「天使の正体見たり白ポンチョ」1
妖部夏彦は奇人である。文学部哲学科である彼は、日夜やらんでも良い哲学的思索に耽り、無駄に卓越した論理展開能力によって、遂に心霊の類いの存在を証明して見せた。おおよそ論理に隙間らしい隙間は見られず、残すところは実証のみとなったが、しかしこれが難航した。
実証無ければ、単なる机上の空論に過ぎぬ。阿呆の絵空事と言っても良い。詭弁と言われても仕方無い。彼は己の論理の完全性を証明するべく、東に西にと奔走したが、しかし成果は全く得られず、あやかしの尻尾すら掴めずにいた。それにそもそも、あやかしに尻尾があるのかすら解らない。それが悔しくて仕方無かったのであろう。
周囲の人間は、彼にそろそろ諦めるべきだと諭した。しかし彼は「『現実』を覆してこそ、初めて『実現』するのだ」と言って聞かなかった。止めるどころか、彼のあやかし捜しは高じて、最早好奇心の悪魔の様相を呈した。遂に講義にすら殆ど出席しないようになり、当然の帰結として落とすべきものを落とし、落とすはずのないものを落とし、挙げ句の果てには落としてはいけないものまで落とした。いよいよ留年の二文字が現実味を帯びてくる、見る毒物と化した成績表を受け取っても尚、しかし彼は何処吹く風で、依然としてあやかし捜しに没頭するのであった。
雨の日も風の日も、血眼になって空気を掴むような真似事を懲りずに繰り返す、目の下に大きなクマのある男を、大抵の人間は「傑物」と評し、機知に富む人間は「妖怪」と評したけれど、天使であるボクに言わせれば、彼は単に阿呆であった。