強敵の影
セリーナ・ルミエールは軽やかな足取りで目的のダンジョンの入口へ向かっていた。
依頼書に記載された『デュランス・ベア討伐』は、彼女にとって特に難しいものではない。過去に何度も経験している討伐対象だ。
ダンジョン内は湿った空気と薄暗い光が漂い、不気味な静けさが広がっていた。しかし、セリーナは軽快に足を進めていく。腰には新しい短剣『ルミナス・エッジ』が揺れている。
これまでの経験を思い返しながら、セリーナは腰に揺れる『ルミナス・エッジ』にそっと手を触れた。その手つきには自信があり、短剣に対する期待も滲んでいた。
「さて、この短剣がどれほど役立つか試させてもらうわ。」
セリーナの目は輝き、口元には自信の笑みが浮かんでいた。数分進むと、ダンジョン内で微かな足音が響く。魔物の気配だ。
「アル・ミラージか……。」
角の生えた兎のような魔物だ。セリーナは瞬時に判断し、素早く行動した。短剣を抜き放ち、影のように近づいて一撃で仕留める。その切れ味と軽さに驚き、思わず呟いた。
「……これ、思った以上に良いじゃない。」
ダンジョンの奥へ進むにつれ、セリーナの動きはさらに洗練されていった。モンスターを一撃で仕留め、まるでダンスを踊るかのような流れる動きで進行する。
ダンジョンの最奥に近づくと、やがて目の前に開けた空間が現れた。セリーナは魔物の気配を探るために耳を澄ませた。
その瞬間、静寂を破るように、遠くから叫び声が響いてくる。
「誰か……誰かっ、助けてくれ!」
その叫び声には、焦りと絶望が滲んでいた。
セリーナの全身に緊張が走る。
すぐに短剣を握りしめ、声のする方向へ駆け出した。
「何が起きているの……?」
叫び声の元に辿り着いたセリーナは、目の前の光景に目を見張った。地面に倒れ込む数人の冒険者と、その前に立ちはだかる巨大な影。冒険者たちの血が地面を染め、その中央で獣が咆哮している。
「デュランス・ベア……じゃない……!」
モンスターはデュランス・ベアの特徴を持ちながらも、その体格は一回り、いや二回りも大きく、異様な威圧感を放っていた。全身を覆う黒い毛並みは鋼のように硬く、目は赤く輝いている。その姿はまるで獣の王のようだった。
セリーナは反射的に呟いた。
「……ブラック・タイラント。」
デュランス・ベアの上位種として知られる、極めて危険な存在だ。
セリーナの体から、どっと汗が吹き出した。
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