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ドラゴンとワイバーンについて

「ドラゴン」と「ワイバーン」


 両者の違いは何か。



 一般的にはこの両者は足の数で区別される。


 ドラゴンは四足で、翼を合わせると六肢を持つ。一方、ワイバーンは二足で、翼を前肢として兼ねる。

 ゆえに後者はより鳥類的であり、前者は獣的であるとされる。


 しかしこれは実は後世になっての分類である。


 古い本や壁画に描かれた竜には、二本足のものもあれば四本足のものもあり、しばしば区別なく「draco」等と呼ばれている。


 後に紋章などで使うために「四足をドラゴン、二足をワイバーン」と分類したにすぎず、元々の伝承、絵画において両者が足の数で区別されていたわけではない。




 また、ドラゴンはより巨大で強大な存在であり、神や悪魔の象徴として語られることが多い。

 それに対しワイバーンは、単なる怪物、あるいはドラゴンの下位種として扱われる。


 だがこれにも王侯貴族がドラゴンを紋章に採用したという経緯がある。


 伝承そのものに「強弱」や「神格の差」があったわけではない。


 もう一つの一般的に言われる違いとしてはドラゴンは炎を吐き、ワイバーンは毒をもつというものだ。


 だが古い伝承に登場する竜たちは、しばしば毒息を吐く。


 炎を吐く竜が定着するのは、中世も終わりになってから、竜に悪魔や地獄の使者と言ったイメージが定着してからである。


 では何が違うのかということだが、私はドラゴンとワイバーンは同じものであると考える。



 語源を辿れば、ドラゴンもワイバーンも同じ根から生まれている。

 それはいずれも、蛇を意味する言葉だ。


「ドラゴン(dragon)」の語源は、ギリシャ語の ドラコーン(δράκων) に遡る。


 この語は「見つめる者」という意味を持ち、古代ギリシャでは主に「大蛇」「見開いた眼を持つ蛇」を指した。ラテン語では draco となり、「蛇」と「竜」の両義語として使われた。



 一方、「ワイバーン(wyvern)」の語源は中英語 wyver、さらに古フランス語 wivre(guivre) に由来し、その根はラテン語 vipera、すなわち 毒蛇(viper) である。ここにも「蛇」という意味がはっきり残っている。


 さらに古英語には、竜を意味する wyrmウィルム という単語がある。一部のファンタジーでは古の竜にウィルムの名を当てている。 wyrmとwyvern。大変よく似た綴りだとは思わないだろうか。


 これはゲルマン語 wurm、古ノルド語 ormrオルム と同源で、すべてが「蛇」「這うもの」を意味する。


 かの有名な世界蛇ミドガルズオルムもミッドガルドの蛇という意味である。


 ついでに言うとwormという単語は現在ではミミズを指すが、古くはこちらも竜、あるいは蛇を指す物であった。


 また、古英語 draca(ドレイク/ドレーク) もラテン語 draco の直系であり、「ドラゴン」と「ワイバーン」はいずれも語源的に蛇を起点としていると言える。



 つまり、竜とは元来、翼を持つ爬虫類ではなく「大きな蛇」だった。

 それが中世以降、翼・脚・角といった要素を足され、図像的に多様化していっただけである。

 語の根が共通である以上、両者を別種と呼ぶ理由はない。


 なぜ、人は蛇をもとに竜やワイバーンを創造したのか。


 一説には霊長類の脳が進化したのは視覚的に蛇を発見するためであると言われる。

 ※ヘビ検出理論(The Snake Detection Theory)


 地にいる大型の獣との争いを避け、木の上で暮らすことを選んだ我々の祖先にとって、蛇こそが最も恐ろしい敵であった。


 音もなく忍び寄る彼らをいち早く見つけるためには、視覚を強化するしかなかったのだ。


 我々が蛇の姿を見てぎょっとするのはこのためである。


 こう考えると、我々が蛇に対する恐怖は、あるいは我々が闇に対して抱く恐怖に近いのかもしれない。




 さて樹上で暮らす我々の祖先にとって最も恐ろしい存在が蛇だと言ったが、実はもう一種恐ろしい存在がいる。


 おわかりだろうか?



 地から這い上ってくるのではなく、空からやってくるもの。



 そう、鳥だ。



 ロック鳥の伝説などはまさに我らの祖先が鳥に抱いた恐怖が形を持った者であると言える。



 さて、今一度竜という存在の姿を振り返ってみて欲しい。



 竜とは一般に翼を持った蛇である。


 これは見方を変えれば蛇と鳥という二大脅威のキメラ、という解釈もできるのではないか。



 即ち竜とは、人類あるいはその祖先にとっての恐怖の集大成である。



 私たちは生得的に蛇の形に反応し、恐怖や警戒を覚える。

 これは数千万年にわたって蛇を天敵としてきた進化史の記憶である。

 実際、乳児でも蛇の映像には他の動物より早く注意を向け、心拍が上がることが知られている。



 こうした心理的メカニズムが、蛇を「理解不能で危険なもの」として特別視させた。


 人はその恐怖に「ドラゴン」あるいは「ワイバーン」という名前を与えた。



 故にドラゴンとワイバーンは同じものである、と私は結論付ける。




 ただまあ、それは元の世界の話である。



 此処まで語っておいてなんだが、この世界での私の仕事は魔物の分類であるから、ドラゴンは四本足、ワイバーンは二本足という分類は非常にわかりやすく、採用するにやぶさかではない。



 さてここで問題が一つ……。



 いや二つ。




 一つ目は目の前で眠る、四翼六足の化け物を、一体何に分類したらいいだろうかということ。



 もう一つは、つい先ほどこの化け物のいびきが収まり、薄目を開けてこちらを見ていることである。




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