三の②
「なるほど、小手川社長を恨む人のいた可能性がある、か。……何だおがわぁ、さっきからしらけた顔しやがって。とにかく、これで調べるべきことは分かったじゃないか」
「何ですか?」
「その『恨みを持った人』ってのに、色々聞きに行くんだよ」
「それって、誰ですか?」
「……そうだ! 『パラダイス島』とやらに行ってみるのはどうだ? 何か分かるかもしれんぞ」
「パラダイス島って、きっとだいぶ遠くですよね。そんなことしてる暇ありますか?」
「……確かに、めんどくせえな」
青木は手を頭の後ろに組んで、椅子に深々もたれた。
「一応場所、調べてみます」
「またネットか」
青木は吐き捨てると、乳酸菌飲料を一口で飲み干した。
「ふうぅ、落ち着くな」
「あれぇ、おかしいな。パラダイス島の地図が全然出てこないや」
「ああん? ……ああ! そうか。お前はネットに頼りすぎなんだ」
青木は書類やら本やらで散らかった机の左端に積み重なっているところから、世界地図の表を引っ張り出してきた。
「探せ、どっかにあるはずだ」
「あのですねぇ。ネットで調べて出てこないのに、平面の世界地図にのってるわけないでしょ」
「何で?」
「ネットでも、世界地図くらい見れるんですよ」
「な、何ぃ!?」
青木は慌ただしくパソコンの前に座る小川の元へ駆け寄った。
「これです」
小川が画面を指差したそこには、青木が机に広げた世界地図と、同じ絵が映し出されている。
「嘘だ。あの紙がこんな箱の中に?」
「ちょっと青木さん、いつの時代の人なんですか」
青木は衝撃の事実に打ちのめされて、魂が抜けてしまったようにフラフラよろめきながら、自分の机に戻った。
「魔法か……魔法なのか」
「とにかく! おかしいんですよ! パラダイス島の場所が分からないなんて。はっきりコーヒーの産地だっていうことはのってるのに」
「魔法か……」
「もうそれはいいので! ……そういえば、秘書さん言ってましたよね。この島は『日本からは最も遠い場所にある』って」
「……」
「何で知ってるんだろ? 調べても場所がどこにも載ってないのに」
小川は腕を組み、深く考え込んだ。
「青木さん、どう思います? ……青木さん?」
「……」
「ねぇってば!」
「あっ、えっ、何? 何の話?」
「秘書さんのことですよ!」
「ああ、美人だよなあ。ちょっと性格は冷たそうだけど……」
「そうじゃなくて! 秘書さんの言動がおかしいんですよ!」
「えっ? 何が?」
「あの……また一から説明し直さないとダメですか?」
「……」
小川が秘書の不審な点について話し終えると、さすがの青木の目の色も変わってきた。
「どちらにしろあの秘書には、小手川社長を恨んでいた人に心当たりがないかも含めて聞かなきゃならん。よし! 行くぞ、小川」
「ほんと、調子いいですね。青木さん」
「ん、そうか? 今日は体調が優れない方なのだが……昨日飲みすぎたせいかな」
「はあ……」
ダメ探偵の助手には、これからもっと苦労が絶えないようである。