プロモーション、始動!
商品に流れ星のマークを印すこと決めてから数日後。
星屑の鍛冶屋は、朝日を浴びながら静かに動き始めていた。店内では、ケントがメイと顔を合わせて次の計画について話し合っている。
「メイ、プロモーションについてなんだけど。有名な冒険者に使ってもらうっていう案で、本格的に進めたいんだ。」
「この間も言っていたわね。でも、ケント……有名な冒険者にどうやって使ってもらうつもりなの?自慢じゃないけど、うちの鍛冶屋はほぼ無名なのよ。そんな鍛冶屋の商品を買ってもらうなんて大変そう。……なんか、自分で言ってて悲しくなってきたわ。」
メイが下唇を突き出しながら言った。
「確かにいきなり買ってもらうのは大変かもな。でも例えばさ、店で一番質の良い武器に流れ星のマークを入れて、その冒険者に無料で貸し出すのってどうだ?そして実際に使ってもらって、その感想を広めてもらうって寸法だ。」
ケントは意気揚々と語った。
「感想を広めてもらう……って口コミみたいなこと?」
メイは興味深そうに問い返す。
「ああ。俺が前いたところではこういう口コミ、特に影響力のある人が良いと認めたものは、他の人たちにも広がりやすかったんだ。」
――SNSを活用した『インフルエンサーマーケティング』というやつだ。SNSはなくてもなんとかできるはずだ。
「そうね。確かに私も友達とかからおすすめされたスイーツとかついつい買いに行っちゃうわ。だから効果はありそうね。」
――メイが言っているのは『ウィンザー効果』といって、第三者から発信された情報や評価のほうが信頼されやすい、という心理効果だ。
ケントは心の中で解説をしながら、メイに語りかけた。
「ああ。ちゃんとやればしっかりと効果に繋げられるはずだ。ただし、使ってもらう冒険者には有名であること以外にも大事な条件がある。」
ケントは真剣な表情で続けた。
「嘘を吐かない、真面目で正直な性格であることだ。」
「ん……?どういうこと……?」
「使ってくれた冒険者があまりいい評価をしていないにも関わらず、すごいいいよ!と周りの人に嘘を吐いて星屑の鍛冶屋の商品を広めてもらう、なんてことはやりたくないんだ。本当に良いと思ったときだけ、その良さを広めてもらう。それが一番信頼を得られる方法だ。」
ケントは少し遠くを見るような目をして、更に続けた。
「俺が前いた場所でな、嘘を吐いて口コミを使ったプロモーションを仕掛けた会社があったんだ。最初はうまくいったように見えた。でも、その嘘がバレた瞬間、信頼を一気に失った。商品の全部が悪いわけじゃなかったのに、そのせいでお客さんが離れていったんだ。」
ケントは苦い笑みを浮かべた。
「だからこそ、本当に良いものを作り、それを正直に広めてくれる人に頼むべきなんだ。」
その言葉に、メイは少し感動したような表情を見せた。
「ケント……なんだか、あなたってすごく誠実ね。」
「……ちょっと話しすぎたな。」
ケントは軽く笑いながら肩をすくめた。
「それでさ、店の中で一番良い武器を探しているんだけど、何か候補はあるか?」
ケントが尋ねると、「んー、そうね」とメイは少し考え込んだ後、棚の奥から短剣を取り出した。
「これがいいと思うわ。父から教わった技術を全部使って私が作ったの。自分でも上手くできたと思っているわ。」
ケントは短剣を手に取り、丁寧に観察した。刃は滑らかで、光を反射して美しく輝いている。柄の部分はしっかりとした作りで、手に馴染む感触が心地よい。
「これはすごいな。切れ味も耐久性も抜群そうだ。どうしてこんなに上手く作れたんだ?」
「父から学んだ技術もそうだけど、この短剣にはちょっとした工夫をしているの。刃に特殊な熱処理を施して、硬さと柔軟性のバランスを取ってるのよ。」
メイは少し誇らしげに説明した。
「それはすごい。まさに星屑の鍛冶屋を代表する一品だな。」
ケントは感心しながら頷いた。
――これを使えばプロモーションはきっとうまくいくはずだ。
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