ルミナス・エッジ
それから数日、その時はついにきた。
「じゃあ、この短剣に流れ星のマークを彫るぞ。」
ケントが宣言すると、メイは少し緊張した顔をした。
「失敗しないようにしなきゃ……。」
メイが慎重に短剣を固定し、彫刻の道具を手に取る。
「大丈夫さ。集中して、いつもの技術を活かせばきっと上手くいく。」
ケントは落ち着いた声で励ました。
メイは深呼吸をして、ゆっくりと彫刻を始めた。彫る音が工房に響き、ケントは息を飲んで見守る。時間がゆっくりと流れる中、メイの手は止まることなく、星の形を正確に刻んでいった。
メイが作業している横顔を見ながら「きれいだな」とケントはふいに思った。
カン、カン、と心地の良い作業音が一定のリズムで響き続ける。
「……できた!」
メイが彫刻を終えて声を上げた。
作業を始めてからどのくらいの時間が経っただろう。メイはもちろんのこと、ケントも集中して見守っていたため時間の経過がわからない。長い気もするし、短い気もする。
出来上がった短剣には見事な流れ星のマークが刻まれていた。
「やったな!すごいよ!」
ケントは思わず短剣を手に持つメイの手を握った。
一瞬、二人は無言のまま見つめ合った。その瞳の中には、お互いへの信頼と、ほんの少しの戸惑いが宿っているようだった。だが、その沈黙に気づいた瞬間、慌てて手を放す。
「あ、ありがとう……。」
メイが視線を逸らしながら小さな声で答える。頬がほんのり赤いく染まっている。
「あ、いや……お礼を言うのはこっちだよ。これなら自信を持って渡せるな。」
――こんな時、どう振る舞えばいいんだっけ?
ケントは気まずさを隠すように咳払いをしながら短剣を布で包んで、やや強引に話題を変えた。
「……そうだ、この短剣には名前をつけよう。これからの星屑の鍛冶屋を代表する特別な一品なんだからな。」
「名前……?何がいいかしら。」
二人で少し考え込む。するとケントが手を叩いて言った。
「『ルミナス・エッジ』ってどうだ?輝く刃という意味で、ふさわしい名前だと思う。」
「ルミナス・エッジ……いい響きね!気に入ったわ!」
メイが嬉しそうに笑う。
――ルミナス・エッジ。我ながらいい名前が浮かんだ気がする。
「あとは、この短剣を誰に使ってもらうかだ。」
ケントは椅子に腰掛け、考え込んだ。
「有名な冒険者の心当たりはあるか?」
メイに尋ねる。
「とても人気があって、注目されている人。そして短剣使いであること。最後に、真面目で正直な性格で、信頼されている人。よね……。パッとは思い浮かばないわね。」
メイは困ったように言った。
「よし、それなら明日冒険者が集まる場所で探してみようか。そんな場所ってあるかな?」
「それだとやっぱり冒険者ギルドかしらね。私も何回も行ったことあるから案内できるわ。」
「それは助かるな。じゃあ明日は冒険者ギルドだ。」
「いよいよ本格的に動き出すわね!」
メイは期待に満ちた声で言った。
「そうだ。この短剣がきっと星屑の鍛冶屋を変える。俺たちの未来を変える一歩になるぞ。」
ケントの声には自信と決意が込められていた。
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