罠の終着点
夜の帳が降りる頃、マルクス城下町の裏通りには静かな緊張が漂っていた。
人々が寝静まる頃合いを見計らい、闇取引の準備が進められていた。
ガイル・ロッセンの指示を受けた運び屋たちが、慎重に木箱を積み込み、密かに市場へと運び出していく。
それは「星屑の鍛冶屋の新刻印」を施した、グランス鍛冶店製の粗悪な偽造品だった。
「よし、準備完了ですね。くれぐれも慎重にです。何人かの仲買人を挟んで、決してグランス鍛冶店からだとバレないように、市場に流れ込ませましょう。」
ガイルが低い声で念を押すと、部下の男たちは一様に頷いた。
「ええ、いつものルートで流します。途中で誰かに気づかれる心配はありません。」
ガイルは満足げに頷く。
そして、彼は薄く笑いながら言い放った。
「これで、星屑の鍛冶屋は終わる。」
―――――――――――――――――――――――――
すっかりと寝静まった夜の市場の中。
そこに、一人の武器商人の姿があった。
フードを深く被ったその男が、運び屋に向かって低い声で言う。
「よし、品を見せろ。」
運び屋は箱を開け、中に入っている剣を取り出した。
闇夜でもはっきりと見える「新たな星屑の鍛冶屋の刻印」が、刃に刻まれている。
「いい刻印だな。」
武器商人は満足げに頷き、銀貨を手渡そうとした――その瞬間。
「そこまでだ。」
低く響く声が、夜の静寂を打ち破った。
周囲の暗がりから、複数の人影が現れる。
「……っ!? 誰だ!!」
ガイルの部下たちが慌てて辺りを見渡すと、
既にすべての出口が封じられていた。
先頭に立つのは、冒険者ギルドのギルドマスター、ガレオン。
その背後には、複数のギルドメンバーが剣を抜いて立ちはだかる。
そこには、セリーナの姿もあった。
「――武器の違法取引、ならびに星屑の鍛冶屋の名を騙った偽造品の流通。
そして、その武器のせいで俺たちの仲間が傷ついた。
これは、冒険者ギルドとして看過できる問題ではない。」
「ぐっ……!!」
部下の一人が抵抗しようと動いたが、ガレオンが一喝する。
「お前たちの逃げ道はないぞ。」
そして、ガレオンはゆっくりと歩み寄りながら、目の前の武器を手に取った。
夜闇でもはっきりと見える「新たな星屑の鍛冶屋の刻印」が、刃に刻まれている。
「さて、この武器をどこから仕入れたものか、話してもらおうか。」
「……知るかよ!! 俺たちはただの運び屋だ!!
それに、この刻印を見てみろ!! これは星屑の鍛冶屋の刻印だろ?!」
「さて、それはどうだろうな。」
ガレオンは冷たく微笑む。
彼らはまだ、自分たちが完全に罠に嵌っていることに気づいていない。
―――――――――――――――――――――――――
翌日の早朝、ギルド執行部が、グランス鍛冶店の扉を堂々と開け放った。
「――ガイル・ロッセン。」
ガレオンが低く響く声で名を呼ぶ。
ガイルは、意外にも余裕の表情で振り向いた。
「おやおや。冒険者ギルドマスター自ら、何の御用でしょうか?」
彼の机の上に、昨夜押収された武器が並べられた。
「貴様が行った偽造武器の製造と流通、すべて明るみに出た。」
ガイルはまだ表情を変えない。
「さて、何のことでしょう?証拠もなしに、いきなりこんな――」
「まあ待て。こいつの話も聞いてやってくれ。」
そう言って、ガレオンが手をかざすと、ケントが姿を現した。
「……ケント!!」
ガイルの顔が、わずかにこわばる。
「ようやく表情が変わったな、ガイル。もう終わりだよ。」
「……なるほど。これは、あなたが最初から仕組んでいたことですか。」
ガイルは冷静さを保とうとしていたが、その声には焦りが滲んでいた。
「ただ、私には何のことだかさっぱりです。」
「あんたがそんなに簡単に認めるわけないよな。ただな。さっきも言った通り、あんたはもう終わっているんだよ。」
その言葉に、ガイルは明らかに苛立ちながら言った。
「だから……なにが終わっていると言うんですか?! あなたたちの言い分では、私たちが巷で話題の粗悪品を作っているということですが!! あれは星屑の鍛冶屋が作っているものでしょう!!」
「いや、あれはグランス鍛冶店が作ったものだ。俺が証明できる。」
「ケントさん、あなたの証言なんて証拠にならないですよ。星屑の鍛冶屋を守るための嘘かもしれない。いや、普通に考えればその可能性のほうが高い。」
「その通りだ。俺の証言なんて、証拠にはならない。ただ、あんたが言い逃れができない証拠がある。」
そう言って、ケントが鍛冶場の方に目線を向けると、
双子の鍛冶師のライルとルークが姿を現した。
そして、彼らの手には――
「星屑の鍛冶屋の新刻印の型」が握られていた。
「これが証拠だ。なんでグランス鍛冶店に星屑の鍛冶屋の刻印用の型があるのか。」
「……!!」
ガイルの顔が青ざめた。
「……どうして、それをお前たちが……。」
ライルが一歩前に出て、はっきりとした声で言った。
「ガイルさん。この型があるのは、グランス鍛冶店だけです。
つまり、ここで偽造品を作っていた証拠になります。」
ルークも続ける。
「僕たちが作ったものが、違法取引に使われていたなんて……もう耐えられません。」
「いや……違う……!!」
ガイルは狼狽えながらも、何とか弁明しようとする。
「待て!違うんだ、これはケントが仕組んだことだ!
この型は、元々彼が持ち込んだものだ!!」
しかし、ケントは静かに微笑んだ。
「そうだな。俺が持ち込んだよ。
でもな、ガイル――星屑の鍛冶屋は、刻印を変えてなんかいないんだよ。」
「……は?」
ガイルの顔から血の気が引いていく。
「つまり、この『新しい刻印』なんてものは、最初から存在しなかった。
お前を罠にかけるために作った、ニセの刻印だったんだよ。」
「バ……バカな……!そんなことって……!!」
ガイルはようやく全てを理解し、膝から崩れ落ちた。
「つまりだ――この『新刻印』を持つ偽造品が市場に出回り、
その唯一の刻印の型がグランス鍛冶店にある。」
「これ以上の証拠はない。ゲームオーバーだ、ガイル。」
ガイルはその場に崩れ落ちた。
その様子を一瞥し、ガレオンが続けた。
「さて、ガイル。もう言い逃れは無理だな。お前には、相応の罰を受けてもらう。
ああそうだ。当然だが、商人ギルド、鍛冶屋ギルドにもこのことは伝わるからそのつもりでな。」
―――――――――――――――――――――――――
その後、商人ギルドと鍛冶屋ギルドが即座に動き、グランス鍛冶店は閉鎖された。
ガイルは違法取引と詐欺の罪で裁かれ、もはや二度とこの業界に戻ることはできない。
ライルとルークは、ガイルに強制されていたこと、メイとケントからの嘆願もあり、罪に問われることはなかった。
そして――
メイの強い希望もあり、正式に星屑の鍛冶屋の仲間となった。
「あの二人の技術は相当なものよ。それにうちは人でも全く足りないし。ライルの『本物の武器を作りたい。』という言葉に、私たちが応えてあげるべきよ。どうかしら、ケント。」
メイは優しく微笑みながら言った。
「メイが決めたのなら良いさ。」
その言葉に応えられる場所は、今や星屑の鍛冶屋しかなかった。
ケントとメイはライルとルークに向かって、笑顔で伝えた。
「ようこそ、星屑の鍛冶屋へ。」
―――――――――――――――――――――――――
星屑の鍛冶屋の名誉が回復し始めた頃――
公爵家のセシリア・キアーノは星屑の鍛冶屋の武器を携えて、魔物討伐に向かっていた。
これから起こる事件を、ケントとメイはまだ知らない。
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