④入学
その日は6時前に目が覚めてしまった。 そう、今日は芦岡女子高の入学式だ。
つい最近まで18だった私が15歳の女の子と一緒に高校に上がるなんて不思議な感じだ。たしかに3つ年下なだけ、なんて言ってしまえばそれまでだが、若い時の3つ差はでかいのだ。
そりゃあ70 80ともなればあまり気にもしないだろうが私達は十代だから上手く打ち解けるか不安だ。
それで色々考えていたら熟睡できず、こんな朝早くに髪のセットをしているのだ。それに今の髪はくせっ毛でなかなか決まらないのもある。
今まではサラサラした手触りだったのに、未来としての髪の毛はどうにもクシャクシャしてしまい不便に思う。このくせっ毛はおばさんからの遺伝なのだ。
春休み中にストパーでもかけた方がよかったかも知れない!
なとど少し後悔をした。
芦岡女子高まで電車で20分くらいかかる。初日から遅刻して変に注目は浴びたくないと思い、私は一時間前には家を出た。紺色の新品の制服。白いスカーフに、憧れの四つ葉のモチーフが後ろ肩の所についている。
制服を着ると、私立神田南学園での思い出が消え、本当に今日始めて高校生になる気がした。
不安と期待が入り混じったような初々しい気分なのだ。それにおばさんから自分専用の新しい携帯も与えてもらえた。まだ家族の数人のアドレスしか入ってないが、これから友達ができればどんどん増えるだろう。しかし、まずクラスが気になる。何しろ茜しか友達がいない。
新しい環境に馴染むまでが大変なのだ。少なくても数日は友達はできずクラス移動、休み時間、そしてお昼と一人で過ごさなくてはならなくなる。茜さえクラスが一緒ならずいぶんと気が楽になる。
そう思っていたのだ、が残念ながら私は二組で彼女は三組になってしまった・・・・
「未来ちゃ~ん!クラス別々になっちゃったね!!がっかりだよ。」
茜はそう言っているが明るく元気な彼女の性格を考えたら、どのクラスに入ろうと上手に打ち解けるだろう。
「まぁクラス隣だし休み時間には遊びにいくよ!」と言ってくれているが一週間もすれば新しい友達といて私の所には来てくれないような気がして不安だった。
私たちはクラスのある三階に向かうため階段を上っている。 すると茜が突然声をあげた。
「あっ!!!あの子・・・!」茜の目線の先にいたのは、黒髪のサラサラした髪の毛が肩まであり、肌は白く
上品で整った顔立ちの少女だ。その少女は廊下で先生と話をしている最中だ。
「綺麗な子だけど・・・茜の友達?」
「ううん。友達って訳じゃないんだけど、部活で試合した事があって、彼女のチームは全国大会の常連だったし、個人としても県代表とかにも毎回選ばれているから、ここら辺でバスケやってた人達の間じゃかなり有名な人なんだ・・・」
茜のテンションがいつも以上に高い。
「へぇ~そりゃ凄いっ!あの顔でバスケも上手いなんて」
天は彼女に二物を与えたとしか思えない。
「よかったじゃん。そんな上手い子がいるなら強いチームになるかもよ?」
茜に言った。茜自身はかなりの実力者なのに中学ではチームメイトに恵まれたとは到底言えず、三年間で二回戦に上がったことが一回だけとゆう。
それから私達は別れ、別々のクラスに入っていった。
私の席は前から3番目の廊下側だ。名前順で、音羽はおから始まるのだから前には数人しかいない。
周りには顔見知りなど一人もいない。凄く心細い。
話す友達もいないので携帯をいじる。
とはいってもメールを打つ相手さえいないのだが・・・・
「ガラッ」
クラスの前のドアが開いた。
先生かな、と思い一度顔を上げた。
入ってきたのは170はあるだろう長身に、カールのはいった茶髪に色黒の女の子だ。きつそうな目つきで私の苦手なタイプど真ん中といったところだ。
「うわっ席近かったらどうしよう!」
私の心は真っ先にその心配をしていた。
しかし私の心配は杞憂に終わる。
彼女は窓際の方に歩いていったからだ。
よかったぁ!心底そう思った。私は昔から不良っぽく見える子に苦手意識がある。なるべくなら関わりたくないとゆうのが本音だ。
次にドアが開いた時は本当に担任の先生だった。40半ばと思われる男性だ。
先生が入ってくるとみんなが席に着き、少ししてから先生の自己紹介が始まった。
先生の名前は橋本英一とゆうらしい。
なんとも真面目そうな人だ。国語の授業も受け持つらしいが、おそらく授業は退屈なものになる事は間違いないだろう。
ホームルームが終わると私たちは廊下に並び体育館へと向かう。入学式が始まるからだ。
芦岡女子の体育館は思ってたより狭く感じた。おそらく私がいままで私立の学校に通っていたからだろう。
私立神田南学園には全クラス冷暖房完備に加え、体育館には映画館並のスクリーンもあった。それに比べると公立の芦岡女子は設備面では大分見劣りする。
私は式の間ほとんど上の空だったし、周りのほとんどの女の子もぼうっとしている。
校長先生の話を真面目に聞くなんて子は昔も今も滅多にいやしない。この体育館にいる9割以上の子が早くこの退屈な話が終わる事を望んでいるだろう。
「続いては新入生代表、風間時音さん!」
司会の言葉にハッっとした私は教壇に視線を戻した。
先程茜が騒いでいた女の子だ。
新入生代表に選ばれていた。
さっき廊下で先生と話をしていたのは、この事を打ち合わせしていたのだろうか?
私の近くの席に座っている何人かのコソコソ話が聞こえる。
「相変わらず凄いね時音ちゃん。確か代表挨拶って入試の結果の最優秀者がやるんだよね?」
「マジで!?やばっ!」
最優秀者ねぇ・・・・。
頭脳は大学生の私としてはまったく立場ないなぁ~と心の中で苦笑した。
試験の出来に関しては私だって相当の自信があったというのに。
それにしても顔は良いい、運動神経もよくて、その上頭もいいなんてまったく天は二物を与えないなんてどこの誰の言葉だか。現に彼女は何物と持たされているじゃないか。
気が付くとまた私の悪い癖が出ている、誰かと自分をすぐに比べて、自分は自分は・・・と、卑屈になってしまう事。
大体比べる相手が悪い。
私は頭の中に溢れてくるネガティブな思考を追いやる。
横を見るとちょうど三組の席に腰かけている茜と目があった。茜も風間さんが新入生代表に選ばれていた事に驚いているようだ。
そうこうして式は終わった。
私たちは再びクラスに戻る。
体育館通路に桜の花びらが落ちてきている。
ここでの高校生活はどのようになるのだろう。