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②決意

あの日、私が、私でなくなった日から三日が過ぎた。今は音羽未来が通っていた中学、大谷西中学に行っている。まだ夢の中にいるみたいな日々だ。これまでの学校生活でわかった事が三つある。

まず未来ちゃんはクラス内ではおとなしくあまり目立たない女の子だったという事、次に運動神経はさしてよくない・・・むしろかっての私の方が体が俊敏に動いた気がする事。

そして三つ目、3月9日に公立試験を控える受験生だという事。しかも私にとって憧れの芦岡女子高だ。三年前私がどれ程あの高校に行きたかったか。

だが今はこの状況に滅入っている。今までの環境ががらっと変わり、家族を失い4月から始まるはずだった新生活も失った。とても受験の事など考えられない。朝がくるたびに元の私に戻ってないかと願い、その度に落ち込んでいる。

今もこうして休み時間にひとりぼっちで窓際の席から外を眺めている。

私を失い絶望する母の顔を思い出す、胸が苦しい、いっそあの時あのまま死んでしまっていれば何も知らずにいられたのに。こんな辛い思いをしてまで他人の体で生きている意味などあるだろうか・・・?娘と姉を失ったと思っている家族に、私を本当の娘だと信じている未来ちゃんの家族。

この窓から飛び降りたら死ねるだろうか?私の頭にふとそんな考えが過ぎった。しかしそんな事ありえない、なぜなら私にそんな度胸はない。いくら人の体とはいえ、落ちたら痛いのは私だ。痛みなどなく眠るように死ねるならそうしたい。

「未来ちゃんっ!」

後ろから声をかけられた。その子はつい先日病院にお見舞いに来てくれた女の子。名前は確か東野 (ひがしのあかね)

ちゃん。

「ちょっとさ~ここ数日未来ちゃん暗いよ!くらすぎっ!受験の事で頭がいっぱいなのは分かるけど、そんないつも下向いてると幸運が逃げちゃうよ!?」

彼女は凄く明るい子だ。クラスでもムードメーカーだし、まるで悩みなどないように見える。

だいたい私はとっくに幸運なんて物から見放されている。

そうとしか思えない。この一週間で人生の全てを失っているのだから。



「ねっ今日学校終わったら竜泉神社に行かない?合格祈願しようよ。あたし達が一緒に芦岡女子高に受かるように!」

竜泉神社とはここら辺では有名な神社だ。

「いや~私はいいよ。御利益とかあんまり信じてないし」

私はすぐさま断った。

「でも噂じゃ結構運気上がるらしいよ!」

茜ちゃんはそういうが実際私はそこに三年前に初詣で合格祈願をして落ちているわけだ・・・。

まぁそれはともかく、私は今受験どころではない。

「たまには気分転換しなくちゃ!その方が勉強も頭に入るよ!」

結局彼女と一緒に行く事になってしまった。私は本当に押しに弱い。なんとゆうか断りきれないのだ。


学校が終わり私と茜ちゃんは自転車で神社へと向かう。

私は特にしゃべらないので、茜ちゃんが私に話しかけてくる「あたし芦岡でも絶対バスケ部に入るんだっ!目指せ全国って感じ。ってちょっと突っ込んでよ~それはないってさー!あたしが痛いじゃ~ん」

茜ちゃんはバスケ部だったようだ。体は小さいし意外だ。小学生の時から始め、市の代表にも選ばれたらしいからきっと上手いのだろう。

神社についた。結構混んでいるみたいだ。

受験生がたくさん神頼みにきているわけだ。私は人混みは苦手なのだがここまで来てしまった以上は仕方ない。

それに屋台が出ている、私の大好きなフライドポテトだ。

「茜ちゃんポテト買わない?」

早速誘った。

「いいね~っ!かおっ!」

彼女も乗り気だ。

「それと、ちゃん付けしなくていーからさっ!」

と続けた。

フライドポテトは奢ってあげた。茜ちゃんは遠慮していたが中学生の子に払わさせるのは気が引けたのだ。

久しぶりに嫌な事を忘れられた。体は変わっても好物は同じ。

それに茜ちゃんは凄く感じの良い子だ。

この子と同じ学校に通うのは悪くないかもしれない。



ベンチに座りながら二人でいると茜ちゃんが口を開いた。

「あたし、未来ちゃんが倒れた時凄く怖かった。今まで身近で亡くなった人いないから、人の死とか遠く感じてたから・・・もちろん誰にだって命には終わりがあるって知ってるけど、でも・・・普段そんな事意識してなくて・・・・ってなんか上手く言えないなぁ!まぁつまり一日をもっと大切にしたいと思ったの。」

苦笑いしながらそう締めた。

彼女の気持ちはよく分かった。

私も高校二年の秋に祖父を亡くすまで人の死など別世界の事のように思っていた。テレビで殺人や事故があっても、それを身近に感じた事がないのだ。

祖父を亡くした時始めて人の命の儚さを噛み締めた。

本当なら私はこの世界に存在しない人間なのだ。こんな風に誰かと話し、悲しみ、食べ物の味を感じる事など永遠にないハズだったのだ。ポロポロと涙がこぼれる・・・

「えっ未来ちゃんどうしたのっ!?

なんか気に障った?




辛いこと思いださせちゃった!?

ゴメン!ごめんねっ!!」

茜ちゃんは突然の事で慌てている。

そうじゃなく、私はたとえ自分の体ではなくても、この世界に留まれた事に始めて感謝の気持ちを抱いたのだ。自分の魂が消え、もう何も感じたり、見たりできない、それを想像した。喜びも悲しみも悩みも痛みさえない・・・。

そしたら今私の目に映る景色が眩しく輝いて見えた。

「もう帰ろうか未来ちゃん?」

心配そうに私の顔を覗き込む茜ちゃん。

私は黙って首を振り、涙を拭いて言った。 「急に泣いてごめんね。合格祈願しようよ!」

私はこの時に心の中で誓った。神様の気まぐれで与えられたもう一つの人生、精一杯生きると、いつかあの世で未来ちゃんにあった時に恥ずかしくないように。



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