第13話 どうだ、闘技大会に出場するだろう
闘技大会に参加を申し込んだ戦士はなんとおよそ500人。
年に一度のこの大会、優勝すれば大きく名を上げられるので、年々参加者は増えている。
もちろん500人を一対一の試合で消化するとなると、時間がかかりすぎる。そのため、予選はかなり荒っぽいふるい落としがなされることになる。
「今からクジを引いてもらい、約30人のグループを16個作る。そしてその30人でバトルロイヤルをしてもらう。勝ち残った者だけが本選に出場できる!」
いきなり500人を16人にふるい落とすようだ。
すみやかにクジ引きが行われ、成金も自分のグループが決まった。
まもなく試合場に呼び出され、予選のバトルロイヤルが行われる。
試合場におよそ30人の戦士が集められる。成金もその一人。
そのうちの一人、人相の悪い剣士が話しかけてくる。
「おいおいおっさんも出場者か? 冗談だろ?」
「冗談ではないだろう」
「笑わすんじゃねえよ! なんかの記念で出場してるんだろうが、この大会はおっさんみてえなのが勝ち抜けるほど甘いもんじゃねえんだよ! 怪我しねえうちに帰りな!」
「私に絡む前に、精神を集中した方がいいだろう」
「上等だ……!」
剣士はこめかみに青筋を立てた。
まもなく試合開始の太鼓が鳴らされる。
「ブッ殺してやる!」
剣士は成金に斬りかかってきたが――
「遅いだろう」
札束ビンタを喰らい、そのまま気絶してしまう。
さらに成金は試合場に紙幣をばら撒く。
「な、なんだ!?」
「金だ!」
「すげえ! 拾わねえと!」
選手たちが見とれている間に、次々に札束ビンタを浴びせる。
そのまま30人あまりをあっという間に片付けてしまった。
試合場の中心で、成金はこう勝利宣言した。
「どうだ、本選出場決定だろう」
***
予選は消化され、本選に進む16人が決定した。
本選はこの16人によるトーナメントとなる。四回勝つことができれば優勝だ。
しかし、16人はいずれも癖の強そうな戦士が揃っている。その中にはもちろん、ルドの弟子ギルダーの姿もあった。
ギルダーは身長180cmほどの屈強な拳法家で、長めの髪を後ろで縛っている。荒んだ戦いぶりのせいか、すっかり顔つきが険しくなっている。
「どうやら彼と当たるとすれば決勝戦だろう」
しかし、他の戦士も決して油断できない。剣士や槍使い、ローブをまとった魔法使いの姿も見受けられる。成金は本当に何でもありの大会なのだな、と実感する。
さらに顔全体をマスクで覆った小柄な戦士もいた。
「うむむ、彼はまさか……だろう」
成金は意味深につぶやいた。
***
成金の一回戦が始まる。
対戦相手は剣士のモニス。黒髪で凛々しい顔立ちをしており、成金に予選で絡んできた剣士とは格が違うのが分かる。
観客にもモニスが勝つと予想している者が多い。
試合開始の太鼓が鳴る。
「紙幣を武器にするようだが……俺の剣とは相性が悪いだろ」
「さて、それはどうだろう」
「いくぞっ!」
モニスが斬りかかる。
すかさず成金は紙幣でガードする。
「なにいっ!?」
「どうだ、よく研がれた紙幣は剣とも戦えるだろう」
「紙幣って研げるんだ……!」
モニスが驚いていると、成金が反撃に出る。
その太った体からは想像もつかない俊敏な動きで、紙幣を振り回す。
「どうだ、私の攻撃だろう」
「は、速いッ!」
やがて、成金の紙幣がモニスの剣を叩き落とした。
「どうだ、勝負ありだろう」
「参りました……!」
思わぬダークホースの登場に、会場中が沸いたのはいうまでもない。
***
続く二回戦の相手は、イーヴという槍使いだった。
片目に覆いかぶさるような長い前髪で、鋭い目つきをしている。
試合が始まった。
「せいいっ!」
イーヴは開始早々、鋭い突きを放っていた。
突いてからの引きも早く、この連続突きに成金も防戦一方になってしまう。
「なかなか隙がないだろう」
ここでイーヴは成金の足を狙って、槍を薙ぐ。成金はすかさず跳び上がって、これをかわす。しかし、これこそがイーヴの狙い。
ジャンプした成金の腹に――
「御免ッ!」
刃が突き刺さった。
観客からも悲鳴や「決まった!」という声が上がる。
ところが、成金は平然としている。
「ちょっと痛かっただろう」
「な、なに……!? なぜ効いていない!?」
「お腹に札束を入れていて助かっただろう」
成金は穴のあいた札束を取り出した。
「札束で私の槍を防いだのか……!」
このイーヴの動揺を見逃す成金ではない。すかさず懐に入り込むと、顎めがけて札束アッパーカットを決める。
「ぐはぁっ!」
イーヴは仰向けにノックダウンした。
「どうだ、二回戦突破だろう」
***
ついに準決勝に進んだ成金、対戦相手はこれまでとはうってかわって魔法使いであった。紫色のローブに身を包む金髪の青年ナイトンが不敵に微笑んでいる。
「さあ……楽しませて下さいよ」
「来るだろう」
太鼓が鳴る。
「雷撃よ、敵を討て!」
ナイトンが右手から強烈な電撃を発する。
「こっちもだろう」
同じように成金も電撃を発する。
「なにい!?」驚くナイトン。
二つの電撃は相殺された。
「ならば……風よ、敵を切り裂け!」
風の刃が飛ぶ。
「私もだろう」
同じように成金が風の刃を飛ばす。またしても互角。
自慢の魔法が通じず、ナイトンは狼狽する。
「なぜです!? あなたももしや魔法使い……!?」
「違うだろう」
「じゃあなぜ、私と同じような魔法を……」
「電撃は紙幣をこすることで発生させ、風の刃は紙幣を素早く振るうことで発生させただろう」
成金が種明かしをする。
「紙幣ってそこまで何でもありなのですか!」
「何でもありだろう」
堂々と言い放つ成金に、「ならば」とナイトンは構えを変える。
「私も最も得意な魔法を出すとしましょう。はああああ……!」
ナイトンの全身が熱気を帯びていく。両手に炎の塊が浮かび上がる。
「炎よ! 敵を焼き尽くせ!」
巨大な炎の塊が成金に飛んでいく。しかし、成金は涼しい顔をしている。
「私に炎攻撃は無駄だろう」
「なんだと!?」
成金は紙幣で炎を受け止める。
「こちらも火炎を使うだろう」
炎の扱いは成金の方が圧倒的に上手であった。瞬く間に炎を巨大化させる。小型の太陽のような迫力である。
「どうだ、明るくなったろう」
「明るくって……そんなレベルじゃ……!」
ナイトンは腰を抜かしてしまっている。
「さあ、どうするだろう」
成金に迫られ、たまらずナイトンは叫ぶ。
「ギ……ギブアップ! 私の負けだ!」
勝負あり。成金の決勝進出が決まった。
この頃になると成金にもファンのような観客が出来、歓声も巻き起こる。
成金が試合場から退場すると、もう一つの準決勝が始まる。
一人は王者ギルダー。そしてもう一人は、成金も注目していた小柄の覆面戦士だった。




