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再建計画、始動!

スープをおかわりしながら、ケントは改めて店内を見渡した。


石造りの壁は頑丈そうだが、どこか薄暗く、古びた印象を与える。並べられた剣や農具も、埃をかぶったまま放置されている。炉の側には未完成の武器が積み上げられているが、それらも手付かずのようだった。


「なあ、メイ。ちょっと聞いてもいい?」


「うん、なに?」


「この町に他の鍛冶屋ってどれくらいあるんだ?」


「他の鍛冶屋?」


メイは少し困ったような顔をして答えた。


「えっと、マルクスには大きな鍛冶屋が一軒あって、あとは小さい店が二、三軒くらいかしら。特に一番大きいのは『グランス鍛冶店』っていう店で、町のほとんどのお客さんを取られてるわ。」


「グランス鍛冶店、か……どんな店なんだ?」


「うん、あそこは商売上手で、新しいデザインの武器や農具をどんどん出してるの。それに、品揃えも豊富だからお客さんが集まるのよ。」


「なるほどな。」


ケントは顎に手を当てて考え込んだ。


――競合が強いのか。となると、差別化が必要だな。


「メイ、ちょっと質問なんだけど、この世界でその……掛け算とかって使われてる?」


「……掛け算?」


メイは不思議そうに首を傾げた。


「ああ、例えば『3つの商品を2人に売ったら全部でいくつ?』とか、そういう計算だよ。」


「それなら……3つの商品を2人にだから……6つよね?違う?」


「いいや、それで合ってる。」


ケントはスープを口に運びながら胸をなでおろした。


――よかった。数学の最低限の知識はあるみたいだな。これなら計画を立てられる。


「どうしてそんなこと聞くの?」


「いや、もしこういう考え方を知らなかったなら、売上の話とかも難しいかなって思っただけだよ。問題なさそうで安心した。」


「……よく分からないけど、計算は普通にするわよ?」


メイの言葉に苦笑しながら、ケントは次の準備を進めることにした。


「じゃあ次の質問。記録をつけるための紙とペンなんだけど……これって普及してる?」


「どこまでを普及というかわからないけど……うちには割とあるわよ。父さんが昔、仕入れの帳簿をつけてたから。」


――なるほど、紙は日本ほど身近なものではないのかもしれないけど、使えないほど珍しいわけじゃなさそうだな。


ケントは、工房の隅から取り出された古びた帳簿と紙の束を手に取り、その質感を確認した。


「これならいけそうだな。インクもある?」


「うん、少しだけなら。」


「よし、これで準備は整った。まずは記録をつける習慣を始めよう。」



ケントは紙に簡単な図を書き始めた。



「メイ、ちょっとこれを見てくれ。」


紙には「売上 = 販売人数 × 販売単価」と書かれている。


「売上を増やすには、販売数人数を増やすか、1人あたりの販売単価を上げるかのどっちかなんだよ。」


「販売人数って……お店に来た人の数?」


「少し違うかな。来る人の数と、そのうち何人が実際に買ってくれるか――つまりお店への来訪数と購入率で決まるんだ。つまりこんな感じ。」


ケントは紙に書いた。


販売人数 = お店への来訪数 × 販売率


ケントはそこにさらに


販売単価 = 1人あたりへの販売商品数 × 平均販売単価


と書き加える。


「そして販売単価は、1人のお客さんがどれだけ買うかと、その商品の値段がどうなってるかで決まる。」


「これを【売上の因数分解】と言うんだ。」


「……そんな風に考えたことなかったわ。」



メイは驚いた顔をしながらも、真剣に紙に目を通していた。



「だから、まずはどの数字が低いかを調べる。たとえば、来るお客さんが少ないのか、買う人が少ないのか、それとも単価が安すぎるのか……原因を突き止めれば対策を立てやすいんだ。」


「大変ね。でも……うん、分かった。とりあえず、記録をつけてみるわ。」


「頑張ろう。でも今日はもう遅いから休まないか?」


「それもそうね。明日から始めましょう。」


メイは思い出したかのように小さくあくびをした。


「それでさ……実は俺、恥ずかしながら泊まるところもなくて、お金もないんだ。もし良ければここに住み込みって形で手伝わせてくれないか?」


メイは目をぱちくりさせて、少し経ってから笑いながら言った。


「あなたってしっかりしているのか、していないのか分からないわね。でもいいわ。部屋も余っているからそこを使って。あ……でも、私が魅力的だからって変なことしないでよね。」


今度はケントが目をぱちくりさせて、苦笑しながら「わかってるよ」と言った。





翌日、ケントとメイが店内を整理していると、通りの向こうから賑やかな声が聞こえてきた。


「さあさあ、今日も新作武器が入荷したぞ!誰か試してみたい奴はいないか!」


威勢のいい声の主は、通りに面した立派な鍛冶屋――『グランス鍛冶店』の主人だった。


「……あれがグランス鍛冶店か。」


ケントは遠目にその様子を見ながら呟いた。店先には煌びやかに装飾された新作の剣が並び、冒険者たちが興味津々で品定めをしている。


「うん。あの店、本当に勢いがあるのよ。」


メイの声には少し悔しさが滲んでいた。


「でも、負けないわよ。だって、ここには私たちの強みがあるはずだから。」


その言葉に、ケントは思わず微笑んだ。


「その意気だ。じゃあ、まずは君たちの強みを見つけるところから始めよう。」




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