転生の夜
―― 未来に語り継がれる物語がある。
かつて貧困に喘いでいたスミスムダ王国は、奇跡的な復興を遂げ、経済大国として名を馳せるようになった。その成功の裏には、異世界から現れた1人の男――福田賢人の力があった。
現代日本で培った営業力と経営ノウハウを武器に、彼は破綻寸前の国を立て直し、成り上がりへの道を切り開いた。
―― 異世界転生 × ビジネス成り上がり
スミスムダの歴史を変えた男の物語が、今、始まる!
東京、六本木――夜の交差点
ビル群の窓明かりが空を照らし、車道には車のクラクションと人々のざわめきが響き渡る。六本木、夜10時。
福田賢人は交差点で信号が青になるのを待ちながら、スマホの画面をタップしていた。
「福田部長、明日のプレゼン資料、再確認お願いします!」
「福田さん、この数字、少し調整が必要です!」
次々に届く部下たちからのメッセージに、軽く眉をひそめる。
――あいつら、何で全部俺に聞いてくるんだよ。考えてから質問しろって何度言った?
それでも、文句を言いながらも手は止まらない。福田賢人、32歳。一流企業の営業部長として、部下たちを指導する立場にある。忙しさが当たり前の日常だった。
スマホをポケットにしまうと、ふと立ち止まった。冷たい夜風が肌を刺すように吹き抜け、仕事に追われる毎日に対して、ふと疲労を覚える瞬間だ。
その横顔には、どこか張り詰めたものがあった。
――最近、休みらしい休みなんて取ってないな。
休日も電話が鳴り、いつしかプライベートという言葉は消えていた。そもそも、この歳になっても独身で、特定の彼女もいない。「仕事が恋人」なんて言い訳を口にするのも自分自身飽きているのに、それ以外の楽しみ方が分からなかった。
――でも、それでいいんだ。少なくとも今はな。
信号が青に変わり、歩き出そうとしたその瞬間だった。
迫るトラック――時間の伸びる感覚
視界の隅に、不自然な動き。ライトが目を射抜く。トラックだ――猛スピードで突っ込んでくるその巨体に、賢人は一瞬で固まった。
「――っ!」
叫び声を上げる暇もなく、体が宙に浮くような感覚を覚えた。だが、不思議なことに、次の瞬間にはすべてがスローモーションになったかのように感じられる。
――俺、死ぬのか?
その問いが浮かび上がると同時に、これまでの記憶が鮮明に甦る。
「福田部長、ここまでやれたのは福田さんのおかげです!」
「部長のアドバイス、効きました!数字、取れましたよ!」
部下たちの顔が次々と浮かぶ。少し不器用で、仕事に慣れるのに時間がかかるやつばかりだった。けれど、だからこそ彼らが成功を掴んだ瞬間、その姿を見るのが楽しかった。
――あいつら、なんだかんだでいいやつだったよな。みんな頑張ってたし、俺なんかを頼ってくれて。
表では「もっと考えて動けよ」なんて叱ったけれど、心の中ではその成長が嬉しくてたまらなかった。
営業一筋の人生。
数字を追い、成果を出し続ける日々。交渉の駆け引きも、理不尽なクレーム対応も、決して楽ではなかった。それでも――
――営業は、やりがいがあった。結果が出た時の達成感、取引先との信頼関係、それに部下たちの成長……悪くなかったな。
思えば、自分は部下たちと一緒に成長してきた。彼らの成功を手助けするたびに、自分も少しずつ変わっていった。
――またやってみてもいいな。営業でも、部下の育成でも……もう一度、何かに挑戦してみたい。
その思いを胸にした瞬間、意識が深い闇に包まれた。
――漂う闇と無数の光
目を開けると、全身が宙を浮いているような感覚がした。視界には、闇の中に無数の光が漂っている。それは星のようにも、魂の欠片のようにも見えた。
「……ここは、どこだ?」
声は反響し、虚空に吸い込まれていく。次第に体の感覚が薄れ、意識が遠のいていく。
それでも、どこか不思議と落ち着いていた。
――俺の人生、悪くなかった。もう少しだけやれたら……いや、次があるなら、もっとやれるはずだ。
最後にそう呟いた瞬間、光が視界を覆った。
――小鳥の囀りで目が覚めた
背中に冷たい感触が伝わる。
目を開くと、灰色の空が広がり、遠くには木造の古びた建物が立ち並んでいた。金属がぶつかる音や、人々のざわめきが耳に入る。
「……なんだ、ここは……?」
体を起こそうとするが、全身に鈍い痛みが走り、上手く動かせない。その時、上から声が降ってきた。
「……大丈夫?」
顔を上げると、一人の若い女性がこちらを覗き込んでいた。乱れたポニーテールに茶色の瞳、煤けたエプロン姿。日本人ぽさはあるが、海外の血が入っているよう見える。
どこか憂いを帯びた表情だったが、とてつもなく美人で、そしてその声には優しさがあった。
「倒れてたのを見つけたの。……動ける?」
彼女の手を借りて起き上がると、目の前に広がる光景が目に飛び込む。
石畳の道、木製の看板、黒煙を上げる煙突――。どこを見ても、ここが日本ではないことだけは明らかだった。
「ここはスミスムダ王国の城下町、マルクスよ。」
「スミスムダ……王国?」
聞き慣れない言葉に戸惑いを隠せない賢人だったが、それ以上考える余裕はなかった。
――どうやら、俺は異世界に来てしまったらしい。
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