回ってる、オルゴール、私は、まだ
遺体の身元確認に協力してほしい。そう言われて、警察署に行った。
小学校の同級生。もう何年も会っていない。赤の他人と変わらない。
そんな彼女の顔を見た。
年相応だ、と思った。
疲れた顔をしていた。
面影はあった。
それが合い言葉であるかのように、私の記憶の扉が開き……などということはなかった。
ただ、何かを思い出せそうな気はした。
彼女の所持品も見た。
バッグの中に、少しの現金、ホットケーキミックス、そして古びた年賀状。
差出人が私。
覚えていない。
思い出せない。
ただ。
*
帰り道。
どうして彼女は私からの年賀状をバッグに入れていたのだろう。
特別親しかった覚えはない。
送ったのは一度きりだろう。
——大切な人へ、特別なギフト——
そんな広告が目に入った。
子供たちの自転車が横切る。
親しくないからこそ、逆に特別だったのかも。
年賀状自体には当たり障りのないことしか書かれていなかった。
それならホットケーキだろうか。
彼女と私とホットケーキ。
何があったのだろう。
*
不意に音がした。
風鈴のように聞こえたそれは、さっきの自転車のベルだった。
季節外れで、場違いで、けれども高く澄んでいて、それがもう一つ、二つと重なった。
木枯らしが強く吹き付けて、子供たちはちりんちりんと鳴った。
——ちりんちりん——
——ちりんちりん、ちりんちりん——
——ちりん————
木の葉のお面の子供たち。音に合わせて回り出す。
不規則で耳障りな響き。旋律を形作る。
回ってる。
私は回っている。
覚えてる。
私は覚えている。
この音を。
*
その日は、サバイバルごっこと称して、何人かで遊んでいた。
しばらくして、雨が降り出した。
強まる雨。
みんな慌てた。
その時、彼女がたまたま通り掛かったのだ。
「落ち着いて。サバイバルは中断」
彼女の家で雨宿りした。
おやつに……ホットケーキを頂いたような気がする。
そして。
「あっ、このオルゴール、私のと同じ」
図工の時間に組み立てた、オルゴールの工作キット。
作る前に曲を選べて、彼女や私は————
「そうなんだ。『舞踏会』っていうところが気になって、これにした」
「うん。憧れるよね」
今にして思えば、会話がかみ合っていなかった。
だけど、その時の私たちは、少しだけ仲良くなれたような気がしたのだ。
*
後日、実家の押し入れを捜してみた。
年賀状は見当たらなかったが、オルゴールは出てきた。
ぜんまいを巻く。
シリンダーが回る。
舞踏会が始まる。
彼女はもういないけど。
私は。
まだ。




