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「どうだ、明るくなったろう」成金おじさん、紙幣を使って燃やして、異世界でゴージャスに人助けしたり無双する  作者: エタメタノール


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第19話 どうだ、国王の護衛だろう

 王都大広場にて、国王の演説が行われる。

 会場には壇上がセッティングされ、まだ時間前だというのに大勢の市民が詰めかけている。


 護衛を担っている成金たちももちろん、会場を訪れていた。

 会場警備の最高責任者である近衛隊長リンギッドと顔合わせをする。

 鎧を身につけ、太い眉にきりりとした面相をした、近衛兵という単語がよく似合う男だった。


「あなたがたが……陛下が特別に警備を担当させたというチームか」


「そうだろう」


 リンギッドは成金たちを歓迎している雰囲気ではなかった。


「太った金持ちに、ご令嬢、そして町の番兵……とんだ色物チームですな」


 これを聞いた成金たちは――


「確かにそうだろう」


「そう言われると……そうね」


「どういう組み合わせなんでしょうね、俺ら」


 成金たちがあっさり色物と認めたので、リンギッドは面食らってしまう。

 咳払いして、リンギッドは続ける。


「陛下がどうしてもというので、あなたがたにも警備についてもらう」


「分かったろう」


「しかし、我らの警備は完璧だ。ネズミ一匹通すことはないだろう。あなたがたはせいぜい我々の足を引っ張らないようにしてくれたまえよ」


 成金も言葉を返す。


「陛下からはテロ組織は資金援助を得ていると聞いているだろう。どんなに完璧を期しても、敵がそれをすり抜けてくることは十分考えられるだろう」


「……ふん! 失礼する」


 リンギッドは立ち去り、部下たちの元に向かう。


 足を引っ張るなと言われ、ソフィアとダイムはむくれていた。


「なんですの、あれ!? “お互い頑張りましょう”だとか“期待してますよ”ぐらい言ってもいいじゃないの!」


「そうですよね。しかもネズミ一匹通さないって……そういうのって絶対通られちゃいますよ」


「そうよねえ!」


 リンギッドの悪口で盛り上がる二人。

 成金はまあまあとなだめる。


「彼らは彼らだろう。我々は自分たちにできることをやるだろう。イライラは、来るかもしれない襲撃者からすれば思う壺だろう」


「そうね……」


「分かりました、成金さん!」


 すぐに気持ちを切り替える二人を見て、成金は微笑む。

 かつてコインを人にぶつけることを楽しんだり、番兵という職業に疑問を持っていたりした頃からすれば考えられない姿である。

 この二人となら、きっと国王を守れる――成金は心強い気持ちになることができた。



***



 国王アルジャン13世による演説が始まる。

 壇上にアルジャンが上がると、市民たちは熱狂的な盛り上がりを見せる。涙を流す者すらいる。堅実な統治を行うアルジャンは、市民からの人気は極めて高い。


 むろん、その周囲はリンギッドが指揮する兵士たちが半円の陣形でがっしり固めている。

 

 この陣形を見て、ダイムは感嘆する。


「いうだけのことはありますね。あれじゃネズミ一匹通れない。もし俺が国王を襲おうとしても、その前に絶対捕まりますよ」


「そうですわね。私がコインを飛ばしても、その前に弾かれそうですわ」


 リンギッドは決して口だけの近衛隊長ではなかった。

 とはいえ、油断はできないが。


「もしも何も起こらなければそれに越したことはないだろう」


 アルジャンは名君であり、暗殺されれば国が混乱することは免れない。

 成金も無事に演説が終わることを祈った。



……



「市民たちよ、我がクローネ王国が今こうして発展を遂げているのは余の力などではない。君たちの力だ。君たちが汗水を流し、日々の労働に勤しんでいるからこそ、我が国は成り立っているのである。だからこそ今一度お願いしたい。余はこの国のために力を尽くす! だからこそ君たちも……」


 アルジャンの演説が続く。市民らは聴き入っている。


 兵士たちは微塵も油断していない。

 壇上から少し離れて警備している成金たちも同じである。

 このまま何も起こるな――そう願った。

 だが、そんな願いを踏みにじるような叫び声が聞こえてきた。


「うわああああああああっ!!!」


 ナイフを持った青年が、群衆から飛び出してきた。

 まっすぐに壇上のアルジャンめがけて突進する。


「死ねえええええ! 国王ォォォォォォ!!!」


 兵士たちは落ち着いていた。

 持っていた槍で賊の足払いをして転倒させると、あっさり取り押さえた。

 実に鮮やかな手並みだった。


 だが、突然のナイフ男の乱入に群衆の一部がパニックを起こす。騒がしくなる。


 その瞬間、群衆からいくつもの影が飛び出してきた。取り押さえられた青年より明らかに熟練した動きである。


「やはり、そいつは囮か。戦闘に入れ!」


 リンギッドも落ち着いたもので、部下に迎撃を命令する。

 戦いが始まった。

 近衛兵らとテロ組織の熟練暗殺者らがぶつかり合う。


「なるほど、最初に青年を突撃させて群衆の動揺を誘い、そこで本命の暗殺者集団が登場するという作戦だろう」


「感心してる場合じゃないわよ。私たちも戦いましょう!」


「そうだろう」


 成金たちのいる位置にも、二人の暗殺者が飛び出してきた。


「どうだ、陛下を守るだろう」


 成金は札束ビンタで一人を撃破。


「オーホホホホホ! ここは通さないわ!」


 ソフィアも得意のコイン飛ばしで暗殺者の膝を撃ち、戦闘不能に陥らせた。


 近衛兵たちも全ての暗殺者を捕えるなり、仕留めるなりしたようだ。

 リンギッドは彼らの装備を見てつぶやく。


「いずれも高級な剣やナイフだ。資金源を得て調達したのだろうが、しょせん我々の敵ではなかったな」


 さらに成金たちにも声をかける。


「あなたがたもまあ、よくやってくれた。もっともいてもいなくても、結果は同じだったろうがね」


 成金たちが二人を倒した件を、素直に褒める気はないらしい。


「さて陛下、暗殺者の襲撃はこれで終わったようです。演説を続けて下さい」


「うむ……よくやったぞ、リンギッド。成金よ、貴公らもよくやってくれた」


 アルジャンはうなずくと、演説を再開する。

 囮まで用意したテロ組織の襲撃計画はあっけない幕切れとなった。


 だが、一人だけ表情に不安を宿す人間がいた。


「ダイム君、どうしただろう」


「成金さん……まだ終わってない気がするんです」


「何を言ってるの。暗殺者たちは全く歯が立たなかったわ。仮に第二陣みたいな連中が来ても返り討ちよ、きっと」


「……」


 ダイムは何やら考え込んでいる。成金もあえて何も言わない。ダイムの将棋で培った大局観を知っているからこその沈黙。


「もし、俺がここで王を狙うとしたら……地上は兵士がひしめいている……狙撃も難しい……」


 ダイムが目を見開いた。


「上だ!」


 ダイムが空を見上げる。


「成金さん、言いましたよね。“たまには見上げるのもいい”って。そう、王様が演説をやっている時にわざわざ上を見るような人はいない!」


 まもなくダイムが何かを発見した。


「あそこっ!」


 ダイムが指差した方向からは、何かが飛んできていた。

 布を広げたような服を着ている男が、ムササビの要領で国王めがけて高速で飛んできている。


「まずいだろう!」


「あれでは私のコインも届きませんわ!」


 ムササビ男は手に刃物を持っている。空から近づいてアルジャンの首をかき切るつもりだ。


「ならば吹き矢しかないだろう!」


 成金は100リエン紙幣を丸めて筒を作った。さらにもう一枚の紙幣をねじって矢にした。


「当てるだろう!」


 成金は息を吹くと、紙幣の矢はムササビ男めがけて飛んでいった。


「ぐああっ!」


 矢は見事命中。

 男は墜落する。骨折したのかうめき声を上げている。


「なんだこやつは……!?」アルジャンも驚いている。


「まさか……空から……!」リンギッドも上空からの襲撃は全く想定していなかったようだ。


 成金はこれがテロ組織の“本命”の襲撃者だと確信した。


「どうだ、国王陛下を守れたろう」



***



 演説は無事終わった。成金たちは、王の間にてアルジャンから感謝の言葉を受けた。


「成金たちよ、どうもありがとう。貴公らがいなければ、余は死んでいたかもしれぬ」


 近衛隊長リンギッドもまた、自分の手落ちを素直に認める。


「成金殿、あなたがいなければ私は陛下の命を守れなかった近衛兵として汚名を残すことになったであろう。本当にかたじけない……!」


 成金は手を振る。


「いやいや、あなたこそ兵を率いてよく守ったろう。あなたがたが暗殺者集団を完全に押さえ込んだから、ダイム君も残る“上空”という死角に気づけただろう」


 アルジャンもうなずく。


「うむ、余としてもリンギッドを責めるつもりはない。近衛隊長としてよい働きをしてくれた」


 面目を保つことを許され、リンギッドは深く頭を下げた。


 捕えた者達の取り調べも進んでいる。テロ組織は今回の暗殺計画に主力を投入しており、もはや再起は難しいとのこと。

 国王や王国にとっての危機はひとまず去った形になる。


 だが、まだいくつかの問題も残っている。

 特に大きなものがテロ組織へ資金援助をした謎のパトロンである。これに関しては取り調べをしても、詳しい正体は分からなかった。

 唯一分かったことといえば、黒幕は“闇金”と呼ばれているということだけ。

 その情報を聞いた瞬間、成金はわずかに頬を歪めた。


 王都からの帰りの馬車で、ソフィアとダイムは護衛成功の達成感を反芻していた。


「やりましたわね! 陛下に褒められるなんて、滅多に味わえないことですわよ!」


「ええ……俺もこれで少しは“と金”に近づけたかなぁ」


「“と金”なんてケチ臭いことをいわず、いっそ王将を目指したらどうなの?」


「それってようするに、テロを起こすってことじゃ……」


 他愛ない雑談で盛り上がる二人。


 成金は憂鬱そうな表情をしている。

 なぜなら、パトロンの正体と狙いに気づいていたから。


「どうやら……彼と対決しなければならない時が来ただろう」

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― 新着の感想 ―
[一言] テロ組織ざまぁの回よね。 お主もワルだろう。 成金さまこそ。 わっはっはっはだろう。
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