第22話 どうだ、頼もしい仲間だろう
成金の感謝に、ソフィアはそっぽを向く。
「か、勘違いしないで! 私があなたを助けるのは、あなたを倒すのはこの私だからですわ!」
「実に分かりやすいだろう」
ルドとギルダーは師弟で成金に笑顔を返す。
「ワシらを救ってくれたのはあなたじゃ。気にせんでええ」
「ええ……俺の性根を叩き直し、ルビアまで救ってくれた……こんな奴らを倒したぐらいじゃ返せないけど力になります!」
ダイムも槍を構える。
「来い、賊ども!」
ソフィアは大量のコインを両手につかむと、それを連射する。
「いきますわよ! オーッホッホッホッホッホ!」
コインの速度、威力、命中精度、どれも成金と出会った頃に比べると段違いである。
「ぐあああっ!」
「いでえっ!」
「ぎゃあああっ!」
装備と薬物で強化されているはずのならず者集団を次々に倒していく。
「ますます強くなったろう」成金は感心する。
ルド、ギルダー師弟も負けてはいない。長年確執のあった二人だが、成金のおかげですっかり和解している。
「久しぶりにお前とタッグを組むのも悪くないのう」
「そうですね、師匠」
ルドがならず者の一人を掌底で上空に浮かせると、そこへギルダーが強烈な蹴りを浴びせる。
ギルダーの下段蹴りで動きを止めたならず者に、ルドが顔面に掌底を喰らわせる。
師弟コンビネーションをまともに受けて、立っていられる悪党はいなかった。
「二人が組むと恐ろしい強さになるだろう」成金も息を飲む。
さて、ダイムはというと――
「俺だってずっと鍛錬はしてたんだ!」
槍で一人をダウンさせてみせる。
苦戦はしているが、強化されたならず者に決して劣ってはいない。
「よくやってくれているだろう」成金はうなずく。
成金はローザに顔を向ける。
「ローザ君、ありがとうだろう。君がいなければ、私は負けていただろう」
「いえ……メイドとして、秘書として、当然のことをしたまでです」
ローザは丁寧にお辞儀する。
これで成金がならず者100人を相手にする必要はなくなった。残る敵はただ一人。
ヤミノフ・キンバリー、“闇金”のみ。
「ヤミノフ、出てくるだろう! 私と勝負するだろう!」
成金が闇夜に叫ぶ。
すると――
「よかろう……」
成金にとっては懐かしい声が響いてきた。
闇から現れたのは、やはり懐かしい男だった。
白スーツを着て、顔も体格も細く、黒髭の中年男。なにもかもが成金とは対照的だった。
この男こそ、数々の事件に対し裏で糸を引いていた全ての元凶、“闇金”である。
「老けたな……ナリウス」
「ヤミノフ、それはお互い様だろう……」
実に数十年ぶりの再会となる。
若い頃はビジネスの世界で切磋琢磨していた二人だが、いつしか袂を分かち、全く別の道を歩んでいた。
金で人々を助け、尊敬され、“成金”と呼ばれるようになったナリウス。
金で人々を苦しめ、恐れられ、“闇金”と呼ばれるようになったヤミノフ。
似ているのに、あまりにも違う。そんな二人がついに雌雄を決する時が来た。
「頼もしい仲間がいるようだな。あの100人は捨て石にして、疲弊したお前を倒す算段だったが、すっかり予定が狂ってしまった」
「彼らの登場は私としても予想外だったろう。だからお前の予定が狂うのも無理はないだろう」
成金は闇金に問う。
「放火犯や山賊、テロ組織に資金提供をしたのはやはりお前だろう?」
「その通り。全てはお前への復讐のため。俺と匂いを同じくする“悪”に資金を提供してやり、お前の町やお前の国、ひいてはお前自身を闇に閉ざしてやろうと考えた。いずれも打ち砕かれたがな」
「改めて聞くだろう。なぜ、こんなことをするだろう!」
「おいおい、今言ったばかりだろうが。お前への復讐――」
「そうではないだろう。若い頃のお前は金の力を信じ、人々や社会を明るくするために商売していただろう。なのにどうして、金で人を不幸にするようになったろう!」
闇金はこの根源的な問いに薄く笑みを浮かべる。
「お前は昔から、金は人を幸せにするものだと主張していたな。だが、俺は違う。商売を重ねるうち、金は醜く、不幸をまき散らす呪われた道具にしか見えなくなっていた。そんな金で回っている今の世の中も薄汚いものにしか見えなくなった。だから俺は率先して呪いをばら撒くのさ。俺の悟りが正しいと証明するためにな」
闇金が金の魔力に魅入られ、闇に堕ちた理由。大切な人を失ったとか、金で不幸な目にあったとか、何か決定的なきっかけがあったわけではない。
商売を続けていくうち、金が薄汚いものに見えてしまい、絶望し、やがてその金で不幸をばら撒いてやろうという悟りに達してしまった。
しかも今の闇金は、成金に対する復讐鬼でもある。
もはや話が通じる相手ではない。成金も覚悟を決める。
「ヤミノフ……いや闇金、全力でお前を止めるだろう!」
「俺を止められる者などいない! ナリウス……いや成金! 金の魔力を思い知るがいい!」
両者、右手に紙幣を構え、斬り合う。
紙にもかかわらず金属音が響き、激しい火花が散る。
「札束ビンタ!」成金が札束を振るう。
「札束張り手!」闇金が札束を振るう。
札束同士がぶつかり合い、大量の紙幣が弾け飛ぶ。
「やるだろう……!」
「小賢しい……!」
全くの互角。
「ならば奥の手だろう」
成金は一枚の紙幣を燃やした。
「どうだ、明るくなったろう」
燃える紙幣から繰り出される火炎攻撃こそ、成金の真骨頂。
だが、これを見ても闇金は余裕を崩さない。
「そう……お前は金とは燃やすもの、世の中を明るくするもの、という答えを得たんだな」
闇金の目つきが鋭くなる。
「だが、俺は違う!」
懐から箱を取り出し、その蓋を開ける。
箱の中からは冷気が立ち込め、寒さに弱い成金がぶるっと震えるほどだった。
中に入っていたのは、一枚の紙幣だった。
「その紙幣……凍っているだろう!?」
成金の問いに、闇金はうなずく。
「ああ……俺は“紙幣は凍らせてこそ最高の武器になる”という結論に達した! 北の果ての永久凍土で念入りに凍らせたこの紙幣は絶対に解凍されることはない……。この最終兵器で、お前を闇に閉ざしてやろう!」




