第11話 どうだ、山賊から村を守るだろう
翌朝、成金はソフィアとともに朝食を取る。時間の流れが都会とは違うのではと思えるほど穏やかな朝である。
「のどかな朝だろう」
「本当ね」
成金とソフィアはのんびりと散歩をする。
マルカの町に比べると道路は舗装されていないし、すれ違う人も少なく、店もほとんどない。自分の足音がよく耳に届くほどの静けさだ。
だが、こののどかさが二人には心地よかった。
「歩いてるだけで楽しいわね、成金」
「本当だろう」
ソフィアの言葉に成金もうなずく。
それからしばらく会話もせず、ただ村をうろつく。とても風雅な時間となった。
そんな静寂は突如として消し去られた。
「さ、山賊だーッ!」
村人の叫び声が聞こえる。
「山賊ですって!?」
「行ってみるだろう!」
成金とソフィアは叫び声がした方向へ走った。
村の入り口に行ってみると、村に山賊集団が向かってきているのが分かる。
村人は困惑している。
「なんでこんな村に……!?」
「こんな村襲っても取るものなんてねえぞ!」
「ママー!」
村長の顔色も真っ青になっている。
シリング村にはマルカの町のように番兵などはいないのである。
「これは……どうにか金目の物を支払って穏便に済ませるしかないかのう」
だが、ソフィアが言う。
「無駄ですわね」
「え」
「彼らの武装を見なさい。みんな新品の剣や鎧で武装してますわ。これがどういうことかお分かり?」
村人たちはピンときていない。
「シリング村が降伏しようとすまいと、彼らは村人を皆殺しにする気ですわ」
「な……!」
成金もうなずく。
「私も同意見だろう。彼らの勢いは、村人で試し斬りをしたくてうずうずしているといった感じだろう」
突如訪れた生命の危機に、怯える村人たち。
「どうすればいいんじゃ……」
嘆く村長に、成金は力強く答える。
「大丈夫、私が村を守るだろう」
ソフィアも続く。
「私もいるわよ!」
「頼もしいだろう」
成金としても、コイン飛ばしの名人であるソフィアの存在は心強かった。
二人の言葉に村長は呆れてしまう。
「いやいやいや! あなたがた二人だけで何ができるというんです! 殺されてしまいますぞ!」
成金はかまわず作戦を立てる。
「山に囲まれているおかげでこの村の入り口は狭い。ここに防壁を作るだろう」
「防壁って……材料がないよ! この村は林業はそこまで盛んじゃないし……」村人が指摘する。
「私がたくさん持っているだろう」
「へ……?」
成金は札束を次々に取り出した。
「どうだ、これを積み重ねるだろう」
紙幣を防壁にするという成金ならではの作戦に、村人たちは絶句した。
***
山賊たちはシリング村間近に迫っていた。
ところが、彼らは驚くべきものを目撃する。
「なんだありゃ!?」
壁である。村の入り口に巨大な防壁が誕生していた。
口の周囲に髭を生やした首領が怒鳴る。
「なにやってんだ! んなもんぶっ壊せ! こっちは最新武器を持ってんだぞ!」
山賊たちが剣や槍で防壁に斬りかかるが、ビクともしない。
「オーッホッホッホ! 無駄よ!」
「上に女がいるぞ!」
ソフィアが防壁の上で仁王立ちしている。
「成金が作った紙幣の防壁、たやすくは破れませんわよ!」
高笑いすると、ソフィアは両手からコインを機関銃のように発射する。
「ぐああっ!」
「うぎゃっ!」
「いでええっ!」
さらに成金も出てきた。
成金は紙幣を丸め、それに火をつける。
「どうだ、明るくなったろう」
そして炎の塊を投げつける。
「炎の紙幣だろう」
「あぢいいっ!」
「ひいっ!」
「うぎゃあっ!」
防壁の上からの攻撃になすすべもない山賊たち。
業を煮やした首領がついに動く。
「だらしねえ……何やってやがる! こうなったら秘密兵器の出番だ! あいつを出せ!」
最後尾にいた山賊が檻の中から巨大な動物――牛を出した。
「ブモオオオオ……!」
首領はその上にまたがる。
「なんですの、あれ!?」
「アイアンバッファロー。戦争に使われることもあるという異国の猛獣だろう。あんな猛獣を使役しているとは驚きだろう」
その名の通り、鉄のような色と強度を誇る猛牛である。
「いっけええええっ!」
バッファローにまたがった首領が突撃をかけてきた。
ズドンという音とともに紙幣の防壁が大きく揺れる。
「きゃああっ!」
「危ないだろう」
首領と牛はさらに勢いづく。何度も体当たりを繰り返す。
「この防壁を崩されると危ないだろう。仕方ない、降りて戦うだろう」
成金はその太った体で、山賊たちの元に降りる。
殺気に満ちたアイアンバッファローが前脚で地面を蹴る。
「踏み潰してやるよぉ! 行けっ!」
「来るだろう」
首領の号令とともに猛突進してくるバッファローに、成金は一枚の紙幣を取り出した。なんと赤く塗られている。
バッファローはその紙幣めがけ突進するが――
「ヒラリだろう」
成金はヒラリとかわす。
「くそっ、もう一度だ!」
バッファローは何度も何度も突撃するが、成金は赤い紙幣を巧みに使って、かわしまくる。
ソフィアが成金の動きの正体に気づく。
「これは闘牛だわ! 成金は“闘牛士”をやっているのよ!」
「その通りだろう」
成金は華麗なフットワークで牛をかわし続ける。
やがて、牛に疲れが生じてくる。
「ブモッ、ブモッ……!」
「お、おい! どうした!」
「どうだ、敵わないと分かったろう」
アイアンバッファローはへたり込んでしまう。いくら突撃しても無駄だと悟り、本能で“成金は自分より格上”と認めたのだ。
これに首領は激怒する。
腰に差していた大刀を抜いて、それを牛の頭に突き刺そうとする。
「役立たずがぁ!」
「やっ、やめるだろう!」
だが、その大刀は弾き飛ばされた。
「生き物は大切にしなくてはいけませんわよ」
ソフィアがすかさずコインを飛ばしていた。
「ソフィア君、ありがとうだろう!」
成金は首領の懐に入り込むと――
「どうだ、往復ビンタだろう!」
往復札束ビンタ炸裂。パパンと乾いた音が二度響いたかと思うと、首領は仰向けに気絶した。
残った山賊は逃げ出そうとするが――
「逃がすわけないでしょう? 全員牢獄送りですわ!」
凄まじいコイン連射で、たちまち全員を気絶させてしまった。明らかに腕を上げているソフィアを見て、成金はその細い目を丸くする。
「驚いただろう」
「オホホホ、私だってやるものでしょ」
成金はゆっくりとうなずく。
「ああ……君は立派な相棒だろう!」
これを聞いた瞬間、ソフィアの胸にズシンと何かが響いた。さらに重荷を取り去られたような感覚になる。
「あら? なんだか心がスーッと……」
成金はソフィアの心の動きを察する。
「どうだ、もう私に対する恋心はないだろう?」
ソフィアは黙っているが、肯定したようなものだった。
「君の私に対する気持ちは分かるだろう。私も子供の頃、“隣の家のお姉さん”に憧れただろう。あのようなものだろう」
「……そうかもね」
ソフィアの成金に対する恋心。それは年上の男に対する“憧れ”だったのかもしれない。その憧れの対象と共闘し、対等の相棒だと認められ、ソフィアの心は満たされていた。
「これからは相棒としてよろしく頼むだろう」
「ええ……分かったわ!」
ソフィアも自分の心を理解し、二人は握手を交わした。
倒された山賊らは全員駆けつけた兵士たちによって捕縛される。
なお、成金に屈したアイアンバッファローはすっかり改心したので、村で飼われることとなった。今後は農耕や村の用心棒という役割で活躍することになる。
村長を始めとした村人たちは成金とソフィアに感謝し、「あなた方ならいつ来てくれても大歓迎だ」という言葉をかけてくれた。
帰りの馬車に揺られながら、成金は言った。
「やれやれ、とんだ温泉旅行になったろう。しかし、楽しめただろう」
「そうね」
ソフィアも旅行は楽しめたようだ。そして――
「成金……私のあなたへの恋はひょっとして憧れに過ぎなかったのしれない」
「……」
「だけどもし、私が本気であなたに恋をしたなら、その時は私を一人前のレディとして対応してくれる?」
ソフィアの願い。想いに応えてくれるにせよ、応えないにせよ、一人前として扱って欲しいと告げた。
「それはもちろんだろう」
成金はこの願いにしっかりとうなずいた。




