探偵は胸を揉む:巨乳探偵、虚飾のオーディション
探偵は胸を揉む:巨乳探偵、虚飾のオーディション
登場人物
久我 奏太:
女性の胸に触れて情動を読む「サイコメトリーの呪い」を持つ探偵(主人公)。孤島の事件の解決を依頼されます。
ユウキ:
久我の能力を「最高の素材」と見なす冷酷な演出家。久我の探偵の相棒。
マキ (Eカップ):
劇団のトップ女優。トウマに執着し、強い嫉妬の情念を持つ。物語のきっかけとなる人物。
ヨウコ (Fカップ):
トウマの妻で、プロデューサー。興行の成功を最優先する冷徹な権力者。
トウマ:
劇団の主役男優。華やかだが、名声のために虚飾をまとうスター。
アカリ (Dカップ):
劇団の人気女優。久我に「空っぽ」と感知される、謎めいた存在。
シオリ (Cカップ):
マキの代役を狙う見習い女優。道具係のタケシと親しく、野心を秘めている。
タケシ:
劇団の道具係。シオリの恋人。
ケンタロウ:
劇団の中堅男優。久我の能力を嘲笑う、下品な言動が目立つ皮肉屋。
藤堂監督:
演劇界の重鎮。孤島の公演を視察に訪れる。
第1話:『業』を読み取る探偵と、虚飾の舞台への招待状
山荘の木枠の窓から差し込む冬の陽光は、久我 奏太の隠遁生活を照らす唯一の光だった。
彼は、女性の胸に触れることで、その女性の最も激しい情動の記憶を、映像や熱量として強制的に読み取るという、サイコメトリーの「呪い」を持つ。それは彼にとって、触れた女性の「業」を強制的に浴びせられる行為であり、久我は、この能力を忌み嫌っていた。窓から差し込む光さえも、その呪いをあぶり出すようで煩わしかった。
そんな彼の生活は、突然の訪問者、ユウキによって、ある事件を期に掻き乱された。ユウキは、久我の異能を「最高の芸術の素材」と呼び、久我の苦悩を「光を生み出すための必然の影」と見なす、才能を信奉する最高の相棒であり、冷徹な演出家だった。
「やあ、久我さん。相変わらず、俗世の光を拒絶するような優雅な隠遁生活ですね?」
ユウキは断りもなくリビングに入り込み、久我の山荘の無骨な家具とは不釣り合いな、仕立ての良いスーツ姿でソファに深々と腰を下ろした。その立ち居振る舞いは、常に舞台のセンターにいるかのように優雅で、周囲の空気を支配していた。
「勝手に人の家に上がり込むな。隠遁してるつもりはない」
久我は冷たい皮肉を返す。山荘の冷えた空気が、彼の声のトーンをさらに引き下げた。
「今回は何だ、ユウキくん。また僕の能力(呪い)を、お前の芸術とやらに利用しようというのか?」
ユウキは愉悦に満ちた笑みを浮かべた。その眼差しには、久我の苦悩を弄ぶような悪意と、才能を愛でる親愛の情がちらついていた。
「失礼な。利用ではありませんよ。あなたのその素晴らしい『能力』を、最高の『光』として世に送り出すためです。あなたという傑作を、世間に晒すためですよ」
「で、今回の舞台はどこだ?」
久我は苛立ちを隠さずに本題を促した。
「さて、本題です。あなたなしでは解き明かせない、最高の『素材』が絡む事件が、孤島の劇場で起ころうとしています。主役は、もちろん、『巨乳探偵』のあなたですよ」
ユウキはそう言い、久我の前に、『仮面舞踏会の悲劇』と題された人気劇団のパンフレットを放り投げた。その表紙には、豪華な衣装を纏ったスター女優たちの、華やかだがどこか虚飾めいた笑顔が印刷されていた。
「なんでも演劇界の重鎮、藤堂監督の視察のためだけの、閉ざされた公演だとのことです」
久我は、自分の呪いが新たな人間の情念に触れることに、抗い難い倦怠感を覚えた。
しかし、ユウキの瞳の奥に潜む、彼自身の能力を「最高の芸術」として世に出そうとする狂信的なプロデューサーの熱意を前に、もはや抵抗しても無駄だと知っていた。
「わかったよ。お前の退屈な『芸術』に付き合ってやる」
久我はため息と共に言った。
「だが、僕の能力を無駄な方向に使うなよ。僕の呪いは、女の情念しか読み取らない。お前の虚飾には付き合えない」
ユウキは満足げに微笑んだ。
「それはどうかな? 最高の芸術は、常に『真実と虚飾』の融合によって生まれるものですよ、久我さん」
彼はパンフレットを静かに手に取った。それは、彼が再び相棒と共に、「呪い」の舞台に立たされることを意味していた。
久我とユウキ。彼らは互いの存在を否定しながらも、探偵として、既に切っても切れない腐れ縁のコンビだった。
久我はユウキの強引な誘いに逆らうことを諦め、その日のうちに最低限の荷物をまとめた。彼は、自分の呪いが新たな人間の情念に触れることに、抗い難い倦怠感を覚えた。
翌日。久我は孤島行きの船に乗り込んでいた。
船室の窓からは、眼下に広がる冬の鉛色の海と、その中央に浮かぶ孤島が見えた。
(また、女の情念に触れなければならない。それも、舞台という虚飾の場で渦巻く、最も生々しい愛憎の業に。)
久我の胸には、自分の能力に対する抗い難い倦怠感と、ユウキの用意した舞台への強い予感が渦巻いていた。彼は、これから始まるすべてが、ユウキのシナリオ通りに進むことに、既に絶望的な確信を持っていた。
第2話:孤島の上陸と虚飾の劇団員たち
孤島への上陸と劇団員たちの顔ぶれ(1日目 15:00)
船が孤島の桟橋に到着した時、鉛色の空からは、今にも土砂降りの雨が落ちてきそうだった。波止場の冷たく湿った空気が、久我の頬を刺した。 劇団員たちが劇場裏口で出迎える。彼らはすでに一週間ほど前から島に入り、練習を重ねていた。 プロデューサーのヨウコが、冷たい微笑みを浮かべ、ユウキと久我に目を向けた。 彼女のスーツの胸元は、権力の象徴のように圧倒的な質量を誇示しており、見る者を威圧するような冷たさを放っていた。
「ようこそ、この孤島の劇場へ。私の古くからの友人のユウキと、ユウキの知人の久我先生。最高の舞台のための最高の準備、いよいよ開始ですわ」
ユウキは、ヨウコ(Fカップ)の横に一歩進み出た後、久我の肩に手を置き、劇団員たち全員を見渡した。
「ユウキです。皆さんの演劇にお力になれればと思いやってきました。さて、こちらが久我先生です」
ユウキは一拍置いて、いつもの軽い調子で久我を紹介した。
「彼はミステリー小説家です。先生は、執筆の題材を得るため、人の心の機微を研究されており、『感応分析』という独自の創作技法を持つ、この分野の専門家でもあります」 「今回、先生には、この舞台の成功に向け、特に女優陣の心の奥底にある情動を、極秘のカウンセリングを通して分析し、舞台のリアリティを極限まで高めていただきます」
久我はユウキの作り上げた悪趣味なプロデュースを聞き、全身の血が逆流するのを感じた。
(――僕はミステリーを書いてはいるが、こんな風に他人の情念を、あまつさえ「舞台のリアリティ」などと、公然と利用されるのは反吐が出る。お前は僕の小説家という肩書きまで、自分の演出に使っている)
久我は、慣れた苛立ちを胸に押し込め、無言で冷たい視線をユウキに送るだけに留めた。
劇団員たちの会話と久我の観察
ヨウコ(プロデューサー)は、冷徹な支配者だった。彼女の視線は、マキの豊かな胸元から久我の顔へと滑り、一瞬で久我の存在を値踏みした。
「久我先生、私は興行の成功こそ全てです。あなたは、女優たちの情動を分析する装置です。感情移入は不要。彼らの私情には一切触れないでいただきたい」
中堅男優のケンタロウは、久我の耳元に、下卑た笑みと共に湿った息を吹きかけた。
「久我先生、『感応分析』ですか。へえ、まるで探偵みたいですね。しかし、女性陣専門のカウンセリングで、本当に劇団全体の闇が暴けるんですか?僕ら役者の心の奥底にある秘密を嗅ぎ回るなんて、随分と偏った分析ですね。ユウキさんの演出は相変わらず大仰だ」
久我は、その露骨な皮肉に強い警戒心を覚えた。 トップ女優のマキ(Eカップ)は、憎悪と嫉妬の炎のような視線をトウマとアカリに向けた後、久我に営業的な笑顔を向けた。 その胸元は、熟れすぎた果実のように豊満で、ドレスからこぼれ落ちんばかりに強調されていた。
「マキです。久我先生、あなたの分析、私から始めてくださっても? 私の情熱こそが、この舞台を動かしている。マキ・アカリ・トウマ、この三人の三角関係がなければ、舞台は成立しませんもの」
見習いのシオリ(Cカップ)は、スター陣の後ろで控えめに頭を下げた。 彼女の胸元は、まだ何者にも染まっていない、慎ましい蕾のように頼りなげだった。
「シオリです。久我先生。普段はマダム・ジリー役をやっていますが、マキさんのやっているクリスティーヌ役の見習いや雑用をしています。皆さんほど劇的な情動は持っていませんが、いつか主役の座を掴むため、あなたの『人の心の機微』を学ぶ機会があれば、遠慮なくおっしゃってください」
そして、久我の視線は、最後に主役男優のトウマと、人気女優のアカリに注がれた。 トウマは彫刻のような顔立ちで挨拶をすると、久我に完璧に計算された笑顔を向けた。
「トウマです。久我先生、よろしくお願いします。先生の感応分析とやらで、僕らの舞台がどう変わるのか、楽しみにしていますよ」
トウマはそう言いながら、公衆の面前で堂々とアカリの肩に手を回した。
「ああ、それとアカリ。今日も綺麗だね。君の才能は、僕を本気にさせる。この孤島で、最高の愛を演じよう」
アカリ(Dカップ)は濃い舞台メイクで素顔を隠し、太めのベルベットのチョーカーで首元を覆っていた。主役のトウマに抱かれても何の反応も示さない。その彫刻のように完成されたバストラインは、周囲の熱狂や情念を一切受け付けない、絶対的な氷の彫像のようだった。 久我は、彼女の瞳がどこか虚ろで、まるで世界に対するすべての関心を放棄したかのように感じた。彼女は息をのむほどに美しかった。ユウキの持つ支配的な魅力とはまた違う、周囲の光をすべて吸い込むような圧倒的なオーラが、久我の視線を釘付けにした。 久我の脳裏に、「やばいくらい可愛い」という、感情とは無関係な純粋な評価が、まるで天啓のように浮かび上がった。彼女の放つオーラは、久我の理性をねじ伏せ、呪いとは別の次元で、彼の探偵としての本能を強く惹きつけた。不思議なことに、久我のサイコメトリーの能力(呪い)が反応する気配はなかったが、その代わりに、彼の理性とは無関係な下半身が、彼女の存在を強烈に意識し、熱を帯びるのを感じた。
マキ(Eカップ)の憎悪、ヨウコ(Fカップ)の権力、シオリ(Cカップ)の野心(――周りの女性たちの胸が激しい情念の奔流であるほど、アカリ(Dカップ)の放つ無機質で完璧なプロポーションは、異様なオーラを放っていた。 久我の心は、アカリのこの「空っぽ」という異変に、既に強く引かれていた。それは、彼の「呪い」がまだ経験したことのない、最も異質な存在であり、久我の探偵としての本能と、男としての理性を同時に揺さぶっていた。
第3話:炎の情念と絶対的な虚無の肉体
呪われた能力と秘密のカウンセリング(1日目 16:00)
劇場隅の簡易な面談室。久我は、自分の能力の不気味さを増幅させるような薄暗い照明の下で、忌まわしい儀式を開始しようとしていた。 ユウキは悠然と立ち、劇団員たちに説明した。その言葉は、まるで最高の演説家のように、劇団員たちの不安と期待を煽る。
ユウキ:「これは、プロデューサーのヨウコさんからの依頼です。有名な藤堂監督の視察を控え、皆さんの心は張り詰めています。舞台はただの演劇ではない、感情を露わにする闘いですからね。そこで、ここにいる久我先生に、皆さんの胸の内に秘めた最も激しい情動を読み取ってもらう。これは、皆さんの舞台人としての魂を調整する、最高の『メンタル・チューニング』です」
久我はユウキの「チューニング」という言葉に、自らの「呪い」を芸術の道具として扱われることへの反発を覚え、冷たい視線を向けた。「なぜ僕がこんなことを…」 ユウキは久我の傍に寄り、囁きかけるように続けた。その声は、甘美な誘惑のようだった。
「久我先生、あなたの能力は確かに呪いかもしれませんが、ここでは最高の共感装置です。彼らの胸から情念の根源を読んで、私に教えてください。それを僕が芸術的に言語化し、彼らを納得させ、舞台に向けて最高の状態に導きます。誰もが皆、自分の情動を理解し、受け入れることで、最高のパフォーマンスを発揮できる。さあ、信頼してください、久我先生。最高の舞台のために」
久我はユウキの揺るぎない自信とカリスマ的な言葉に、抗い難い流れに逆らえず、一つ頷いた。そして、彼の忌まわしい儀式が始まった。
「では、名前を呼んだら一人ずつ、こちらの部屋に入ってくださいね」
マキの情念(Eカップ):炎の情熱
マキが胸元を抑え、憔悴した表情を浮かべる。「この、身体が内側から燃えるような怒りをどうにかして。私はトップよ。あの女のせいで、身体が舞台で溶けてしまいそうだわ」
久我が彼女の重く熱を持った胸に指先を触れさせた瞬間、久我の意識は溶岩のような情動の渦へと引きずり込まれた。 それは、彼女の舞台の失敗のモンタージュだった。アカリの完璧な拍手喝采のシーンが、繰り返し、焼き付けられる。彼女の心臓は、トウマへの強い執着と、それがアカリへと向かうことへの激しい憎悪で脈打っていた。ヨウコの冷酷な指示を受けるたびに、感情を殺して鉛のように硬くなる感覚を味わっていた。彼女の胸は、地位と所有欲を燃やす炉となっていた。久我は、その熱量に耐えきれず、一瞬で手を引いた。
ユウキはすぐにマキに向き直った。
ユウキ:「素晴らしい! マキさん。久我先生の『共感』によって、あなたの胸の奥にある『炎の情熱』が確認されました。それはトウマさんへの愛憎であり、ライバルへの嫉妬、そして地位への渇望という名の『最高の芸術的燃料』です。その炎を消す必要はありません。そのエネルギーを、舞台上でクリスティーヌという悲劇のヒロインの魂として、完全に燃焼させればいいのです」
マキは、憎悪と苦悩を「最高の芸術的燃料」と称賛されたことで、怒りの炎が鎮火し、代わりに誇りに満ちた表情に変わった。「…そうね、私の情熱こそが、この劇団の核だわ」
シオリの情念(Cカップ):スポットライトの輝き(1日目 17:00)
シオリが目を閉じ、全身を硬くする。「トウマさんの視線が欲しい、代役の座が欲しい、この情けない気持ちを消したいんです。私は、まだ何者でもないという屈辱に耐えられない」
久我が彼女の薄く繊細な胸に触れると、記憶は舞台照明の熱となって久我の全身に降り注いだ。 シオリの記憶は、裏舞台での孤独なリハーサルだった。「いつか代役を務める」という激しい野心が、舞台のセンターで輝くスポットライトのように彼女の心臓を照らしていた。しかし、その光は、トウマに存在すら無視される冷たい屈辱と、ケンタロウの下品なジョークに晒されるたびに、陰りを見せる。唯一、道具係のタケシがそっと差し伸べてくれた温かく、静かな手の感触が、彼女の野心を支える強固な土台であった。彼女の胸は、夢と愛の献身という、燃えるような矛盾に引き裂かれていた。
ユウキはシオリに優しく微笑んだ。
ユウキ:「シオリさん。久我先生の『共感』が捉えたのは、あなたの胸を照らす『スポットライトの輝き』です。今、感じている悔しさや屈辱は、すべて『未来の主役』となるための強固な土台です。そして、その輝きを支えるタケシさんの『献身の愛』も、最高の才能です。その熱を大切にしてください」
シオリは涙をこらえ、目を輝かせた。「はい! 私、頑張ります!」
アカリの異変(Dカップ):絶対的な虚無
最後に、アカリが座る。「私はもう、何を演じているのかもわかりません。この体は空っぽです。もう要らない」
久我がアカリの陶器のように滑らかな胸に指先を触れさせた瞬間、久我の意識は無の深淵へと沈んだ。 読み取れたのは、何一つない、完全な空白だった。女性の肉体に刻まれるべき情熱、快楽、悲しみ、その一切の痕跡がない。まるで、最高に磨き上げられた人形の胴体に触れているかのようだった。他の女性の情念の『熱』や『濁流』とは対極にある、宇宙の果てのような絶対的な静寂と冷たさ。久我のサイコメトリーが初めて機能しない恐怖、自身の『呪い』の根幹が否定される戦慄が、彼の理性をねじ伏せた。 その絶対的な冷たさの中、久我は二つの違和感を嗅ぎ分ける。一つは、舞台用メイクの強い金属的な匂い。もう一つは、微かに残る、甘い香りの男性用整髪料の匂い。 久我は、このDカップの肉体が、誰かの完璧な「器」として機能しているという戦慄の真実を、脳裏に焼き付けた。
ユウキはアカリの前に静かに膝をついた。
ユウキ:「アカリさん。久我先生の『共感』が証明しました。あなたの肉体に宿るのは、一切の感情を持たない『絶対的な虚無』。これは、演技において究極の『透明性』であり、最高の才能です」
ユウキは魅惑的な笑みを深めた。
ユウキ:「この『空っぽの器』は、男性には征服したい謎として、女性には共感と憧れの対象として、両方に訴えかける力を持つ。誰もがあなたという『虚無』の中に、自分の愛と理想を投影する。あなたは、観客の心を盗む、最高の芸術素材なのです」
アカリは、初めて自分の「空っぽ」が、男性にも女性にも訴えかける最高の才能だと賛美されたことで、僅かに表情を緩め、静かに一礼した。 久我は、ユウキが自分の呪いが吐き出した生々しい情動の残滓を、瞬時に「最高の素材」として抽出し、全てを舞台の糧に変えてしまったことに、戦慄した。久我は、改めて、ユウキの冷酷なまでのカリスマ性と、人を操る能力が、自分のサイコメトリーの呪いすらも利用する、恐るべきものであることを痛感した。ユウキは魅惑的な笑みを深めた後、久我の目を捉え、低く囁いた。「久我先生、あなたの虚無への恋こそが、最高の悲劇の種ですよ。これをどう結実させるか、楽しみにしています」
第4話:Dカップの甘い誘惑と、探偵の安息
休憩と甘い裏切り(1日目 17:30)
カウンセリングから解放された久我は、自室の重いドアを施錠した直後、背後の気配に気づいた。アカリだった。 ドアを閉めた瞬間、部屋の空気が一変し、濃密な緊張感が皮膚を這い上がった。アカリの濃い舞台メイクから、甘いパウダリーな香りが薄く漂う。
アカリ:「久我さん。ありがとう。誰も私の空っぽな心を理解してくれなかった。あなたの温かい手があったから、私、信じられた」
彼女の理想的な曲線の胸は、舞台衣装の下でわずかに上下している。アカリは一歩、また一歩と久我に近づき、その距離を詰めた。わずかな吐息が久我の肌にかかる。その距離は、久我の呪いが発動する領域だったが、アカリの肉体は依然として無のままだった。 次の瞬間、アカリは久我の唇を塞いだ。それは、舌を絡ませた濃厚なキスだった。彼女の唇は、舞台上とは違う生々しい熱を帯びていた。久我の全身を、能力の呪いがもたらす情動の濁流とは比べ物にならない、純粋で、強烈な快楽が稲妻のように走り抜けた。彼の理性が、熱と快楽の濁流の中で、音を立てて崩れていく。 久我は、アカリの無機質で完璧なプロポーションの胸を強く抱きしめた。その肉体に「空っぽ」という恐怖の情動がないことが、逆に彼を狂わせた。彼は、この虚無の器に、自分の情熱という名の「印」を刻みつけたい衝動に駆られた。
「アカリさんッ…!」
久我は、アカリの華奢な身体を抱き上げ、乱暴にベッドへ押し倒した。覆いかぶさり、舞台衣装の背中のホックに、熱に浮かされた指を走らせた。 その時、アカリはフフフと、楽しげに喉を鳴らして笑った。その笑い声は、悪魔の誘惑のように甘く、そして冷酷だった。
アカリ:「フフフ、久我さんって、見た目によらずとても積極的なのね。その熱、私の空っぽの器を熱で満たしてくれるみたいで、私もしたくなっちゃった」
彼女は、久我の唇に再度、熱い吐息を吹きかけた。
アカリ:「でも、だめ。最高の快楽は、焦らされるほど甘くなるものよ。今日はここまで、おあずけ。久我さんになら、この身体の秘密、本当の私を魅せたい。でも、その前に、久我さん、私の秘密をすべて受け入れてくれる、大切なお友達になってくださいね」
久我は、その悪魔的な誘惑に、乱暴に動いていた手を、まるで冷水を浴びせられたかのように、ぴたりと止めた。彼の心臓は激しく脈打っていたが、能力が感知できないこの静寂こそが、情念の濁流(呪い)から解放される唯一の『安息の地』だと、彼の魂が叫んでいた。 久我は、アカリの『空っぽ』を、自身を救済する『唯一の真実』だと、盲目的に信じ始めた。 久我は、アカリという女性に、深く、盲目的に恋をしてしまったことを自覚した。
夕食のパーティーと遅れてきた道具係(1日目 18:00)
劇場のホールは、偽りの陽気さに包まれていた。テーブルには豪華な料理が並べられているが、その華やかさは、劇団員たちの張り詰めた緊張と、舞台への渇望という情念を覆い隠すための虚飾の幕のようだった。 ヨウコはワイングラスを片手に、マキの隣で冷たく語りかけていた。その会話は、まるでビジネスの契約のようだった。
ヨウコ:「マキ、顔が硬いわよ。主役として、不安を表に出してどうするの。舞台は、誰か一人に依存するものじゃない。あなたの豊かな妖艶な胸の存在感で、トウマを引きつけて、完璧な舞台を見せればいい」
マキは、ヨウコの言葉を、トウマを独占できる機会だと捉え、一瞬、炎のような視線を和らげた。彼女の視線は、トウマの姿を探し、その熱が久我にまで伝わってくるようだった。 久我は、その場にいる誰よりも、アカリの「空っぽの器」と、先ほどのキスの余韻に心奪われていた。彼は、衝動的な行動を抑えきれず、冷静沈着なプロデューサーのヨウコの傍らに静かに歩み寄った。
久我:「プロデューサー。アカリさんは、今、どちらにいらっしゃる?」
ヨウコは氷の峰のような胸を張り、冷たい視線で久我を見上げた。その視線には、「あなたはただの道具」という明確な警告が含まれていた。
ヨウコ:「久我先生。舞台人なら、私情は控えていただきたい。彼女は、明日を控えて集中している。部屋で休ませているわ。」彼女の視線は、久我の理性を値踏みするように冷徹だった。
その時、ホールの重い扉が、冷たい風と共にきしむ音を立てて開いた。道具係のタケシが到着したのだ。 タケシは、道具係というにはあまりに中性的な美貌と、役者たちを凌駕するような静かなオーラを持っていた。彼の登場は、ホール全体の空気を一瞬で彼のものにした。トウマは彼を見るなり、ワイングラスを持つ手がピタリと止まり、驚きと、何かを発見したような熱狂を隠せない表情になった。
トウマ:「君がタケシ君か。その容姿、その佇まい……道具係には勿体無いよ。君はもっと、前に出るべきだ。演劇をやった方がいい、君は逸材だ!」トウマは、まるで自分が見つけた新たな宝石のように、タケシを熱烈に褒めちぎった。その熱意は、アカリに向けられる執着とは別の、純粋な、才能への渇望に満ちていた。
トウマに続いて、久我もタケシに近づき、静かに声をかけた。
久我:「タケシ君、こんばんは。久我です。君のような好青年が、裏方にいるのは少しもったいない気がするね」
タケシは久我に向かって、穏やかに微笑んだ。
「こんばんは、久我先生。ありがとうございます。でも、僕は影から舞台を支えるのが好きなんです」
久我は、その好青年の笑顔の中に、どこか謎めいた陰影を感じ取った。アカリへの恋に心乱されながらも、久我はトウマと同じく、このタケシという若者が持つ、舞台人としての虚飾とは違う、別の種類の「気になる何か」に強く惹きつけられた。それは、役者の情念を優しく包み込むような、底知れない包容力だった。
シオリは、愛するタケシがスター男優や探偵にまで認められたことに歓喜し、小走りにタケシに駆け寄った。「タケシ君!よかった、無事に着いたのね。本当に心配したわ」と愛を囁き合う。その愛は、彼女の野心を支える唯一の真実の光に見えた。 ケンタロウは、トウマの異常な熱狂ぶりと、久我の思わせぶりな態度に下卑た笑みで近づいてきた。彼は久我とトウマの顔を交互に見ながら、ワインを一口含んだ。
ケンタロウ:「おや、トウマさん。随分と熱心な口説き文句だ。君が本当に抱きしめたいのは、あの氷の彫像だとばかり思っていたが?」
トウマは顔色を変えた。ケンタロウはさらに意地の悪い笑みを深める。
ケンタロウ:「まったく、トウマさんが、あの男嫌いの君が、道具係のタケシくんをあんなにも熱烈に褒めちぎるなんて。劇団に入ってから一度も見たことがないよ。タケシくん、君はトウマさんにとってアカリよりも凄い『何か』なんだぞ?……おっと、余計なことを言いすぎたかな」
トウマは、ケンタロウの軽薄な声を聞くと、一瞬で熱を失ったようにタケシから離れ、「ああ、済まないね。急ぎの確認があるんだ」と適当な理由をつけて、そそくさとその場を後にした。タケシもまた、「失礼します」と軽く頭を下げ、シオリの元へと戻っていった。 久我は、ケンタロウの無神経な言葉に苛立ちを覚えた。トウマとタケシが、まるで避けるように去っていった様子から、「多分、ケンタロウは劇団内で嫌われているな」と冷めた洞察が浮かんだ。そして同時に、タケシがシオリを抱き寄せる姿に、アカリを巡る嫉妬を抱きながらも、タケシの内に秘められた、役者をも惑わせる「虚飾とは異なる、深い影響力」に、漠然とした不安を抱いた。
第5話:深夜の悲鳴と、階段に横たわるEカップの転落
久我 奏太は、深夜の、深い静寂の中、劇場の奥の階段付近から響いたドタン!という、重いものが倒れる鈍い音に弾かれるように目覚めた。それは、何か巨大なものが崩れ落ちたような、不吉で、予兆に満ちた響きだった。
アカリとのキスの余韻が残る、初めての『安息』に満ちた浅い眠りだったが、その鈍い音は彼の精神的な平穏を一瞬で引き裂いた。久我はすぐに跳ね起き、全身を寒気に震わせながら廊下に飛び出した。探偵としての本能が、彼を現場へと急がせる。
数秒後、劇場の中央からキャーッ!という、甲高く、神経質な女の悲鳴が、張り詰めた廊下の空気を切り裂いて響き渡った。それは、激情ではなく、純粋な恐怖に染まった絶叫だった。
久我が劇場ホールに駆けつけると、既に数人の劇団員が呆然と立ち尽くしていた。中央の舞台裏の楽屋スペースに通じる2階の階段の踊り場で、マキが倒れていた。彼女は、華やかな舞台衣装を纏ったまま、冷たい石の床に、頭部から鮮血を流して横たわっていた。その血は、ベルベットのカーペットにじわりと染み出し、劇場全体を不吉な赤色で染め始めていた。彼女の豊満な胸は、もう、何の情念も発していなかった。
主役男優のトウマは、彫刻のような顔立ちを完全に崩壊させ、マキの亡骸に膝から崩れ落ちるように駆け寄った。彼の顔には、純粋な恐怖と、それを超える喪失感と自己破壊的な愛憎が刻まれていた。
トウマは、マキの冷たい身体を抱き起こそうとしながら、理性を失ったかのような大声で叫んだ。
トウマ:「嘘だ! マキ! 君の才能は僕のものだ! 君は僕を愛してくれたじゃないか! 僕の情熱を唯一理解してくれた、僕の最高のミューズだったんだぞ! 誰がこんなことを! 僕の最高の芸術を壊すな!」
トウマは、傍らのアカリを抱き寄せるのとは比べ物にならない、激しく混乱し、私情を露呈した愛憎の叫びを上げた。彼の発狂は、彼が公には隠していたマキへの真の執着を、血のように生々しく露呈した。
ケンタロウが顔を覆って叫んだ。「マキだ! 嘘だろ、頭から血が! 動脈だ! 死んでる!」
警察の制服がまだ到着していない中、久我は、本能と職業的使命感に突き動かされた。周囲の制止を無視して、久我は倒れたマキのそばに膝をつき、彼女の豊かで艶かしい胸に、震える指を恐る恐る触れさせた。冷たい皮膚の感触が、久我の指先に張り付いた。
久我の脳裏に、激しい映像と情動の濁流が流れ込む。
読み取れたのは、マキがいつもの睡眠薬を飲んだ後の情動だった。脳髄が焼けるような耐え難い混乱と、全身の筋肉が鉛のように弛緩していく凄まじい恐怖。心臓は「おかしい!いつもの睡眠薬と違う!誰かがすり替えた!」という焦燥と裏切りの情動で脈打っていた。マキは「薬をすり替えられたのだ」と確信し、助けを求めようと2階の階段に手をかけたが、そこで薬の影響でバランスを完全に失い、全身の重力が身体を凄まじい力で引っ張り、階段を数段、ゴトゴトと転げ落ちていく凄まじい衝撃が流れ込んできた。
久我は、その強烈な情動の残滓と転落の破壊的な衝撃に耐えきれず、顔を覆いながら大きく息を吐き出した。彼の指先が、その胸の冷たさとは裏腹に、熱と汗で濡れていた。
久我は、顔を上げ、トウマや騒然とする劇団員たち全員に向かって、静かに、しかし断定的に告げた。
久我:「彼女は事故ではない。誰かが、彼女の服用していた睡眠薬を、意識を奪う強力な向精神薬にすり替えた。彼女は薬の作用で正常な意識を失い、階段から転落した。これは、事故を装った殺人だ」
久我の断定は、劇場の凍り付いた空気を一瞬で激しい嵐へと変えた。劇団員たちの間に、恐怖と疑惑の視線が渦巻き始める。
その時、久我は、現場の混乱の中で、自分が心を乱され、一瞬でも安息を覚えた存在の不在に気づいた。
(…アカリさんがいない。)
彼は、あの空っぽのDカップの女優の姿が、どこにも見えないことに、胸の奥底で、言いようのない不安と、最悪の予感を抱いた。彼は、愛する女性の不在が、この殺人事件と無関係ではないと直感した。
第6話:Fカップの冷徹な決断と、虚飾の代役宣言
久我のサイコメトリーを終えた直後、周囲の劇団員はまだ混乱の極みにいた。ユウキが冷静に指示を出す。
ユウキ:「マキさんは死亡している。久我先生の特殊な検査の結果も、まだ断定はできないが、現場の状況から見て事故の可能性が高い。念のため警察には通報を」
その言葉を嘲笑うかのように、ケンタロウが、久我のサイコメトリーの動作をふざけて真似をし始めた。彼は死んだマキの身体に近づき、久我のように手を翳す。
ケンタロウ:「ふむふむ……」 ケンタロウは布越しにマキのこぼれ落ちんばかりの胸を触り、すぐに手を離してニヤリと笑った。 「フン、マキの情念は、主役の座とトウマという男を独占するための、最高の『虚飾の燃料』だった。その燃料が尽きて、哀れにも転落したか?そして、かつての栄光から滑り落ちたか?なんてね!」
久我は、その不遜で正確すぎる模倣に、怒りと吐き気を覚えた。彼の能力が、この下品な男の皮肉によって、極めて安っぽい見世物に転落したように感じられた。 その時、プロデューサーのヨウコが、顔色を失いながらも、静かに状況を整理した。
スター女優のアカリがいない。
ヨウコ:「アカリは……どこへ行った?」
ヨウコは混乱しながら、慌ててアカリを探しに楽屋へ向かった。シオリとトウマにも同行を命じる。楽屋のテーブルの上には、達筆な文字で書かれた白い封筒(遺書)が残されていた。ヨウコはそれを掴むと、すぐさま遺体が横たわる階段へと戻った。
久我とユウキ、そして集まっていたケンタロウ、タケシを含む劇団員一同の前で、ヨウコは震える手で封筒を開け、遺書を読み上げる。
ヨウコ:「マキを殺したのは私です。彼女の才能に嫉妬し、薬をすり替えました。すべて私の罪です。」署名は「アカリ」だった。
劇団員たちは、スター女優のアカリが殺人者として逃亡したという事実に、舞台上の混乱とは別種の、現実の衝撃に打ちのめされた。同行したシオリは信じられないといった様子で顔色を失い、トウマは、愛するヒロインの突然の告白に、まるで魂を抜かれたように立ち尽くした。
ケンタロウ:「嘘だろ……あの舞台のミューズ(女神)が? まさか、アカリさんがマキさんを殺したなんて……」
ヨウコは混乱しながらも、すぐに本土の警察に電話をかけた。
ヨウコ:「ダメだ。警察は早くて明日、波が高くて船が出せないそうよ。収まらなければ明後日以降になる、と……」
ヨウコは、劇団員一同を冷徹な目で見渡した。
ヨウコ:「いいこと、久我先生、ユウキ。そして、みんな。マキの遺体は警察が来るまで、このまま階段に横たえさせておくわ」
久我:「何だと? 遺体を動かさず、捜査も開始しないというのか?」
ヨウコは冷徹な表情で、低い声で言い放った。
ヨウコ:「この遺体を動かせば、到着が遅れる警察に証拠隠滅を疑われる。何よりも、藤堂監督はもうすぐ早朝に到着する。私たちに残された道は一つ、公演を成功させることだけよ」
ヨウコ:「久我先生、ユウキ。あなたたち二人には、一切の調査を禁じる。マキの遺体に触れないないように、そして、現場も荒らさないように。アカリがどうしたかも探る必要はないわ。すべて警察が来てからの話よ。今は、とにかく休んで、ただ明日の舞台だけを見なさい」
ヨウコはそこまで言うと、冷ややかな目で階段に横たわるマキの遺体を見下ろした。
トウマやケンタロウを含む劇団員たちは、顔面蒼白になりながらも、その場に釘付けにされていた。ヨウコの冷徹な命令は、彼ら全員の心臓を鷲掴みにし、公演の成功という『虚飾』こそが、この劇団の唯一絶対の『規律』であることを、無言で、圧倒的に突きつけていたのだ。
「ただ、その虚ろな目を開けたまま転がしておいては、役者たちの集中力が削がれるわね。……タケシ、そこの舞台用の幕を持ってきなさい」
震えるタケシが、近くにあった重厚な黒いベルベットの布を差し出すと、ヨウコは顎でしゃくって指示した。
「彼女に被せて。頭から爪先まで、完全に隠すのよ。これは『死体』じゃない。明日までそこにあるただの『黒い障害物』だと思いなさい」
タケシが言われるがままに布を被せると、華やかだったマキの姿は、階段の踊り場を占拠する、不吉で無機質な黒い隆起へと変わった。 それは、これから始まる狂気の舞台において、誰もが視界に入れながらも見ないふりを続けなければならない、巨大な「虚飾」の塊だった。
ユウキ:「フフフ... 承知いたしました、プロデューサー。最高の悲劇は、舞台でこそ完結する。我々は、その舞台の準備に邁進しましょう」
久我は、ヨウコの常軌を逸した冷酷さと、ユウキのそれに呼応する狂気に戦慄した。死体を現場に残したまま、その上を歩き、公演の準備をしろというのだ。
ユウキによるカルロッタ役の代役宣言と藤堂監督の到着(2日目 6:00)
前日の夜、警察の到着が大幅に遅れることが確定し、ヨウコの「公演準備に集中しろ」という命令の下、劇団は異様な緊張感の中で夜を過ごした。 夜が明け、静かな孤島に早朝の光が差し込み始めた。劇場の食堂には、憔悴しきった劇団員たちが朝食で集まっていたが、彼らの目の下には濃い隈があり、誰もがほとんど無言だった。 ヨウコは、疲労の色を隠せないながらも、強い眼差しで一同を見渡した。
ヨウコ:「みんな、聞いてちょうだい。私はこの夜中に、この状況で私たちが取るべき唯一の道を考えたわ」
ヨウコは、トウマとユウキを見据えた。
ヨウコ:「警察が来ない以上、私たちで対処するしかない。マキの代役は、シオリ。このまま公演を強行する!」
ユウキが、ヨウコの言葉を遮るように、席を立って静かに進み出た。
ユウキ:「お待ちください、プロデューサー。シオリさんに任せるのはマキさんのクリスティーヌ役。しかし、最高の興行には、最高のヒロイン、アカリさんの存在が不可欠でしょう。彼女の『虚無』こそが、この劇の核です。アカリの不在は、興行の致命傷です」
ユウキは、優雅な仕草で一礼した。
ユウキ:「僕がやりますよ。アカリさんのカルロッタ役を」
劇団員たちがざわめいた。ユウキは道具係のタケシに視線を向けた。
ユウキ:「タケシさん、道具ですよね? アカリさんの衣装に合うように、パッドを使ってDカップのサイズを完璧に調整してください。もちろん、最高のメイクとカツラも抜かりなく。僕が『器』となれば、アカリに限りなく近い、最高の『虚飾』を作り出せますよ」
久我は、ユウキが恋焦がれた「空っぽの器」を、自らの狂気的な「演出」によって再現しようとする事実に戦慄した。
ユウキ:「僕が公演の間に、先生は心置きなく舞台裏の真実をサイコメトリーして、僕の最高の舞台を完成させてください。マキの死とアカリの失踪は、この舞台にとって最高の序章ですよ」
シオリがマキの代役、ユウキがアカリの代役という、異様な座組で、公演は強行されることになった。
第7話:監督の視察とシオリ控え室の秘密
本土から強行接岸した船が到着を告げ、演劇界の重鎮、藤堂監督が監督チーム数十人を引き連れて劇場に到着した。藤堂は、ヨウコとトウマにのみ視線を向けた。
藤堂:「ヨウコ。マキの件は聞いている。マキだけでなく、アカリも失踪とは残念だが。私の視察を前に、血と悲鳴など、三流の演出はやめてもらおうか」
藤堂は、舞台袖に立っていたユウキと久我を発見し、表情を崩壊させた。それは、怒りではなく、最高の獲物を見つけた狩人のような喜びだった。
藤堂:「おお、ユウキさん! 会いたかった!まさかこんなところでお会いできるとは光栄ですな。おやおや、こちらは久我先生!先生の『情念を読み取る』というミステリーをまたぜひ演劇にしたいとユウキさんとも話していたのですよ」
久我は、ユウキが自分の「呪い」を演劇界の伝説として売り込んでいたという事実に戦慄した。彼の苦悩は、ユウキの狂言によって、既に舞台の一部となっていた。
舞台裏の捜査とユウキの客観的分析(2日目 8:00)
ヨウコはすぐに最終リハーサルの開始を命令した。シオリはマキのクリスティーヌ役の衣装を身に着け、ユウキはタケシが調整したDカップのパッド入り衣装を纏い、薄く紅を引いた唇で、アカリのカルロッタ役として舞台に立っていた。
ユウキは演技の最中、突然手を振り上げ、リハーサルを中断させた。
ユウキ:「ストップ! シオリさん、トウマさん。激情が足りません。この舞台は、死の匂いを嗅ぎつけ、さらに美しくなるはずなのに」
ユウキはそう言って、舞台のセンターを降り、久我の傍に音もなく近づいた。
ユウキ:「久我先生。少し演出上の最終調整が必要です。このままでは、藤堂監督の視察に耐えられませんよ」
ユウキは久我を促すように軽く肘で突き、周囲に聞こえない声で付け加えた。
ユウキ:「久我先生。マキの死という悲劇、その実行に最も密接に関わる人物の持ち物を、リハの隙に確認します。 それはマキさんの代役、シオリさんの楽屋です」
久我:「シオリの関与を探るのか?」
ユウキは、アカリの衣装越しに、薄く紅を引いた唇で微笑んだ。
ユウキ:「ええ。そして、今こそが好機です。彼女は今、舞台で熱演中。最も重要な真実の破片は、最も隠したい者の私物、または部屋の奥底に隠されます。今、リハしている隙に確認したいものがある。さあ、行きましょう」
二人は、演出上の打ち合わせという名目で、リハーサルの喧騒と監督チームの視線から逃れて、音もなくシオリの控え室へと滑り込んだ。
第8話:命を救った皮肉と真実の天秤
控え室の重いドアが閉まった直後、
ユウキ:「(低い声で)時間がありませんね。久我先生。鍵はこれです」
ユウキは部屋に入ると、久我に鍵を見せてニヤリと笑った。
ユウキ:「もちろん、最終リハーサル中に、シオリさんの小道具のポーチから、鍵は拝借しちゃいましたよ。そしてこの部屋を漁るべき、もっと大きな理由があります」
ユウキは、口調を落として久我に耳打ちした。
「マキさんの睡眠薬管理についてですが... 劇団内では周知の事実でしたよ。 マキさんはトウマさんと別れてから一度オーバードーズもしていますし、 一番立場の弱い見習いであるシオリが、事実上、彼女の薬の『管理係』として扱われていた のは、この業界の残酷なヒエラルキーの産物です。」
ユウキ:「つまり、薬をすり替える実行が最も容易だったのは、他ならぬその管理を任されていたシオリさんです」
久我は、ユウキの言葉を遮り、鋭く断定した。
久我:「待て、ユウキくん。シオリは犯人ではない、少なくとも『殺人犯』ではない」
ユウキ:「フフフ、どういう意味です?」
久我:「彼女の心だ。カウンセリングの時、僕はシオリの情動を読んだ。その時、彼女の心にマキに対する殺意は全く無かった。つまり、シオリは、誰かの明確な指示によって、薬を渡す手筈を整えたに過ぎない。マキがODした過去を考えれば、シオリは薬を厳重に管理していたはずだ。誰かが勝手にすり替えるのは困難だった。つまり、彼女自身が関与せざるを得ない状況、すなわち明確な指示があったと考える方が自然だ。」
ユウキの目が、アカリの衣装越しに、久我を値踏みするように細められた。
ユウキ:「久我さんさすがですね。実に興味深い。あなたの情動の呪いが、シオリの『動機の欠如』を証明した。そして、この島には電波がない。メールやLINEでの指示は不可能。口頭での指示の可能性もありますが、口約束だけで、『計画』を進めるとは思えない。必ず、実行犯への『確実な物証』を残しているはず」
久我:「メモか...」
その時、控え室の外から、近くにいるヨウコの、神経質で冷たい声が、怒りに満ちた調子で響いてきた。
ヨウコの声:「何をしているの、ユウキ! そろそろ次のシーンに行くわよ! カルロッタ(ユウキ)がいないと、舞台の虚無が完成しないでしょう。久我先生もどこへ行ったの? 無駄に長いわね、打ち合わせが!」
ヨウコの声:「シオリ! あなた、カルロッタと久我先生を、血眼になって探しに行きなさい!」
久我とユウキは顔を見合わせた。捜査を急がなければ、すぐにシオリがこの部屋に到着する。
ユウキは、カバンやクローゼットを一瞥し、すぐに棚に視線を向けた。棚には、主役として急遽渡された、シオリの新しい台本が置かれている。
ユウキ:「(焦りの色を滲ませて)時間がない。ええと、シオリは殺意がなく、計画を信じていた。だからこそ、万一、自分が疑われた時のために、指示者からのメモを『潔白を証明する証拠』として残していたはずです。しかし、マキが死亡し、アカリの遺書が出た今、このメモは『殺人計画の実行を証明する証拠』へと変貌した。シオリは自分が事件に巻き込まれることを恐れ、衝動的に、そして最も大切で目につく場所に隠した。役者にとって最も大切で、人目に晒されない聖域。その真実の破片は、彼女の『主役』という名の野心の中に隠されている!」
ユウキの理詰めの分析を聞き終えた久我は、棚の上の台本に視線を固定したまま、低く断定した。
久我:「待て、ユウキくん。彼女のCカップから読み取った情動……彼女の心臓は、舞台のセンターを照らす『スポットライトの輝き』という名の野心で脈打っていた。彼女のすべては、その『主役』という名の未来に捧げられている。その未来に直結する、最も神聖で、他人が絶対に触れない聖域は……台本だ!」
久我の断定を聞いたユウキは、優雅な仕草で台本に手を伸ばした。
ユウキ:「(優雅な仕草で)その通りです、久我先生。彼女の野心の核心。最高の舞台のための最高の舞台装置、拝借しますよ。」
ユウキは、優雅な仕草で台本を手に取ると、パラパラとページをめくった。そして、マキが演じていたクリスティーヌ役の、劇中での「毒を飲む」シーンのページに指を止め、挟み込まれた、達筆な文字で書かれた紙片を発見した。
ユウキ:「(低い声で、優雅に)なるほど。この達筆な筆跡は、あの人のだ。そして、久我先生、このメモは、マキさんの死がシオリさんによって実行されたという、決定的な証拠でもある」
ユウキはメモを畳み、自分の衣装の懐にしまった。 その時、廊下を歩いてくる焦燥した足音が久我たちの耳に届いた。足音は、シオリが履いている劇団のサンダルのものだ。 シオリの足音は、控え室のドアの前でピタリと止まった。そして、諦めと疲労のため息(「はぁ」)が聞こえる。
シオリ(内心):「(なんで主役になった私がまだ雑用しなきゃなの)はぁ……(諦めのため息)」
その時、久我の足元の木の床が微かにきしみ、シオリに届くほどの小さな音を立てた。
シオリ:「え!?待って。今、音がしたわ……まさか、私の部屋かしら」
シオリがドアノブに手をかける寸前、廊下の角から、ケンタロウの足音と声が響いた。
ケンタロウ:「おや、シオリさん。こんなところで油を売っていていいのかね、主役殿が?」
シオリ:「ケンタロウさん…!私、ヨウコさんに、ユウキさんと久我先生を探してくるように言われて…」
ケンタロウはシオリの肩に手を置くと、優しく、しかし有無を言わせない口調で言った。
ケンタロウ:「主役が雑用をするなんて、ヨウコさんも無粋だ。私がさっき、舞台裏で二人を見かけたから、シオリさんは舞台に戻って集中しなさい。私が代わって連れてくるよ。それとも、主役の座が不安なのかね?」
シオリは悔しそうに顔を歪めたが、ケンタロウの言葉に反論できなかった。
シオリ:「い、いえ…分かりました。ありがとうございます」
シオリが舞台へと引き返すのを確認すると、ケンタロウは静かにシオリの控え室のドアを開け、久我とユウキを促した。 久我とユウキは、ケンタロウの顔を無言で見つめながら、控え室から音もなく滑り出た。シオリは既に遠ざかっている。 久我とユウキが控え室から脱出するのを確認した後、ケンタロウは静かにドアを閉め、久我の目を覗き込んだ。
ケンタロウ:「フッ。間一髪だったな、探偵殿。ヨウコの目が入るところでは捜査できない。だから、きっと捜査するのはこのタイミングでかなと、シオリを舞台に戻したのですよ。この劇団の闇を暴けるのはあなた方だけですから」
ユウキと久我の二人にだけ聞かせるように、ケンタロウは口元に浮かべていた軽薄な笑みを完全に消し去った。
ケンタロウ:「笑いは終わりだ。俺はもう、この劇団の虚飾に心底飽きている。ヨウコの金、トウマのナルシシズム、マキの醜い嫉妬……すべてが腐ったハリボテだ。久我先生の真実だけが、この舞台を救える。あんたの情念を暴く力だけが、本物の血と泥で塗り潰せるんだ。」
ケンタロウ:「さあ、早く、その力で、最高の悲劇を完成させてくれ。俺は、この劇団の死に様を見る最高の観客だ。」
久我は、自らの呪いを冒涜する男に、この状況で命を救われたという皮肉に、苛立ちと同時に奇妙な安堵を覚えた。
久我:「まさか、皮肉にもケンタロウさん、あんたに助けられるとは。ありがとう」
ケンタロウは、満足げな笑みを浮かべると、「どういたしまして、探偵殿」と言い残し、素早く控え室を後にした。 ユウキはメモを懐にしまいながら、久我に囁いた。
ユウキ:「時間がありませんが、これで証拠は掴みました。もう公演になりますから、戻りましょう」
久我は、トウマへの疑惑、『計画への関与者(A)』、そしてシオリの「実行犯」としての事実を前に、頭の中が激しく混乱するのを感じた。
実行犯の特定と能力の皮肉と、決定的な証拠(2日目 10:00)
公演がいよいよ始まる。 久我はシオリの控え室へ向かう通路で、ケンタロウに呼び止められた。
ケンタロウ:「おいおい、久我先生。まだあの世の『豊満な情念』を研究しているのか? 終わりの見えない芝居は、最高の観客を飽きさせるぜ。」
ケンタロウは久我を遮り、着替えのために舞台袖を引っ込んできたシオリに、計算されたタイミングでわざとぶつかった。
ケンタロウ:「おっと、すまないね、新主役さんよ」
ケンタロウは謝罪とは裏腹に、シオリの腰を引き寄せた。そして、役者としての確かな技術で、彼女の震える小さな胸に、久我のサイコメトリーの動作を大げさに模倣するように、指先をねっとりと押し付けた。
ケンタロウ:「ふむ……Cカップかな? 薄いけど、中身は詰まっている。ああ、この胸はスポットライトの熱と罪の匂いで脈打っている。やはり主役はこれくらい、本物の情念がないとね、ね、先生!」
ケンタロウはシオリを解放し、一瞬で軽薄な笑みに戻る。
ケンタロウ:「マキを殺して役得は誰だったか? そう、犯人はあなただシオリ。なんてね! 最高の悲劇の結末を、早く教えてくれよ、久我先生!」
シオリは顔を真っ青にし、その演技じみた下卑た模倣と発言に明らかに嫌な顔をしたが、「私はこれで…」とだけ言い放ち、ケンタロウから身体を捩じ切るように離れた。彼女は怒りと屈辱を必死に我慢している様子で、駆け足で控え室へと行く。
久我は、ケンタロウがシオリの胸の内にある「野心の情動」を、サイズまで含めて正確に言い当てたという不条理な模倣に、激しい屈辱を覚えた。
久我にとって「真実の情念」を映すはずのサイコメトリーの「呪い」が、ケンタロウの「最高の観客」としての下卑た洞察と皮肉によって、無価値な見世物に貶められていく。
その直後、完璧な舞台用メイクとウィッグ、そしてDカップのサイズに調整された衣装を纏ったユウキが、久我の元へ静かに歩み寄った。
久我は、息を呑んだ。それは、彼が恋い焦がれたアカリの姿そのものだった。ユウキの顔には、彼の鋭利なプロデューサーの表情が残っているにもかかわらず、衣装とメイクの完璧な贋作が、久我の理性を打ち砕いた。
(久我の内心):「完璧だ。まるで、魂の抜けたあの氷の彫像が、ユウキという悪意ある魂を宿したかのような…」
ユウキは衣装越しに完璧に造形された胸元に手を添え、久我の目をまっすぐ見て、意味深な笑みを浮かべた。
ユウキ(アカリ姿):「久我先生、僕という『虚飾のアカリ』は最高の舞台を演じているでしょう? しかし、あなたの恋したアカリさんの『空っぽの器』は、やはり本物には遠く及びませんか?」
ユウキは手に持ったシオリの部屋にあったメモを久我に示し、静かに付け加えた。
ユウキ(アカリ姿):「僕は、最高の舞台のために、この孤島で最高の演出を施すため、秘密裏に調査を進めていました。タケシの持つ道具の中から、ある『虚飾を彩る最後のピース』を発見しましたが、それは、今はまだ先生にお話しません。最高のサプライズは、最後に取っておくべきでしょう。さあ、僕という虚飾が舞台で観客を魅了している間に、先生はあなたの呪われた能力で、この舞台裏の真実を解き明かし、最高の結末へと導いてください」
久我:「しかし、彼女たちが、僕に胸を触らせるとは思えないが…」
ユウキ(アカリ姿)は、艶然と微笑んだ。
ユウキ(アカリ姿):「大丈夫です。きっと触らせてくれますよ。久我先生の『呪い』は、この島で、『罪の大きさを測る天秤』として、彼女たちに利用されるのですから。彼女たちは皆、己の潔白の証明のために、あなたの呪いを欲しているのですよ」
久我は、ユウキの冷酷な洞察力に戦慄した。彼の能力が、当事者たちの都合の良い道具として利用されるという、この上ない皮肉を突きつけられたのだ。 ユウキが久我に示したのは、シオリの控え室から発見された、ヨウコの達筆な文字で書かれた指示メモだった。久我はメモの内容に目を通し、血の気が引くのを感じた。
【ヨウコの指示メモ】
マキの睡眠薬は、明日、「私の特別な薬」に切り替えること。興行のため、一時的な『静養』が必要だ。誰にも知られてはならない。
マキの静養中の代わりは、あなたが主役をしなさい。
シオリ:Cカップの悲劇的な受容(2日目 10:10)
久我は、シオリを舞台裏の暗い一角に呼び出した。 久我は、シオリを追い詰めた。「もう隠す必要はない。マキの薬をすり替えたのは、シオリさんあなただろう」
シオリは、舞台衣装を纏ったまま悲鳴のように叫んだ。「違います! 私じゃ…! 先生には昨日カウンセリングしてもらったじゃない!」
久我は、シオリの言葉を無視し、彼女の控えめだが形の良い胸部に指先を強く押し付けた。シオリは、逃げることを諦め、「 今から出番で急いでるのよ!触るなら早くして! もう!」という、悲劇的な受容の眼差しで久我を見返した。彼女の身体は硬直していたが、胸の奥では激しい情動が久我の指先に伝わった。久我は、その情動の強烈さに耐えきれず、一瞬で手を引いた。
ヨウコ:Fカップの冷徹な挑発(2日目 10:20)
久我は、次に冷徹な表情のヨウコに向き直った。彼は、シオリの供述とユウキの持つメモの内容を突き合わせるため、冷徹な支配者であるヨウコに、一歩踏み込んだ。
久我:「プロデューサー。あなたは、シオリに薬のすり替えを指示した。その時のあなたの心の中にある偽りのない情念を、僕に読み取らせてもらう。」
ヨウコは、久我の視線と、彼が言おうとしていること(彼女の潔白の証明)を察すると、冷たい笑みを浮かべた。
ヨウコ:「フフフ。久我先生、そんなに私のボリューミーな胸の情念を読み解きたいの? 変態さんね。いいわ、その『情念を読む能力』、試してみる?」
ヨウコ:「私は興行のプロデューサー。マキの死の真実が証明されるなら、手段は選ばないわ。あなたの『呪い』が、私の目的を証明できるのか、見せてちょうだい。」
彼女は挑発的に久我を誘った。
ヨウコ:「どうなの、久我先生。私の胸の情念は、あなたの『真実の天秤』を満足させられるかしら?」
久我は、ヨウコの拒絶に構わず、その強い腕をこじ開け、圧倒的な質量の胸部に、手のひらを力強く当てた。
ヨウコは、久我の手を掴むと、自らの下着の中へと強引に引き入れ、さらに深く、その核心へと誘導した。
ヨウコ:「良いわ、能力を気にせず生の肌の秘密に触らせてあげる。公演は待ってくれないの。さあ、私の最も熱い情念の源を、早く読み取りなさい。」
久我が生の肌に触れた瞬間、ヨウコは小さく「うっ…」と息を呑んだ。それは、彼女がどれほど冷徹なプロデューサーであろうと、久我の能力による情念の奔流に、一瞬だけ支配され、理性が溶けかけた証拠だった。ヨウコはすぐに表情を取り戻し、冷酷な目で久我を見つめ返した。
ヨウコ:「もっと激しく触ってちょうだい。もう誰も見ていないわ。あなたの能力で、私のすべてを暴きなさい。」
久我は、自らの内に流れ込んだ情動の奔流に、怒りで拳を握りしめた。久我は、ヨウコの挑発的な言葉と、その裏に潜む冷徹な計算に、深く苛立った。
第9話:虚飾の舞台と崩壊する愛の真実
久我は何も語らずに舞台袖を後にした。彼は既に、この孤島の悲劇の真相を知っていた。
崩壊する真実と虚飾の愛の舞台(2日目 公演終了直後)
久我は、客席の熱狂が冷めやらぬうちに舞台袖に立っていた。彼の目に焼き付いているのは、最終幕の光景だ。 シオリ演じるクリスティーヌは、悲劇のヒロインとしての才能を一気に開花させ、その繊細な身体から迸る情念で観客を圧倒した。そして、ユウキ演じるカルロッタ(Dカップの虚飾)は、完璧なまでに無関心を貫き通し、その虚無が、舞台上の全ての情動を吸い尽くすかのような異様な美しさを放っていた。トウマの狂気にも似た愛憎が、その虚飾によってさらに激しく増幅され、観客は完全に舞台に飲み込まれていた。 劇団員たちの顔には、疲労と、悲劇的な事故を乗り越えた達成感が奇妙に混ざり合っていた。
藤堂監督が、劇団員たちを前にして、感嘆と苛立ちの入り混じった表情で語り始めた。
藤堂:「素晴らしい、そして最悪だ。マキの死など、もはや些細な事故だ。見習いのシオリ、君のクリスティーヌとしてのあの悲劇のヒロインへの目覚め。まさに天才! 凄まじいな」
藤堂の視線が、カルロッタ役を演じ終え、まだメイクを落としていないユウキに注がれた。
藤堂:「そしてカルロッタ役! アカリ! 君はマキの死という悲劇を糧に、役を極めた。あの完璧な無関心、Dカップの肉体に宿る虚無...誰にも真似できん。完璧にカルロッタを演じ切った」
ユウキが、アカリの姿のまま、優雅に一礼した。
ユウキ:「ありがとうございます、藤堂監督。ところで監督、アカリの代役は誰かご存知でしたか?」
藤堂は一瞬、ユウキの問いの意味が理解できず、表情を固めた。
藤堂:「…代役?何を言っている。あのカルロッタ役は、アカリ君ではないのか...」
ユウキは、自らウィッグを外し、Dカップのパッドの入った衣装のファスナーを少し下げた。
藤堂は息を飲み、その顔は驚愕から芸術的興奮へと急速に変化した。
藤堂:「えっ、君はユウキくんか!…まさか、君が! あのカルロッタ役を演じていたとは信じられん! 男である君が、あの氷の彫像を完全に再現し、舞台上のすべての情念を支配していた!性別を超えた究極の『虚飾』だ!ユウキくん、君は役者ではない!いや、君こそが最高の『演出家』だ!君の才能は、自分の身体すら最高の舞台装置として利用する。これこそ真の芸術だよ!」
トウマも、ユウキが自らウィッグを外し、性別が露わになった姿を直視し、激しい戦慄に見舞われた。彼は、ユウキの完璧な演技に、アカリ本人だと錯覚していた。
トウマは顔を覆っていた手をおろし、ユウキを凝視した。
(そうだ、ユウキだ!最初から分かっていたはずなのに……プロの俺の魂まで欺くとは!)
(ユウキ、もしかして、君が、アカリだったのか?……いや、待て!アカリが、ユウキだったのか!?この虚飾は、恐ろしいほどの才能だ……!)
トウマの混乱と疑惑の視線を受けても、ユウキは冷静な笑みを崩さなかった。彼はトウマの視線を楽しみながら、久我へ向き直った。ユウキは、久我に託しておいたヨウコのメモを、手の内でしっかりと握っていた。
「久我さん。あなたのサイコメトリーは、この紙片に刻まれたすべてを、完全に読み解き終えましたか? どうでしたか?」
久我は、メモから視線を上げ、ユウキの鋭い眼差しに応じるように、即座に答えた。
証拠の提示と最高の『演劇推理』の幕開け
久我の宣言を受けたユウキは、すぐさまそのヨウコのメモを、舞台上の劇団員全員に向けて、裁きの道具のように高くかざし示した。
「皆さん、舞台の上の聴衆の皆さん、よく聞いてください。」ユウキは余裕と自信に満ちた笑みを浮かべ、舞台全体を支配した。
藤堂監督は、最前列で身を乗り出し、芸術的な狂喜の表情でユウキに叫んだ。
藤堂:「面白い!推理とは、観客を最も熱狂させる最高の脚本だ!やれ、ユウキくん!最高の結末を演出するんだ!」
ユウキは、藤堂の熱狂的な叫びを最高の喝采として受け止め、魅惑的な笑みを深めた。
「最高の脚本家(神)も予想しなかった、この劇団で起きた真の悲劇――その結末を、今から久我さんと共に、この舞台で鮮やかに演じきります!」
彼は一瞬の間を置き、最高の見せ場を創造した。
「これからが、最高の『演劇推理』の始まりです!」
久我とユウキの推理劇の幕が、今、切って落とされた。
ユウキは、久我に示したヨウコのメモを、劇団員全員の前にかざした。
ユウキ:「まず、ヨウコさん、あなたの演出です。公演直前、マキさんの睡眠薬を別の薬にすり替え、シオリさんを主役に据えようとしたこと。この『静養が必要』というメモは、殺人ではなく、マキさんの才能を一時的に封じるための演出だったことを示しています。あなたの目的は、マキさんの排除と、シオリさんの才能の開花、すなわち最高の舞台を創り上げることだった!」
ヨウコは、威圧的な胸を張ったまま、涼しい顔で答えた。
ヨウコ:「ええ、その通りよ。興行のためなら、多少の荒療治は必要だわ。マキは停滞していた。それに、久我先生に私のFカップをあんな風に触らせたのよ? 私は、真実を隠す気はないわ」
久我は、ヨウコの挑発的な言葉と、その裏に潜む冷徹な計算に、深く苛立った。 久我は静かにヨウコとシオリに向き直り、自身が読み取った真実を、静かに、しかし断定的に告げ始めた。
久我:「ヨウコさんのメモの指示を実行し、マキを階段から突き落とした薬をすり替えたのは、シオリだ」
久我は、シオリを正面から見据えた。
久我:「あなたのCカップから読み取った情動は、あなたがマキに薬を渡した時の、あの激しい葛藤と震えだ。あなたが薬を渡した時、マキさんは普段の冷たさが嘘のように優しく言った。『シオリ、明日はお互い頑張ろうね。あなたの胸の奥にある、繊細な強さは、私にはない本物の光よ。普段は厳しく指導してるけど、ゆくゆくは私の後継者だと思ってるわ。あの子にはまかせられない。アカリのあの謎めいた演技は怖いのよ。』と。マキさんの予期せぬ優しさを聞いた直後、あなたの手は激しく震え、内心で『やっちゃダメだ』と叫んでいた。だが、直後に響いた『ドタン』という音を聞いたあなたの情動は、真っ青になるほどの絶望だった」
久我は語気を強めた。
久我:「あなたは薬を渡した後、後悔した。『まさかこんなはずは…体調不良になるだけじゃなかったの!ヨウコさんに嵌められた』と!あなたにはマキを殺す明確な殺意は微塵もなかった。だが、その薬による体調不良が原因で、マキは命を落とした。つまり、あなたは、マキの死の直接的な実行犯だ」
シオリは、愛するタケシと、自分を慕うトウマの前で罪を暴かれ、悲鳴のような嗚咽を漏らした。久我のサイコメトリーが、彼女の胸の奥に隠された「私は殺したいわけじゃなかった。これが私の希望だと見つけて」という、良心からの無実の証明を暴き出したのだ。 久我は次に、冷徹な表情のヨウコに視線を移した。
久我:「そして、あなたヨウコさん。あなたのFカップから読み取ったのは、あなたがシオリに薬を渡す際に心で思った声だ。『この薬で、マキがお休みの間、代役としてシオリにして頑張ってもらおうかしらね』。あなたの初期の目的は、あくまでマキの一時的な排除だった」
ヨウコ:「当然よ。私はプロデューサー。誰も不幸にならない、最高のシナリオだったはずよ」
久我は、ヨウコが事故直後に考えたことを断定した。
久我:「しかし、マキの事故死を知ったあなたは、すぐに計画を切り替えた。『まさか、これは事故よ、事故なのよ。殺すつもりはなかった』。そして、あなたはタケシに指示を出した。『タケシ、アカリを失踪させるのよ。アカリに罪を全て着せるの。分かった?アカリの弱みを握っているあなたでしかできないのよ』」
久我は、全てを断定した。
久我は、自らの内に流れ込んだヨウコの情動を断定的に吐き出した。
久我:「ヨウコさん、あなたはマキの事故を知った後、即座にタケシを使って、アカリに罪を転嫁させ、事件の幕引きを図った。あなたは、この悲劇の冷徹な黒幕だ!」
トウマは顔面蒼白になり、タケシは久我の鋭い視線に、絶望に震えだした。
ユウキが、久我の言葉を乗っ取るように、一歩前に出る。彼は、Dカップの衣装を纏ったまま、久我の横に立ち、冷静に分析を始めた。
ユウキ:「久我先生、補足させてください。この状況を演出した冷酷な『凡人探偵』として、一つ、この悲劇の『芸術性』を分析します。」
ユウキは、まずヨウコに視線を向けた。
ユウキ:「そして、プロデューサー。あなたは、久我先生に圧倒的な質量を触らせ、久我先生の『呪い』を、罪の大きさを測る『真実の天秤』として利用した。あなたの情動は、初期の計画が『静養』という名の興行の調整であり、殺意がないと証明することで、罪の軽減というアリバイを築いた。」
ヨウコ:「フッ。当然よ。私の圧倒的な質量に宿る情動が、初期の計画が殺人ではないと証明した。それが、久我先生の『呪い』の唯一の利用価値だわ。」
ユウキはすぐにシオリに視線を移した。
ユウキ:「そしてシオリさんも同じ。あなたも、殺意のない『無知の情動』を清純な膨らみに宿らせて久我先生に読み取らせた。お二人は、久我先生の『呪い』を、最高の自己防衛線として使ったんですよ!」
ユウキは、タケシに視線を向けた。その目には、冷徹な分析と、芸術を理解する者としての微かな哀れみが宿っていた。
ユウキ:「しかし、その『真実の天秤』が示した『殺意の不在』という事実は――タケシさん、あなたの『愛』という名の献身によって、より巧妙で、誰も気づかない『虚偽の脚本』へと、書き換えられてしまったのです。」
ユウキ:「タケシさん。あなたはヨウコさんの指示に従い、アカリさんに罪を着せて失踪させました。なぜなら、スター女優『アカリ』の存在こそが、あなたが愛するシオリさんの主役への道を阻む、最大の『情念の壁』だったからです!」
ユウキ:「愛するシオリの才能を開花させるため、あなたはマキの事故死を利用し、『アカリ』というスターの存在を舞台から消した。すべては、究極の『献身』という名の犯罪だ!」
タケシは顔を上げ、ユウキに食ってかかった。
タケシ:「やめろ! ユウキさん! シオリは関係ない!」
ユウキは、さらにタケシに追い打ちをかける。
ユウキ:「さあ、タケシさん。シオリさんは、もうこの悲劇に耐えられないでしょう。彼女は、愛するあなたの苦悩を、その華奢な胸で受け止めようとしている。あなたは、愛する女性のために、この悲劇の『主役』となるべきだ! あなたの愛の結末を、ここで示しなさい!」
ここで、久我が、ユウキの言葉に触発されたように、最後の決定的な推理を突きつけた。
久我:「そして、アカリさんの遺書と失踪。ヨウコさんの脚本だとすれば、彼女のDカップは、なぜ完全に『空っぽ』だったのか。彼女は、既に生きる意志を失っていた。ヨウコさん、あなたはタケシさんを使って、アカリさんの絶望的な『空っぽ』を利用し、罪を被せ、本土の警察が来るまでの時間稼ぎのために、孤島から逃がした……あるいは、口封じのために殺害した可能性すらある!」
ヨウコは久我の推理に対し、冷たい目で唇の端を吊り上げた。
ヨウコ:「殺害? 面白い発想ね。久我先生、アカリは……」
「違うわ!アカリは!」ヨウコが真実を語ろうと口を開いたその瞬間、横にいたシオリが突如、金切り声を上げて発狂した。
シオリ:「もうやめて!アカリさんが死んだなんて嫌!私のせいで…!私は、もう耐えられない!」
シオリは、狂ったように叫びながら、断崖絶壁へと続く劇場の外階段を駆け上がっていった。 タケシは、シオリの悲痛な叫びに理性と愛を失い、「シオリ!」と叫びながら、彼女を追って飛び出していった。 ユウキは、久我の推理とシオリの発狂によるこの劇的な結末に、歓喜した。彼は満足げに、久我に囁いた。
ユウキ:「久我さん、見事な推理でした。ですが、真実が芸術に勝ることはありません。最高の結末が、今、完成します」
第10話:Dカップの告白と男たちの慟哭
呪われた探偵と永遠の安息:究極の虚飾の結実
久我は、シオリとタケシが飛び出した出口を見つめた。探偵としての本能が、一刻も早く二人を追うべきだと叫んでいた。しかし、ユウキの演出が全てを支配しているこの状況下で、彼は一瞬立ち尽くした。
ユウキ:「慌てないでください、久我さん。あなたの能力を唯一もってしても解けなかった『アカリの空っぽの器』の謎は、じきに分かりますよ。あなたは、あの虚無に恋をした。その恋の結末は、僕が最高に演出しますから」
久我とユウキが、劇場の外階段を上り、断崖絶壁へと向かうと、シオリは荒れる海に向かって今にも身を投じようとしていた。その姿は、舞台の悲劇のヒロインそのものだった。 タケシはシオリの背後から、荒れる風を切り裂いて叫んだ。「シオリ、見てくれ!」 シオリが驚いて振り向くと、タケシは道具カバンから、精巧なロングカツラ、Dカップのパッド、そしてプロ用の舞台メイク道具を取り出した。久我は、ユウキが触れていた「タケシの道具の中」とは、この女装用の虚飾の素材であったことを悟った。タケシは、荒々しい風の中で一瞬にしてそれらを纏い、自らの作業着の上にDカップの衣装を羽織った――道具係のタケシは、スター女優アカリへと変身した!
タケシ(アカリ):「シオリ!私は、あなたの愛する……タケシだ!」
タケシは、Dカップの衣装を纏ったアカリの姿で、シオリを力強く抱きしめて引き止めた。 シオリは、愛するタケシが、死んだと信じていた憧れのアカリであったという、あまりにも劇的な真実の愛に、嗚咽をあげて崩れ落ちた。彼女の柔らかく温かい胸は、アカリのDカップの衣装に包まれ、静かに震えていた。 タケシは、シオリを抱きしめたまま、苦しみに満ちた声で久我に向かって懺悔を始めた。
タケシ:「久我さん。俺は……アカリを辞めたかったんです」
久我:「辞めたかった? なぜだ。君は最高のスターだったはず」
タケシ:「最初は遊び半分で始めた女装に、誰も気が付かない高揚感があった。でも、愛するシオリにとっては、アカリは邪魔な存在だった」
ユウキ:「皮肉なことに、シオリの才能を阻むのは、君自身の『虚飾』だった」
タケシ:「そう。シオリよりもアカリが売れていく。ヨウコさんには前々から辞めることを伝えていたが、引き止められていたんです」
タケシは、シオリの髪を優しく撫でた。
タケシ:「そして、ヨウコさんからマキを殺したのがシオリだと聞いて……。アカリのせいにして、失踪したことにすれば、シオリの罪を隠して、全てがうまくいくって思っちまったんだ」
シオリは、タケシの胸の中で顔を上げ、彼の涙で濡れたアカリの顔を見上げた。
シオリ:「タケシ……あなたが……私を……」
タケシ:「シオリ、本当にすまなかった……この虚飾が、君を守る唯一の方法だと思った」
その劇的な光景を見た藤堂監督は、歓喜と芸術的興奮が混ざったような、凄まじい声で絶叫した。
藤堂監督:「まさに奇跡!スター女優アカリが、裏の顔は道具係のタケシだったとは!なんという劇的な愛の舞台だ!これを演劇にしなければ、人生の損失だ!」
久我は、自らの呪われた能力が感知できなかった「虚飾」という名の愛の前に、探偵として敗北したことを悟った。 久我は、タケシのDカップの衣装に触れようとしたが、指先が触れる寸前で手を引いた。彼のサイコメトリーは、女性の胸の情動しか読み取れない。どれほど精巧な人工のバストとメイクで覆われていようと、その根幹にあるのは男の身体だ。久我の能力は、タケシの胸から何一つ情動を読み取ることができなかった。彼のサイコメトリーが捉えた「空っぽの器」は、愛でも病でもなく、単なる能力の限界、すなわち男の虚飾だったのだ。
崖での愛の爆発が舞台裏まで伝播する中、それまでずっと顔面蒼白で立ち尽くしていた主役男優トウマが、突如、堰を切ったように崩れ落ちた。タケシとシオリの純粋すぎる愛の献身という「真実」が、トウマ自身の虚飾に満ちた愛の基盤を完全に破壊したのだ。 トウマは、顔をくしゃくしゃにして叫び、舞台の床を叩いた。彼の美しい顔立ちから、見苦しいほどの嗚咽と涙が溢れ出した。
トウマ:「全部嘘だ…俺は、自分の欲望と名声のために、お前ヨウコと結婚したんだ!お前のFカップは、俺を売るための看板だった!」 トウマは、久我に向かって叫んだ。 トウマ:「本当は、マキと続いてたんだ!あいつのEカップの情念が、俺の演劇の才能を燃やし続けてくれた!アカリを抱きしめたのも、世間を誤魔化すためだ!俺は、嫉妬と野心で燃えるマキを愛してたんだ!」
トウマは声を上げて号泣した。彼の虚飾が剥がれ落ちた先には、純粋で歪んだ、しかし本物の愛憎だけが残されていた。久我は、その愛の強度に、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。 ヨウコは、トウマの醜い号泣を冷めた目で見つめ、フッと鼻で笑った。
ヨウコ:「愛憎ですって? 最後の最後で、本当に見苦しいわね、トウマ。あなたの涙は、最高の舞台の後に流すには三流すぎる。興行には何一つ役に立たない」
ヨウコは、トウマの情動の真実を、最後まで興行という虚飾の視点からしか評価しなかった。
第11話 エピローグと永遠の安息
事件解決後、本土へ戻る船上。警察官に付き添われ、参考人として連行されるタケシは、船のタラップを上がる直前、久我の元へと歩み寄った。彼はまだ、薄いメイクが残るアカリの顔をしていた。
タケシ(アカリ):「久我さん。俺の愛は、シオリの野心を守るために、この虚飾のDカップを纏い、マキの事件を利用した。それは罪です。でも、久我さん、あなたを求めるこの感情だけは、誰の演出でもない、本物の情熱なんです。」
タケシ(アカリ):「あなたの呪いは、俺の胸に触れても何も読み取れない。だからこそ、俺は、あなたの愛を受け入れることができる。俺の胸は、あなたの呪いを鎮静化させ、永遠の安息を与えられる、唯一のDカップなんです。」
久我は、タケシのDカップの胸に、自身の指先を伸ばそうとしたが、寸前で止めた。
久我:「タケシ君……君の愛は、あまりに不条理だ」
タケシ(アカリ):「不条理で結構。久我さん。あなたに、俺の虚飾という名の愛を、心ゆくまで享受してほしい。また、必ずアカリになって、あなたの安息の場になるために会いにいきます。」タケシはそう言い残し、連行されていった。 ケンタロウは、警察に引き渡されるヨウコの冷たい峰胸に、人差し指一本で、素早く、しかし正確に触れ、
ケンタロウ:「Fカップ、お見事です。そのサイズだけは、あなたの脚本ではない本物ですね。ははは!」と高笑いし、久我の能力を最後まで嘲笑った。
タケシの虚飾が生んだ社会現象
数ヶ月後。
あの事件により、世間が知るスター女優『アカリ』の正体がタケシであったという衝撃の事実が明らかになった。
しかし、その究極の虚飾と、性別を超えて一人のスターを演じ続けたタケシの才能は、演劇界に空前の大ブームを巻き起こした。タケシは、虚構を真実にした天才役者として、瞬く間に社会現象レベルの熱狂を生み出し、「国民的女優にして最高の演出家」という異名と共にスターダムに登りつめていた。
久我 奏太は、自分の山荘で、ユウキと共にワイドショーの特集番組を見ていた。
壁掛けの大型モニターには、派手なテロップと共に、タケシの華やかな舞台挨拶の映像が流れている。
【画面テロップ】『衝撃の告白! 失踪したスター女優「アカリ」の正体は彼だった!空前のブームの秘密に迫る!』
リポーターの声が、久我奏太のアパートの部屋に響き渡る。
リポーター(声):「――驚くべきことに、わずか数ヶ月前までスター女優として君臨していたアカリこそ、実はタケシさんが演じていた『究極の虚飾』だったのです!彼の才能は、性別、年齢、そして存在そのものを、観客の目の前で書き換えていた!まさに『虚飾』が生んだ、現代演劇界最高のニュースターと言えるでしょう!」
久我 奏太は、カップのコーヒーを静かに傾けながら、その映像を眺めていた。隣のソファでは、ユウキがグラスのワインを揺らし、満足そうな笑みを浮かべている。
ユウキ:「見事な演出だと思いませんか、久我先生。彼は、自らの『愛』という情念を完璧な『虚飾の素材』に昇華させた。観客は、彼が作り上げた『アカリ』という幻想を、これからも愛し続けるでしょう。」
久我:「ああ。彼は、自分の罪を『情熱』という名の演技で浄化しようとしている。だが、その演技が真実の愛に基づいている限り、彼の虚飾は崩れはしない。」
久我はリモコンでテレビの音量を上げた。ワイドショーのコメンテーターの、冷徹な分析が続く。
コメンテーター(声):「…しかし、この一連の悲劇を振り返ると、マキの死、シオリの野心、そしてアカリの失踪まで、まるで全てがタケシという最高の『素材』を世に出すための布石だったようにも見えますね。本当に恐ろしいのは、タケシのアカリのプロデュースすら、あの事件を仕組んだシナリオの中に組み込まれていたというオチかもしれませんよ。」
久我はコメンテーターの言葉を冷たい目で聞き終え、ゆっくりとコーヒーカップをテーブルに置いた。その動作は冷静だが、その目には強い探求の炎と、見透かされた者特有の苛立ちが宿っていた。彼の視線は、隣で満足そうに微笑むユウキに向けられる。
久我:「ユウキくん……お前が、全てを仕組んだのか? トウマの浮気の情報、シオリへの唆し、そしてアカリの失踪……すべてお前の脚本通り、寸分の狂いもなく進んだというわけか?」
久我:「またお前の悪趣味な舞台に、俺の呪い(チカラ)がただの道具として利用されただけだというわけか?」
ユウキの微笑みが、一瞬だけ硬直したように見える。しかし、すぐに彼は余裕の表情に戻った。グラスを傾け、楽しげな笑みを深める。その目は、最高の作品を終えた芸術家のように、冷酷な満足に輝いていた。
ユウキ:「失敬な!『仕組んだ』なんて凡庸な言葉を使わないでください。私はただ、最高の役者たちの『運命』を、最もドラマティックな形で編集しただけです。ヨウコの権威欲、マキの嫉妬、タケシの盲目的な愛。これほど完璧な情念の配役が揃っていたのに、使わない手はないでしょう?」
ユウキ:「マキの死は、予想外の最高のサプライズでした。私はそれを逃さず、あなたの『呪い』という名の探知機を使って、劇団内の愛憎をすべて暴き出した。あなたが真実を検出し、私がそれを『芸術』として昇華する。これ以上の最高の分業が、どこにあると言うのです?」
久我:「ふざけるな。僕の恋まで、お前の『芸術』の道具か?」
ユウキ:「ええ、もちろん! あなたのあの『空っぽの器』への盲目的な恋!あれこそが、あなたの『呪い』を逆手に取った最高の悲劇であり、あなた自身を救済する最高の鎮静剤です。あなたの呪いは、女性の情念しか読み取らない。だからこそ、あなたは男の虚飾に触れた時、初めて『安らぎ』を見出した。最高の脚本だと思いませんか? 私の演出は、あなたの最も深い苦悩を解決したのですよ!」
久我は、その皮肉な真実と、ユウキの悪趣味な勝利宣言に、血の気が引くほどの苛立ちを覚えた。しかし、同時に、ユウキの指摘に妙に納得している自分がいた。彼の能力が否定された、タケシが作り上げた女性の虚飾の世界こそが、皮肉にも彼にとって唯一の魂の安息の地だったのだ。
その時、久我の家の扉で、軽やかなチャイムの音が響いた。
ピンポーン。
ユウキはグラスを傾け、ニヤリと笑った。
ユウキ:「おや、待ち人来たる、ですね。私が呼んだ、あなた専用の『最高のアフターケア』ですよ。」
久我は、ため息と共に呟いた。
久我:「やれやれ、本当に悪趣味な男だ」
しかし、扉の向こうの気配に、抗うこともできずにその名前を口にする。
久我:「……アカリさん」
久我が重厚な扉を開くと、廊下の電球の光が、まるで天上のスポットライトのように、アカリ(タケシ)の背後から強く差し込んだ。
その光の中に立つタケシの姿は、単なる女装ではない。彼が纏うのは、白いキャミソールワンピース。首元にはベルベットのチョーカーではなく、華奢な銀のネックレスが輝き、舞台メイクは丁寧に落とされ、素肌の透明感が際立っていた。Dカップの胸元は、舞台衣装のような作り物ではなく、まるでタケシ自身がその女性性を完全に受け入れたかのような、生々しいほどに柔らかな曲線を描いていた。
アカリ:「約束、果たしに来ました」
その声は、舞台上の冷たさを完全に失い、久我の魂に静かな水面のように安息をもたらす、甘く、澄んだ響きだった。彼の目に映るタケシは性別や虚飾という概念を超越した、究極の「永遠のヒロイン」だった。久我の脳裏に「やばいくらい可愛い」という、理性をねじ伏せた天啓が再び湧き上がる。その瞳は、久我の探偵としての苦悩を、すべて洗い流すかのようだった。
久我奏太は、不条理な運命と、目の前の現実のあまりの美しさに、思わず言葉を漏らした。
久我:「……可愛い」
ユウキは、久我の背後から静かに立ち上がり、アパートの扉の光を浴びるアカリ(タケシ)と、その美しさに屈した久我を一瞥した。
ユウキ:「フフフ。ほら、認めなさい、久我先生。あなたの『可愛い』という純粋な感情こそが、最高の探偵にとって必要な安息なのです。あなたが真実を検出し、僕が最高の報酬を用意する。最高のタッグでしょう?」
ユウキは、久我の肩をポンと叩いた。
ユウキ:「さあ、彼女のDカップに存分に触れて、心ゆくまで安らぐがいい。あなたの呪いは、僕の用意した最高の『虚飾の愛』という名の永遠の安息を得た」
久我奏太の探偵としての旅は、アカリへの報われないはずだった恋が、ユウキの用意した悪趣味な舞台の上で、彼を「呪い」から解放するという、最高の皮肉と共に幕を閉じた。
完
第12話:愛という名の安息の、その先へ(究極の最終話)
その時、久我の家の扉で、軽やかなチャイムの音が響いた。
ピンポーン。
ユウキはグラスを傾け、ニヤリと笑った。 ユウキ:「おや、待ち人来たる、ですね。私が呼んだ、あなた専用の『最高のアフターケア』ですよ。」
久我は、抗うこともできずにその名前を口にした。久我:「……アカリさん」
久我が重厚な扉を開くと、廊下の光の中に、白いキャミソールワンピースに身を包んだアカリ(タケシ)が立っていた。彼女の姿は性別や虚飾という概念を超越し、素肌の透明感が際立っていた。Dカップの虚飾は消え、生々しいほどに柔らかな曲線を描く胸元があった。
久我は目の前のあまりの美しさに、理性をねじ伏せた天啓を漏らした。久我:「……可愛い」
ユウキは久我の背後から微笑んだ。 ユウキ:「フフフ。ほら、認めなさい。あなたが真実を検出し、僕が最高の報酬を用意する。さあ、心ゆくまで安らぐがいい。あなたの呪いは、僕の用意した最高の『虚飾の愛』という名の永遠の安息を得た」
久我奏太は、その美しさに息を呑んだ。彼はアカリを部屋の中に招き入れ、華奢な腰に手を回し、深く抱きしめた。
久我は、ユウキが用意した「呪いの届かない虚飾の愛」という名の安息を求めて、彼女の胸にそっと手のひらを押し当てた。
(久我モノローグ)「安息だ。この空っぽの胸こそが、私を呪いから解放する……安息だ」
しかし、その瞬間、久我の指先に触れたのは、前回触れたDカップの感触とは全く違う、驚くほど小さい、だが間違いなく、柔らかくほのかに膨らむ、女性の肉体の感触だった。パッドなしの真実の肌理に触れたことで、サイコメトリーの呪いが、凄まじい力で発動した。
久我の意識に、激しい情動の奔流が流れ込み、彼の全身の神経が焼き切れるような鮮烈な衝撃に襲われた。安息の幻想は粉砕され、彼は情念の奔流に文字通り呑み込まれ、息を呑んだ。
流れ込む情念と真実(久我のサイコメトリー)
久我の脳裏に、アカリの過去の虚無と、現在の熱狂が、鮮やかな光となって叩きつけられた。
(過去の虚無):「全てが虚無で、心は中性的だった。シオリとも付き合ってみたが、誰も好きになれなかった。人を影で支える男の道具係でいればよかった……」
(愛による満たされ):「久我さん。あの空っぽだった私の心は、もう、あなたの熱い心で満たされている!私は、あなたを初めて好きになれた。この胸は、あなたの呪いの対象となるために、女として覚醒した!私を、女にして欲しい!」
(究極の献身):「あなたが愛したのが、久我という熱で満たされた女の私だと知って、絶望と快楽に身悶えてくれれば、それで私は幸せだ。全ては久我という名の愛のために!」
久我の背後から、ユウキが満足げな声で口を開きかけたが、久我の顔の衝撃と、溢れ出す情念の熱狂を察知し、突然、顔色を変えた。彼の冷徹な表情に、信じられないものを見たかのような戦慄と驚愕が浮かんだ。
ユウキは、久我の表情から読み取れる真実を理解し、その場で立ち尽くした。
ユウキ:「フフフ……まさか、そういうことか。久我さんのその衝撃と、この情念の熱量……タケシくん、君は女だったのか? なるほど、タケシが虚飾でまさか、アカリさん、あなたの方が本物だったとは!」
ユウキは、自らの演出の盲点を理解し、深くため息をついた。
ユウキ:「つまり、前回あなたがDカップのパッドに触れた際、能力が反応しなかったのは……なるほど。タケシ君が常につけていた分厚い舞台用シリコンパッドが、あなたの感応能力を物理的に遮断する『絶縁体』になっていた。あれは、舞台上のスター女優という虚飾を演じ続けるため、そして劇団内の『胸のヒエラルキー』を維持するために、真実の貧乳(AAAカップ)を隠すための鎧だったんですよ。
だが、それだけじゃない。タケシの心、あの空っぽだった『虚無』もまた、真実だったんですよ。だが、今、あなたが抱いているのは、その虚飾が消え、あなたへの愛という情念で満たされた、真実の女性の胸(AAAカップ)です」
ユウキは、久我の前に進み出た。その瞳は、敗北の悔しさではなく、究極のドラマが誕生したことへの陶酔に輝いていた。
ユウキ:「この奇跡は、僕が仕組んだ虚飾ではない!してやられた!久我さん、あなたは、僕の論理を超えて、彼女の魂を救済した。そして今、彼女の愛は、あなたを再び呪いに囚わせることで、その愛を証明しようとしている!」
激アツの抱擁
久我は、探偵の呪い、論理、真実の追求、すべてを放棄した。彼は、自身を囚える情動の奔流を逆らわず受け止め、代わりにアカリを、その愛の情念に満ちた真実の胸もろとも、魂を絞り出すように強く、深く抱きしめた。
久我:「呪いの炎であろうと、安息の虚飾であろうと、もう私には関係ない! この情念の奔流が、お前が私を愛している真実だというのなら、私は喜んで、永遠にこの呪いに囚われよう!女であろうと、虚無から目覚めた化け物であろうと、構わない!私のすべてが、お前を求め、愛している!」
アカリ(タケシ)は、久我の言葉に、嗚咽を漏らしながら、彼の背中に回した腕に力を込めた。
アカリ:「ああ、久我さん……! 私の愛は、呪いの対象になることを選びました。あなたの呪いに、この胸の情念を永遠に読み取られ続けること。それが、私が選んだ、女としての初めての安息だから! 私を、離さないで!」
ユウキは、敗北を味わいながらも、最高の舞台の完成に祝福の言葉を贈った。
ユウキ:「フフフ... まさかの敗北だ、だが、最高の結末だ! 久我先生、あなたの旅は、AAAカップの愛という名の新たな呪い、そして最も純粋な安息と共に、永遠に続くでしょう! 心から、祝福しますよ!」
― 完―




