告白
星屑の鍛冶屋の店内には、いつもよりも重い空気が漂っていた。
ケントはカウンターに肘をつき、深いため息をつく。
「……やられたな。」
向かいに座るメイも、同じように苦々しい表情をしていた。
「悔しい……。こんな形で、星屑の鍛冶屋の評判が落とされるなんて。」
「悪意を持って誰かが仕掛けてきている。これがただの偶然ってことは、絶対にありえない。」
ケントはこめかみに手を当てながら、怒りを込めて続けた。
「誰が得をするかを考えれば、答えは一目瞭然だ。グランス鍛冶店だ。」
「グランス鍛冶店が……?まさか……。あんな人気店が、そんなことをするかしら?」
「十分あり得るさ。冒険者ギルドマスターのガレオンさんが認めて、公爵家との取引も進んでいる。フラットに評価をしても、星屑の鍛冶屋はこの街一番の鍛冶屋のなろうとしているんだ。グランス鍛冶店からしたら、面白くないだろう。」
「……。でもケント、証拠は、ないのよね?」
「そこなんだよな……。」
ケントが唇を噛みしめる。
「まさか偽の刻印までつけて、こんな粗悪品を流すなんて……。亡くなったお父さんが天国で泣いているわ。」
メイは悲しそうに言った。ケントはそんなメイの肩に軽く手を置いて話した。
「必ず証拠を掴んで、グランス鍛冶店の企みを暴く。だが、そのためには、まずこの事態をどうにかしないといけない。」
メイは小さく頷いた。
「それに、あの怪我をした冒険者を見た?本当に胸が痛くなったわ。」
「俺もだ。星屑の鍛冶屋の武器じゃないとはいえ、俺たちの名前が使われて、誰かが傷ついた。これはもう、他人事じゃない。」
ケントは目を細める。
「……奴らをこのままのさばらせておくわけにはいかない。」
―――――――――――――――――――――――――
そんな会話をしている最中、静かな夜更けに、店の扉がひっそりと叩かれた。
コン、コン。
「……こんな時間に?」
メイが怪訝そうに呟く。
「……昼間の騒ぎのせいで、また誰かが詰め寄りに来たとかじゃないよな?」
ケントは慎重に立ち上がり、そっと扉を開けた。
そこに立っていたのは、二人の若い鍛冶師だった。
「……君たちは?」
ケントが目を細めて問いかけると、彼らはびくりと肩を震わせた。
「僕たちは……」
双子の兄、ライルが口を開くも、言葉に詰まる。
「グランス鍛冶店で働いています。」
その言葉に、メイが表情をこわばらせる。
「……グランス鍛冶店?」
「お願いがあります……話を聞いてもらえませんか?」
ルークが震える声で言った。
ケントはしばらく二人を見つめた後、ため息をつきながら扉を開いた。
「とりあえず、中に入ってくれ。」
―――――――――――――――――――――――――
店の奥のカウンター席で、双子は落ち着かない様子で座っていた。メイが温かい紅茶を差し出しても、彼らは手をつけることなく、ただうつむいている。
「で、話というのは?」
ケントが静かに問いかけた。
ライルとルークは、互いに顔を見合わせる。
「僕たち……、許されないことをしてしまいました。」
ライルが震える声で告白を始めた。
「あの……、星屑の鍛冶屋の粗悪な模倣品を……。」
「……君たちが作ったのか?」
ケントが静かに尋ねると、二人は苦しげに頷いた。
「……やっぱりな。」
ケントは拳を握りしめた。メイの表情も険しくなる。
「どうしてそんなことをしたの?あなたたちだって、鍛冶師なんでしょう?!」
メイの声には怒りよりも、悲しみが滲んでいた。
その感情を感じて、ルークが涙を堪えきれず、ぽつりと呟いた。
「……僕たちには、ガイルさんの言うことを拒否することなんてできないんです。」
「僕たち、鍛冶師としての腕には自信がありました。でも、家柄も後ろ盾もない僕たちは、グランス鍛冶店で働くしかなかった。ガイルさんに拾われたときは、本当に感謝していました。」
ライルの言葉に、ルークが頷く。
「でも、ガイルさんは僕たちを……道具のように扱いました。仕事を少しでもミスがあれば、賃金は一切支払われず、工房に閉じ込められることもありました。それでも……僕たちは耐えていました。」
ルークが続ける。
「今回も、もちろんやりたくなかったけど……、でも、逆らえば僕たちの居場所はなくなる。仕方なく、言われた通りに作業しました。」
「でも、今回の件は……僕たちには耐えられなかった。偽物を作れと命じられたとき、罪悪感でいっぱいになった。」
「しかも、その結果、今日……遂に怪我人が出てしまった。僕たちの作った剣のせいで。」
ルークが拳を握り、震えながら言う。
「……これ以上、あの店にはいられません。辞める前に、あなたたちに本当のことを伝えにきました。僕たちのせいで傷ついた人がいる。その責任は感じています。」
ライルも震える声で続けた。
ケントは黙って二人を見つめていた。
――嘘は言っていないようだ。
そして、メイもまた同じことを思っていた。
「……わかったわ。」
メイが静かに言った。
「あなたたちの話を信じる。でも、このままじゃ、グランス鍛冶店――ガイルを止めることもできないし、証拠もない。」
「そうだ。」とケントも頷く。
「よし――奴を罠にかけよう。」
双子が驚いたように顔を上げる。
「……罠?」
「このままじゃ、証拠がなくて俺たちは奴を告発することもできないし、また別の手を打たれる可能性がある。だから、奴自身に自ら証拠を残させる。」
「そんなこと……可能なんですか?」
ライルが不安そうに尋ねる。
「それを今から考えるのさ。なあに。悪巧みは俺も意外と好きなんだよ。」
ケントはニヤリと笑った。
「ただ、君たちの力も借りることになるぞ。協力をしてくれるか?」
ライルとルークは顔を見合わせた後に、ケントをまっすぐと見つめて力強く頷いた。
こうして、星屑の鍛冶屋は、グランス鍛冶店を陥れるための策を練り始めた――。
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