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6話・ホットでクールな変態にご注意を


「『ダンジョンに不審者、情報求ム』だってさ。お前の事じゃないのか?」


「私のどこが不審者だというのだ、美貌が罪だというのなら罪人だと言えるがな」


ここはとあるアンデッドダンジョン、奥底の関係者以外立ち入り禁止のマスタールームではダンジョンマスターのネロとダンジョンボスのカーミラが暇を潰していた。


「そうか?この前までブヒブヒ鳴く変態親父を引き連れて大名行列してたじゃないか」


「あれは引き連れてたんじゃない!追いかけられてたんだ、何度も助けてくれと言ったじゃないか!!」


「そうなのか俺はてっきりそういうプレイに目覚めたんだと思ってそっとして置こうと考えてたんだが…」


この前とは催眠術でカーミラが自分の肉体を弄ったときの事だろう。

第三者から見たらノリノリでボンテージを着る美女と四つん這いで歩くおっさんを後ろに連れている光景は関わり合いにはなりたくないのも致し方ない。


「そんな訳無いだろう、大体マスターがあんな雑誌を持っていたのが悪いんだ!」


「あ、あれは知り合いに押し付けられただけで俺の趣味じゃ…」


「ふん、まぁどうでもいいさ。私はもう催眠術なんて使わないからな」


「あぁ、それがいい。セクシー女吸血鬼路線でいこうとしたのに超ドS女王様って噂が広まっちまったからな、暫くは大人しくしてた方がいいさ」


冒険者達は日々新しい刺激を求めているものだ、少し話題になっても一、二週間大人しくしていれば直ぐに皆から忘れ去られるだろう。


「そうする、だが私の事でないのなら不審者とは何だ?」


カーミラの質問にネロは持っていたボードを渡して答えた。

ボードには先程の不審者についての注意喚起の他に近所のダンジョンからのお知らせや高レベル冒険者の情報なども載っている。

所謂回覧板のようなものだ。


「何々、『幼い魔物に「お菓子をあげるからおいで」と声をかける二十代、中肉中背、魔法使い風の男にご注意を!』うわぁ…本物の変態だな…」


カーミラはあからさまに顔をしかめて嫌悪の表情を浮かべる。女性は子供をお腹に宿す為かロリコンというものを非常に嫌う。


「近くの【鬼の城塞】の所にも出たみたいだぞ。ほらあそこの一人娘のギーちゃんに声をかけたらしい」


「ギーちゃんが!?大丈夫だったのか?」


「あぁダンジョンを巡回中のモンスターが気付いて事なきを得たそうだ」


【鬼の城塞】は近所にある鬼系魔物のダンジョンだ。ボスはガントニオという大柄なオーガで一人娘のギーちゃんは今年七歳の美幼女いや美オーガだ。


ネロとカーミラも町内の行事などで何度も会ったことがある。人懐こくて笑顔が素敵な女の子が二人の頭を過る。


「うぬぬ、マスター!!」


「おわっ!?な、なんだいきなり大声を出すなよ」


「ヤるぞ!!」


「あ?」


「私達でこの変態を取っ捕まえてやろうじゃないか!」


メラメラと使命感に燃えるカーミラを前にしてネロはあくびを吐きながら


「ダルッ…」


と言った。



ダンジョン内ではゾンビ達が慌ただしく保管庫とマスタールームを行ったり来たりしていた。


彼等が腕に抱えているのはどれも女性用のドレスやワンピースなどの衣類だ。それ以外にも帽子や髪飾りなど多種多様に用意しているようだ。


「おー、意外と溜まってたな」


「マスター、なんだこれは?」


小高い丘のように積み上げられた衣類やアクセサリーを前にしてカーミラは怪訝そうな様子で問いかける。


普通の年頃の女性ならばきらびやかな品の数々に瞳を輝かせる所だが、カーミラはアダルティックなボンテージ衣装を何の疑問も抱かずに着用し、他人に指摘されるまでその異常性に気付かない女だ。


普通とは感性が違っているようだ。そもそも種族も生態も違うのだから仕方がない。


「戦利品だよ、冒険者からのな。女性冒険者が持ってた服だったりアクセサリーだったり上等そうな物はある程度まとめてから売ろうと思ってたんだが、すっかり忘れててな」


冒険者といえどお洒落をする者も多い、ハイリスクハイリターンな仕事のストレスを解消するために服やアクセサリー、化粧品なんかに金を注ぎ込む女冒険者も多い。

まぁ、彼女等の多くは手頃な良い(カモ)を捕まえて悠々自適な生活をするためにといった所だろうが。


「ふーん、でどうするんだ?」


「決まってるだろ、ファッションショーだ」




照明が消されたマスタールーム。ソファや棚が部屋の端に移動され奥にはパイプ椅子と長机が置かれ、そこにはネロと二体のゾンビが腰かけている。


「さぁ、ショータイムだ!」


ネロがパチリと指を鳴らすと光球が浮かび上がりスポットライトのように室内を照らす。簡単な初歩の魔法だ。


「ウガガア(エントリーNo.1・サマータイムサマー)」


ネロの隣に座るゾンビがそう言うと部屋の中にカーミラが入ってきた。


いつものマントとイブニングドレスではなく白いワンピースと麦わら帽子を被っている。


「ふむ、夏の日差しとそれに照らされる美少女がテーマか。では採点に移ろう」


ゾンビA→八点

ゾンビB→七点

ネロ→七点


「ウガァ(ファッションはいいが少しシンプル過ぎた気もします)」


「ウガガッ(カーミラさんのブロンドに白のワンピースはベストマッチでしたがもうワンアクセント欲しかったです)」


「モデルの表情がほぼほぼ肉食獣」


手に点数の書かれたプラカードを掲げて、順々にの感想を述べる一同。


そしてモデルのカーミラはというと可愛らしい服装に反してその表情は吸血鬼特有の犬歯をむき出しにして、喉を唸らせている。


「これは一体何の冗談だ」


「ん?衣装だ。あのイブニングドレスじゃ男が寄ってくるわけないだろう」


「別にどんな格好をしようと私の勝手だ」


「駄目だ、それじゃ変態を捕まえられない。カーミラにはしっかり囮役をしてもらわないと」


「な!?私が変態を釣るための餌になるのか?」


漸くこのファッションショーの意味とネロの意図を理解したカーミラはあからさまに反感する。


「不満か?」


「当たり前だ!変態の相手なんて二度とするもんか」


「だけど、ギーちゃんの為だぞ」


近所の無邪気な少女を思いだし、「むっ…」と口を閉じて黙るカーミラ。このまま変態を野放しにしては、オーガの少女は安心して散歩すら出来ないだろう。


「分かった、とっとと変態を捕まえて血の一滴まで搾り取ってやろうじゃないか」





「ガウゥッ(エントリーNo.2・クラシックドール)」


ゾンビA→七点

ゾンビB→六点

ネロ→七点


「ウガァッ(典型的なゴスロリですね、似合ってるけど方向性がちょっと違う)」


「ウガガ(白と黒のコントラストに赤い瞳が栄えますね、ただもっと傘やカバンでゴテゴテ感を出した方が良かった)」


「メンタル不安定でカッターナイフとか携帯してそう」





「ウガウゥ(エントリーNo.3・ちょっと大胆に)」


ゾンビA→八点

ゾンビB→七点

ネロ→八点


「ガウガウ(白のTシャツにホットパンツ、生足が大胆さを演出してますね)」


「ウガァ(スタイルに自信がないと出来ない格好です、ですが見事に着こなしてます)」


「大人を舐めてる感じがビンビンする。『ざーこ、ざーこ』とか言ってきそう」





「ウガガッ(エントリーNo.4・懐かしの黄色い帽子)」


ゾンビA→九点

ゾンビB→九点

ネロ→九点


「ウガ(ちゅーりっぷの形のネームプレートと園児服の組み合わせは点数高いですね)」


「ウガァ(あの黄色い帽子まで使って再現度がとても素晴らしいです)」


「ぷっ…い、いける、これだったら変態もイチコロだよ…ぷぷっ」


どうやら肝心の衣装の方は決定したようだ。スタイリストとして参加していたゾンビ達もハイタッチをしたりとお互いの仕事を称え合っている。


「よしカーミラ、後はそれを着てダンジョンの入り口近くを歩いてれば不審者を誘き出せる筈だ」


「え、本当にこれでいくのか?そもそも不審者がうちのダンジョンに来るかも怪しいのに」


囮役となる当のカーミラは不満げだ、囮役にという訳ではなく自分の着ている衣装に訝しげな眼差しを向けている。


「大丈夫だ、回覧板の不審者情報によると、犯人はここ数日で近所のダンジョンを周り尽くしてる。後残るはウチだけだ、きっとここに来る筈さ」


「ウガァ(安心して下さいカーミラさん、我々も付いてますから!)」


「まぁ、やってみるしかないか…」


綿密な準備を得てダンジョン変態捕獲大作戦が始動したのだった。



ダンジョンの比較的浅層、入り口の近くのフロアをブラブラと適当に歩き回っているのは園児服を着こんだカーミラだ。


だが年齢は彼女の通常の姿の半分程だろう。吸血鬼の能力の一つである催眠術で幼い見た目を投影しているのだ。


『マスター他のフロアの様子はどうだ?』


「今のところは異常なし、ダンジョンは臨時休業にしたから入ってくる奴は例の変態だけだ油断するなよ」


ネロはマスタールームのモニターでいくつものフロアを監視しながら念話装置を操っている。


『ラジャー』


「ゾンビ部隊はどうだ?不審人物はいたか?」


『ウガガァ(今のところは問題無しです。このままカーミラさんの援護を続け、あ!居ましたマスター!)』


カーミラの周囲で警戒をしていたゾンビ部隊の一人がターゲットを発見したようだ。


「よし、よくやった!カーミラそのまま気付かない振りをしていろ。お前とゾンビ部隊とで挟み撃ちにする」


『了解だマスター』


「ここからが本番だ」




カーミラは何も気づいてない振りをしながらダンジョンをぶらぶらと歩く。だが彼女の鋭い感覚は後ろをつけてくる人間の気配を感じ取っていた。


「ハァハァ、お嬢ちゃん、クッキーをあげるからお兄さんとちょっとお話しないかい?」


後ろからローブをきた魔法使い風の男が話しかけてきた。中肉中背、メガネをかけた地味な男だ。


「マスター、獲物が網に掛かったぞ。ゾンビどもは準備完了か?」


『あぁ、勿論だ。やっちまえカーミラ』


ネロからゴーサインが出たカーミラは獣じみた笑みを浮かべ赤い瞳を爛々と輝かせた。


「あぁいいぞ、私と存分にお話しようじゃないか」


くるりと振り返り自身にかけていた催眠術を解除する。途端に姿が幼女から十代前半の少女へと変貌する。

それを見て驚愕したのは魔法使いの男だ。


「な、な、どういうことだ!!?なんで突然天使ちゃんがこんなババアに!!」


「…なんだと?」


「ざけんな!格好がきついんだよ、年考えろよ!!」


男はカーミラの術が解け、取り乱したと思ったら今度は騒がしく喚き出す。唾を飛ばしながら好き放題にカーミラを罵る。


「ギリッ、お前いい加減にしろよ―――」


「うっせー!年増が!!」


正に我慢の限界となったカーミラだったが彼女の凶刃よりも先に男の魔法がカーミラへと襲いかかった。

魔法使い風の見た目は伊達では無かったようだ、なかなかの発動速度だ。


「ウガガ(カーミラさん!!)」


ゾンビ達が急いで駆けつけるもカーミラは魔法で氷柱の中に閉じ込められていた。まるで標本のようだ。


「クソクソッ!今度はゾンビか、僕の好みの天使ちゃんはいないのかよ!」


『あー、おいそこの変態野郎、性犯罪者、ペド男、大人しくお縄につきやがれ』


ネロが通路に設置されているスピーカーを使って変態野郎に話しかける。


「違う!僕は変態なんかじゃない、ただ清らかな穢れない幼女と話して心を浄化したいだけなんだ!彼女達の絹のような肌に宝石のような瞳、小さくて脆い手足を魂で感じたいだけなんだ、ハァハァ」


『…うわ、予想以上に重症だったよこいつ。もういいやゾンビ達やっちゃっていいよ』


「ウガ(了解ですマスター!)」


話の通じるマトモな人種ではないと判断したネロはを取り囲むゾンビ達に抹殺指令を下した。


ゾンビ達はジリジリと包囲網を縮めるように距離を詰めていく。

それに対応して男も懐から短杖を構えて魔法の詠唱を開始する。


「うぎゃあぁッ!!?!」


だが魔法が発動することはなかった。呪文の詠唱の代わりに男の口からは悲鳴が飛び出した。


「肩がぁあ、僕の肩がぁぁああ!!」


男の肩は鋭い爪の生えた華奢な手に背後から貫かれていた。貫通した肩からは血が流れ骨がチラリと覗いている。


「よくも殺ってくれたな」


その手の持ち主はもちろんカーミラだ。彼女は力ずくで氷柱を割り、男の肩を手刀で貫いたのだ。

カーミラの顔はまさに吸血鬼という名に相応しい鬼の形相だ。


「ひ、ひいぃぃっ!」


そこからは目を覆いたくなる程の惨劇だった。ババア扱いされ氷漬けにされたのが余程頭にきていたのだろう、男は怒り狂った吸血鬼に言葉通り八つ裂きにされたのだ。



あの変態野郎虐殺事件から数日、ご近所には平和が戻っていた。


「カーミラ、また回覧板に不審者の情報が載ってるぞ」


「何!?またあの男みたいな奴が現れたのか!」


カーミラはネロの持っていた回覧板を奪うようにして受け取り目を通した。


「『園児服を着て血塗れで徘徊する怪しい女が数日前に出没、ご注意下さい』だと…?」


「ブハァッ!?!ま、まぁ気にするなよカーミラ、後で俺からもご近所に事情を説明しとくからさ、ププッ」


「…黙れ」


この後で近所のオーガ幼女ギーちゃんが血塗れ女を退治してやると完全武装で乗り込んできたことでカーミラが心にダメージを負ったのはまた別の話。


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