強みはいずこ?
「さて、どこから手を付けようか……。」
ケントは腕を組みながら、メイの鍛冶屋を見渡した。並べられた商品は悪くない。しかし、どこか埃っぽく、地味な印象が否めない。
「売れるためには、まずお客さんが何を求めているのかを知らないとな。」
「うーん……でもそれって、私が一人ひとりに聞くってこと?」
メイが眉毛をハの字にして困惑した顔をする。
「いやいや、それだと労力が無限大だな。まさか通行人全員に声をかけて『あなたは何を求めていますか?』とか聞くつもりか?」
「……うっ、確かにそれは無理ね。ていうか、恥ずかしくて死んじゃう。」
「だろ?だから、まずはターゲットを絞るんだ。どんな人に売りたいかを決めれば、自然と何をすべきかが見えてくる。」
「なるほど……。でも、ターゲットって言われても、冒険者とか農民くらいしか思い浮かばないんだけど?」
「それで十分さ。むしろ冒険者や農民に絞ったほうが、やりやすいだろ?」
ケントが力説すると、メイは少し考え込んだ後、こくりと頷いた。
「うん、やりやすいのは間違いないわ。でも、具体的に何をすればいいの?」
「まずは競合を知ることだな。外に出てライバルの鍛冶屋を見に行こう。」
「ライバルの鍛冶屋にいくの?どこ?」
「もちろん、この通りを抜けた先にある『グランス鍛冶店』だ。」
「あそこか……いつも賑わってて、見てるだけでちょっと気後れするのよね。」
「気後れするのは見ないからだよ。安心しろ、今回はただの市場調査だ。堂々としていれば、俺たちがライバル店だとは気づかれないさ。」
「……ライバル店って言えるほど強くないけどね。」
苦笑するメイを連れて、ケントはマルクスの町を歩き始めた。
通りに面した『グランス鍛冶店』は、確かに賑やかだった。煌びやかな装飾、磨き上げられた商品、威勢のいい店主の声――どこを見ても洗練されている。
「いらっしゃい!こちらの剣は最新デザイン!デザインだけじゃなく軽さも兼ね備えた自信作です!試してみませんか?」
店主が大声でアピールすると、客が興味津々で剣を手に取る。
その流れで、実演販売が始まり、切れ味の良さに歓声が上がった。
「……なんか、見てるだけで悔しくなるね。」
「気持ちは分かる。でも、落ち込むだけじゃ進まない。むしろ学べるところは学んで盗むんだ。俺の世界にはTTPSというありがたい考え方があるんだぞ。」
「TTPS……?ってなに?」
「TTPSは徹底的にパクって進化させる、って言葉の略さ。俺の…えーっと、出身地にある有名な会社の考え方だよ。」
――まさか異世界に来てまでリ◯ルートの考え方について説明するとは思わなかったな。ケントは苦笑した。
「すごい考え方ね……!でもそれくらいの商魂が必要なのね!」
「あぁ!その通りだ!よし、引き続き店内を見ていこう!」
ケントはメモを取り出し、簡単な観察メモを書き始めた。
「まず、商品が目立つように並べられてる。それから――」
「ねえ、ちょっと待って。もしかして、私たち、ものすごく怪しく見えない?」
ふとメイが呟くと、周囲の客たちがちらちらとこちらを見ている。
「そうか?ただ店に何回も出たり入ったりして、こそこそメモを取ってるだけだろ?」
「いやそれが怪しいんでしょ!」
メイの大きなツッコミが出たところで周囲がざわつき始めた。
ケントは仕方なくメモをしまった。
「まぁこれくらいにして戻ろう。家でまとめることもできるしな。」
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鍛冶屋に戻ると、ケントは商品棚を一つずつ確認し始めた。
「なあ、この剣。メイのお父さんが作ったものだよな?」
「うん、父が鍛冶屋をやってた頃の品よ。すごく頑丈で、長持ちするの。」
メイの声に、ほんの少し誇りが混じっているのが分かる。
「なるほど。この剣、触った感じで分かる。しっかりした作りだ。あのグランス鍛冶店の剣よりも性能がいいだろうな。こっちの剣もお父さんが作ったのか?」
「……それは私が作ったの。不出来でしょう?」
「え、これをメイが?俺は専門家じゃないからわからないけど、少なくともグランス鍛冶店のものよりは良い出来に見えるぞ」
「そうかしら…?そう言ってもらえると嬉しい。ずっと父から教えてもらっていたし、長年の実績で早くいいものを作るということができるのかな?と実は思っていたの。」
「そうなのか。これはしっかりとした強みだよ。つまり、同じ値段ならグランス鍛冶店の剣よりも性能いいものが手に入るってことだ。」
「確かに!でも、どうしてそれがお客さんに伝わらないの?」
「メイ、たぶんだけど……伝えてないからだ。」
ケントが申し訳無さそうに伝えると、メイは思わず口を開けた。
「……確かに、伝えてなかった……かも。」
「つまりだ。これからは、自分たちの良さを理解して、その良さをお客さんにしっかりと伝えていけばいいんだ。メイのお店は長年のスキルで、良いものを早く作れるから他よりも安く提供できるんだ。」
「すごいいいお店じゃない!これでなんの心配もないわね!」
――なんか前の世界の部下を思い出すな
「メイ。まだ心配しかないぞ。安く提供していると売上は全然改善されないし、この情報をどうやってお客さんに知ってもらうかも決まっていない。やることは山積みだよ。」
「た、たしかに……。これってやっぱり、すごく時間かかりそうね。」
「だから楽しいんだろ?大丈夫さ、俺がいる限り、なんとかなるさ。」
「そう?じゃあ、いつかはグランス鍛冶店を超えることも夢じゃないかな?」
「もちろん!一緒にグランス鍛冶店を超えるように頑張ろう!」
笑顔で言い合う二人。その姿は、挑戦の始まりにふさわしい活気を帯びていた。
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