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姉は妹の婚約者も自分の婚約者も欲しいらしい

作者: リーシャ
掲載日:2026/09/06

 エーデルは初め、何を言われているのかわからなかった。辛うじてわかったのは婚約者が姉と浮気していたという点だ。相手に興味がなくて放置していたから、勝手に庭に入ってきた種が芽吹いたような気持ちしかない。正直、だからどうした……である。


 本当にどうでも良過ぎて自然消滅さえ狙っていたのに、わざわざ向こうから丁寧に無くしてくれたのだから乗っかる他ない。姉は勉強が苦手。流石の親も後継にできないと途中で妹のエーデルにしたいと意向を示していた。

 しかし、婚約者であり、入婿の男が姉と婚姻したいというのならば、やりたくもない次期当主の仕事を押し付けられるかもしれない。ニマッと笑いそうになったが、我慢に我慢を重ねた。

 もう一つのこの家がなくなるかもしれない可能性も脳裏を掠めて、心臓が痛くなる。表情を令嬢用にしていたので、まだ上手くギリギリ何とかかんとか、繕えていた。


 それももう後少しと思えば、乗り越えられそうだ。姉は勉強できないのならエーデルの婚約者だった男が全部負担がかけられることになると思う。たらればの話になるが。

 気付いたら、のし掛かる執務の数々に恐れ慄いても、左右に逃げられなくなっているだろう。退路を自ら封じるとは真似しないが、立派なんじゃないか。


 皮肉満載に悲しげな顔を浮かべて、内心思う。婚約者は姉との愛を純愛と呼び、エーデルとの婚約を恋人たちが引き裂かれた悲劇も謳う。

 浮気している二人に真実の愛だの、大恋愛だのと恋や愛に対して侮辱しているようなもの。どの口が言うかと、冷えた心は何度も断じる。


 真実の愛というのはまず、段取りあって成り立たせるもの。エーデルと婚約を白紙や解消をしてから、恋人になって愛を好きなだけ語らえばいい。異国語の書かれた本を横に置いたまま、目を伏せて怒鳴りたい気持ちを落ち着かせる。

 姉にも同じように婚約者がいるのだが、己の婚約者のはずの男はあの人を目の前にして堂々と愛し合ってるのですと、大声で言い切れるのか見物である。ぜひ、その時その場に居たいものだ。


 姉の婚約者はすでに、父親からいくつかあるうちの一つの爵位の継承を済ませて、立派に辺境を治めている貴族。その彼を裏切る姉がタダで済むわけがない。逆に言うと、王都よりも地味で何もない辺境に行きたくないから遂行したのだ。

 まさに手短な相手。短い手は伸ばしやすく、よく家に来て話しかけられる若い男だからこそ、エーデルの婚約者に目をつけたと姉の性格を知る自分からすると簡単に思惑が測れる。


 手を出さないという条件ではなく、手を出す条件が綺麗にあり過ぎた。なんとなく、こうなるだろうなという予兆はあったが。あくまで、何かあるかも程度の。

 エーデルではなく、エーデルの婚約者は面会する日に呑気にお茶をしていたり。いつの間にか聞いていた時間より、何故か早過ぎる時刻で来訪していたり。


 何故ここにいるのか、何故ここに姉がいるのかと静かに問いかけるれば、早く来てしまった彼を待たせるのはいけないとかなんとか、いけしゃあしゃあと宣っていた。

 姉として義理の弟との仲を良くすることは当家として、重要であると丸め込もうとしていたのだ。しかし、そんな嘘八百など妹の目からすれば、容易に看破しかできない。


 いや、彼女も彼も嘘が上手くないから、バレるのは自然なこと。だから、人目があるのにテーブルの下で手を繋いでいるのだろう。


 クスクスと笑いながらバレている秘密の恋人たちの、秘密の手繋を見た時は「この人たちはバカだな」とずっと心の中で連呼していた。意外と遠くから見たら、手を繋いでいるのが見えるのだ。

 一度確かめてみればいいのに、確かめもせずにやるからそうやってちょっとずつわかってしまう。どうせ、今日言われることになるのなら、どちらにせよ構わなかったのかもしれないが。


「婚約を解消するのはよろしいですが……まずは両親にどうぞ」


「えっ」


「え、あの、あなたがいいって言ってくれればいいの。お母様たちにはあとであなたが言ってくれれば」


「は……あ?」


「う」


「あっ」


 怒気のある声音に二人はカタカタ震える。不貞を告白しておいて、親に言うのもエーデル、許すのもエーデルなどバカにしている。コケにするだけに足らず恥を裏切った妹に言わせるとは。腐り切っている。


 エーデルの親は常識人の範囲にあるが、王城で二人とも共働きしているから忙しく子供二人の面倒は流石にこの歳になってまで見てない。


 婚約者ができて、もう直ぐ結婚も視野に入れる年齢。小さな子供みたいに面倒を見る必要はない。親は子離れして仕事に精を出しているから、ずっとこの家にいるわけじゃなく。

 故に二人は浮気をし放題だった、とも言える。その二人が親たちに叱られたくないからと、浮気してましたのあとにさらに、二人は婚姻したがっていますという発表を何故、裏切りを受けた己がやらないといけないのか。


 エーデルをどれだけ利用し、侮辱し切るのか。この二人はきっと何も考えずに、たっぷりとありもしない未来を想像したりして楽しんでいたのだ。二人だけでどうせ、盛り上がって。

 その後のことを皮算用で話題にしていたに違いない。姉と元婚約者を厳しく見つめれば、怒られるのが凄く苦手な似た者同士である二人は気まずげに目を逸らす。


 本当に魂も性根もそっくり。愚か者共々、沈む船にはお似合いだ。婚姻時に船に乗ってそのまま旅行に行く予定をしていたのだが、こうなるとそれも白紙になりそうだ。


「二人がバカして、バカやろうとしているんだから、バカしましたと言うのは二人に決まってるでしょう?寝言は外で野宿でもして言ったらどう?」


「の、じゅく?」


「な、なんてことを言うのっ。ひ、酷いっ」


 姉が被害者みたいに涙ぐむ。どの角度や目線で物を言っているのだ。浮気して妹に一対二でも卑怯だというのに、二人で協力して誰もいない密室で告白してくる卑怯な行いに、よもや苛立ちや恨みが生まれないとでも思ってるわけじゃないよね?


 思っていることが浮かんだが、多分そうなのだろう。愛し合っている二人は可哀想で、エーデルは二人を引き裂く一人。婚約者がいる相手と恋をして、婚約者本人の己の立場は悪役なのか?


 愛し合ってるんだから、なんでも許されるという免罪符を持っていると勘違いしていそうだ。妹の婚約者を取ってしまっている罪悪感と優越感を抱いているなら、説明がつく。まさに恋に酔っている。


 妹に先に言ったのは親に怒られたくないから、親にまで知られたくないから。婚約している自分から白紙にして欲しいと親に言わせれば、なんとか円満に穏やかに進めるのではないか。

 そう考えた二人が、勝手に恋人になったことを怒られて終わるのだと、楽な方へこちらへ全てを押し付けて後始末させようとしている。

 ことはそう単純じゃないのに。そもそも、浮気した二人が今のままの立場で姉と妹を入れ替えて無事に終わるなんて、絶対にあり得ない。賠償金などを払って、立場を格下に落としたり責任を取るのが先だ。


 彼の方は他家なのでどうなるのか知らないが、姉の方は恋人のままではいられないだろうし。彼女の婚約者は貴族。面目を潰された我が家もどうなるのかわからない。エーデルが一番被害者なのに、さらに被害に遭うし余波は免れない。


 なんとなく、本当にわかりにくいが姉から優越感の空気を感じる。愛されてしまったのとでもいいたげな。普通に鬱陶しいだけで邪魔くさい。浮気していた非常識な人間が抱いてはいけない感情だと思う。


 元婚約者になる男と浮気した姉はそのまま、ストレートに結ばれると思い込んでいる。そんなわけがないのに。たとえこれが貴族じゃなくても、怒らせた相手が追い詰めようとするだろう。


 家族となるのなら、外面を気にするし貴族なので体面もなにもかもめちゃくちゃにされたと、必ず思うはず。頭を低くして謝り、潰れない程度賠償金を払うことになるだろう。

 他家の女ならばむしり取るが、不貞の相手は実の姉。どう払わせても莫大な慰謝料は期待できない。こうなったら姉を金持ちの問題ありの家に無理矢理入れるしかない。


 うちの家は常識人だが、頭のネジが緩んだ娘を養う余裕はないと思うし。親も納得してくれるはずだ、多分。ちょっと自信がない。妹なんだから我慢しろと、貴族の体裁で我慢させられる可能性も軽く考えられるから。


 姉と不誠実男を放置して、使用人達に親を呼ぶよう外から指示する。彼らをも事前に追い出していたのだから、彼らの狡い思考を他者に知られたくない気持ちがわかる。いつかバレるし、使用人達には恐らく知られているだろう。本当に今更だ。


 父と母が何も知らない顔でやってきた。二人は姉と妹の方の婚約者が隣に座っているのを見て、なにがあったのかと聞いてくる。エーデルは容赦なく二人に親に説明するように、顎で指す。

 二人はビクッと肩を揺らす。どうして怯えるのだろう。怯える段階はすでにあったはずだ。妹の婚約者と浮気して、妹の婚約者なのにその姉と付き合うところとか。ビクつく二人に親は怪訝そうに見る。


「なんなのかしら?」


 母が知らぬままの顔で、当たり前な疑問を問いかけた。


「あの」


「お父様、お母様」


 姉も口篭らせる。二人があたふたして、こちらに助けを求める瞳を向けるので鼻で笑ってやった。見捨てられたような傷ついた目をして、被害者みたいな顔をしたので睨みつける。


「ひっ」


 姉が怯えて婚約者のボーツに引っ付く。


「あ、エーデル……?」


 縋るように名前を呼ぶ婚約者だった男。名前さえもう呼ばれたくない。不愉快だと目を横にして、母たちを見る。


「早く言って」


「え、あ、えっと」


 ボーツはモタモタと言わない。エーデルが全て説明してくれる前提で今日やってきたのだとしたら、こんな展開にする予定はなかったのだ。目はあなたが言ってくれとやってもらうのが当たり前だった、甘くて頼りない性格が今になって首を締め付けている。


「なんだ?」


 父もなかなか話し始めない二人にエーデルへ目を向けるが、エーデルが頑なに首を振り「二人から聞いて」と譲らない。


「エーデル、エーデルから」


「ふざけないで。なんでバカの尻拭いをしないといけないの?」


「あっ、な、ひ、酷いわっ」


「エーデル、クラリネは悪くない……」


 互いに庇うような発言をする。親たちはそこでただの喧嘩ではないと察知したのか、顔が強張っていく。


「なに、何があったの?」


「エーデル、なんなんだ」


「二人から聞いて。私から話すなんて無理。二人のことを言うなんて」


 腕を組み、二人を睨みつけると漸くポツポツと浮気の件や婚約解消のことを親に言う。エーデルからしたら親だが、婚約者からしたら義親だ。


「は?」


「なんだそれはっ?二人とも、なにかのいたずらなのか?」


「違うのお父様!話を聞いてっ」


 姉と裏切り者男は父に話を聞いて欲しくて手を伸ばそうとした。だが、細い貴族の娘の手を父親はスゥと避ける。認められると思っていたのか、避けられたことにショックを受ける長女。それはそういう反応になるだろう。


「お、お父様?な、なんで」


 いいと言われると思っていた態度に、そんなことが罷り通る親はいないだろうとこちらは常識を持っているからこそ、言いたい。とても言いたいが通じない気がしてきた。


 姉も妹も婚約は政略を求めて結ばれている。姉だから妹の方の婚約を結べばいいといった短略的なことではないのだ。それをこのお花畑たち二人は理解してないっぽい。恋や愛をして、二人は結ばれないであろう時間を過ごして酔いに酔っていることはわかった。


 エーデルとボーツはまだそこまでガチガチではないが、姉と辺境伯の長男との婚約はかなり強い契約で結ばれている。親が「なら交換しましょう」などと言わない理由はまさにここだ。


 事業や繋がりを求めて結んだのに、今や崩壊と契約解除どころか莫大なお金が吹き飛ぶ危機。なんだったら爵位だって無くなるかもしれない。辺境は田舎の名称でもなんでもない。

 国境の端を守る王家とて、無視できない程のもの。蔑ろになんてしたらそこから敵陣が知らない間に入ってきて、国をあっという間に奪い取る。


 それをさせないためにも、我が家のように中枢に権力を置いているわけではない丁度良い家が選ばれたのだ。エーデルと姉が入れ替わったとしても姉は当主教育なんてしていない。

 貴族の家からしたら厄介な穀潰し以外ないのである。食わせる余裕はある意味ない。お金がないというわけではなく、なんの役にも立たないのに居座ることは誰も許しはしないはずだ。そう思ってはいるが、向こうの姉の婚約者の匙加減で家の進退は決まる。


 エーデルたちは親諸共、ボーツの親にも話をしてなかったことにはせず誠意を持ってあちらの家に向かう。もちろん、正式な謝罪文と契約書を持って。エーデルも他人事にはならず、家族の中の妹として赴く。

 元婚約者になる男とはあくまで婚約者であり、やったことの責任者ではないから。しかし、かといって婚姻に関わることなので完全に他人事ではない。なかなかに複雑で扱いづらい宙ぶらりんな立場にさせられた。


 被害者なのに加害者でもあり、さらに言うと罰を相手が受けたところで身内もやらかしているからこそ、エーデル本人にもダメージと余波がダイレクトに来てしまう。


 ボーツがいくら賠償したとしても、辺境伯の婚約者を横取りして奪ったことへの代償には到底及ばない。なんてことをしてくれたのだ。エーデルが親に言わなかったのは、言う前に婚約を解消して欲しいと言われただけだ。

 誤差である。確証を得るまで言えなかったというのもある。いくら家の中でも見なかったことにしろと言われるのなら、確実に証拠を得て婚約者となんとか解消したい気持ちもあったから。


 姉と浮気していた男なんてただただ、気持ち悪い。姉のお古は服やアクセサリーだけで十分だ。生身の人間なんて洗っても汚いので返品するか、姉の方にあげたいと思っていたし。

 キスやハグをしてきたのならば吐き気しかしない。存在自体が汚れ切っていて、消毒しても使いたくない。なのに、姉は新品の辺境の長男と結婚なんてあまりにも最低だ。


 親たちにしっかり言おうと思って、あったことを書いた報告書を作成している最中に婚約白紙を打診されたわけだ。最悪なだけではなく考えなしなだけはある。タイミングもダメなのでもう何もかも終わりなのだなと、遠い目になるのは自分だけではない。


「ようこそ」


 辺境伯と長男テラが高級ソファに座り、待ち構えていた。使用人に案内されている中でも心音は最高潮だったが、今がピークだ。今日で我が家は歴史を閉じる。ボーツのところの親の顔色も悪く、彼らも同じ道を辿るのだろうと意識が途切れそうな死んだ目をしていた。


 エーデルたち家族とボーツたち家族がノロノロと顔を上げて、身内の恥を最初から説明する。その間、彼らは笑顔ではなく真顔である。エーデルと言えばふと姉を見た時、頬が引き攣った。


 目をトロンとさせて、頬を赤くさせていたのだ。まさかこの女、元婚約者になる男に今一目惚れした!?と、言葉もない。

 親は変化を知らず説明するのに夢中で気付かない。エーデルの元婚約者ボーツは俯いていてまだ何も知らないらしい。顔を上げたら気付くだろうか。


「なるほど、そちらのお話はわかりました」


「はい」


 父が項垂れる。


「まずは、婚約白紙とさせていただく。賠償金は追々話し合いましょう」


「はい。わかりました」


 エーデルらの父が頷いた時、場違い過ぎる声が制止する。


「待ってくださいっ。あの、私、私……」


 エーデルはもう頭を丸めてシーツを被りたくなった。身内が恥ずかしすぎて。


「黙っていろ」


 父の怒りの声を無視して姉はさらに重ねる。愚行を。


「私、あなたと婚約を続けたいですっ!」


「「「え?」」」


 色んな人の声と目が点になる。息子と浮気して、愛の恋だと言っていたのに?妹の婚約者を奪って、今こんな状態になっているのに?


「何言ってる!?」


 自分と将来を誓い合ったじゃないか?とボーツが自分の今の状態を顧みないことを叫ぶ。叫ぶ気持ちは、まあまあわかる。恋人が他の男、婚約者だった男に継続を叫んでいるのだから。


 一緒に説得しよう。愛し合っているのだから認めて貰える。


 なんてことを、リスクを全て見ないで言い合っていた末にあったのが、今の姉のセリフならここで述べた言葉は出てきたりはするだろう。そうなることはながれでわかるが、許されていないが。落第級だが。この男が将来、婿として来なくてよかった。


「えっと、私、あなたのことが好きです。だから、婚約は解消しなくていいんです!喜んでお嫁に行きますわ!」


「はい?」


 相手側が首を傾げた。


「……な、なにをっ」


 母がふるふると震えて、姉の前に立つと思いっきりぶった。バチィン!と叩かねばエーデルが先に出していただろう。


「んきゃあ!?え、な、きゃあ!んぐ!?」


 ソファの後ろに吹き飛びそうになったが、何か言おうとした女が母親から二発目を喰らうと叫びよりも恐怖が勝ったのか、震えるだけで口を開かなくなった。もっと早くやればよかったのに。


「恥を知りなさいっ」


「お前はもう嫁ぐ資格を失っている!」


 母の次に父が叱る。内容に姉は反論しようとしたが周りの尖った空気と視線にビクッとなった。また間違えた長女はジワッとボーツに助けを求めるように見たが、男は疑心を抱く目で見返すだけ。

 味方が一人しかいなかったのに、自ら地獄に突き落として消したのだ。味方だろうと味方になる程、どうせ頼りにならなかったが。それでも、姉だけを大切にする男であった。この世で唯一の理解者だ。エーデルには永遠に理解できないが。


「あ、エーデル」


 エーデルになぜか助けてもらえると思って名前を呼んできたが、多分この中で一番可能性が低い救済者だと思う。まだ何も知らない人に助けを求めた方が、金でも払えば擁護してもらえるだろうに。


「なに?」


「た、助けて。今、叩かれて」


「もっと叩いて貰えば?」


「えっ!?」


 そんな、と聞こえてきそうな悲壮感に塗れた声音。よく婚約者を奪った姉妹に助けを求めたものだ。何をしたのか今も理解していない。知っていたが、悪いことをしたと初めて話された時は顔だけは反省した様子だったが、違ったのだ。

 悪いと思ったのは、奪ったと思ったことじゃないのだ。恋に落ちてしまったのだから仕方ない、とでも思っていたのだろう。恋人を引き裂くなんて皆が酷いとでも、被害者意識すらあったのかもしれない。


 ならば、今さっき心変わりしたのはなんと説明されるのだろう。


「私はテラ様に嫁ぐのよ?エーデルはボーツと婚姻できるの。もう全部元通りなのよ?」


「はぁ?どこが?浮気したボーツなんているわけないでしょ」


「んな」


 ボーツが何か言いそうになったが、義親だった二人が耳を引っ張り黙らせる。向こうの親には悪いが、浮気した姉は身内だがボーツはまごう事なき婚約者だったのだ。

 不潔感は男は向ける方が強いに決まっている。姉は妹の婚約者を好きになり、同じ気持ちでご満悦なのかもしれないが。エーデルからすると姉はもっといい男に乗り越えていく、どうしようもない女。どちらがより腹が立つなどという問題でもない。


「私がこんなに嫌なのにテラ様があなたなんかを嫁に欲しがるわけがないでしょ?他の男の手垢が付いた、汚い花嫁なんて」


「えっ!?手垢なんて付いてないわっ、婚約者の目の前で嘘を言わないでよっ」


「恋人だったのにそんな嘘、通じるわけがないでしょ?浮気して私の婚約者を取ってさぞ、楽しかったでしょ?スリルもあるし、相思相愛のマウントだってあったでしょうし?婚約解消の場にそもそも、あなたがいる必要がどこにあったの?婚約に関して関係が一番ないのは、あなたでしょ」


 婚約解消の場と問い詰める場は別である。本来、先に婚約解消のためにボーツと両親がいて成立してから、その後にやっとクラリネがその場に座らされるのだ。


「そ、そんなわけないじゃない。妹を貶めるような真似をするわけがないでしょうっ。テラ様の前でいい加減なことを言わないで」


 婚約解消を求める席に座った意図は目の前で、真実の愛が勝利した美酒を二人で乾杯するだけのツマミ扱いではないか。


「裏切り者がかまととぶんないで!」


「ひっ!?」


 チラチラと元婚約者のテラを見ながら、こちらの言い分を止めさせようとする姉にいい加減キレた。縮こまる女に辺境伯がそこまでと言うのでハッとして。エーデルたちは言い争いについて謝ると、辺境伯たちは首を振る。

 エーデルがなにより近くで見ていたから、彼らに言いたいことがたくさんあっただろうしガス抜きしておいた方がいいと言う。エーデルを被害者としての側にしてくれた。


「ありがとうございます」


「いやいや。少し聞いたことがある。君はピンピュー語が得意だとか」


「は、はい。話せますし、書けます」


 一時期はあちらに行ってみたいと思っていた。新婚旅行はそこがいいと思っていたから。ピンピュー国は今現在、大陸でも無視できない成長をしているのだ。それもあるし、言葉の発音が異国らしく面白いのでどんどんのめり込んだ。


「この子が私から継承するまでだが。あちらの国で外交というほど重いものではないが、数十年ほど移住してわが国とパイプを繋ぐために赴く予定をしてる」


「え?」


「えっ」


 姉が痛みを忘れた様子で頬に手を当てて前のめりに、耳を大きくする。ピンピューは大きくなっていると同時に市場も活発で他国がさまざまなお店を出すことを競うほど、ホットスポットになっている。各国の有名店が次々支店を出すほど活気が集まり、注目の国になっていた。


「よければどうだろうか?この子の婚約者か妻として一緒について行き支えてやってはくれないかね」


「え、あ、えっと」


 パニックになり父と母の方を何度も見るとたくさん頷いて「お受けしなさい」と口パクされる。家がなくなる可能性も示唆されていたが、それがなくなるのだ。もっとよい条件が提示された。この選択に一つの拒否権もないけれど、全て離散するよりは。


「よ、よろしく、お願いしますっ」


 ペコッペコッ、と跳ねて頭を下げるとクスッと笑うテラ。


「妻になるのだから、腰を低くしなくていい」


 よく思われなくて当たり前なのに、好感触な相手の言葉に胸をホッと撫で下ろす。が、またここでクラリネが。


「私の婚約者を取るなんて酷い!」


 皆、遂にぽかんとなる。お前が言うなとほぼ全員思ったことだろう。姉は他国に住めるという、皆が羨ましがる未来を他者に取られてなるものかと、焦ったように声をあげたのだ。身内だからこそ、そこら辺もわかってしまった。分かりたくないけど。


「じゃあ、私の元婚約者と今婚約者になった人を取ろうとしたあなたはなんなの?」


「え!……う、くっ、うっうっ」


 ボロボロ泣き出す女に誰も見向きせず、居ないという風を装い次々話は進んでいく。ボーツとクラリネは各家で賠償金支払いのために働くことに。支払いを終えていれば、平民か無爵位で領地の片隅に夫婦として住んでいいと許可された。エーデルの家の後継者はエーデルの子供や分家から取る。


 婚姻や夫婦になることに関して、この二人はあの感じからして冷め切ってしまっているだろうから、再び愛や恋が再燃する率は低そうだ。

 やれやれと、家がなくなることを免除された双方の当主一家は首の皮が一枚繋がったと、とてつもなく安堵している。


 メソメソ泣く姉、最愛を目の前でなくした男のことなど、誰も気にする人はいなかった。

最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。姉はそのまま行けば異国で苦労して毎日泣いてました

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― 新着の感想 ―
既に書かれているけど、読みにくすぎます その読みにくいのも接続詞がおかしいとか単語自体が間違ってるとか文章の繋ぎ・単語の繋ぎがおかしいとか多岐にわたり過ぎてて… とりあえず序盤で一つだけ >まさに手…
読みにくい 内容以前… 文脈修正とか、AIでしてみてはどうでしょうか…?
姉は婚約者である辺境伯の絵姿とか見たことなかったんか…??手紙のやり取りとかもしてなさそう。そんなんで手っ取り早く浮気したとかどんだけなんだ…??親が可哀想ですらある……
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