」

 と、固い決意を見せた。

 由紀もトキオに会いたかった。別の意味で。

「テスト・ダイブは1時間。1時間ダイブして、出発した時点の1時間後に戻ってくる。コーディネーターの経過時間を守るという、未来のルールに従う。ダイブ時間を延長したら、帰って来る時間もその分、遅らせる。日菜、オーバーしないで、戻って来れるか?」

 彼は心配そうに言う。

 日菜は由紀の優しさに感謝した。

「じゃ、日菜。食べ終わったら、これに着替えて。その短ぇー制服のスカートで、シート倒してexitまで這う姿を、モニターで見たくねぇ!」

 由紀が、折り畳まれた白いツナギを手渡した。

 日菜は服を広げ、楽しそうに見た。

「わぁー。引っ越し屋さんか、ガソリンスタンドの制服みたいー。可愛いかも…」

「いや。宮島重工の工場の作業服」

 由紀はコークを飲みながら、イリエの方へ行く。

 日菜の目が点になった。

 由紀はイリエやケッズと、男同士、何か楽しそうに話が盛り上がる。

 日菜はふてくされ、地味な作業着に着替えた。


 日菜が着たら、意外に宮島重工の作業服も可愛らしかった。

 彼女は長い袖を折り返し、襟にマイクとカメラを付けた。

 

 日菜は仲間が見守る中、脚立を昇り、慎重に開口部を跨ぎ、コクピットへ滑り込んだ。

 世界初の転送機は、未来の転送機に比べ、格段に乗り心地が悪かった。

 特に、シートの素材は早く改良されるべきだと、日菜は思った。

 日菜はリクライニングを手動で調整し、自動車みたいなシートベルトをロック。

 期待に胸が高鳴る。

 日菜はどきどきしながらヘルメットを被り、起動スイッチに触れた。

 目の前のディスプレイに、由紀の見慣れた顔が映った。

「日菜、聞こえてるな? 心の準備はOK?」

 明るい彼の声を聞き、緊張が和らぐ。

 日菜は今から、トキオに会いに行く。

 一年と数ヶ月ぶりに、トキオと会う。

「いつでもOKー」

 大きく息を吸い込み、日菜はゆっくりと吐き出して言った。

 テストが失敗するなんて、考えない。

 みんなで作った、この転送機のコピーで、トキオと会うことだけを考えた。

「いいか。無茶すんなよ。すぐ戻って来るんだぞ。行くぞ…。3、2、1…」

 由紀が3秒前から秒読みを開始した。

「着時OK」

 彼はモニターで転送を確認した。

 後は誰も、この狭い管制室に入れない。

 そして、由紀も、元の時空に帰還するまで、この密室から脱出不能。



 日菜は時空を越えていった。 

 エレベーターが停止する寸前の気持ち悪い揺れ返し感、それが数秒続いていく。

 吐き気が強烈に込み上げ、転送を失敗したかと疑った。

 振動が徐々に激しくなり、最後に大きく揺れた瞬間、彼女は意識を失った。



 日菜は由紀の怒鳴り声で、目を覚ました。

「日菜ー! 起きろー! 寝てんのかぁー!? 生きてんのかぁー!? どうなんだよ!」

 日菜は口の端から垂れた(よだれ)を、手で拭った。

「はふ…。寝た。…由紀、着いてるっぽいけど、ちゃんと時空越えたかなぁ?」

 日菜は(しび)れを振り払い、ヘルメットを外した。

「着時したよ! 俺が現代と一年前の7月6日の連結部にいるんだからなー。日菜、交信このまま。おまえの現在時刻は、PM09:05!!」

 由紀に叱られ、日菜はシートを倒し、後方のexitへ向かった。

 青い鬼火が揺らめくゲートがある。

 とても小さなゲートだ。

 日菜は時空を越え、過去の地に降り立った。








 





 


 







 




 

 


 

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