戦いのあとに
冒険者ギルドが一時の騒乱から日常を取り戻した頃、セリーナ・ルミエールは治療を終えたばかりの体を休めながらギルドの一室に横たわっていた。
戦いの疲労と傷の痛みが体に残る中、彼女は『ルミナス・エッジ』を握りしめながら、ブラック・タイラントとの死闘を思い返していた。
ブラック・タイラントとの死闘の記憶が蘇るたび、セリーナの胸が締め付けられるようだった。
あの巨大な牙が迫り来る瞬間、彼女は確かに「死」を覚悟していた。
だが――その瞬間、彼女を救ったのは『ルミナス・エッジ』だった。
――あの瞬間、短剣が耐え切ってくれなかったら、私はここにいなかった。
流れ星のマークがわずかに光を反射するのを見つめながら、セリーナは目を閉じた。
そのとき、ノックの音が響き、ギルドマスターのガレオン・ヴァルデリオが部屋に入ってきた。
巨体に似合わない慎重な足取りで、彼女のベッドの脇に立つ。
「セリーナ、よくやったな。ブラック・タイラントを一人で仕留めるとは、大したものだ。」
ガレオンの声は落ち着いていたが、その眼差しには深い敬意と安堵が込められていた。
セリーナは微かな笑みを浮かべたが、すぐに表情を曇らせた。
「ありがとう。でも……一人じゃ無理だったわ。『ルミナス・エッジ』があったからこそよ。」
彼女は短剣を手に取り、その刃を指でそっとなぞった。黒い血の痕が戦いの激しさを物語る。
その動きを見て、ガレオンが興味を示す。
「ほお……、それがいまギルド中で話題になっている短剣か。」
彼は短剣を覗き込むと、その流れ星のマークに目を留めた。
「星屑の鍛冶屋、だったか。先代の腕は確かだったが、いまの店主にこれほどの武器を作る腕があるとはな。どれ、少し見せてくれるか?」
セリーナが頷き、短剣を差し出すと、ガレオンは手に取ってじっくりと観察した。
刃の光沢、握り心地、全体のバランス――そのすべてに目を光らせ、彼は唸った。
「この刃の均整……鍛造の段階で余分な歪みを徹底的に排除しているな。それだけじゃない。重心のバランスも完璧だ。普通の職人なら、ここまでの精度を出すのにどれだけの時間をかけるだろうな……。」
ガレオンの声には感嘆が滲んでいた。その表情を見たセリーナの胸に、星屑の鍛冶屋への信頼がますます深まっていく。
「ここまでの品質を持つ武器を作れる鍛冶屋はそう多くない。星屑の鍛冶屋、か……これは一度訪れる価値がありそうだ。」
セリーナは疲れた声で笑った。
「きっと気に入るわ。ケントとメイに会えば、あなたもわかると思う。」
ガレオンは短剣を彼女に返すと、その場を後にする準備を始めた。
「まずは休め。ギルドを更に大きくするためには君の力が必要だ。」
部屋を出ようとしたところで、ガレオンは立ち止まり、「ああ、そうだ。」と振り返った。
「セリーナ、大事なことを忘れていた。これが今回の報酬だ。」
そこには袋に金貨が20枚入っていた。
「……こんなに?!下手したら1年間は働かずに暮らせる金額よ??」
「おいおい、ブラック・タイラントの討伐だぞ?普通はパーティーを組んで実施する依頼だ。それを単独で行ったんだから、報酬も独り占め。その結果がこれさ。」
「……ありがとう。嬉しいわ。なんだか傷が治っちゃったみたい。」
セリーナは茶目っ気たっぷりに答えた。
「すぐ調子に乗るやつだな。そんなお前を更に調子に乗せることになるが。セリーナ、今日から、お前の冒険者ランクはAに上がった。」
セリーナは驚きのあまり、なにか言おうと口をパクパクさせている。だが、言葉が出てこない。
「ブラック・タイラントを単独で討伐したんだ。そんなやつがランクBにいるのはおかしいだろ。ランクがAになるということは、更に高難度の依頼にも挑戦をしてもらうことになるから、良いことばかりではないかもしれんがな。」
ガレオンは笑いながら言った。
「……私なんかがランクAって……自信はないけど、でも、あなたの期待に応えられるように頑張るわ。」
セリーナは静かに、ただ、とても力強く言った。
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