第14話 どうだ、師弟対決だろう
ギルダーも覆面戦士も準決勝まで危なげなく勝ち上がってきた。ただしギルダーの対戦相手はいずれも重傷で、中には骨を折られた者もいた。
そんな二人が試合場で向かい合う。
ギルダーは掌底使いなので、拳は作らず、掌を開いたまま構える。
一方の覆面戦士も同じような構えを取る。
「これは……!?」困惑するギルダー。
太鼓が鳴らされ、試合が始まった。
覆面戦士は瞬時に間合いを詰めた。虚を突かれたギルダーは反応が遅れる。
腹部へ掌底がヒット。
ギルダーの巨体がふわりと浮くほどの威力だった。だが、なんなく着地する。
打たれた箇所をさすりながら、ギルダーが顔をしかめる。今の一撃だけで敵の正体を悟った。
「まさかあなたが現れるとは……師匠!」
「……」
覆面戦士が素顔を晒した。戦士の正体は老師ルドだった。成金に弟子退治を依頼していたが、彼も大会に出場していたのだ。
「よく分かったのう。てっきりワシのことも分からぬほど心は濁ったと思っていたぞ」
「心が濁った……?」
「これまでの試合、全て見ておったぞ。明らかに戦意喪失している相手にまで攻撃を加えおって……拳法をなんだと思っておる!?」
「拳法をなんだと思う、ですか。相手を叩き潰すための道具でしょう」
悪びれず答えるギルダーに、ルドは首を振る。
「やはりおぬしはワシが止めるしかないようじゃな」
「止められますかね、あなたに」
再び両者の間合いが縮み、掌底と蹴りによる攻防が繰り広げられる。
戦いながら、二人は語る。
「闘技場王者となり、この大会で優勝したら次はどうするつもりじゃ」
「そうですねえ。裏社会にでも行って、いっそ殺し屋にでもなるのも悪くないかも……」
「させるか、そんなこと!」
ルドの回し蹴りがヒット。ギルダーが後退する。
「ルビアの件はワシも気の毒に思っている。じゃが、あの子もおぬしが闇の拳法家になることなど望んではいない!」
「いいえ……俺がもっと強かったなら、もっと残酷だったなら、あの悲劇は起こらなかった! いつかあいつが目を覚ます時まで、俺は勝ち続けますよ。相手を徹底的に叩きのめしてね!」
「愚か者ッ!」
ルドは渾身の掌底を放つが、あっさりと弾かれる。
「無理ですよ……あなたも本当は分かってるのでは? 自分では弟子に勝てないと」
ギルダーの掌底がルドの腹部にめり込む。
「ぐふうっ!」血を吐き出すルド。
苦しむ師匠の姿に、ギルダーが邪悪に笑う。
「久しぶりに会った師匠にはやはり手心を加えてしまいました……ここからは本気でいかせていただきます」
「くっ……!」
予告通り、ここからは一方的な試合になった。
ギルダーの若く洗練された技に、ルドはなすすべがない。
観客からも――
「おいおい……」
「あの爺さん、死んじまうぜ!」
「強すぎる……!」
しかし、ルドは諦めない。戦闘不能になってない以上、試合が止められることはない。
「まだ、じゃ……。ワシはお前を……止め……」
「ウザいんだよ!」
掌底ではなく拳で、ルドを滅多打ちにする。試合場に鮮血が舞い散る。
さらに倒れないように襟を掴むと、そのままトドメの一撃を加えようとする。
「実はまだ殺しはやったことがなかったが……初めての殺しが師匠ってのも悪くない!」
ギルダーがルドの顔面に掌底を放つ。
「やめるだろうッ!!!」
試合場に大声が轟いた。
ギルダーの攻撃が止まる。もし命中していればルドの命はなかった。
「それ以上やるのは私が許さないだろう」
止めたのは成金だった。
「ふん」
ギルダーはルドを投げ捨てる。
「お前は決勝の相手だったな。何者だ? なんで師匠をかばった?」
「ルド老師は……友達だからだろう」
この言葉でギルダーはなぜ成金が大会に出場しているかを察する。
「ふうん……。師匠に弟子を止めてくれ、なんて泣きつかれて出場したのか。ご苦労なことだな」
「泣きつかれてなどいないが、君は私が止めるだろう」
「やってみろ。やれるものならな」
成金を睨みつけると、ギルダーは試合場を後にした。
その後すぐさま係員が駆けつけ、ルドはタンカで医務室に運ばれた。
***
闘技場の医務室にて、ルドが目を覚ます。
「ここは……」
「医務室だろう」
ルドが眠るベッドの横には成金が座っていた。
「そうか……ワシは敗れたのだった」
ルドはため息をついてから、成金を見る。
「あなたに弟子退治を依頼しておきながら、出場していてすまなかった。勝つのは無理でもせめてあやつに傷を負わせたかったが……あやつの強さはワシの遥か上をいっていた。なんの役にも立てなかった……」
「そんなことはないだろう」
成金は微笑んだ。
「あなたの奮闘で、私の心は燃え上がっただろう。これならあのギルダー君に勝てるだろう」
成金より年上の老いた身で若きギルダーに挑み、最後まで諦めなかったルドの姿は、成金に確かな熱気を与えていた。
「頼む……成金殿。弟子を……止めて欲しい」
「任せるだろう」
成金はうなずく。
いよいよ闘技大会決勝戦・成金vsギルダーが始まろうとしていた。




