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1-1 裸の出会い

 一体これは何なんだ?

 露店で夕食となる安物パンを買った帰り道。その場所を通りがかった十五歳の少年は思わず足を止め、冒頭の一文で頭の中を一杯にした。そして恐る恐る近づくと、そぉっと覗き込むようにして『ソレ』をまじまじと見つめたのだ。

「……人間?」

 人通りの少ない森の小道。夕闇の中、雑木に隠れるようにして倒れていたのは、紛れも無い人間……素っ裸の、女の子だった。

 年の頃は少年と同じか、あるいは少し幼く見えた。非常に整った顔つきではあったが、この辺りでは見かけない顔だ。そして髪の色も滅多に見かけぬカラスの濡羽色。更には髪型にも違和感を感じる。

 身体つきは全体的に華奢で小柄。本当に何も、布きれの一枚さえも身に着けておらず、横向きになって身体を丸め、固く目を閉じている。

「あの……もしもし? い、生きてる?」

 少年は小さく声を掛けて反応が無い事を確認すると、倒れている少女の露わな胸元をこそっと覗き込んだ。これは決してスケベ心からではなく、胸の動きによって鼓動や呼吸の有無を確認する為だ……いや、本当なんだ、必要な事なんだ! と、必死に言い訳をして。

「んくっ!」

 思わず生唾を飲み込む少年。緊張で首筋が強張る。

 そんな下心満載で目にした少女の胸元……密やかな薄い膨らみは、微かに上下しているように見えた。

 まぁそんな事をせずとも少女の血色は良く、身体に大きな傷も見当たらない。つまり彼女が生きている事は最初の段階でほぼ間違い無かったわけだが……それはそれ。少年にしてみれば、こんな所で裸になって寝ている方が悪い! と言いたいわけだ。

「行き倒れ、かな? どうしよ……?」

 とりあえず生きている事はわかったものの、少年は困ってしまった。

 少年の住まうこの辺り一帯は、いわゆる貧民区だ。あまり裕福な者は居らず、お世辞にも治安が良いとは言えない。よって行き倒れを目にする機会も意外に多い。

 だからいっそ死んでいれば、土に埋めるくらいの事はしてやるのだが、下手に生きていられると扱いに困る。

 拾って帰ろうにも他人に食べさせる程の余裕は無く、ましてや後で妙な事に巻き込まれたら厄介だ。かといってトドメを刺して土に埋める事も憚られるし……。

 なので普段であれば、いくら裸の女が倒れていようとも無視して放置するのが世間の常識でありセオリーでもあり、少年にとっても当たり前の事なのだ。

 けれど……。

「可愛いなぁ、この娘」

 裸の眠り姫がばっちり少年のタイプだったのだから困っているわけだ。これでは放置なんで出来よう筈も無い。

 ここで助けてお近付きになって、あわよくばやがて……!

 夢は広がる。

「でもこういうパターンって、後で絶対に面倒な事になるんだよな」

 しかしながら歳の割に世知辛い世の中を知っている少年は、思いのほか冷静だった。

 こんな場所に、こんな時間に、年頃の娘が裸で倒れている。しかも生きた状態で、これといった外傷も無く。

「これは……あれかな?」

 周囲の状況から、少年は薄ら事情を察した。もしも予想通りであるなら、ほっといても自力で目を覚まし、自力で帰ることだろう。それまでの間、誰にも見つからないように木の葉でもかけておけば十分だ。

「そうするかぁ……」

 後ろ髪引かれる思いではあったが、少年は枯れた枝葉を集めて少女の身体を隠す事にした。自分の生活だけで精一杯、今日の食べ物にも困っているような有様なのだから、益にならない事はしたくない。何より面倒はごめんだ。

 でも、こんな可愛い娘とお近付きになれるチャンスなんて二度と訪れないかも……だったらせめて、ちょっとだけ……けれど一時の気の迷いで今後の人生を棒に振る可能性だって……いや、でも、しかし……!

 少女の裸を横目でチラチラと伺いつつ、少年が悶々としていた時だった。

「あっ、いけねっ」

 彼の運んでいた枝が少女の頬をつついた。

「んぅ……っ」

 すると少女は不快そうに眉をしかめて小さく呻き、ころりと寝返りを打ったのだ……仰向けになるような形で。

「ごふぅっ!?」

 仰向けとなり、余すところなく無防備な肢体を晒した少女に、少年の鼻血管はなけっかんは一瞬にして崩壊した。

 涙が止め処なく溢れる際に『滂沱たる』という表現がある。同じように鼻血が勢い良く止め処なく溢れ出る場合にも、適切な表現があるのだろうか? ともかく少年は『滂沱の鼻血』を流して立ち竦む。

「ん……あぅ……」

 鼻血少年に気付く事無く、悩ましげに身を捩る少女。男心を弄ぶ際どいポーズだ。もし気が付いていてやっているなら相当な小悪魔だが、未だ彼女の意識は夢の中にある。

 そんな少女を前に少年は少年で、先の葛藤に勝るとも劣らぬ欲望と戦っていた。

 目を逸らすべきか否かについてだ。

 もしも彼が紳士であるなら、裸から目を逸らしつつそっと上着でも掛けてやる所だろう。だが男なら、目を逸らしたりしない……いや、逸らしたり出来ない筈だ!

 据え膳食わぬは男の恥といった言葉もある。女の子に慣れていない少年の前に、好みのタイプの美少女が裸で眠っているのだ。彼が全く目を逸らす事が出来ていなかったとしても、むしろガン見していたとしても、あるいは何かしら間違いがあったとしても……他の男性は彼を責めたりはしない……出来ない! きっと! 多分!!

「ん、ふぁ……」

 その時、再度少女が身を捩り、ほっそりとした膝を立てた。思わずそちらへと注目した少年の目の前で、少女はしどけなく足を開……。

「うわあぁぁぁぁ! それ以上はダメだあぁぁぁっ!!」

 少年は何かを掻き消すように大声で叫ぶと、自分の薄汚れた上着で少女の身体を包み隠す。

「うおぉぉっ! おらあぁぁぁッ!!」

 そして雄々しい声と共に、付近の樹木へ連続で頭突きを食らわせ始めた。

「消えろっ! エロ魂!! 消えろっ! 覗き根性!! おあぁぁぁッ!!」

 せめぎ合う男の欲望とプライド、道徳心。

 こうしてキツツキが如き行為が続く事、十数分後。

「はぁ、はぁ……煩悩、退散……っ!」

 激しい痛みを伴う戦いの末、少女の色々なモノは守られた。

 そして少年のモラルも守られ、色々な意味での体裁も守られ、ついでに彼の貞操もしっかりと守られたのだった。

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