表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

③合格発表

あれから1ヶ月が過ぎ、今日は合格発表の日。私はついこの前大学を受験した高校生だし、先週のテストでも手応えは十二分にあった。合格はほぼ確信している。

だがそれでも一度は落ちているだけあって数日前から落ち着かない。

一緒に受験した茜ちゃんとは別々で見に行く、片方が落ちていたら気まずいと思った。

「お母さん達は別にいいからね!未来が例え落ちてたって!」

朝出発する前に玄関でおばさんが声をかけてくれた。

「ありがと。受かってたら9時までには電話するよ」

私はそう言いながらおばさんに持たされた携帯を見せた。 今の私はまだ中学生だから自分の携帯を持っていないのだ。



芦岡女子高の校門をくぐった時には更にドキドキは増してきた。

「きっと受かってる。あれで落ちてたら合格できる人なんていない」

頭ではそう言い聞かさせているが鼓動は激しくなる。

掲示板の前に近づく、そこは歓喜と落胆する受験生でうめつくされている。

420・・・私の番号はとっくに頭に刻まれている。それでももう一度受験票に目を移し確認する。

よしっ

覚悟を決める

掲示板に張り付けられている合格発表の番号をさがす。



328 333 335・・・

・・・411 413 416 ・・418

420!!


「あっ!あった!!やったやったぁっ!!!!」

喜びが爆発した。

と、その時横から肩を叩かれた、茜ちゃんだっ!

「おめでと未来ちゃん!

私も受かった!!」

茜ちゃんも満面の笑顔だ。

「あかね~、よかったよ!ちょー緊張したわ、ってゆか先に来て私が受かってるの知ってたなら先に教えてくれてもいいのに~!あたし緊張しすぎて心臓止まるかと思ったよ!!」

「ははは・・・って未来ちゃん、それ冗談にならないよー!もうこの前みたいな事にはならないでっ!大体さぁ私が教えちゃったらつまらないでしょ!?」

私達はしばらく喜びを分かち合った。


少したっておばさん達の事を思い出した。

そうだっ今頃私の事を心配してるだろうな。

家で待つおばさん、おじさんに電話をした。二人ともまるで自分の事のように喜んでくれた。

「今日はケーキ買ってお祝いだね!何がいい?デコレーション?それともチョコレート?

いいやせっかくだしどっちも買うね!」

おばさんもすっかりテンションが上がっている。


「高校生になってもよろしくね未来ちゃん!」

「うんっこちらこそよろしく!」

私達は笑顔のまま解散した。茜も早く帰って家族に報告したいのだろう。

・・・家族。

そうだこんなにも嬉しい気持ちなのに、もうそれを母や妹と分かち合う事ができないのだ・・・

私は三年前の今日、合格する事ができず心の底から落胆した。もしあの時私が受かっていたら、おばさん達のように母も喜んでくれただろうに・・・。


今日何か二人にしてあげたかった。

でも何も思いつかない・・・

このままおばさん達の待つ家に帰ろうか・・・と思ったが

せめて顔だけでも見に行こうと決めた。

ここ一ヶ月、一度も見ていないのだから。

そうはいっても今の私は完全に他人なのだからそう簡単に話ができるとは思えない。

優香は小学校を卒業して今は春休みだろうが、家の中に入る口実が見つからない。

だが昼間花屋のパートをしている母に会うことは簡単だ。私がお客として行けばいいだけの事なのだから。

そう考え母の勤めるお花屋さん

“グルーヴ”に入った。



そこには確かに母がいた。

しかし最後に見た時よりずいぶんとやつれている。

その顔はこけていていて、疲れも感じさせる。

こんなに近くにいるのに母に何も言葉をかけられない。

もどかしい・・・。 先程までの私は喜びでいっぱいだったのに、変わり果てた母を見てそんな感情は消し飛んでしまった・・・。

私はピンクのコスモスの束を買った。

「ありがとうございます。1480円のお買い上げになります」

それが約一月ぶりに聞いた母の声だ。

「あのっ・・・!」

つい声をかけようとしてしまった。

でもなんて言葉をかけたらいいのか、次の言葉がでてこない。

「どうしたのお姉ちゃん?」

母が私を怪訝そうな顔で見ている。

「あっ・・・いえ何でもありませんっ!すみません!」

私は慌ててそういい、包んでもらったお花を受け取った。

そしてそそくさとお店を出た。



すっかり気が重くなってしまった。

元々母はスレンダーな体型だがあんなに痩せてて体は大丈夫なのか?

優香はどうしたのだろうか?

不安が広がる・・・。

と、その時携帯がなった!

この携帯はおばさんの物だから、おばさんの好きなサザンの歌が流れる。

「もしもし。」

私は電話にでた。

「ちょっと未来今何してるの?お昼みんなで食べにいくんだから早く帰ってきてよ!」」


おばさんからだ。そういえば、お昼にみんなでお寿司を食べに行くと言ってた。

「ごっごめんっ!あと30分くらい待ってて!先に行っててもいいよ、後で自転車で行くから」

おばさんは不満げだ。そりゃそうだろう、今日の主役は私なのだから。おばさんはまだぶつぶつ言ってたが私は携帯を切った。

どうしても寄りたい場所があるのだ。

そこは一ヶ月間、近づくに近づけなかった場所・・・私の、相沢優美としてのお墓。

これから始まる新たなる人生に向けてここでケジメをつけたかった。

いつまでも避けてはいられない、受け止めなくては。

私のお墓はお父さん、おじいちゃんと一緒だから何度も足を運んだ場所にある。

かっての私の家から15分ほど、周りは竹やぶと小川が流れる静かな所。

ここに私の本当の体が眠っている。



相沢家・・・。

ここだ、父や祖父も眠るこの場所だ。

凄く複雑な気分だ。こうして自分のお墓を見下ろすなんて。

視線をそらすとそこには多くのお供え物と綺麗なお花がおいてある。きっと母達はしょっちゅうここに来ているのだろう。

「あっ・・・・これはっ・・・」

つい口にしてしまった。

そこにあったのは私が誕生日に優香から貰った羊のペンダントだ。私が事故にあった日も着けていた。だがペンダントはほとんど傷もなく多少汚れているだけだった。

私はそれを手にとり暫く眺めていた。そしてポケットからハンカチを取り出し軽く拭き、首に着けた。お墓にある物を取るのは多少気兼ねしたが、これは自分で持っていたかったのだ。

妹との絆、

そして自分が相沢優美である事のあかし。

私はこれから音羽未来としての人生を歩む、しかし相沢優美である事も忘れる訳にはいかない!

首に着けたペンダントを強く握り私は心から誓った。

私は二人分の人生を生きるんだ、精一杯、後悔のないように!

お父さん、まだ私はそっちに行かない。 だから見守ってて・・・私を。お母さんと優香のことも・・・。


春の訪れを感じさせる太陽が眩かった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ