永沢綾・杦山幸太の言い分
「……これよ。これが、パクリ魔への『正しい鉄槌』なのよ」
暗い部屋の中、永沢綾はモニターの青白い光に照らされながら、恍惚とした表情でマウスを動かしていた。画面に映っているのは、櫛田茉莉子の公式サイトを完全にコピーした無断ミラーサイト。だが、そこには茉莉子が紡いだ物語の代わりに、綾たちが捏造した「公式設定」という名の悪意がびっしりと並べられている [会話履歴]。
『櫛田茉莉子の真実:盗作と裏口入学、そしてテレクラ嬢としての前歴』
その横で、ビデオ通話の画面越しに杦山幸介が下卑た笑い声を上げた。
「ガハハ! いい出来じゃないか、綾。俺もさっき、こいつの新しい出版社と、近所の書店すべてにこのサイトのリンクと『証拠ファイル』を添付して送ってやったところだ。ストーカー禁止令? 裁判の賠償金? 知るかよ。俺は学生会会長として、世の中のバグを修正する『世直し』をしてるだけなんだからな」 [会話履歴]
柔道の黒帯を持ち、「サンダーファイヤー杦山」を自称して大学を支配していた男のプライドは、法廷での敗北を経て、より先鋭化した狂気へと変質していた [会話履歴]。
「……本当に、図太い女よね」
通話に参加していたもう一人の声――かつて茉莉子が習作でフレーズを引用してしまった、あの同人作家が冷酷に吐き捨てた。
「私の大切なフレーズを盗んでコンクールで賞を獲っただけじゃない。その汚れた実績を元にして、高校も大学も卒業したなんて許せないわ。受賞取り消しはもちろん、学歴も資格もすべて剥奪すべきよ。私たちは、この女を正しい道に戻そうとしている『育ての親』みたいなものなのに。ねえ、そうでしょ?」 [会話履歴]
「そうよ、先生!」
綾は身を乗り出して同意した。
「茉莉子はいじいじ、うじうじしていて、本当に気持ち悪い。ハキハキ喋ることもできないあの子は、いじめられて当然なのよ。私たちがわざわざ時間を割いて、代筆ユニットという『救済措置』まで提案してあげたのに、それをストーカー扱いして拒絶するなんて……。あの子、本当に社会性がないわ」 [会話履歴]
彼女たちにとって、茉莉子の居場所を奪い、精神を病ませ、引きこもらせることは加害ではなかった。それは、汚れた魂を清めるための聖なる儀式なのだ。
「無視されたから無視を返すなんて、生意気なのよ。あの子が私の前で土下座して、私の奴隷として一生を捧げるまで、私は絶対に止めないわ。これが、あの子が犯した大罪への唯一の解決策なんだから」 [会話履歴]
画面の中のミラーサイトが更新され、また一つ、茉莉子の尊厳を削り取るための嘘が「真実」としてアップロードされる。
彼女たちは、自分たちが得ているこの歪んだ快感が「正義」であると、1ミリの疑いもなく信じ込んでいた。
「さあ、次のファイルを送りましょう。あの子がどこに逃げても、私たちが追い詰めてあげる。それが、パクリ魔の分際で幸せになろうとした女への、最高のプレゼントなんだから」
綾は満足げに目を細め、共犯者たちと顔を見合わせて、狂気に満ちた笑みを浮かべた。
「これこそが、あの子に必要な『禊ぎ』だよね!」 [会話履歴]




