罠の始動
ケントは、昼下がりのグランス鍛冶店に向かっていた。
グランス鍛冶店の豪奢な扉を開くと、鍛冶場の熱気と鉄の焼ける匂いが鼻を突いた。店内には活気が溢れ、多くの客が武器を吟味している。だが、それは表の顔に過ぎない。
カウンターの奥、上機嫌そうに立つのはガイル・ロッセン。
ケントの姿を認めると、細めた目の奥に獲物を見定めるような鋭い光を宿した。
「これはこれは……星屑の鍛冶屋のケントくん、でしたかね?どうも初めまして。グランス鍛冶店の店主、ガイル・ロッセンです。」
「ガイルさん、単刀直入に言う。あんたと話がしたい。」
ケントは重々しい口調で告げた。
ガイルは意外そうに眉を上げ、手振りで店の奥へと誘う。
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ガイルの個室は、店の繁盛ぶりとは対照的に静かで落ち着いた空間だった。
彼は深々と椅子に腰を下ろし、冷笑を浮かべながら指を組む。
「さてと、どんな話でしょうか?」
ケントはあえて沈黙を作り、視線を落とす。そして、ため息をつきながら冷徹に言い放った。
「……俺は、星屑の鍛冶屋を捨てる。」
一瞬の沈黙。ガイルの目がわずかに揺れる。
「ほう……?」
「あんたが一番わかっているだろうが、あの店はもう終わりだ。こんなに評判が落ちたら、どんなに良い武器を作っても誰も買わない。今のままじゃ、星屑の鍛冶屋は立ち直れない。」
ケントは肩を落としながら続けた。
「あんたのやり方は気に食わない。が、ビジネスを成功させるには、時には非情になることも重要だ。今回はあんたに軍配が上がった。」
ガイルは無言のまま、慎重にケントの表情を伺う。そして、やがて口角をわずかに持ち上げた。
「さてさて、何のことでしょう。私は何もしていませんよ。でも……星屑の鍛冶屋が終わりということは同意ですね。」
「……そこでだ。ここからが本題だ。ここで、俺を雇ってくれ。」
ケントは真剣な表情でガイルを見据えた。
ガイルは少し驚いた表情をしたが、すぐに感情を消した。
優秀な商売人は、感情を決して表に出さない。
――ガイルという男は、一流のビジネスマンであることは間違いないな。
ケントは心の中で、そう呟いた。
しばしの沈黙の後、ガイルは口角を上げながら話し始めた。
「私が、あなたを雇用するメリットはなにかあるのでしょうか?」
「……そう言うと思ったよ。手土産に、非常に重要な情報を持ってきた。星屑の鍛冶屋な、あの流れ星の刻印を変えるぞ。」
「なに……?」
ガイルの目が光る。
「当然の打ち手だろう?」
ケントは続けた。
「星屑の鍛冶屋は、あの刻印で売れている。しかし、偽物が出回りすぎている。そこで俺たちは、新しい刻印で偽物との差別化を図るつもりだ。既に新しい刻印で制作が開始されている。」
ガイルは沈黙する。そして、疑うように問いかけた。
「……だとすれば、あなたはなぜその情報を私に?私に言わなければ、起死回生の一手になるのでは?」
「いや、どんなに精巧なものにしたとしても、絶対的に模倣ができないなんてことはない。模倣される度に、刻印を別のものに変えるということをすれば、星屑の鍛冶屋が行っているマーケティング的に致命的だ。そうしたら、経営が成り立たず、結局この店に負けてしまう。」
ガイルは腕を組み、静かに笑った。
「ケントさん。あなたは、私が思っているよりもとても優秀で、とても非情な男のようだ。」
「お褒めの言葉、ありがたく頂戴するよ。ただ、もう少しだけ褒めてもらおうかな。」
ケントは懐から、小さな木箱を取り出した。
蓋を開けると、中には新たな“星屑の鍛冶屋”の刻印用の型が入っていた。
それを見て、ガイルは大きく笑い、勢いよく立ち上がる。
「素晴らしい!!いいでしょう。あなたを、グランス鍛冶店で雇用します。私の右腕として働いてください。高待遇をお約束しますよ。」
「助かるよ。さあ、ガイルさん。一緒に星屑の鍛冶屋を、終わらせよう。」
ケントはもまた、ニヤリと笑った。
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数日後。
グランス鍛冶店の工房には、新しい刻印を施された武器が並べられていた。
「素晴らしい出来ですね。このクオリティであれば、スライムにも負けてしまうかもしれません。」
ガイルは満足そうに笑った。
「じゃあ、これを早速市場に卸そう。いつも卸していた店はあるのか?」
「ええ。懇意にしている店があります。あそこの店主は、売上至上主義でね。波長が合うんですよ。今夜、市場の裏で取引を行います。」
――ガイルの言葉を、ケントは冷静な表情で聞いていた。
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